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ハヤシライス

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第一章

                ハヤシライス
 この時加藤季衣はお家のキッチンを見てお母さんの優子に言いました、まだ五歳であどけないお顔で黒い髪の毛をツインテールにしていて可愛い服を着ています。
「大きなお鍋で何を作ってるの?」
「何かしら」
 お母さんは季衣の質問に思わせぶりに笑って言いました。艶やかな感じのお口でアーモンド型の目は笑っている感じで黒髪を長く伸ばしてセットにしています。背は一六〇位で見事なスタイルをズボンとエプロンで包んでいます。
「わかるかしら」
「お肉と玉葱あったから」
 季衣はお買いものの時に買ったそれ等を思い出しました。
「それにカレールーのコーナーに行ったから」
「カレーライスっていうのね」
「そうじゃないの?」
 こうお母さんに言いました。
「お肉と玉葱で」
「カレールーのコーナーに行ったから」
「絶対にそうよ」 
 こう言うのでした。
「絶対にね」
「そうかしらね」
 季衣がそう言ってもでした。
 お母さんは答えません、こう言うだけでした。
「それは夜になってからのお楽しみよ」
「晩ご飯の時?」
「今日はお父さん早いから帰ったら一緒に食べるわよ」
 お父さんの駿輔と、というのです。とても優しい顔立ちで眼鏡が似合う人です。
「いいわね」
「うん、一緒にカレー食べようね」
 家族で、とです。季衣はあくまでこう思っていました。
 そして夜まで遊んだりお昼寝をしたりして過ごしました、そしてお父さんが会社から帰ってきてでした。
 晩ご飯となりましたが自分の前に出て来たお皿の上のものを見てです、季衣はお母さんに対して言いました。
「お母さんカレーじゃないの?」
「今まで内緒にしていたけれど違うのよ」
 お母さんはにこりと笑って答えました。
「今日の晩ご飯はね」
「ううんと、お肉と玉葱が入っていて」
 薄くスライスされた牛肉と丁寧に切られた玉葱があります。
「マッシュルームもで」
「ルーの中に入ってるわね」
「けれどこれカレールーじゃないわ」
「ええ、違うわ」 
 向かい合って座っているお母さんは笑顔で答えました。
「また言うけれどカレーライスじゃないわよ」
「じゃあ何なの?」
「ハヤシライスよ」 
 お母さんはにこりとしてこう答えました。
「このお料理は」
「ハヤシライス?」
「そうよ、ハヤシライスっていうの」
「カレーじゃないの」
 季衣あカレーライスが大好きです、ですから。
 カレーライスじゃないと聞いてがっかりしました、するとお父さんが言ってきました。
「ハヤシライスも美味しいよ」
「そうなの?」
「そう、とても美味しいから」  
 季衣ににこりと笑ってお話します。
「食べるといいよ」
「本当に美味しいの?」
「カレーと同じだけ美味しいよ」
 お父さんはこうも言いました。
「お父さんは嘘を吐かないぞ」
「そうよね、お父さんもお母さんも嘘は吐かないわ」
「だから安心して食べるんだ」
「美味しいから」
「カレーと同じだけだよ」
「お父さんの言うことは本当よ」
 お母さんも言います。
「ハヤシライスもとても美味しいのよ」
「カレーと同じだけ?」
「そうよ」
 その通りだというのです。 
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