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婚礼の木

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第三章

「そうだったのです」
「そうだったのですか」
「あの方は」
「実は」
「それで悪戯心を起こし」
 ゼウスはいつもこれがある、浮気もするがそれ以上に悪戯好きであるのだ。
「この様なことをしたのです」
「あえて他の方と結婚すると言われ」
「そしてヘラ様を嫉妬させてですね」
「ここでこうしたものを出して」
「ヘラ様にこの様なことをさせたのですか」
「そうです、昔からこうでした」
 ゼウスが若かった頃も思い出して言った。
「そのことを忘れていました、そして」
「してやられた」
「そうなのですね」
「その通りです、これは私の負けです」
「ははは、してやったりだな」 
 ここでだった。
 茶色の縮れた短くした髪の毛に髪の毛と同じ色で顔の下半分を髭で覆った彫のある顔立ちの大柄な者が出て来た、他ならぬゼウスである。
「どうだ、この度の悪戯は」
「やはり悪戯でしたか」
「そうだ、やられたな」
「やられました、浮気と思えば」
「いつもそれで怒られているからな」
 ゼウスもわかっていることだ。
「だからだ」
「この度はですね」
「こうしてみた、それでだが」
「これからですね」
「もう準備は出来ているぞ」 
 ゼウスはこうも言った。
「だからな」
「それで、ですね」
「式を執り行うか」
「貴方が浮気をしていないなら、ですが」
「ですが。何だ?」
「この悪戯あまりにも性質が悪いです」
 ここでこう言うのだった、そして。
 身体をワナワナと震わせ口を耳まで裂けさせ目を吊り上がらせ髪の毛を逆立たせてだ、ヘラはゼウスに言った。
「気が済むまでお仕置きをさせてもらいます」
「待て、浮気はしていないぞ」
 ゼウスは魔物の様になったヘラに驚いて言った。
「わしは今回は」
「しかし悪戯はしましたね」
「悪戯はいいではないか」
「今回は過ぎます、ですから」
「お仕置きをするというのか」
「式の前に。ではお覚悟を」
 こう言ってだった。
 ヘラはゼウスに跳び掛かり気が済むまでお仕置きを行った。
 そうしてその後で式を行ったが参列する神々はまだ怒っている新婦と全身傷だらけになった新郎を見て話した。
「こんな式ははじめてだ」
「新婦が怒り新郎は傷だらけとはな」
「これまた珍しい結婚式だ」
「こんなものもあるのだな」
「全ては悪戯の結果です」
 ヘラは参列者達にも怒った顔で言った、そうしてだった。
 彼女はゼウスの妻となった、だがそれからもゼウスの浮気と悪戯に怒り続けていることは言うまでもない。それは今も続いているという。


婚礼の木   完


                 2022・8・12 
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