大阪のたんころりん
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第一章
大阪のたんころりん
宮沢結衣、黒髪を首の付け根の部分にかかるまで伸ばしその高さで切り揃えたそれが印象的で大人しそうな目鼻立ちに確かな濃さと大きさの眉に一六〇程の背で胸は九十はある彼女は通っている八条学園高等部からだ。
大阪市鶴見区にある自宅に帰ってだ、自分をそのまま中年にした様な外見の母の理美にこんなことを言った。
「大阪で柿の木ってないわよね」
「お庭あるお家自体が少ないでしょ」
母は娘に即座にこう返した。
「マンションとかアパートが多くて」
「そうよね」
「うちもマンションでしょ」
娘にこうも言った。
「一軒家もね」
「木を植える様なお庭なんてね」
「持てないでしょ」
「人が多いからね」
「そうよ、あるとしたらね」
柿の木がというのだ。
「お寺とか神社とかよ」
「そうしたところね」
「ええ、けれどいきなりどうしたのよ」
母は一緒に晩ご飯を食べる娘に問い返した、父はまだ仕事で帰っていない。
「柿の木のお話なんかして」
「いや、うちの学校の農業科で柿も作ってて」
結衣はおかずの麻婆豆腐を食べつつ話した、他にはゴーヤの味噌汁もある。
「それでね」
「柿の木をなの」
「今日学校で見てね」
そうしてというのだ。
「そういえば大阪にはないわねってね」
「思ってなの」
「今言ったのよ」
「そうだったのね」
「ええ、それでやっぱりなのね」
麻婆豆腐でご飯を食べつつ言った。
「大阪には柿の木少ないのね」
「そうよ、ただね」
「ただ?」
「お母さん神社やお寺にはあるって言ったわね」
「一丁目のお寺にあったわね」
「あそこにはね、何なら行ってみてね」
その寺にというのだ。
「見てきたら?」
「そうしたらいいのね」
「ええ、それで若しかしたら」
母はさらに言った。
「柿貰えるかもね」
「ああ、秋だし」
「柿の木も実ってるから」
季節的にそうした時期だからだというのだ。
「それじゃあね」
「じゃあね」
「え、柿の木が見たいなら」
「あのお寺行ってくるわね」
こう母に答えた、そして次の日曜にだった。
結衣は彼氏で同級生の佐藤敦弥一七〇位の背で面長で小さい目と唇を持つ黒髪をショートにした彼と一緒にその寺に向かった、この時だった。
敦弥は結衣の隣を歩きつつ言った、二人共ズボンに暖かい上着という秋向けのラフな格好をしている。
「僕の家福島区だからね」
「こっちはあまり来ないのね」
「同じ大阪市でも」
それでもとだ、敦弥は結衣に話した。
「はじめて来たよ」
「そうだったの」
「他の区は行ったことある区もあるけれど」
それでもというのだ。
「鶴見区はね」
「はじめてなのね」
「うん、だから新鮮だよ」
鶴見区に来てというのだ。
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