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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第52話:父親


・・・数日後
はやてに呼び出された俺は,部隊長室に向かった。
中に入ると,正面にある席にはやての姿はない。

「こっちやこっち」

声のする方を見ると,ソファに座ったはやてが手招きしていた。
俺がはやてと向かい合って座ると,はやてが話しかけてきた。

「なあなあ。なのはちゃんとはどうなん?うまくやっとんの?」

はやてはニヤニヤしながら尋ねてくる。

「ん?別に普通だよ。特別なことなんてないな」

「普通って・・・。キスくらいするやろ?」

「そりゃ付き合ってればキスくらいするよ」

俺が平然とそう言うと,後ろから頭をはたかれた。
頭を押さえながら振りかえると少し顔を赤くしているなのはと
フェイトが立っていた。

「なんだよなのは,叩くなよ」

俺がそう言うと,なのはは抗議の声を上げた。

「ゲオルグくんがデリカシーのないことするからでしょ。
 恥ずかしいから,人前でそういうこと言っちゃダメ」

「変に隠す方が余計に恥ずかしいだろ。別にキスくらい普通だよ」

俺がそう言うと,フェイトが割って入ってきた。

「なのははそういうことは思い出として大事にしておきたいんだよ。
 ね?なのは」

フェイトがそう言うと,なのはは大きく頷いた。

「ね?だからゲオルグもなのはの気持ちをくんで,あんまり
 言いふらさないようにしてあげないと」
 
「別に言いふらしてるわけじゃないけどね・・・。ま,わかったよ。
 ごめんな,なのは」

「ううん。解ってくれればいいの」

なのははそう言って俺の隣に座った。
フェイトもはやての隣に座るとはやてが口火を切った。

「今日集まってもらったんは,別になのはちゃんとゲオルグくんが
 うまくいっとるのを確認するためやなくて,ヴィヴィオについて
 話しておきたいことができたからなんよ」
 
はやての言葉になのはとフェイトは不思議そうな顔をした。

「ヴィヴィオについて?何かあったの?」

なのはが首を傾げながらそう言うと,はやては俺に話を始めるよう目で促した。
俺は文字で埋め尽くされた2枚の紙をテーブルの上に置いた。

「これが何かわかるか?」

俺がそう言うと,なのはとフェイトは2枚の紙を覗き込んだ。

「全然わかんない。何なの?」

なのははそう言って,俺を見た。

「フェイトはわかるか?」

俺がそう聞くと,フェイトは少し考え込んでから俺の方を見た。

「ひょっとして,DNAパターンの解析結果かな?」

「フェイトさん正解。10ポイント」

俺は手を叩きながらそう言った。

「もしかしてヴィヴィオの?」

なのはがそう言って俺の顔を見た。

「片方はそう。もう片方は別の物だよ」

「別の物って?」

「それが今回の本題だよ。2人とも,ヴィヴィオが遺伝子培養による
 人工生命体,つまりクローン体だってことは知ってるよな?」

俺がそう聞くと,なのはとフェイトは苦しそうな表情で小さく頷いた。

「で,例の戦闘でヴィヴィオを保護した時に,聖王医療院でDNAパターン解析を
 他の検査と合わせて実施してるんだが,俺ははやての許可を得たうえで,
 シンクレアにヴィヴィオとDNAのパターンが一致する人物を探させたんだ。
 その結果,完全に一致する人物が見つかった」
 
「じゃあもう片方はそのDNAパターンなんだ」

なのはが確認するようにそう言うと,俺は小さく頷いた。

「で,その人物って?」

フェイトが尋ねてきたが,そこではやてが割って入った。

「ここからは私が話した方がええやろね。
 2人とも,聖骸布紛失事件って知ってる?」

はやてがそう言うと,なのはは横に,フェイトは縦に首を振った。

「聖王教会で保管されていた聖遺物である聖骸布が紛失した事件だよね」

フェイトはそう言うと,はやては頷いた。

「フェイトちゃんの言ってるのが聖王教会から公表されてる内容。
 実際には盗まれたんよ」

「盗まれた?」

なのはがそう言うとはやてが頷いた。

「うん。まあどうやって盗まれたんかは置いといて,聖骸布が盗まれたことで
 さらに大きな問題が持ち上がったんよ」

そこで,はやては一旦言葉を切り,グラスの水を一口飲んだ。

「聖骸布っていうのは,古代ベルカの王である聖王の亡骸を包んだ布でな,
 聖王の血液が付着してたんよ。
 で,そこから聖王の遺伝子が次元世界のあちこちにばらまかれたわけや。
 当然,非合法な組織の手によってやけど」
 
「ということは,まさか・・・」

フェイトがはやての言葉を受けてそう呟いた。

「ヴィヴィオのDNAパターンがその遺伝子と完全に一致した。
 つまり,ヴィヴィオは聖王のクローンというわけだ」
 
「より正確には,歴史書に”最後のゆりかごの聖王”って記載されとる人物の
 クローンやな」

俺とはやてがそう言うと,部隊長室の中は静寂に包まれた。

「ヴィヴィオが・・・聖王の・・・」

なのはが茫然としてそう呟いた。

「・・・大丈夫か?なのは」

俺がそう聞くと,なのはは力なく頷いた。

「・・・うん。かなりびっくりしたけどね」
 
「無理するなよ」

「平気だよ。心配してくれてありがと,ゲオルグくん」

なのはは小さな声でそう言うと,俺に向かって笑って見せた。

「まあ,この件でヴィヴィオをどうこうっていうつもりはないんよ。
 そやから安心してな,なのはちゃん」

「うん。はやてちゃん」

はやての言葉を聞いて,なのはは少し元気を取り戻したようだった。

「でも,これで考えないといけないことが一つ増えたんじゃないかな?」

少し俯いて考え込んでいたフェイトがおもむろに口を開いた。

「というと?」

俺がフェイトに尋ねると,フェイトは俺の方を見た。

「ヴィヴィオを保護した時の戦闘で,ヴィヴィオとレリックを乗せたヘリが
 スカリエッティの戦闘機人に狙撃されたでしょ?
 あれの狙いは何だったのかな?」

「レリックか,ヴィヴィオか,それとも両方か。やね」

「うん。その答えによっては今後の捜査の方向性も変わってくるし」

「なら,両方と考えるのがいいだろうね。ヴィヴィオ,というよりも
 聖王のクローンを手に入れることによって何をしようとしているのか?
 その答えを探す必要があるな」
 
「あとは,それとレリックがどう関係するのかやね。
 フェイトちゃんはその線で捜査を進めてくれるか。
 あと,ゲオルグくんもシンクレアくんと協力して情報収集をよろしく」

「「了解」」

「それと,今回のことが分かった以上ヴィヴィオの周辺警護は
 強化せなあかんやろね。前線メンバーが出動する時も,今までみたいに
 全員出動!ってわけにはいかんやろ。隊舎に残す戦力にも気を使わんと」

「なら,出動時には俺が必ず隊舎に残るってのはどうだ?
 俺なら,はやての代役としての指揮官の役割も果たせるし一石二鳥だろ」
 
「ゲオルグくんにはこれからも前線指揮官として働いて欲しかってんけど,
 しゃあないな。それでいこ。
 あと,ザフィーラには絶対にヴィヴィオから離れんように言っとくわ。
 とりあえずそんなとこか?」
 
はやての言葉に俺とフェイトは頷いた。



部隊長室を出た後,ちょうど昼ということで寮に戻るというなのはとフェイトに
ついて行くことにした。
寮の前に来ると,寮母のアイナさんと芝生の上で遊んでいるヴィヴィオを
見つけた。
俺達が近づくと,ヴィヴィオの方も俺達に気づいたようで笑顔で駆け出した。
が,途中で足をもつれさせて転んでしまった。
顔を上げたヴィヴィオは泣きそうな顔をしていた。
それを見た俺はヴィヴィオのほうにゆっくりと歩いて近づくと
ヴィヴィオの1mくらい手前で足を止めて膝をつくとヴィヴィオの目を見た。

「ヴィヴィオ」

俺が声をかけると,ヴィヴィオは色の違う両目に涙をためて,俺の方を見た。

「ゲオくん?」

ヴィヴィオはなぜか俺のことをゲオくんと呼ぶ。
なのはがそれを聞いて大笑いしていたのだが,理由は今もよくわからない。

「ヴィヴィオは強い子だから泣かないよな?」

俺がそう言うと,ヴィヴィオは頷いた。

「うん。ヴィヴィオ泣かないよ」

「そっか。えらいなヴィヴィオは」

俺はそう言ってヴィヴィオの頭をなでてやる。
すると,ヴィヴィオはえへへと笑っていた。

「立てるか?」

俺がそう聞くと,ヴィヴィオは頷いてゆっくりと立ち上がった。
ぱっと見たところ怪我はないようだった。
俺がヴィヴィオの服についた汚れを払ってやると,
ヴィヴィオはなのはとフェイトの方に走っていこうとする。
俺は片腕でヴィヴィオを抱きかかえるように止めると,
俺の方を向かせた。

「さっき走って転んだろ?ママたちは逃げたりしないから
 ゆっくり歩いていこうな」
 
「でも・・・」

そう言ってヴィヴィオはなのは達の方に顔を向ける。
俺はヴィヴィオの顔を俺の方に向けさせると,少し厳しい顔を作った。

「さっきは転んで痛かったよな?」

「・・・うん」

ヴィヴィオはこくんと首を縦に振る。

「ヴィヴィオはまた痛くなりたいか?」

「・・・ううん」

「じゃあ,ママ達のところにはゆっくり歩いていこう」

「・・・うん!」

俺がヴィヴィオから手を離すと,ヴィヴィオはなのは達の方へ歩いて行った。
が,なのはに近くなるとヴィヴィオは再び走り出した。
今度は転ぶことなく,かがんで両手を広げているなのはに飛びついた。

「やれやれ」

俺はその様子を見て立ち上がり,膝についた土を払うとアイナさんと共に
なのは達の方へ歩いて行った。

「ゲオくんはヴィヴィオのパパみたいね」

アイナさんがそう言うと,なのはの隣に立っているヴィヴィオはなのはを見た。

「ゲオくん,ヴィヴィオのパパ?」

「どうかな,ゲオくんに聞いてみたら?」

なのはがそう言うと,ヴィヴィオは俺の方を見た。

「ヴィヴィオは俺がパパでいいのか?」

ヴィヴィオは少し考えると,俺に向かって頷いた。

「よし!じゃあ今から俺がヴィヴィオのパパだな」

俺がそう言うとヴィヴィオは,にぱっと笑った。

「ヴィヴィオは父親の概念を理解してるんですか?」

俺が小声でアイナさんに尋ねると,アイナさんは頷いた。

「幼児向け番組を見て,だいたいは認識できているみたいですよ」

「そうですか」

俺はそう言うと,なのはとじゃれているヴィヴィオを見遣った。

「父親ね・・・」

俺は自分の両手を見つめて呟いた。

 
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