イベリス
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第七十三話 何の価値もない思想家その十一
「あっちじゃないぞ」
「そうなのね」
「しかし咲は泥鰌も食べるからな」
この魚もというのだ。
「本当に好き嫌いないな」
「強いて言うなら極端に脂っこいものはね」
「駄目か」
「基本あっさりしたのが好きで」
そうした食べものがというのだ。
「脂っこいものはね」
「駄目か」
「お肉なんか特にね」
「まあ赤身を食べられるならいいわ」
母はそれならとした。
「お母さんとしてはね」
「そうなのね」
「ええ、お母さんも基本赤身だし」
出す肉料理はというのだ。
「それならね」
「赤身食べたらいいのね」
「それで構わないわ」
「そうなのね、学校のロシアとか北欧の子は脂身好きみたいだけれど」
「あっちは寒いからよ」
だからだというのだ。
「脂肪はカロリーだから」
「それ食べてカロリー摂るの」
「さもないとやっけいけないのよ」
「あんまりにも寒いから」
「ロシアや北欧の寒さは北海道以上よ」
遥かに上である、暖かいとされるパリでもその緯度は宗谷岬より北でありセーヌ川が凍ることもあるのだ。
「だからね」
「脂身とか食べないと」
「紅茶だってお砂糖大量に入れて」
ロシアの飲み方である。
「ジャムも舐めてよ」
「飲むのね」
「そうしないとね」
「凌げないのに」
「だから太ってる人が多いのよ」
「ロシア見たらそうよね」
テレビやインターネットでだ、咲は答えた。
「厚着もあるけれど」
「太ってる人多いわね」
「特にお婆さんでね」
「さもないと」
「やっていけないのね」
「厚着をして」
そしてというのだ。
「三重の窓とドアでね」
「お家の中は暖かい様にして」
「そうしたものを飲んで食べて」
その様にしてというのだ。
「それでなのよ」
「寒さを凌いでるのね」
「だからそうしたところで脂身が好まれるのは」
肉のそうした部分がだ。
「当然よ」
「寒過ぎるからなのね」
「そうよ、けれど日本じゃね」
「ロシアや北欧よりずっと暖かいから」
「別に脂身食べなくてもね」
「困らないのね」
「実際そこまで寒くないでしょ」
娘に問うた。
「東京でも」
「冬は厳しいけれどね」
「からっ風もあって」
「寒いことは寒いけれど」
「ロシアとか北欧は息が凍るから」
空気も凍る、ダイアオンドダストである。
「そういうのがないでしょ」
「絶対にね」
「そう考えたら」
それならというのだ。
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