リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第十楽章「何気ない一言が余計な仕事を増やす」
(グランバニア城:国王執務室)
アイリーンSIDE
「もういいだろ! サッサと本題に入れよ」
度重なる悪口に堪えきれなくなったのか、クズ宰相が喚きだした。
まぁ確かに、そろそろ卒業式の話をしないと……これ以上陛下に無駄なお時間を取らせるわけにもいかないわ。
「はて……本題とは? 私の用件は終わりましたけど」
「えぇ~ちょっと……それは酷いんじゃないリューナちゃん!」
いや言ってる事は正しい。卒業式の責任者はアンタなんだから、アンタが直接話しなさいよ。
「あのぉ~実はですねぇ……陛下……」
自体を知ってる皆の視線がピエに集まったとこで、おずおずと説明を始める責任者。
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「……なるほど。まだポップスに触れて日の浅いピエッサちゃんには、作詞作曲は荷が重いと」
「は、はいぃ……ただでさえ私は作曲家でして、作詞となると……も、勿論作曲もまだまだ勉強中でして、一大イベントの責任者としては未熟すぎる始末ですぅ」
「それで作詞作曲だけでも僕に頼みたい……と? 美人の頼み事だから了承したいけど、僕もこう見えて忙しいんだよね」
当然ですわ! 如何見ても王様なんだから、忙しいに決まってる。
「なんか最近さ、エグ……なんとかってのにも就任しちゃって、そうそう安易に王様が学生の手伝いをするわけにもいかないんだよね」
「で、ですよねぇ……」
当たり前だわ。彼女は何故ここに我々を連れてきたのか?
「はい、そこで再度私の出番!」
「「「「???」」」」
突如リューナ嬢が出番を主張。何なんだ?
「実は本当に用件があるのはプーサンなんですよ」
やはり……私やピエは最初から勘付いてたけど、画家さん等も驚きの表情をしてる。いや、キャバ嬢だけが顔を顰めてるわ。
「あのお方でしたら、能力・信用・カリスマとどれをとっても申し分ないですし、ピエッサさんもお世話になった事があるようですし、話が早いと思います」
まぁもう説明の必要は無いからねぇ……
「あの……プーサンって以前エウカのバイト先に現れたお方ですよね?」
「あらラッセル、他のプーサンをご存じでしたら是非とも私に紹介して下さい(笑)」
このキャバ嬢はプーサンに何か叱られたのね……だから名前を聞いて顰めっ面をしたのか。
「お前等なぁ、プーサンを外注で雇うって如何言う事か解ってるのか? 料金を支払うんだぞ……お前等の予算で足りると思ってるのか! 俺から150G巻き上げるだけで躍起になってる様な貧乏人共が!」
「こらクズ宰相! 口を慎め、社長がお前みたいにセコいわけないだろう!」
クズ宰相の台詞に私は思わず声を張り上げてしまった。
だがこの場に居る皆さんも同じ思いか、クズ宰相に蔑む様な視線を送る……だが、
「いやアイリーンちゃん……プーサン、高いよ」
「「「えっ!?」」」
まさかのご本人様から、割高料金プランの告知!
「あれ珍しい……リュカさんが利益を求めだした!?」
「僕じゃないよ、プーサンだよ」
クズ宰相の言葉に、立前的否定を入れる。なんか可愛いわ。
「どっちでもいいんだよ! 大体こんな貧乏学生共に支払える額なのか?」
「支払いは責任者のピエッサちゃんが、身体で支払ってくれれば良いんだよ」
か、身体!? あ、あの……私が代わりに支払います。
「うわっ最低! とうとう若い女にモテなくなってきたから、地位や財力を背景に薄汚い快楽を求める様になってきやがったぞ! 大体ピエッサさんには彼氏が居るんだぞ……パッとしない奴だけど。オッサンの『特定の相手が居る女性には手を出さない』ってポリシーに反するだろうが!」
「『最低』はお前だ、薄汚れた思考回路しかない小者野郎が!」
突然のリューナ嬢からの辛辣なるディスり。
すみません、私も薄汚い思考回路でした……
「まだまだ僕だって地位や財力を使わなくても、若い女の子を口説き落とす事は出来るさ!」
「じゃぁ如何言う事だよ!」
薄汚い思考回路の方で、私が支払いたいですわ!
「幸か不幸か、マリーという一人の少女のお陰で、この世界に新しい音楽の流れが生まれた。ただコレが不幸なのは、このマリーという女には、新たな流れを育てる意思も技量も存在しない事だ。勿論一度世に出た流れは、そう簡単に消え去るモノではないけれど、意識して成長させなければ、コンテンツとして廃れるだろうし、育っても良い方向へ向かうとは限らない。なのでマリピエとして現在最もポップスミュージックに精通してるピエッサちゃんに、今後の発展に寄与してもらう為に、プーサンを通してポップスミュージックの勉強をしてもらいたい」
なるほど、そういう事か。
「そ、それでしたらお安いご用ですわ陛下! いえ寧ろ私の方からお願いしたいt「あまり新しいコンテンツの育成を甘く見ないでよピエッサちゃん」
身体での支払いが楽だと分かったピエに、陛下は優しい口調だが厳しさを含ませた言葉で、ピエの心を引き締まらせる。
「マリピエはマリーが自らの努力で成長しない限り、何れは頭打ちになるだろう。そうなれば仕事は減り、収入も無くなる。アイツは自業自得だし、他の面でも保険はあるから生活に困る事も無いだろうけど、ピエッサちゃんはそうもいかない。まぁ今の彼氏が軍の高官だから多分は大丈夫だろうけど……世の中何が起きるか分からないからねぇ」
まぁそうね、あの女は腐ってもお姫様だからねぇ……
「だから今の内からポップスの勉強をプーサン経由でしてもらって、数年したら今度は教える側……つまり芸高校の講師として雇いたいんだよ。そうなると完全に公務員だから、将来は安泰だよね」
良いわねぇそれ。
「た、確かに安泰でしょうし、私も色々学びたいとは思ってますが……私に務まるでしょうか、他人様に何かを教える立場なんて!?」
「それは僕に言われてもねぇ」
アンタ次第でしょ!
「はい、じゃぁ決まり! おと……陛下は将来有能な講師を得て、ピエッサさんはあの馬鹿以上の力を手に入れる。ウィンウィンね♥」
『おと……』って言った。今“お父さん”って言いそうになったわ!
「ウィンウィン……確かに僕とピエッサちゃん達は利益を得てるけど、リューナは如何なんだい?」
「如何と言われましても……私はプーサンへの口添えを協力したかっただけですから。しかもそれによって未来の音楽シーンの発展へ寄与できましたので、私は満足でありますけど?」
気が利く!
あの娘が微塵も音楽発展に寄与して無い分を、リューナ嬢が率先して行っているわ。何て良い娘なんでしょう!
「無欲なのは構わないが、使える状況は最大限に使った方が良い」
「『使える状況』とは?」
とは??
「魔技高校だって同じ様な時期に卒業式だろ。多少日付をずらせば、芸高校の有志と魔技高校の有志が協力し合った個性的な卒業式に出来るんじゃないかな?」
「なるほど! そうですわねぇ……魔技高校の本年度の卒業式は、陛下からアイデアを頂き開発した“マジック・スチール・ヴィジョン”(通商『MSV』)のプロトタイプを使って、式を盛り上げようと提案を考えていたところです」
「……あぁ! 写真の事か! MSVってカメラの事か!! うん、頼んだ。あれってもう実用段階なの?」
「はい陛下。MHが色々と参考になっております」
何かまた、陛下のアイデアで凄そうな物が出来上がってるらしいわ。
「じゃぁリュカさん、こうしたら如何です。何も芸高校と魔技高校だけが特別に卒業式を共同で行うんじゃなくて、他の学校も卒業式自体は別日に執り行って、制作は数校で共同制作するってのは」
「まぁ良いんじゃないかな」
ザコ宰相のクセに良い提案をするじゃないのよ!
「となると、各校が同日……もしくは連日に卒業式をするのは時間的に式を任された者達に負担でしょう。そう思いませんかリュカさん?」
「ん~……みんな若いし、何とかなるんじゃないのかなぁ? 知らんけど」
陛下は何かを察してるのか、各校の卒業式に間隔を開ける事を嫌がってる様に見える。
「それは酷い。学生は奴隷の様に酷使して使い潰しても構わないとおっしゃいますか!!」
「そんな事は言ってないけどぉ~……僕も忙しいしぃ~……一カ所で済めば良いなぁ~って!」
何が一カ所で済めば良いのですか?
「何を仰います。卒業式という晴れの舞台で、陛下のご臨席……及びお言葉を賜れたら、全卒業生にとって最高の祝いになるでしょう!」
「それは素晴らしいですわ!」
素晴らしい提案に、思わず声を上げてしまう。
「ア、アイリーンちゃん……」
「ほら、現役女子学生も大いに賛成しておりますよ。美女の期待を裏切るのはイケメンのやる事では無いですよねぇ(笑)」
し、しまった……私の所為で陛下がクズ宰相に責められてる。
「そういう訳でユニさん。文部魔法学大臣を読んできてくれ」
「は、はい!」
突如指示を受けた部下の女性は慌てて部屋から出て行った。
そんな彼女を見送った陛下は、ポツリと呟いた……
「余計な奴の前で、余計な事を言ったなぁ……」
アイリーンSIDE END
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