英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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西ゼムリア通商会議~インターバル・中篇~
~エルベ離宮・客室~
「申し訳ございませんが私の方にも彼らが連合軍に投降してきたという情報しか入って来てなく、彼らの詳細な投降理由等はまだ把握しておりませんわ。」
「ナイトハルト教官達が投降してきたタイミングが”前半の会議の最中”なのだから、前半の会議が終わったばかりの今の状況ではヴァイスラントもそうだが連合軍や王国軍も詳細な情報をまだ把握していないのも無理はないな。」
「チッ、会議が終わるまで”お預け”かよ。」
「そうだね~。けど、ミュゼなら既にナイトハルト教官達が投降してきた理由とかも察しがついているんじゃないの~?」
「確かにミルディーヌ公女殿下の異能じみた能力―――――”盤面が見える能力”でしたら、”投降してきた部隊の意図の盤面”も既に見えているでしょうね。」
セドリックの問いに答えられない事を説明したミルディーヌ公女の話を聞いたユーシスが納得し、アッシュは舌打ちをしている中真剣な表情でミルディーヌ公女を見つめて呟いたミリアムの意見にシャロンは同意した。
「仰る通り、確かに”その盤面も既に見えて”はいますが………それをこの場で口にしてしまって、本当によろしいのですか?”盤面”とはいってもあくまで私の推測ですし、皆様にとって大切な仲間であるクレイグ将軍の御子息にとっては”酷”な内容になると考えられますが。」
「エ、エリオットにとって”酷な内容”になるという事は………」
「彼らの投降にはクレイグ将軍の思惑―――――それも、エリオット君にとってはあまりよろしくない思惑なんだろうね。」
「………僕の事は気にしないで、ミュゼが見えた”盤面”を答えて構わないよ。父さんは絶対に諦めず、最後まで抵抗する事は父さんの息子の僕が一番よくわかっているからね……」
「エリオット君………」
困った表情でエリオットに視線を向けて答えたミルディーヌ公女の問いかけを聞いて察しがついたマキアスは不安そうな表情で、アンゼリカは複雑そうな表情でエリオットに視線を向け、辛そうな表情で続きを口にするように促すエリオットの様子をトワは心配そうな表情で見つめた。
「かしこまりました。まずアルトリザスの部隊に関しては恐らくではありますが、指揮官であるベアトリクス大佐の意志によるもの―――――”先日の大戦でエレボニア帝国軍が敗戦した事によって、これ以上抵抗した所で双方にとって無意味な戦死者を出す事は目に見えていたのでそれを阻止する為”かと。」
「確かに現役時戦場で敵味方問わず治療した事もそうだけど、今回の戦争に参加した理由も”敵味方問わず命を救う事で敵味方関係なく犠牲者を減らす為”だったベアトリクス教官なら考えそうな事ね。」
ミルディーヌ公女の推測を聞いたサラは納得した様子で呟いた。
「次に情報局の件ですが………”大戦”の結果を知った事もそうですが、”最後の希望”であるオズボーン宰相達によるメンフィル大使館・ブライト家への襲撃も失敗した挙句襲撃に参加したアランドール少佐達情報局の部隊も無力化され、捕虜になってしまった事でオズボーン宰相に対して抱いていた”希望”が”失望”もしくは”絶望”へと変わり、戦後の彼らの処遇を少しでも軽くしてもらう為にもせめてもの”手土産”としてマテウス子爵閣下を連れて自ら投降をしてきたのかと。」
「エレボニアが敗戦すれば、宰相殿との関係が深い人物や部署は”厳罰”が下される事は目に見えていたから、サイモン局長達は自分達の”未来”を少しでもマシにする為にも幽閉されていたマテウス子爵閣下を救出し、自ら投降をする事で連合もそうだが、ヴァイスラントの印象を少しでもよくしようと考えているかもしれないね。」
「ケッ、敗北が確定したからと言って、保身の為に今更連合やヴァイスラントにゴマをすってくるとか、気に入らねぇ連中だぜ。」
「”情報局”は局長まで離反したのに、”鉄道憲兵隊”は離反していないって事はクレア達はギリアスのオジサンと一緒に死ぬつもりなんだろうね………」
「ミリアムちゃん………」
情報局に関する推測を聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で推測し、アッシュは舌打ちをした後厳しい表情を浮かべ、辛そうな表情で呟いたミリアムをエマは心配そうな表情で見つめた。
「最後に第四機甲師団から離反した部隊の件ですが……ナイトハルト中佐率いる”第四”から離反した部隊はそもそも”自らの意志で離反した部隊”ではなく、”クレイグ将軍の意志によって第四から離反させられた部隊”だと考えていますわ。」
「え………ナイトハルト教官達が”父さんの意志によって離反させられた”ってどういう事……!?」
ミルディーヌ公女が口にした驚愕の推測に一瞬呆けたエリオットは血相を変えて訊ねた。
「あくまで私が見えた盤面による推測にはなりますが………先日の”大戦”の結果を知ったクレイグ将軍は表向きは例えどれだけ劣勢の状況であろうとも決して連合やヴァイスラントに屈しない様子を装っていても、内心では既に”エレボニアの敗戦が確定してしまった事”を悟り、一人でも多くの配下達を生き残らせるかつ”第四から離反させ、連合軍に投降した部隊に帝都防衛の為に帝都に残ったクレイグ将軍を含めた残存戦力を討たせる事でその戦功と引き換えに生き残らせた第四の戦後の処遇を少しでも軽くしてもらう為と、自らの戦死によって焦土作戦を行った責任を取る”おつもりなのではないかと。」
「連合軍に投降した第四から離反した部隊の代表者であるナイトハルト中佐がクロイツェン州全土で焦土作戦を行った罪を償う為に、帝都を制圧する際には見張り兼裏切り防止の部隊を同行させてでも自分達を”先鋒”にして欲しいという訴えをした情報も入ってきている。その件も考えると恐らくはミルディーヌ様の推測通りであろう。」
「………ッ!!」
「そ、そんな………それじゃあ、学院長の二の舞だよ………」
「むしろ、学院長の時より惨いだろ。同じ”第四”であるナイトハルト教官達の手によって討たれる事を望んでいるかもしれないんだからな、エリオットの親父さんは………」
「……なるほどね。そんなクレイグ将軍の望み通りナイトハルト教官達の罪を軽くするためにも、ノルティア領邦軍にも”先鋒”を務めてもらってナイトハルト教官達の被害を可能な限り抑える事も考えているようだね、ミュゼ君は……」
「確かに戦力が多ければ多いほど、味方の負担が減って被害も少なくなるだろうね。」
ミルディーヌ公女の話とミルディーヌ公女の話を捕捉したオーレリア将軍の話を聞いたエリオットは辛そうな表情で唇を噛み締め、悲痛そうな表情で呟いたトワの言葉にクロウは複雑そうな表情で指摘し、複雑そうな表情で呟いたアンゼリカに続くようにフィーは静かな表情で呟いた。
「おい、ゆるフワ女。テメェが想定している投降した連中やクロイツェン州を焼いた連中の考えを口にしたが、肝心の今回の戦争の”元凶”――――――投降した連中の行動を許した”鉄血”の思惑は口にしていねぇぞ。この期に及んで出し惜しみをするつもりか?」
「別に出し惜しみをしているつもりはございませんが………そもそもオズボーン宰相の件に関しては”今回の投降の件をオズボーン宰相はまだ把握できるような状況ではない可能性も考えられます”ので、”盤面を見るまでもない推測”かもしれませんわよ?」
「え………”オズボーン宰相が第四の離反を把握できるような状況ではない可能性”ってどういう事ですか……!?」
「そういえば、”大戦”の際オズボーン宰相達はロレント郊外のメンフィル大使館への奇襲に失敗した上、宰相達を撃退したメンバーにはセリカ殿達も含まれていたとの事だが………まさか、オズボーン宰相はセリカ殿達との戦いによって深刻なダメージを負った事でその回復の為に”政務すらも行えないような状態――――――つまり療養の身”か、”意識不明の重体”なのか?」
目を細めて問いかけたアッシュの問いかけに対して困った表情で答えたミルディーヌ公女の答えが気になったセドリックが戸惑っている中、察しがついたミュラーは驚きの表情で訊ねた。
「現在のオズボーン宰相の正確な状況はさすがにわかりません。――――――ですが、リウイ陛下達から伺った話によりますとオズボーン宰相はメンフィル大使館襲撃の際に”黒の騎神”を駆った状態で”ハイシェラ”という名前の”魔神”と激突し、その結果黒の騎神は件の魔神に敗北し、更に敗北した”黒の騎神は件の魔神との戦いによって大破寸前の状態まで陥った”との事ですから、黒の騎神が受けた深刻なダメージが影響する起動者であるオズボーン宰相自身、まだ意識が戻っていない可能性が考えられるのですわ。」
「ええっ!?幾ら”魔神”とはいえ、まさかあの”黒の騎神”を生身で”大破寸前の状態まで追い詰める”なんて……!」
「”ハイシェラ”………初めて聞く名前の魔神だけど皇子達はその魔神の事を知っているのよね?」
「ああ、勿論知っているよ。確かにハイシェラさんなら、例え相手が宰相殿が駆った黒の騎神だろうとそこまで追い詰める事も容易だろうね。」
「ドライケルスの生まれ変わりでもあるギリアスのオジサンが駆る”黒の騎神”を追い詰めるのも容易って、一体どんな魔神なの~!?」
ミルディーヌ公女が口にした更なる驚愕の情報にその場にいる全員が血相を変えている中エマは信じられない表情で声を上げ、真剣な表情で考え込みながら呟いたセリーヌはオリヴァルト皇子に視線を向けて問いかけ、セリーヌの問いかけに頷いたオリヴァルト皇子は苦笑し、ミリアムは表情を引き攣らせながら疑問を口にした。
「ハイシェラ殿はセリカ殿の得物である”魔剣”に宿る”魔神”にして、永遠の時を生き続けるセリカ殿を遥か昔から支え続けているセリカ殿にとっては”永遠の相棒”と言うべき存在であり、同時に”永遠の好敵手にして盟友”でもある女魔神だ。」
「ハイシェラさんはあのセリカさんが”永遠の好敵手”に認めるくらい戦闘能力も当然凄まじくてね。彼女ならセリカさんと互角の斬り合いができるし、彼女が放つ魔術に関しても同じ魔神であるベルフェゴールさんやエヴリーヌ君と同等……いや、それ以上の威力を叩き出すと思うし、当然”天災クラス”の大魔術も容易に放つ事が可能だ。おまけにエヴリーヌ君と同じ”戦闘凶”である事に加えて相手が強者なら戦闘意欲が更に高まる性格だから、私が知る”魔神”の中ではまさに”生ける天災”と呼ぶべきとてつもなく凄まじい魔神さ。」
「オレ達が感知することもできないまさに”神速”レベルと言うべき剣技を振るうセリカさんと互角に斬り合う事ができる上、魔術もベルフェゴール達以上の威力を叩き出せるなんて凄まじすぎる存在だな……」
「戦闘狂の上相手が強者なら更に戦闘意欲が高まり、しかも戦闘能力も化物……ううん、”超越者”レベルとか、オズボーン宰相にとっては最悪過ぎる相手だったようだね。」
「いや、ギリアスじゃなくても、そのハイシェラっていう魔神を相手にする連中はその連中にとってはどんな相手よりも最悪過ぎる相手だろ………」
「いずれにしても、ミュゼの推測通り、オズボーン宰相はまだ意識が戻っていない事も考えられるのか。」
ミュラーとオリヴァルト皇子の説明を聞いた事でハイシェラの凄まじさの一端を知ったその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ガイウスは驚きの表情で呟き、静かな表情で呟いたフィーの言葉にクロウは疲れた表情で指摘し、ラウラは真剣な表情で呟いた。
「そういえばまだ”対価”についての説明をしていませんでしたわね。帝都奪還の先鋒をノルティア領邦軍が引き受ける対価として、戦後ノルティア州だけ負担を負わなかった事に不満や反感を抱く貴族達や民達への説明や説得を私やハイアームズ侯を始めとした西部の貴族達が責任を持ってさせて頂きます。それと皇家や新政府が決めたそちらの”C”殿を含めた”帝国解放戦線”やユーゲント皇帝陛下を銃撃した”犯人”に対しての”処遇”に不満や反感を抱く者達に対する”火消し”も西部の貴族達が務めさせて頂きますわ。」
「な―――――」
「何でそこにアッシュやクロウ達の処遇まで関係してくるのよ!?」
ミルディーヌ公女が口にした驚愕の対価にその場にいる全員が血相を変えている中オリヴァルト皇子は絶句し、サラは厳しい表情で問いかけた。
「フウ……人情が厚いのは結構ですが、紫電殿も”A級遊撃士”の資格を持たれているのですから、戦争が終結すれば内戦の元凶の一つにして内戦前も様々な”テロ活動”を行っていたテロリスト達もそうですが、皇帝陛下を銃撃した犯人に対する処遇を有耶無耶にする事等”エレボニアの国民達は絶対に許さない事”くらいはご理解しているはずですが。」
「ミルディーヌ公女殿下………」
「………ッ!」
「そ、それは………」
「確かに正論ではあるけど、内戦の件に関してはミュゼはともかく、貴族連合軍にそんなことを言える資格はないんじゃないの?」
呆れた表情で溜息を吐いた後真剣な表情を浮かべて答えたミルディーヌ公女の正論を聞いたレーグニッツ知事が複雑そうな表情でミルディーヌ公女を見つめている中、サラは唇を噛み締めて黙り込み、トワは辛そうな表情で答えを濁しながらクロウとアッシュに視線を向け、フィーは厳しい表情で反論した。
「フフ、だからこそ我々はその”償い”としてメンフィル・クロスベル連合に与し続けた事で連合の信頼を勝ち取り、我らの祖国であるエレボニアとの戦争に勝利した連合がそんな我らに配慮して領土割譲を当初より大幅に緩和してもらえたという”功績”を挙げたが、カーバイドもそうだが、Cを含めた帝国解放戦線の生き残りは何の”償い”をしたという疑問を国民は抱くと思うが?」
「アッシュさんに関しては”呪いによる洗脳”も深く関係している事で元々”情状酌量の余地”がある上幸いにも陛下の手術が成功した事で陛下の暗殺は”未遂”ですみましたから、被害者であられる陛下御自身によるアッシュさんへの”恩赦”や殿下達”紅き翼”に協力したという”貢献”を理由にした罪の相殺は、私達の協力がなくても何とかできるレベルでしょう。ですが”C”殿達”帝国解放戦線”が犯した我が国での”罪”は、帝国解放戦線のリーダーであったC殿の”紅き翼”への協力とヴァイスラントの協力者であるヴィータお姉様の口添えがあろうとも、”無罪放免”にすることはあまりにも”筋が通らない話”ですわ。」
フィーの指摘に対してオーレリア将軍は苦笑しながら答え、ミルディーヌ公女は静かな表情でその場にいる全員に現実的な考えを教えた。
「……………………」
「その……もしかして姉さんはミュゼさんにヴァイスラントに協力する”対価”の一つとしてエレボニアでのクロウさんの罪を軽くすることを求めたんですか……?」
二人の話を聞いたアッシュが目を伏せて黙り込んでいる中、ある事が気になったエマは複雑そうな表情でミルディーヌ公女に訊ねた。
「はい。幾らヴィータお姉様と言えど、C殿を含めた帝国解放戦線を”無罪放免”にするのはさすがに無理があり過ぎる事はご理解されていましたから、帝国解放戦線の”減刑”―――――最悪でも”死刑”や”無期懲役”等と言った厳しい判決にしない事を求められましたわ。…………恐らく結社が健在であったならば、内戦後C殿を結社入りさせて結社に匿ってもらうおつもりだったかもしれませんわね。」
「…………結社の件に関しては否定しねぇよ。実際内戦中にヴィータは内戦が終われば俺に結社に入る事を何度か薦めて来たからな。それよりも公女さんの口ぶりから察するに、まさか連合やヴァイスラントの連中はまだ生きている帝国解放戦線の連中の居場所を把握しているのか?」
ミルディーヌ公女の話に対して静かな表情で答えたクロウは複雑そうな表情でミルディーヌ公女に訊ねた。
「ええ。とはいっても、実際に彼らの居場所を把握したのは内戦中にエレボニアとの戦争を予定していたメンフィル帝国がエレボニアに放ったメンフィル帝国の諜報部隊の諜報活動によるものですが。」
「メンフィル帝国の諜報部隊が解散した帝国解放戦線の居場所まで探っていたという事は、もしかしたらメンフィル帝国はエレボニアとの戦争を開戦した際に、元帝国解放戦線のメンバーを殲滅するつもりだったかもしれぬな……」
「恐らくそうだろうな。去年の西ゼムリア通商会議に参加したメンフィル帝国のVIPはレン皇女殿下とシルヴァン皇帝陛下の跡継ぎであられるリフィア皇女殿下―――――メンフィル帝国の次代の皇帝だからな。オリビエ達と違って意図的に狙われていなかったとはいえ、帝国解放戦線によるテロに巻き込まれた事でメンフィルの皇族―――――それもメンフィルの次代の皇帝の命を脅かした罪を許すつもりもなかったのだろう。」
「そんなメンフィルのターゲットになった帝国解放戦線の連中の誰かが今までメンフィルの連中に殺されなかった事もそうだけど、メンフィルから帝国解放戦線の件でエレボニアに何の追求もされなかった事を考えると、多分だけどリィンやセレーネに配慮した事が関係しているのでしょうね。」
「それと同時にメンフィルがクロウ達の事を許した事を恩に感じたリィンとセレーネのメンフィルへの忠誠心を上げる為でもあるかもしれんな。」
ミルディーヌ公女の話を聞いてある事を察して呟いたラウラの推測にミュラーは重々しい様子を纏って同意し、疲れた表情で呟いたセリーヌの推測に続くようにユーシスは複雑そうな表情で自身の推測を口にした。
「要するに、戦争が終結してアッシュ君やクロウ達の処遇の話が出た時、殿下達は戦争中クロウとアッシュ君が殿下達の活動に協力した事による”エレボニアへの貢献”と相殺する形で彼らの罪を許す事によって様々な問題が発生する事をミュゼ君は予測し、その問題解決を君達西部の貴族達が積極的に協力してくれるという事かい?」
「はい。―――――ただし、アッシュさんはともかく、C殿を含めた帝国解放戦線のメンバーは戦後”何らかの形で罪を償ってもらう”事は受け入れて頂きます。内戦の件は見逃す事はできても、内戦前に起こしたテロ活動を見逃す事はできない事はアンゼリカ卿もご理解されているでしょう?特に帝国解放戦線のテロ活動によってメンフィル帝国との外交関係が悪化しかけた事もそうですが、アルノール皇家どころか周辺各国のVIPの方々に命の危険に陥らさせかけた事や実際に我が国から”死者”まで出たのですから、”紅き翼への協力によるエレボニアへの貢献くらいで許すのは筋が通りませんわ。”」
「それは……………」
「メ、”メンフィル帝国との外交関係が悪化しかけた件”ってもしかして………」
「夏至祭の際の”G”達によるアルフィン皇女殿下とエリスの誘拐未遂の件か……」
「各国のVIP達に命の危険に陥らせかけた件は去年の西ゼムリア通商会議時の襲撃もそうだが、ガレリア要塞の占領によって”列車砲”でオルキスタワーごと”鉄血宰相”を葬ろうとした件だな。」
「それに”死者”の件はガレリア要塞の占拠の時による襲撃もそうだが、ノルド高原の監視塔を砲撃した件もそうだろうな……」
自分の問いかけに答えた後指摘したミルディーヌ公女の指摘に反論できないアンゼリカが複雑そうな表情で答えを濁している中、エリオットは不安そうな表情で、ラウラは重々しい様子を纏い、ユーシスとガイウスはそれぞれかつての出来事を思い返した。
「―――――リベールの”クーデター”や”異変”に関わられたオリヴァルト殿下やミュラー少佐でしたら、”反逆やテロの罪は最低でも国家の危機を救う事による貢献レベルでなければ許されない事”はよくご存じと思いますが。」
「”クーデター”を起こしたリシャール大佐達”旧情報部”が”異変”の際に結社の襲撃によって王都が危機に陥った際、カシウス中将の手配によって服役中だったリシャール大佐達が危機に陥った王都に投入された事で、危機に陥った王都を守り切った事による”王国への貢献”の件での恩赦によって、服役中の身であったリシャール大佐を含めた”旧情報部”が釈放された件か………」
「ハハ、その頃は私達はエレボニアに帰国していたから当事者ではなかったけど、”実例”の人物であるリシャール大佐やその内情をエステル君達から教えてもらった私やミュラーにとっても、リシャール大佐達の件を持ち出されたら反論できないね………」
「兄上………」
ミルディーヌ公女の念押しにミュラーはかつての出来事を思い返して複雑そうな表情で呟き、疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子の様子をセドリックは心配そうな表情で見つめた。
「その……クロウさん達には”何らかの形で罪を償ってもらう”と仰っていましたけど、ミュゼさん自身はどのような方法を考えているのですか?」
「そうですわね……ヴィータお姉様やリィン総督閣下への配慮も当然考慮しなければなりませんから……………政府や軍の関係者達の監視の下、生活はできる程度の最低限の賃金を給与とした何らかの公職に就いてもらう事ですわね。―――――特に希少な起動者であるC殿は”軍”に関する職業に就いてもらう事は確実かと。」
「言葉は濁しているがオルディーネ―――――”騎神”を戦後のエレボニアの戦力として、しかも安月給で利用するつもりが見え見えじゃねぇか。」
不安そうな表情で訊ねたエマの質問を聞いて少しの間考えた後答えたミルディーヌ公女の答えを聞いたクロウは苦々しげな表情を浮かべて指摘したが
「だが、”軍”でなければ”騎神”のような”兵器”の保管場所もそうだが整備にも不都合が出ると思うが?それに低い賃金とはいえ、元テロリスト達が”公職”に就けることは”破格の待遇”でもあるだろう?」
「それは………」
苦笑を浮かべたオーレリア将軍の指摘を聞くと複雑そうな表情で答えを濁した。
「フフ、ご安心ください。戦後のエレボニアの状況を考えれば、”軍”が”騎神”のような強力な戦力を保有してしまえば、メンフィルやクロスベルもそうですが、各国からもエレボニアは敗戦による国力や戦力の衰退に対する復讐の為に雌伏の時を待っている等と言った疑念を抱かれて、各国への信頼回復が遠のいてしまう恐れも考えられるのですから正規軍や領邦軍に所属してもらうという訳ではありませんわ。C殿には”本来の歴史のリィン総督閣下と同じ職業に就いてもらう事”を考えていますわ。」
「へ。”本来の歴史のリィンと同じ職業”って………」
「お嬢様達から伺った話によりますと、”本来の歴史のリィン様がトールズ卒業後に就いた職業”は確か………」
「”トールズ第Ⅱ分校の新Ⅶ組の担当教官”だっけ。」
静かな笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えを聞いたアリサは呆け、考え込みながら呟いたシャロンに続くようにフィーは静かな表情で呟いた。するとその場にいる多くの者達は少しの間黙り込み
「ちょ、ちょっと待て!戦後の事を考えたら、わざわざトールズの”分校”を建てる必要なんてないと思う―――――というかそもそも戦後のエレボニアの財政状態を考えたらそんな余裕はないだろうから、”クロウがトールズのⅦ組の担当教官”という事になるじゃないか!?」
「た、確かに”士官学院の教官は軍が関係している職業ではある”けど………」
「ニシシ、”落第生”のクロウに”教官”なんてゼッタイ務まらないよね~♪」
「そもそも卒業に必要な単位を落としたから1年のⅦ組に参加したクロウに”教官の資格”を取れるかどうかすらも怪しいわね。」
「それ以前にクロウに何らかの科目を教えられる事すらも怪しいですよ。」
「あ、あはは……クロウ君は戦闘能力は高いから、少なくてもサラ教官と同じ”武術・実戦技術”は教えられると思うけど……」
「お、お前達……!俺だってその気になれば、”トールズの教官”くらい簡単になれるっつーの!」
「そういう事は実際になってから言わなければ、お前の場合は何の説得力もないぞ。」
やがて口を開いたマキアスは表情を引き攣らせて声を上げ、エリオットは困った表情でクロウに視線をそれぞれ向け、ミリアムはからかいの表情で、サラとアンゼリカは呆れた表情で、トワは冷や汗をかいて苦笑しながらそれぞれ推測を口にし、仲間達の反応に顔に青筋を立てて声を上げて反論したクロウにユーシスがジト目で指摘した。
「フッ、ミルディーヌ君の言う通りの状況になれば、もしかしたらクロウ君がセドリックの担当教官になるかもしれないね。」
「アハハ、確かに僕も今年か来年にはトールズに入学するつもりの上できれば皆さんと同じⅦ組の生徒になりたいと思っていますから、本当にそうなってくれたら僕も嬉しいです。」
静かな笑みを浮かべて呟いたオリヴァルト皇子の言葉にセドリックは苦笑しながら同意し
「知事閣下はC殿を含めた帝国解放戦線の処遇の件についての私の考えについてどうお思いでしょうか?」
「そうですね…………新政府の代表として正直に言うと、彼らが今まで犯してきたテロ活動による罪を考えると寛大過ぎる処遇ですが、彼らがテロリストになった大半の理由は宰相閣下主導による強引な政策が原因である事も考えると帝国解放戦線の登場は私や宰相閣下達当時の政府にも責任がありますし、何よりも戦後のエレボニアの状況を考えれば、あらゆる方面が猫の手も借りたいくらい人材不足に陥っているでしょうから、妥当かつ合理的な処遇かと。」
「父さん……」
レーグニッツ知事の意見を知ったマキアスは明るい表情を浮かべた。
「―――――色々と話が逸れてしまいましたが、”アンゼリカ卿”。帝都奪還の先鋒の件、できればこの場で答えて頂きたかったですが、やはり内容が内容ですので考える時間は差し上げます。ですが、考える時間はあまり残っていない事はご理解下さい。」
「……その口ぶりだと、連合軍が帝都に進軍する日にちも近いのかい?」
ミルディーヌ公女の言葉を聞いて察しがついたアンゼリカは表情を引き締めて訊ねた。
「正確な日にちはまだ決まっておりませんわ。――――――ですがエレボニアが存続できると決まった以上、帝国貴族の筆頭として、そしてヴァイスラントの”総主宰”としても、可能な限り早急に戦争を終結させ、エレボニアの復興や信頼回復を1分1秒であろうとも早めたいと考えております。それに恐らく連合の方も、戦後の領土併合や軍事費の節約の件を含めた諸々の処遇の為にも、可能な限り戦争終結を早めたいという私の考えに同意して下さると確信しております。」
「私も新政府の代表者として公女殿下のその考えには賛成です。戦争が長引けば長引く程、国内が疲弊し続ける事によって戦後の経済回復や復興が遅れ続け、また経済回復や復興の為に必要な費用が膨れ上がり続けるのは火を見るよりも明らかですから。幾らメンフィル帝国による融資が約束されているとはいえ、メンフィル帝国の”保護期間”を過ぎればメンフィル帝国から融資してもらった復興金も賠償金同様時間をかけて返済しなければならないのですから、減らせられる負債は可能な限り減らしたいというのが政府としての本音でもありますので………」
「私達皇家も同じ考えだ。アンゼリカ君。君も”自分達の為の最適な判断”の為にも私達の事は気にせず、よく考えてくれたまえ。勿論仲間達に相談する事もそうだが、私達でよければいつでも相談に乗るよ。」
「………わかりました。」
「アンちゃん……」
「……………………」
「エリオット………」
ミルディーヌ公女の意見にレーグニッツ知事は複雑そうな表情で同意し、レーグニッツ知事同様ミルディーヌ公女の意見に同意した後静かな表情で答えたオリヴァルト皇子の指摘に会釈をして答えたアンゼリカの様子をトワは心配そうな表情で見つめ、クレイグ将軍を生存させる事は諦めるような話になっている事に辛そうな表情で黙り込んでいるエリオットをガイウスは心配そうな表情で見つめた―――――
後書き
ちなみにユーゲント三世の手術は大戦の日に行われ、成功した事になっています。
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