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おっちょこちょいのかよちゃん

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234 会食の機会を

 
前書き
《前回》
 杖が何処(いずこ)にあるか、かよ子は長山に連絡し、探索を依頼する。そして今その杖は女王のような人物が手にしているという情報が入る。そしてりえは軟禁されている紂王の屋敷にて杉山と対面し、彼と同化した戦争主義の世界長・レーニンより自身が藤木と祝言を挙げる予定だと聞かされる。そして杉山は藤木と再会。りえを幸せにさせて見ろと藤木に告げて去り、藤木は夏休みの時にりえの為に書いた寄書の内容を思い出すのだった!! 

 
 すみ子達はエレーヌやジャンヌと共にかよ子の杖を奪還の協力として東の方向へ進む。
「杖が取られたとは厄介ですね」
「ああ、我々の勢力だけでは足りるだろうか。相手はイングランドの強大な女王だとな」
「どれだけの強さでやんすか?」
 ヤス太郎は質問する。
「そうですね・・・。前に私達が戦ったコノート公という人の集団をご存知ですか?」
「コノート公?最初に俺達が戦った奴等か」
「はい、彼はその女王の手先です。そして戦争主義の世界の本部に繋がる海域の護衛もその女王の兵が行っていたのです。今は剣奪還班がクイーン・ベスという人の艦隊と協力して殆ど撃破されたようですが」
「如何せん強敵だ。本部の方も多くの者に指示を仰ぐだろう」
「そうなんだ・・・」

 こちら清水市内のある小学校。たまえやとし子は寒い中下校する。
「それにしても笹山さんが休みなんてね・・・」
「もしかしてまるちゃんやかよちゃん達とその異世界って所に行ったのかも」
 たまえは友人達が消えていくので帰りを切実に願うのみだった。
(ああ、まるちゃん、早く帰って来て!こんな寂しい学校なんて私、耐えられない!!)
 たまえは少し泣きそうになっていた。
「たまちゃん、皆帰ってくるよ」
 とし子が慰めた。
「うん、そうだよね・・・」

 吉良の仁吉は女王と聞いてある事を思い出す。
「そういや、前に女王の軍隊が攻めて来たって事あったな」
「え、それっていつなの?」
 かよ子は質問した。
「ああ、お前らがまだここに来る前の事だ。その女王って奴の手先の軍隊が攻め込んで来た事があったんだ。何とか食い止めようとクイーン・ベスって言ったかな、その下の兵達が対抗したんだが、どうしても敵わずにやられちまったんだ。そこには甲斐の名将として活躍した晴信って奴も加勢したんだがなあ、あやつの兵も惨敗、晴信も殺されちまったよ」
「そういや、晴信って親分の嘗ての敵の生まれた地を治めてたんだってな。ああ、凄い強くてフローレンスやイマヌエルからも頼りにされてたのになあ、聞いた時はすげえ泣いたよ」
「俺も、俺も」
 大政や小政も思い出しては感傷に浸る。
「晴信、そんな強い人がここにもいたんだね・・・。どんな人だったんだろう?」
「もしかしたら武田信玄の事じゃないか?確か本名は晴信と言った筈だよ」
 椎名が解説する。
「武田信玄!?おお、あのカッコいい武将がか!」
 友蔵は思い出すように信玄を尊ぶ。
「彼は凄い男じゃったのう。川中島で何度も上杉謙信と戦い続けたのだから・・・。でも待てよ」
「ん?」
「そんな戦国大名が戦が好きならどうして平和な世界にいるんじゃ?大名といえば戦じゃ、戦争主義の世界の人間になるのが当たり前ではないのか?」
「あ、そう言えば・・・」
 かよ子も謎に思った。幾度も戦で決着をつけようとした大名達なら戦争をするのが正義だと思うはずである。
「戦国の大名とて皆殺し合いが好きという訳ではない。領土を広げて民衆が暮らしやすい町づくりにしようと図っていたのだ。天下統一を目指す戦いが行われたのはその為なのだ。北条早雲や毛利元就とてそうだ」
「そっか・・・」
 戦国大名は平和を欲する為に戦いに挑んだ。必ずしも殺し合いが好きでやっている訳ではないとかよ子は考え直すのだった。

 本部の管制室。まき子はかよ子達が西側に進んでいくのを確認した。
「かよ子達は西側に向かっている・・・。そこに杖があるのかしら?」
「そうだね、杖の奪還に協力すると言ってくれた者も殆ど山田かよ子君達と合流を目指すかのように進んでいるからね」
「つまり、その地に杖があるって事ね」
「だが、そこにいるのがとても強敵な女王だ」
「女王?」
「ああ、嘗てイギリスの女王として生きてきたが、かなり強大だ。あの領土を奪われて多くの人々が葬られた。その領土に攻め込んでいる者も今難儀しているよ。名前はヴィクトリア。インドやアフリカなどを植民地として支配した者だ。剣奪還班が敵の本部に侵入するルートとして北西の海域の守護をしてクイーン・ベスの艦隊と争っていたのも彼女の手下の者達だよ」
「支配力強いんね、そのヴィクトリアってのは」
「そんな所に杖が・・・!!」

 笹山はある所に到着した。そこは古い中国王朝風の町だった。
「お前が笹山かず子という者だね」
 一人の女性が呼び止めた。
「あ、はい・・・」
「私は武則天。お前の話はフローレンスから聞いている」
「フローレンスさんから・・・?」
「ああ、藤木茂という行方不明の少年を探しに向かうのだな?フローレンスに協力してくれと頼まれている。私の従兵も数人つけておこう。それなら少しは心細さも消えるのではないかと思ってな」
 武則天の後ろから二人の男が現れた。
「私の部下、姚崇(ようすう)張設(ちょうえつ)だ。二人とも、こちらがフローレンスが招聘したという笹山かず子という少女だ。彼女が杖の所有者達の作戦を成功させる為の大いなる鍵になりうるという。彼女と同行してやるのだ」
「了解しました」
「よ、宜しくお願い致します」
「宜しゅう頼む」
 笹山は姚崇に張設、さらにその従兵数人を味方に付けて動き出す。
(山田さん達はこっちの方向に向かってる・・・。藤木君、待ってて・・・!!)

 紂王の屋敷。藤木の部屋に先程現れた遊女が戻ってきた。
「茂様、安藤りえ嬢との面会ですが、夕食の席を通して会食という形で面会を許されました」
「あ、うん、ありがとう」
「では、失礼致します」
 遊女が去り、藤木はりえと会うのを少し楽しみにした。
「りえちゃん・・・。また話ができるね・・・♡」
 藤木はりえとまた会える嬉しさで顔が少しニヤけた。

 夕食時、りえが軟禁されている部屋に二人の給仕係の遊女が現れた。
「お食事のお時間です。本日は貴女の婿の希望で会食という形となります」
「会食っ?いつから私のお婿さんができたのよっ!?」
 りえは怒りを前面に出した。
「貴女があの方のお嫁に相応しいと言う事が分かったからです」
(藤木君と結婚させるって事ねっ・・・!)
 りえは推測がすぐにできた。
「食堂へとお通し致しますので付いてきてください」
 りえは黙って付いて行く。今なら武装の能力(ちから)でこの遊女達を吹き飛ばして出口を探してここから抜け出す事も可能かもしれないが、逆に暴れて始末されてしまうのではないかと思うと怖くて何もできなかった。
(杉山君があの世界の人と一体化してたなんて・・・)
 りえはそのまま食堂へと入った。
「りえちゃん・・・」
「藤木君・・・」
 りえと藤木は向かい合って食事する事になる。
「では食事の時としよう。坊や、嫁との晩餐、楽しむがよい」
「は、はい・・・」
(こっちは楽しめる訳ないわよっ!!)
 食卓には和洋問わず様々な料理が置いてあった。りえは黙って食べ始めたが、藤木はりえの方ばかり見て進んでいなかった。藤木は思い切って口を開ける。
「り、りえちゃん・・・!!」
「え?」
「あ、いや、その・・・」
 藤木は緊張しながら喋り出した。
「さっき、杉山君に会ったんだ。僕を元の世界に連れ戻しに来たんじゃないかと思ったんだけど、そうじゃなかったんだ。そしたら僕が無事かどうか確かめに来たんだってさ」
「ふうん・・・」
「それで、りえちゃんは、その、そうだ、ピアノ、頑張ってるのかい?」
「うん・・・。でも、こっちに来てからは弾いてないわ」
「そっか、そういえば初めて会ったきっかけってりえちゃんが教会のピアノを弾いていて僕が幽霊が弾いてるって勘違いした事から始まったんだよね」
 藤木は夏休みの出来事を回想する。
「えっ?うん、そうだったわね・・・」
「それで杉山君が幽霊だったらいいって喧嘩になっちゃって・・・」
「ああ、杉山君、か・・・」
 りえはその時から杉山と喧嘩していた事を回想する。
(私も臆病者呼ばわりしたわね、あの時・・・)
「・・・ピアノ」
「えっ?」
「りえちゃんのピアノ、また聴けたらいいな・・・」
「藤木君・・・」
「妲己さん、ここにピアノを持ってくる事ってできますか?」
「『ぴあの』?」
「楽器のことです。白と黒の鍵盤がある」
「そうか、近いうちに調達してみよう」
「ありがとうございます」
 そして二人は食事を進める。
「そういえば藤木君は皆から嫌われてここに来たみたいだったけど?」
「あ、その・・・。学校から帰る時に野良犬と出くわしてその時たまたま一緒にいた山田を置いて一人で逃げちゃったんだ。それで卑怯呼ばわりされて嫌われて・・・」
 藤木は苦しく思いながら振り返る。
「それで、自分が卑怯呼ばわりされるのが嫌になって、そしたら妲己さんに会ってここで楽しく住まわせて貰ってるんだ」
「そっか・・・」
 りえは藤木の行動は許されないと思いつつも、その卑怯呼ばわりされる辛さが少し解ってきた。
「でも、私でも怒ってたかもしれないわ。でも、反省してるならもう許してくれるわよ。藤木君のその辛さは解るけど、だからって逃げたままでいいのっ?お父さんやお母さんも心配してるんじゃないのっ?戻った方がいいんじゃ・・・?」
「い、嫌だ!」
 藤木は否定した。
「どうせ、僕なんか帰ったってどんな事でも卑怯、卑怯って言われるんだ!もうそんなの沢山だよ!ここにいた方がずっとましだよ!」
「でも、皆心配してるってかよちゃんもっ・・・!」
「おっと。自分の婿を苦しませる事をするんじゃないよ」
 妲己が仲裁に入る。
「うう・・・」
 いくらりえでも今の状態ではこの女に歯向かえなかった。藤木は泣いている。
「坊や、苦しかったか?食べたらまた休むといい」
「は、はい・・・」

 食事は終わり、りえは自分の部屋に通された。
(だめ、かよちゃん達がここに来ても藤木君は戻るのを絶対嫌がるっ・・・!!)
 りえはかよ子達が来るまで藤木の今の気持ちを変えなければと思った。 
 

 
後書き
次回は・・・
「杉山の動向と敵の姿」
 杖を奪還すべく急ぐかよ子は食事をする事も忘れてしまっている状態だった。さりや長山達の元には赤軍の西川を回収しにフローレンスが現れる。そしてフローレンスに頼まれて長山は神通力の眼鏡で杉山の近況を探ろうとするのだが・・・!? 
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