| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ハッピークローバー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十八話 暑くてもしっかりとその九

「お母さんから見てもそうしたところがないってね」
「そんな人もいるのね」
「たまにね、あの西成の方のボクサーの一家いるでしょ」
「ああ、あの一家ね」
 一華はここでも嫌な顔で応えた。
「品性も知性もスポーツマンシップもない」
「如何にも頭悪そうなね」
「一家全員がね」
「あの一家はね」
「いいところあるなんて」
「見当たらないけれどね」
「悪いところならね」 
 この一家はとだ、一華も言った。
「これでもかってね」
「あるわね」
「だってボクサーしてなかったら」
 そちらで名を知られていなければというのだ。
「只のチンピラでしょ」
「まさにそうよね」
「本当に下品で知性も教養も欠片もなくて」
「スポーツマンシップもないし」
「ボクサーなのに」
「カリスマの家系とか言ってるけれど」
「反面教師にすべき連中よ」 
 一華はこの言葉をこの一家全員に当てはめた。
「まさにね」
「お母さんも同感よ」
「そうよね」
「だからいいところはね」
 即ち長所はというのだ。
「今のところはね」
「見当たらないのね」
「どうもね」
「私もよ、付き合いたくない男ってアンケートあったら」
「入れるのね」
「あの一家全員ね、あとね」
 一華はさらに言った。
「岸和田の元プロ野球選手もよ」
「あの自称番長ね」
「あの人はまだ長所あるみたいだけれどね」
「あれでグローブやバット奇麗にしていてね」
 寝る前に絶対にそうしていたという。
「それで怪我をした先輩を助けることもよ」
「しているのね」
「確かにあの人も酷いけれど」
 その行いがだ。
「まだね」
「いいところがあるのね」
「そうよ、まだね」
「そうなのね」
「あの一家と比べたら」 
 そうすればというのだ。
「ましと言ってね」
「いいのね」
「あの人はね」
「そうなのね」
「まああの一家も人間だし」
「長所もなのね」
「ある筈よ」
 そうだというのだ。
「どんな酷い人でも」
「長所はある」
「犍陀多でも」
 芥川龍之介の童話の話もした。
「そうでしょ」
「というかいいことした?」
「いいことをする優しさがね」
 それがというのだ。
「犍陀多にはあったのよ」
「大悪人だったっていうけれど」
「蜘蛛を助けたのよね」
「それが人生唯一の善行だったけれど」
「大悪人でもいいことはするのね」
「それでいいところもね」
 地獄に落ちる様な輩でもというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧