展覧会の絵
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第十四話 泣く女その九
「付け根の筋に切り口を入れたらな」
「それで引き千切れるんですか」
「こうした感じで」
手足も転がっている。その端がまさに引き千切られたものなのだ。警官達は血の海の中にあるその手足も見てそのうえで話しているのだ。
「それだとできるんですか」
「しかしそれでも相当な怪力ですよね」
「普通はここまではしないですよね」
「ゴリラかオランウータンみたいですね」
「どっちもかなり大人しいぞ」
刑事は俗に言われている、そうした霊長類が狂暴であるという風説を否定した。
「ゴリラもオランウータンも決して暴力を振るわないからな」
「間違ってもこんなことはしないですか」
「絶対に」
「そうだ。こんなことをするのは人間だ」
これは確かだというのだ。
「しかしな。どう考えてもな」
「人間のすることじゃないですよね」
「どう考えても」
「サイコ野郎かもな」
刑事もだ。苦々しい顔で述べた。
「相当いかれた奴だろうな、これは」
「殺すのはヤクザとかこいつみたいな闇金ですけれどね」
「それ考えたら正義の味方かも知れないですけれど」
「この殺し方は」
「ちょっとないですね」
「まじでやばい奴ですね」
「こうしたえげつない殺しに慣れてる奴だ」
刑事は犯人に対してこう考えていく。
「これだけの殺しを瞬時にしてるんだからな」
「切り裂きジャックですかね」
スーツの若い刑事がトレンチの刑事に言ってきた。
「若しかして」
「あのロンドンのか」
「ええ、化け物ならまさか」
「切り裂きジャックが悪霊になって日本に来たっていうんだな」
「そうじゃないですかね」
若い刑事は悪霊とみなして述べていた。
「ここまでえげつない殺しをすぐにするんですから」
「刃物の使い方も慣れてるしな」
「じゃあやっぱり」
「いや、幾ら何でもな」
ないとだ。彼等は言う。
「それはないだろ」
「けれど本当に悪霊とか化け物じゃないんですか?」
「警察は本来そうしたのは否定するんだがな」
科学第一主義だからだ。刑事はそれを言いはする。
だがそれでもだった。刑事は今は難しい顔で言ったのだった。
「しかしな」
「はい、この殺し方は」
「おまけに殺した数も桁違いですね」
「多過ぎるから違うと思いたいがな」
だがそれでもだった。その殺し方があまりにも独特でだ。それが為に言った言葉だった。
「しかしな」
「それでもですね」
「ああ、絶対に同じホシだ」
「藤会関連のこの連続殺人事件のですね」
「そうだ。百人は殺してるがな」
その殺された人間がだ。いずれも惨たらしい殺され方だったのだ。それでだ。
刑事も難しい顔でだ。こういうのだった。
「同じ奴としか思えない」
「ですね。それでこいつですけれど」
無残な達磨、目も下顎もなくそれでいて断末魔の恐ろしい顔を血の中に見せている男の顔を見下ろしてだ。若い警官の一人がこう言った。
「上田ですよね」
「ああ、闇金のな」
「闇金だけでなく他にも色々やってたそうですね」
「人身売買、それに臓器売買か」
「闇金で払えなかった場合にそうしてたんですね」
「ずる賢くて尻尾を出さなかった」
それが為に今まで捕まえられなかったとだ。刑事は忌々しげに答えた。男の骸を見ながら。
「捕まえられなかったがな」
「それがですね」
「ああ、この結末だ」
「ただの達磨じゃないですね、これは」
「人豚だな」
刑事も知っていた。この死体の姿は。
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