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イベリス

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第七十八話 夏バテも考えてその十一

「怒鳴って猫か旅行どっちか選べってね」
「娘さんに行ったの」
「そんな餓鬼みたいな人もいたそうよ」
「その人自分の都合で平気でどんな悪いことでもするわね」
 咲は本能的に察した、見れば母の手伝いをはじめて野菜を包丁で切っている。結構手馴れた動きである。
「それこそ」
「咲もそう思うでしょ」
「旅行に行く位で命粗末にして」
「娘さんにそんなこと言うならね」
「もう平気でよ」
 自分の都合でというのだ。
「誰でも裏切ってでもね」
「悪いことするわね」
「ええ、絶対に近寄ったら駄目ね」
「こういうのが本物の悪人よ」
 母は娘に話した。
「だからね」
「一緒にいたら駄目ね」
「付き合ってもいいことはないわよ」
「自分も裏切られるわね」
「その人の都合でね」
 それでというのだ。
「そうするから」
「お付き合いしたら駄目ね」
「ええ、本当にいるかどうかわからないけれど」
「いたら皆から嫌われてるでしょ」
 咲はこれまた本能的に言った。
「自分の娘さんにそんな酷いこと平気で言えるのなら」
「それこそ他の人にもね」
「何の思いやりもない自己中なことをね」
「いつも言っていてね」
「物凄く嫌われてるわ」
「そうよ、自分さえよければいい人はね」
「行動に出るわね」
 確信を以て言った。
「それで誰もがね」
「嫌うわよ」
「表面上はお付き合いしていても」
「実は徹底的にね」
 それこそというのだ。
「嫌ってるわ」
「そうよね」
「そしていざという時はね」
「誰も助けないわね」
「どうせ日頃碌なことしてないし」
 それ故にというのだ。
「その報いもよ」
「受けるのね」
「だから咲もね」
「そうした人とはよね」
「お付き合いしないことよ」
「そうするわね」
「絶対にね」 
 母は強い声で言った。
「そのことも覚えておいてね」
「そうしていくわね」
 咲も頷いて応えた、そうしてだった。
 この日も夕食と入浴それに勉学を怠らなかった、そのうえでベッドに入ると心地よく寝ることが出来たのだった。
 そして朝納豆で朝食を食べると母に言われた。
「朝もしっかり食べるといいのよ」
「そうしたら夏バテしないのね」
「そうよ、納豆もいいしね」
「美味しいわよね」
「お味噌汁に卵焼きも食べて」 
 朝食はそうしたメニューだった。
「よかったら梅干しもよ」
「食べて」
「それで今日も頑張ってね」
「そうするわね」
 咲は笑顔で応えた、そうして午前の部活も午後のアルバイトも頑張った。咲は少なくとも夏バテはしていなかった。


第七十八話   完


                      2022・9・8 
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