機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第20話:お姉ちゃんのカタキっ!
機動6課が初めての実戦を経験した日,その午後。
俺は,今日の戦闘の反省会に出席するため隊舎の会議室に向かっていた。
会議室に入ると,すでにほとんどの参加メンバーが揃っていた。
俺がはやての横に座ると,はやてが話しかけてきた。
「お疲れさんやったね,ゲオルグくん」
「いや,俺は何もしてないぞ」
俺がそう言うと,はやては少し笑みを浮かべた。
「ううん。ゲオルグくんが前線できっちり指揮してくれたお陰で,
迅速に作戦を完了できたと思てるよ」
はやてがそう言ったのと同時に,現場での引き継ぎのために遅れて帰投した,
フェイトが会議室に入ってきた。
フェイトがなのはの隣に座ると,はやてが口を開いた。
「みんな今日はお疲れ様でした。
ただ,今後も今回と同じような緊急出動が続く可能性もあります。
そやから,みんなの記憶が鮮明なうちに本日の戦闘について振り返って,
今後に向けて改善するべきところは改善していきたいので,
みんな疲れてるところで申し訳ないけど集まってもらいました」
はやてがそう言うと,全員が頷いた。
「そしたら,まずは,今日の作戦で前線指揮をとった
シュミット副部隊長から作戦の概要を説明してください」
「判りました。
本作戦においては,第1にレリックの確保が目的でした。
よって今回は列車の前後からそれぞれツーマンセルでの挟撃という
戦術を採用しました。理由は,第1にガジェットによるレリックの
列車外への持ち出しを防ぐため。
第2に陸戦要員が分断されて各個に撃破されるのを防ぐためです
ただし,戦場が走行中の列車内であること,および列車が走行しているのが
峡谷地帯であることから地上での部隊展開には困難が伴うと判断し,
陸戦要員をヘリから直接降下させる方法をとりました。
また,周辺空域に飛行型ガジェットが展開しているとの事前情報もあったため
陸戦要員の降下前に現地の制空権を抑えることを優先しました
以上が当初立案した作戦の概要およびその理由です」
俺が話を終えると,はやてが俺を見て頷いた。
「ありがとう。ここまでのところで何かありますか?」
はやてはそう言って室内を見回したが,特に発言はないようだった。
「ほんなら,私から質問。作戦開始時点では敵戦力の情報も曖昧やったし,
予想よりも敵戦力が多い可能性を考えると,降下部隊を2つに分けることで
各個に突破される可能性が高まるから,分けへんほうがよかったように私は
思うんやけど,ゲオルグくんの見解は?」
「今回に関して言えばその可能性はあまり重視してないね。
理由としては,列車内の戦況悪化に対して追加投入できる戦力が,
まず俺,次になのはとフェイトと充実してたから」
「そやけど,ゲオルグくんはともかくなのはちゃんやフェイトちゃんは
敵の航空戦力の増援があった場合には対応せなあかんやろ。
地上戦の予備戦力として計算に入れるんは期待度高過ぎちゃうやろか」
「だからこそ,リインに広域警戒・索敵を頼んだんだよ。
まぁ,途中からサーチャーによる監視に切り替えたけど。
いずれにせよ広域警戒情報が早めに出せる環境を整えることで,
なのはやフェイトが空と陸のどちらにでも使える状況を作ったんだ。
それじゃあ,対応できないほどの増援が出た場合には,
撤退しかなかっただろうね」
「そうか,隊を割ろうが割るまいが,そのへんは変わらんかったやろうと」
はやてが俺を見ながらそう言ったので,俺は頷いた。
「なるほどな。納得や。ほんなら,あとは各自今回の作戦で思ったことを
自由に発言してください」
その後,2時間ほど今回の戦闘について議論し,会議はお開きとなった。
俺が,席を立って部屋を出ようとしたところで,はやてが
俺となのはとフェイトを呼び止め,部隊長室に来るように言った。
部隊長室に入ると,はやてはモニターに1枚の画像を映した。
「これは今日捕獲した新型ガジェットの残骸の画像や。
んでこっちが,制御装置と思われる部分の拡大なんやけど」
はやてはそう言うとモニターの画像を変えた。
すると,なのはとフェイトの表情が変わった。
「・・・ジュエルシード」
フェイトがつぶやくようにそう言った。
「ジュエルシードって,あのPT事件の?」
俺がそう聞くと,はやては頷いた。
「そう,なのはちゃんとフェイトちゃんには因縁のあるロストロギアやね」
はやてがそう言うと,なのはとフェイトは苦しそうな表情だった。
俺はPT事件は記録で読んだことしか知らない。
だが,なのはとフェイトが敵同士として死闘を演じたと聞いたことはあった。
今の2人しか知らない俺には想像もつかなかったが。
「んで,この画像のこの部分を拡大すると・・・」
はやてがそう言ってもう1枚の画像を表示させた。
俺はその画像を見た瞬間,全身の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。
「・・・ジェイル・スカリエッティ」
俺はかすれた声でそう言った。
「そう,稀代の天才科学者にして,最重要視名手配の時空犯罪者,
ジェイル・スカリエッティ。こいつがレリック事件の背後におる
可能性が非常に高いっちゅうわけや・・・ってゲオルグくんどないしたん」
はやてが俺に声をかけたので,俺は我に返った。
「ん?なんでもねーよ」
俺はそういったが,なのはが心配そうに見つめてきた。
「嘘だね。そんな顔のゲオルグくんなんて見たことないもん。どうしたの?」
「うん,なのはの言うとおりだよ。
ゲオルグ,何かあるなら話してくれないかな。
スカリエッティは私もずっと追ってきた犯罪者だし」
なのはとフェイトはそう言ったが,俺は首を横に振った。
「別に何もないよ。ただ,大物の名前が出てびっくりしただけ」
俺が下をむいてそう言うと,はやては俺を見つめてきた。
「あかんよ,ゲオルグくん。そんな泣きそうな顔して言っても
何か隠してますって言ってるようなもんやで」
俺が顔を上げると,なのはとフェイトが心配そうな顔を向けていた。
《マスター,これ以上隠すのは無理でしょう》
「レーベン,やっぱりなんかあるんやな!」
はやてがそう言った。
《はい,スカリエッティはマスターのお姉さんを殺した犯人です》
レーベンがそう言うと,ハヤテたちは息を飲んだ。
「・・・ほんまなんか?ゲオルグくん」
はやてもなのはもフェイトも不安そうな顔をしていた。
「ああ,本当だよ。俺の姉ちゃんは俺より5つ年上だったんだけど,
地上本部の魔導師でさ,8年前に姉ちゃんの所属部隊がスカリエッティの
アジトの一つを発見して,踏み込んだんだけど全滅したんだ」
「8年前ってことは,私と出会ったときには,もう・・・」
フェイトが辛そうな顔をして聞いてきた。
「そうだね。ちなみに,俺は姉ちゃんが死んだときには
時空航行艦に魔導師として配属されたばかりでね。
姉ちゃんの葬式にも出られなかった」
俺は,絞り出すように言うと,両手を握り締めた。
「そうやったんか。ごめんな,嫌なこと話させてしもうて」
はやてが済まなそうな顔で俺に言った。
「・・・いいよ,もう。それに悪いのはスカリエッティだから」
俺はそれだけ言うと,部隊長室を後にした。
俺は,自室に戻るとクレイに盗ませた地上本部の公式文書の中から
最近見つけた文書を眺めていた。
それは,ゼスト隊が作成したスカリエッティのアジトに踏むこむ作戦の
計画書だった。
計画書は,実際に作戦が実行される3週間前に作成されていた。
そして計画書には,応援部隊のリストも記載されていた。
(当初の計画では,首都防衛隊をはじめとして5部隊で突入する
つもりだったのに,実際にはゼスト隊だけで作戦を強行した。
ってことは・・・)
俺は同じくクレイに盗ませた通信記録を調べ始めた。
ゼスト隊が応援を要請した部隊の通信記録を見ると
ゼスト隊からの応援を要請する通信があった後に,
地上本部上層部から内容のわからない秘匿通信が入っていた。
(地上本部上層部からゼスト隊を援護しないように
圧力をかけたんだろうな。でも,証拠がないんじゃなぁ)
俺は端末を閉じると,眠りにつくことにした。
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