機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第57話:男たちの友情は美しい?
会議室を出て,副部隊長室に戻ろうとすると,なのはとユーノが
談笑しているのが見えた。
「そこのお二人さん」
俺がユーノの肩を叩いて声をかけると,2人は俺の方を振りむいた。
「あ,ゲオルグ」
「お疲れさん。今日は遠いのに悪かったな」
「ううん。ちょうど仕事も一段落してたしね」
「会議はどうだったの?」
そこでなのはが割り込んできた。
「長い。疲れた」
俺がそう言うと,なのはは苦笑して俺の方を見た。
「ゲオルグくんは最近忙しいもんね」
「なのはが俺を教導に駆り出すからだろ?」
「そんなこと言って,自分も楽しんでるくせに」
なのははそう言いながら肘で俺の脇腹を突く。
「別に楽しんでなんか・・・。おい,スバルが呼んでるぞ」
なのはの肩越しに遠くの方で手を振りなのはを呼ぶスバルを見つけたので
そう言うと,なのははスバルの方に向かって走って行った。
なのはの背中を見送ると俺は,ユーノの方を見た。
「ユーノはもう家に帰るよな?」
俺が尋ねると,ユーノは首を振った。
「ううん,書庫に戻るよ。まだ仕事が残ってるからね」
「そうなのか?大変だな」
俺がそう言うと,ユーノは苦笑して俺を見た。
「それはお互い様でしょ。目の下にくまができてるよ」
「マジかよ・・・。うちは部隊長が人使い荒いからな・・・」
俺が冗談めかしてそう言うと,ユーノは声を上げて笑った。
「ところで,ユーノはどうやって転送ポートまで行くんだ?車ないだろ」
俺がそう聞くと,ユーノは少し困ったような顔をした。
「そうなんだよね。来る時は書庫の女の子に車で送ってもらったんだけど,
今から呼んだんじゃ時間かかるし・・・」
「俺が送ろうか?」
俺がそう言うと,ユーノは手を振った。
「いいよ。悪いし」
「いや,わざわざ来てもらったんだから,それくらいはさせてくれよ」
「忙しいんじゃないの?」
「忙しいけど,仕事よりお前の方が大事だよ」
「そっか。じゃあ,お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「じゃあ隊舎の玄関で待っててくれ。車を回してくるから」
「うん。わかった」
ユーノからの返答を聞くと,俺は車を取りに走った。
助手席にユーノを乗せた俺は,高速道路をクラナガンに向けて走っていた。
はじめは,他愛もない雑談をしていたが,少し会話が途切れた後,
ユーノは急に真剣な顔で俺を見た。
「ところで,ゲオルグ」
「うん?なんだ?」
「なのはからメールで聞いたんだけど,付き合ってるんだって?」
「ん?ああ。まあ。そうだよ」
「なんでそんなに歯切れの悪い答えをするのさ。何か隠してることでもあるの?
・・・二股かけてるとか」
「いや。それはないけど・・・悪いなと思って」
「なんでさ」
「いや,だから。ユーノもなのはのこと・・・と思ってたんだけど」
俺がそう言うと,ユーノは声を上げて笑いだした。
ユーノはひとしきり笑った後,両目の涙をぬぐいながら話しかけてきた。
「いや,久々にこんなに笑ったよ」
「そんなに笑うことないだろ」
「ごめんごめん。でも,ゲオルグがあまりにも面白い誤解をしてるからさ」
「誤解?」
「そうだよ。僕は別になのはのことをそういう対象としては見てないから」
「そうなのか?」
「うん。子供のころはそうなのかもって思ってた時期もあったんだけどね。
今なのはを恋人にしたいかと言われると,別にって感じだよ」
「そうなんだ。俺完全に誤解してたよ」
「だからさっき言ったじゃない。誤解だって」
「そっか・・・」
俺がそう言うと,ユーノは感慨深そうな顔をしていた。
「しかし,あのなのはに恋人ができる日が来るなんてね。
しかも相手はゲオルグでしょ?いい選択とは言えないね」
ユーノの言葉に俺がすこしムスっとしていると,ユーノが俺の顔を
のぞき込んできた。
「あれ?どうしたのゲオルグ?怒った?」
ユーノにしては珍しく茶化すような口調で言う。
「別に・・・」
「怒ってるじゃん。何?ゲオルグは自分がいい男だと思ってるわけ?」
「そういうつもりじゃないけどさ・・・そこまで言うことないだろ」
「ま,ゲオルグは基本ヘタレだからね。思う存分なのはの尻に
敷かれるといいよ」
「ヘタレって・・・間違っちゃいないけど・・・」
俺が小さな声でそう言うと,ユーノは少し真剣な顔になった。
「でもね。そんなゲオルグがいろんなことにぶつかりながら
ここまでやってきたわけでしょ?僕はゲオルグのそういうところは
尊敬してるんだよ」
「いきなりなんだよ・・・」
「ゲオルグは守ると決めたものは意地でも守るタイプだからね。
そういう意味では心配してないんだ,僕」
俺がなにも言わずにいると,ユーノは日の傾いた外の景色を眺めていた。
転送ポートについてユーノを下ろし,隊舎に向かって車を走らせようとした時,
コンコンと運転席側の窓が鳴った。
そちらに目を向けると,にこにこしたユーノが立っていた。
俺は窓を開けると,ユーノに向かって話しかける。
「何だよ。忘れ物?」
「いや,もう一つだけ言っとこうと思って」
ユーノはそう言ってひとつ咳払いをした。
「ゲオルグ。なのはを幸せにしてあげてね。なのはは僕にとってとても
大切な友達だから。もちろん,ゲオルグもね」
「わかってるよ」
「うん。頼んだよ」
そう言って俺とユーノは最後にコツンとお互いの拳を合わせて別れた。
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