ぬいぐるみは知っている
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第一章
ぬいぐるみは知っている
高校生の娘の波留美優の様子がおかしい、この前まで地味だったのに最近メイクをして髪の毛もセットしている。ファッションも垢抜けてきた。
それを見てだ、母の恵子は言った。互角系の顔で奇麗なカーブを描いた眉に切れ長の大きな二重の目で色白で赤い唇が艶やかだ。その顔は娘に受け継がれているが彼女は黒髪をロングにしているが娘は最近は茶色のショートだ。背は母親は一五二だが娘は一六〇だ。
その彼女がだ、今夫の久信一八五の長身で腹が出て来ていて面長の穏やかな顔立ちにかなり広くなってきた額を持つサラリーマンの彼に言っていた。
「美優の様子がおかしいわね」
「最近お洒落になってきたね」
「奇麗になったわね」
「それはいいことだね」
「いえ、あれはね」
どうかとだ、恵子は強い声で言った。
「彼氏が出来たのよ」
「ああ、それなんだ」
「それがいい人ならいいけれど」
「悪い人だとね」
「問題よ」
「それはね、けれどね」
それでもとだ、久信は妻に娘が風呂に入っている間にリビングで話しているがそこでビールを飲みつつ話した。
「紹介されないと」
「どんな人かわからないっていうのね」
「そうだよ、それはね」
「それで知恵を使うことにしたわ」
「知恵?」
「これよ」
こう言ってだ、恵子は。
ぬいぐるみを出した、それは太ったトラ猫のぬいぐるみだ。彼女は夫にそのぬいぐるみを見せて話した。
「これをあの娘にあげるわ」
「美優猫もぬいぐるみも好きだね」
「だからこれがプレゼントだったら」
それならというのだ。
「間違いなくね」
「受け取るね」
「そうなるから」
だからだというのだ。
「この中に細工をしたのよ」
「細工?」
「録音型の盗聴器仕掛けておいたわ」
「スパイ映画みたいだね」
「そこからヒントを得たわ、それでね」
妻は夫にさらに話した。
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