機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第43話:みんなでお話しましょ、OHANASHIじゃなくて
地上に上がった俺達は,ギンガが呼んだ陸士108部隊のヘリで隊舎へと戻った。
ヘリから降りると,はやてが屋上で待っていた。
「お疲れさんやったね。で,疲れてるとこ悪いけどゲオルグくんと
ヴィータとギンガはちょっと来てくれるか?」
俺達3人ははやてに向かって頷くと,はやてに続いて屋上を出た。
はやてについて部隊長室に入ると,なのは・フェイト・シグナムが居た。
「まずは,ゲオルグくんに報告してもらおか」
自分の椅子に座ったはやてがそう言ったので,俺は地下水道での戦闘について
簡単に説明した。俺が話し終えると,はやては腕組みをして口を開いた。
「襲撃犯を逮捕できひんかったんは惜しいけど,まあレリックは
確保できたんやからよしとしよか。それよりもや」
はやてはモニターに映し出されている敵の画像に目を向けた。
「この少女が召喚師でこの虫みたいなんはその召喚獣で間違いないとして,
このちっこい奴と水色の髪の女はようわからんな。特に,水色の髪の奴の
能力は厄介やね」
「うん。しかも,この子の服って私たちが交戦した敵とよく似てる」
「交戦したって?」
「ゲオルグはヘリが砲撃されたのは知ってるよね」
「うん」
「私となのははその犯人2人と交戦したんだけど,逃げられちゃったんだ」
フェイトはそう言うと,2枚の画像をモニターに映し出した。
1人は眼鏡を掛けた女,もう一人はでかい狙撃砲みたいなものを持った女。
どちらも,地下水道に現れた地面に潜る奴と同じような服を着ていた。
「・・・同じだね。ん?」
画像に目を凝らすと,胸の部分にローマ数字が書かれているのが見えた。
その時,俺はホテルアグスタでの戦闘で遭遇したゼストが言っていたことを
思い出していた。
「・・・ナンバーズ・・・」
俺は声に出したつもりはなかったのだが,声に出ていたようで,隣に立っている
なのはには聞こえたようだった。
「ゲオルグくん。ナンバーズって何?」
なのはが俺に向かってそう尋ねると,部屋の中にいた全員の目が俺に集中した。
俺はうかつにも声に出してしまった自分に対して心の中で呪詛の言葉を
吐きながら,どう話したものか少し考えた。
「えっと,話すと長くなるんだけど・・・」
俺は,ホテルアグスタで8年前に亡くなったはずのゼスト・グランガイツに
遭遇したことや,ゼストに聞かされたことを10分ほどかけて説明した。
俺が話し終えると,全員が驚きと呆れの混じったような変な表情をしていた。
わずかな静寂のあと,はやてが口を開いた。
「とりあえず,ゲオルグくんに言いたいことは,
そういうことはもっと早く言いなさい!かな」
はやてがそう言うと,部屋にいたギンガ以外の全員が怒りの表情で頷いていた。
「申し訳ございません・・・」
俺はそう言いながら深く頭を下げた。
「まあそれはいいとして,スカリエッティの戦闘機人か・・・厄介やな。
しかも,今回出現した奴の中で一番数字がでかいのが10番やろ。
少なくとも10体,おそらくもっと多くの戦闘機人を抱えとると
考えるべきやろうね」
「俺はほとんどまともに戦ってないんだけど,強いのか?」
「うーん。私たちもほとんどまともには戦ってないんだよね。
ただ砲撃の威力はSランク相当ってアルトが言ってたよ」
「Sランク!?ってことは,Sランクの魔導師が10人以上いると
思うべきなのか。そりゃ厄介だね」
「ところで,なんでゼスト・グランガイツはあの場所にいたんだろうね」
「普通に考えれば,スカリエッティの協力者になったからって
とこなんだろうけど,なんか腑に落ちないよな」
「まあ,敵の戦闘機人の能力については今日の戦闘映像の解析結果も
含めてもう一回再検討やな。ゼストについてもここであれこれ言うても
実際のところはわからんし,とりあえず敵側におるってことを認識しといて
くれたらええよ。それより,ギンガの追ってた事件の話を聞きたいんやけど」
はやてがギンガに話を振ると,ギンガは咳払いをして口を開いた。
ギンガの話によれば,高速道路の地下トンネルでトラックの横転事故が発生し,
その調査に向かったところ,トラックに積まれていたと思われる生体ポッドが
破壊された状態で発見され,そのサイズが5歳児程度のものであったことと,
何かを引きずった痕跡が地下水道へのマンホールに続いていたことから,
エリオとキャロが発見した幼女と事故の間に因果関係のある可能性があり,
作戦への合流を要請したとのことだった。
「ということは,あの女の子は人工生命体の可能性が高いというわけか・・・」
「そやね。今はとりあえず聖王教会に預けてあるから,諸々の検査をしたうえで
どうするかをカリムと相談して決めなあかん。
まあ,その辺は明日教会に行ってカリムと話をするから,ついでに
あの子の様子も見に行くことにしよか」
はやてがそう言うと,全員が頷いた。
俺以外の全員が部隊長室を出た後で,俺ははやてに話しかけた。
「なあ,はやて。なのはとフェイトにはいい加減にいろいろ話しておくべき
だと思うけど」
「わかってるよ。そやから明日はなのはちゃんとフェイトちゃんも
連れて行くし,ゲオルグくんとシンクレアくんにも同行して欲しいな」
「シンクレアも?」
「うん。ゲオルグくんがシンクレアくんと集めてくれた情報も話す必要が
あるやろ。となると,シンクレアくんの正体についても話さなあかん」
「そうだね。シンクレアには俺から話しておくよ」
「うん。頼むわ」
・・・翌日。
俺ははやて・なのは・フェイト・シンクレアと一緒に聖王教会を訪れていた。
前に来たときと同じく若いシスターさんに案内された部屋には,
すでに,カリムさんとクロノさんがいた。
それぞれにあいさつを交わして全員が席に着くと,クロノさんとカリムさんが
機動6課設立に際して3提督の協力があったことや,カリムさんの予言と
6課設立の真の目的について説明した。
2人の話が終わると,なのはが口を開く。
「このことはフォワードのみんなには話した方がいいのかな?」
「とりあえず今のところは全部を話すのはやめといた方がええやろね」
「でも,何も話さないっていうのもどうかな?ゲオルグはどう思う?」
フェイトに問われて,俺は少し考え込んだ。
「予言のことについては伏せるべきだろうね。あまりにも話が大きすぎるから
話した後のショックを考えると,話すべきじゃないと思う。
ただ,地上本部が狙われてるっていうのは伝えておいた方がいいんじゃない?
今後,地上本部の警備に参加する可能性もあるだろ?」
そう言ってはやての方を見るとはやてはうなずいた。
「可能性というよりも私としてはそのつもりなんよ。
当面でいえば,地上本部の公開意見陳述会があるやろ。
地上本部のお歴々が全員集合する場やし,公開される以上宣伝効果を
狙うなら絶好のターゲットやからね」
「なら,4人には私となのはから地上本部に大規模なテロ攻撃の可能性がある
ってことだけは伝えておこうか」
「そやね。2人とも頼むで」
「「了解」」
話が一段落したところで,クロノさんがはやてに向かって口を開いた。
「ところで,この場になのはとフェイトがいるのは当然で,ゲオルグも
機動6課設立前に今日の話は知っているからいい。だが,ツァイス3尉
だったか?彼がこの場にいるのはなぜだ?」
「実は,私とゲオルグくんの方からも話しておきたいことがあんねん。
シンクレアくんを呼んだのもそのためや。じゃ,ゲオルグくん」
「まず言っておきますが,これから話すことは,この部屋の中だけのことに
してください。外で漏らすと,我々全員が秘密裏に抹殺される可能性が
あります」
俺はそう前置きすると,俺がこれまでに調べたことと,そこから推測したことに
ついて,1時間ほどかけて説明した。
俺が話を終えると,はやてとシンクレア以外の全員が頭を抱えていた。
少しして,クロノさんが俺の方をみた。
「整理するとだ,まず8年前に発生した首都防衛隊のゼスト隊全滅事件は
スカリエッティのアジトに突入したゼスト隊が,スカリエッティの戦闘機人
によって全滅させられたと」
「そうです。俺の姉もその時に亡くなりました」
「で,そのスカリエッティは最高評議会のお歴々の指示によって開発された
人工生命体であり,最高評議会はスカリエッティの研究に資金を
提供していたと」
「そうです。その資金提供は現在も続いている可能性があります」
「さらに,最高評議会のお歴々は100年以上前の人物で,すでに人の姿を
保ちえていないというわけか」
「はい」
「最後に,以上の最高評議会の情報を探るために君とツァイス3尉が
管理局中央の地下に潜入したというんだな?」
「そうです」
俺がそう答えると,クロノさんはシンクレアの方を見た。
「はやてから君を6課に出向させたいと連絡を受けた時に君の人事記録を
確認したんだが,士官学校を去年卒業して,1年間作戦部にいたという
ことだったな」
「はい」
「あれは嘘だろう」
クロノさんがそう言うとシンクレアは俺に目を向けた。
俺が苦笑しながら肩をすくめると,シンクレアは小さくため息をついた。
「ええ,その通りです。あの人事記録は6課に出向するにあたって用意した
偽の記録で,本当の私は情報部第1特務隊部隊長のシンクレア・クロス
1等陸尉です。つまり,ゲオルグさんの後任ですね」
シンクレアがそう言うと,なのはが不思議そうな顔をしていた。
「何で偽装する必要があったの?」
「それは,調査対象が管理局の中枢だったからだよ。
人事異動の時期でもないのに情報部からの出向があったら余計な目を
引くからね。それで最高評議会なりその下の連中に俺達のやろうと
していることを嗅ぎつけられたらまずいだろ?」
俺がそう言うと,なのははうんうんと頷いていた。
「ところで,ゲオルグやクロス1尉のいた情報部特務隊とは
どういう部署なんだ?僕は聞いたことのない部署なんだが」
クロノさんが俺の方を見て聞いてきた。
「それは言えませんね。特秘事項ですし情報公開の権限もないですから。
しゃべったら,俺は軌道拘置所に死ぬまで入れられるか,
悪くすれば即処刑されます」
「僕は本局の提督だぞ」
「それでもですよ。少なくとも俺はクロノさんに公開していいと
聞かされてませんから」
「はやては知っているのか?」
「全部かどうかは知らんけど,知っとるよ。これでも特別捜査官やったし,
おかげで情報部とは仲良くさせてもらってたから。
ちなみに,私も話す気ないよ。命は惜しいから」
はやてがそう言うと,部屋の中の空気がかなり重くなったように感じられた。
「ところで,少し気になってたんですけど,仮に地上本部がテロ行為なりで
陥落したとして,本局まで機能不全になると思います?」
俺がクロノさんの方を見て言うと,クロノさんは怪訝な顔をした。
「どういうことだ?」
「いえね。騎士カリムの予言によれば,まず落とされるのは地上本部でしょ。
で,それをきっかけに本局も壊滅しますよって解釈してるじゃないですか。
でもね,地上本部と本局って気持ちいいくらい別組織じゃないですか。
しかも,地上本部を落としたところで,せいぜいミッドを支配下における
くらいのことで,次元世界全体に影響を与えられるわけじゃないでしょ。
どう考えても,管理局全体の崩壊までは到達できない気がするんですよね」
俺がそう言うと,クロノさんは腕組みをして少し考えてから口を開いた。
「そうだな・・・。確かに,地上本部が陥落したからといって
本局や次元航行艦隊が行動不能になる可能性はほぼゼロだ」
「そこは私も疑問に思ってるんよ。ミッドの住民すべてが人質にとられて
本局が脅迫に屈するっていうシナリオも考えたんやけど,説得力ないんよ」
しばらく全員が考え込んでいると,カリムさんが口を開いた。
「予言の中で,解釈できていないのは”死せる王”と”かの地より蘇りし翼”
よね。そちらは調べているの?」
「ユーノくんに頼んでるけど,進捗はイマイチやね。
抽象的な言葉やから検索しても当たりを引く確率が低いのと,
誰かさんがユーノくんの仕事を増やしまくっとるらしいからな」
はやてはそう言うと,ジト目でクロノさんを見る。
クロノさんはわざとらしく咳払いをすると,今日のところは解散と言って,
部屋を出て行ってしまった。
「・・・ちっ,逃げられたか」
はやてが悪態をつくと,全員が声を上げて笑った。
その後,少し雑談をしてから,保護した女の子の様子を見に行くことになった。
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