試しに車椅子に乗ると
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第一章
試しに車椅子に乗ると
ボランティアの場でだ。
矢追克美は団体の代表であり小泉弥美に言われた、克美はまだ中学生で黒髪をショートにしている。やや吊り目で唇は小さく丸るめの顔で小柄である。
「車椅子に乗ってみる?」
「車椅子ですか」
「ええ、そしてね」
それでというのだ。
「それに乗って街を歩いてみる?」
「そうしたらいいんですか」
「そう、そうしたらね」
弥美はさらに話した。
「色々わかるから」
「だからですか」
「今からね」
「やらせえもらいます」
克美は何故弥美がそう言うのかわからないままだ。
試しに車椅子に乗ってみた、それで言うのだった。
「別に何も」
「ないかしら」
「はい」
こう答えたのだった。
「ただ座っているだけで」
「そう思うでしょ、けれどね」
「それでもですか」
「それでね」
車椅子に乗ったままでというのだ。
「歩いてね」
「街に出ることですか」
「そうしてね」
「そうします」
別に何とも思わないままだった。
克美は街に出てみた、すると。
「何かです」
「あちこちで、です」
「段差があって」
街の道の至るところにというのだ、すぐ後ろにいる弥美に話した。
「歩きにくいですし」
「そうでしょ、とてもね」
「ちょっと横に何かあったり」
若しくはというのだ。
「人が通ると」
「怖いわね」
「はい、若しです」
ふとだ、擦れ違った人の手を見て言った。
「歩き煙草なんかしていたら」
「最近する人もそうはいないけれどね」
「目に当たるかも知れないですし」
「他のこともあるわね」
「普通に怖いですね、ちょっとしたことが」
車椅子に乗っていると、というのだ。
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