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Fate/WizarDragonknight

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エピローグ

 
前書き
第六章完!
ほとんど一年間をかけて作り上げました! 読んでいただき、ありがとうございます! 

 
「……はっ!」

 ハルトは目を開いた。
 見慣れた天井。それがラビットハウスの天井だと気付くのに、時間は大して必要なかった。

「ハルトさん!」
「ハルト!」

 その声に首を動かせば、ハルトの顔を覗き込む可奈美と真司の顔が飛び込んで来た。

「可奈美ちゃん……真司……」

 意識をしないまま、ハルトはその名を口にする。
 だが、言い終えるか言い終えないかの内に、二人がハルトに抱き着いてきた。

「うわっ! ちょ、ちょっと!」
「ハルトさん、良かったよおおおおおおっ!」
「お前、よく無事だったなああああああああ!」

 可奈美と真司は、同時にハルトに抱き着く。
 二人の遠慮ない行動は、ハルトの傷ついた体に堪える。

「痛っ! いだだだだだっ! 二人とも、離れて!」

 ハルトは抵抗しながら二人の後頭部を叩くが、どれだけ抵抗しても二人は放さない。
 ようやく響が二人をハルトから引き離したが、肝心の彼女も二人に続きたくてうずうずしている様子だった。
 響も同じように飛びついてくる前に、ハルトは話を切り出す。

「俺、どれだけ寝てた?」
「三日だよ」

 響が答える。それに伴って、可奈美が口を開いた。

「ムーンキャンサー……邪神イリスが、見滝原中央駅を壊して、もう皆大騒ぎだったんだよ」
「ああ。見滝原で一番デカい駅が無くなって、もう町も大混乱だ」

 真司も続いた。
 ハルトはそうなのか、と窓にかかったカーテンを開く。ラビットハウスの窓から眺められる木組みの街の景色。だが確かに、その往来を行き来する人々は、どこか忙しなく見えた。

「それにしてもハルト、お前も無事で良かったぜ」

 そう声をかけてきたのは、コウスケ。
 イリスとマンションでの戦いを経験した彼は、見方によってはハルト以上の重傷に見えた。全身の至る所をミイラと見紛うほどの包帯で覆い、右腕をギプスで固定した彼は、左手を上げた。

「よっ」
「コウスケ……お前、その怪我……」
「皆まで言うな。マンションに潰されたんだ。これだけで済んでラッキーだと思うぜ」

 ギプスの腕を見せながら、コウスケはほほ笑んだ。

「お前もかなりの無茶したんだってな?」
「まあ、今回はかなり無茶した部類かも」
「皆まで言うな。そうして負った怪我は男の勲章だって、死んだ爺ちゃんが言ってた」
「へ、へえ……」

 ハルトは「勲章って……」と小さく呟く。
 次に、落ち着いた真司が「なあなあ」と、ハルトの顔を覗き込んできた。

「トレギアは逃げたのか?」

 コウスケの問いに、ハルトは押し黙った。その右手を見下ろし、やがて拳を握る。

「いや。トレギアは……現れないよ。もう、二度と……」

 ハルトは、自らの右手を抑える。
 あの時、トレギアの命を奪ったその感覚は、まだ手にはっきりと残っている。
 数秒。その沈黙で、皆はそれを理解した。

「お前……」
「……ふうっ」

 ハルトは見上げて、大きくため息をつく。ラビットハウスの蛍光灯を目を細めながら見上げていると、ふと見滝原中央駅での出来事が思い起こされた。

「……! そうだ、あの子……! トレギアのマスターの……アカネちゃん、だったっけ? 彼女はどうなったの?」

 ハルトの質問に、仲間たちは互いに顔を見合わせる。

「あの子は……」



 ハルトは、仲間たちが看てくれている。
 だから友奈は今、アンチ、アカネの見送りに来ていた。
 見滝原東駅。中央駅が使用できない今、見滝原で一番大きなターミナル駅は、この駅ということになる。
 この場所では見たことないくらいの人ごみの中、時計台のところで、友奈はアンチ、そして彼女の生みの親であるアカネとともにいた。

「……アンチ君、大丈夫?」
「ああ」

 片目を失ったままのアンチは、友奈に答える。
 怪獣といえども、失った目を取り戻すことはできない。右目を包帯にしたまま、アンチは友奈を見返している。

「お前には感謝している」

 表情にはほとんど変化がない。
 それでも、彼の感謝を友奈は親身に感じていた。

「お前が俺を助けた。だから俺が、新条アカネを助けることができた」
「えへへ。ありがとう」

 友奈はにっこりとほほ笑みながら、アンチの頭を撫でる。

「そういえば結局、アンチ君のこと、わたしあんまり知らないままだったね。もう少し、アンチ君のこと教えて欲しかったかも」
「それは次の機会にしなさい」

 ピシャリと、その声が友奈とアンチに刺さる。
 振り向けば、ガンナーのサーヴァント、リゲルが腕を組んだまま歩いてきていた。彼女の傍らには、そのマスターである少女もいる。

「えっと……鈴音(れいん)ちゃん、でいいんだよね?」
「はい。結城友奈さん」

 柏木鈴音と自己紹介した少女。
 おそらく友奈と同年代であろう少女は、友奈とともにいるアンチ、およびその背後で立っているアカネへ、それを手渡した。

「私が手配したのはここまでです」

 鈴音(れいん)が手渡したそれ。アカネがその封筒の中を確認すると、中から長方形の紙が出てきた。
 裏が真っ暗のそれは、行先が見滝原から遥か遠くに指定されたチケットだった。

「これは……?」
「新幹線のチケットです。新条アカネさん」

 鈴音へ、アカネは怪訝な顔を浮かべた。

「見滝原を出ていくように言われた時も思ったけど、どうして私が見滝原を出て行かないといけないの? もう参加者じゃないのに」
「理由は三つ。一つ、貴女の自宅は、ムーンキャンサー……イリスによって、マンションごと破壊されてしまったこと。チケットの行先は、貴女のご両親のところです。話もつけてあります」
「……どうやってそれを」

 アカネの疑問に対し、鈴音はリゲルを見上げた。
 髪を靡き上げたリゲルを見ながら、鈴音は説明した。

「私のサーヴァントは情報戦においては、おそらくこの聖杯戦争で最強でしょう。貴女の身元を割り出し、学校関係者を装って話を付けました。アンチ(あなたの怪獣)も、身寄りが無くなった弟分だと。ご両親も、快く承諾していただきました」
「フン……」
「二つ。フェイカーとムーンキャンサー、二つのサーヴァントの令呪という膨大な魔力を秘めたあなたが、他の参加者に狙われないとも限らない。全て使い果たしたならまだしも、ほとんど使い切っていない貴女は、他の参加者からしてみれば、ノーリスクの魔力の保存食ですから」
「俺がいるぞ」
「そうですね。イリスとの決戦前に力尽きた貴方が、今後現れる化け物じみた能力者が多いサーヴァント、何人に食い下がれるかは見物ですね」

 鈴音の一言で、アンチは口を閉ざした。
 そんな怪獣の少年を見ないまま、鈴音は三本指を立てた。

「そして三つ目にして、最大の理由。令呪を残したままサーヴァントを失い、生き残ったマスターが、新たなサーヴァントと契約する事例がありました。参加者である時点で、私たちも、そこのセイヴァーも……誰もが、自らを有利にするために動きます。これ以上、余計な敵を増やしたくないんですよ」
「……」

 その一言で、アカネは事を理解したようだった。
 トドメとばかりに、鈴音は最後に付け加えた。

「貴女が両親との間にどのような呵責があったのかなんて興味もありませんし、知りたいとも思いません。ただ、貴女には、当たり前の生活を送ることができます。聖杯戦争からドロップアウトする権利があるんです。ならば一度、再スタートを切ることだってできるはずですよ」
「お迎えが来たわよ」

 リゲルが語りかけた。
 友奈が見上げれば、駅の電光掲示板に、見滝原発、隣町である風見野へ向かう電車のアナウンスが記されていた。
 風見野から、新幹線に乗れば、遠く離れた地で、アカネは両親とともに暮らすこととなる。
 持ち物を何一つ持たないまま、アカネは改札へ向かう。
 アンチもアカネの後ろを付いて行こうと、一歩踏み出す。
 二人は一度友奈たちに振り返り、そのまま改札の中へ姿を消した。
 それを見送った友奈は、誰に聞かれることもなく、呟いた。

「今度は……助けてあげられたよ……千翼(ちひろ)くん……」



次回予___



 ラビットハウスの呼び鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ」

 ハルトはいつも通りの挨拶を告げた。
 イリスの事件から、一週間の時が過ぎた。
 騒がしかったイリス事件の爪痕も、今や見滝原中央駅一帯の再開発計画として、大きな再スタートを切っていた。
 まだ怪我による痛みは残っているが、もういつものラビットハウスの業務を行えるほどには回復している。
 そして今回入って来たのは、ハルトよりも少し年上らしき男性。赤いスーツの上に黒いコートを着ており、、背が高く、整った顔付きが特徴。彼が歩くだけで、その場はモデルの撮影会になるのではないかと感じられた。
 店内をぐるりと見渡した彼へ、ハルトは声をかけた。

「お好きな席へどうぞ」
「ああ」

 ハルトの案内に、男性は手頃な席へ腰を落とす。
 やがて、首にかけたこれまた赤いカメラで、店内の写真を撮り始めた。
 カメラには詳しくないハルトだったが、二眼レフ、という単語を思い浮かべたところ、そのカメラがハルトの姿を捉えた。

「あの……店内はいいですけど、店員の撮影はお控え願えませんか?」

 すると男は、顔を上げてハルトを見上げる。
 そして。

「ウィザード……か」
「え?」

 ハルトは耳を疑う。
 これまでの経験上、名前ではなくウィザードと呼んでくるのは、ほとんどが敵だった。
 だが、ハルトは聞き間違いだと祈りながら、言葉を改める。

「あの……以前どこかで会いました?」
「どうかな?」

 ハルトの問いに、男はあやふやな返事しかしない。その長い足を回して立ち上がり、ハルトの肩を叩く。

「まあ、近いうちにまた会うことになるだろう」
「会うって……」

 その意図が掴めず、ハルトは目を点にした。
 そのまま男は、にやりと笑みを浮かべたままハルトへ背を向ける。

「じゃあな……ウィザード」
「聞き間違いじゃない……アンタ、まさか参加者!?」

 だが、それ以上のハルトの発言時間はなかった。
 すでに男は、ラビットハウスの扉から出て行っており、呼び鈴が虚しく「チリン」と鳴り響いていた。
 
 

 
後書き
恒例通り、登場人物紹介をした後に、7章行きます! 
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