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お箒ぶな

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第二章

 茂兵衛が斧を入れたところから真っ赤な樹液を流した跡があった、神主もそれを見てそのうえで語った。
「これはな」
「間違いないな」
「普通のぶなの木じゃないな」
「そう思う、すぐに祟りを鎮め」
 その危険を考えてというのだ。
「そうして神木として祀ろう」
「普通の木じゃないからな」
「そうするか」
「そうしよう、しかしまだ芽を出す時でないのに」
 ぶなの木がとだ、神主は首を傾げさせた。
「もう出ているな」
「ああ、そういえばな」
「そうだな」
 二人もその芽を見て頷いた。
「ぶなの木にしてはな」
「随分早く芽が出てるな」
「これはどういったことだろうな」
 祟りを鎮める儀式をしてだった。
 神木として祀った、そして秋になるとだった。
 豊作であった、そして翌年芽が出るのが遅かったがその時は凶作であり村人達は言った。
「豊作の時は早く芽が出て」
「凶作の時は遅く芽が出るな」
「そうした木か」
「ただ枝が多くて切ると血が流れる」
「それだけじゃないか」
「その様だな」
 祀った神主も言った。
「これは実に不思議なぶなだ」
「またえらいものを見付けたな」
「そうだよな」
 最初に見つけた茂兵衛その彼と一緒にいた五郎も言った。
「わし等は」
「えらいものを見付けたな」
「全くだ、だがこうして見付けたならな」
 それならと言うのだった。
「よく見て大事にしないとな」
「折角豊作か凶作か教えてくれるんだ」
「こんな有り難いことはない」
「それではな」
「これからも大事にしていくか」
「そうしていこうぞ」
 神主は二人にも村人達にも微笑んで話した、そうしてだった。
 村はずっとこのぶなを大事にしてその年の作物の出来を見た、そしてその形からお箒ぶなと呼んで今も大事にしているという。岩手県に伝わる話である。


お箒ぶな   完


                 2022・6・17 
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