英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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西ゼムリア通商会議~メンフィルの罠~
~エルベ離宮・紋章の間~
「第8条と第9条については理解しました。シルヴァン陛下、次に第7条を賠償内容として要求した貴国の意図を説明して頂きたいのですが。」
「第7条というと…………エレボニアの貴族と特定のメンフィルの貴族の婚姻を制限している件ですか。」
「しかも制限しているメンフィルの貴族の中にはシュバルツァー将軍の実家も関係しているようですが……」
アリシア女王のシルヴァン皇帝への質問を聞いたアルバート大公とルーシー秘書官はそれぞれ書面を確認した。
「それについて答える前に説明すべきことがある。まず、その書面に書かれている指定の貴族はリィンを含めて今回の戦争で活躍した灰獅子隊の部隊長達――――――それも”百日戦役”後我が国の領土として併合した元エレボニア帝国出身の貴族や平民達の実家に当たる。」
「”百日戦役後にメンフィル帝国の領土として併合した元エレボニア帝国出身の貴族や平民の実家出身の灰獅子隊の部隊長達”という事は、この書面に書かれている貴族はシュバルツァー将軍のように今回の戦争による活躍を評価されて貴族出身の灰獅子隊の部隊長達の実家の爵位は上がり、平民出身の部隊長達の実家は爵位を授かったという事でしょうか?」
「はい。ちなみに元エレボニア貴族の実家はシュバルツァー家、フレスベルク家、コーデリア家の三家になりますわ。」
シルヴァン皇帝の話を聞いたルーシー秘書官は確認し、ルーシー秘書官の確認にセシリアがシルヴァン皇帝の代わりに頷いて答えた。
「あの………戦争が本格的になる前に戦争勃発前に貴国がエレボニアに要求した賠償の一部を自らの判断で実行する為にエレボニアを出奔し、シュバルツァー将軍の指揮下で活動されているアルフィン皇女殿下が第三機甲師団をヴァイスラント新生軍と合流するように説得された事を評価されて貴国から”男爵”の爵位を授かった話は存じていますが、この書面ではメンフィル帝国軍内で活動されているアルフィン皇女殿下が使われている名前―――”レンハイム家”が”子爵家”として挙げられているという事はアルフィン皇女殿下も今回の戦争での活躍を評価されて爵位が”男爵家”から”子爵家”へと上がったという事なのでしょうか?」
「そうなるな。まあ、アルフィン皇女の場合は活躍というよりも、エレボニアの皇女でありながら今までリィン達と共に戦い抜いた事でのメンフィルへの貢献が評価された事によるものだがな。」
「ええっ!?ア、アルフィン皇女殿下がエレボニアを出奔し、シュバルツァー将軍――――――メンフィル帝国軍の指揮下で活動されていたという事は、まさかアルフィン皇女殿下はメンフィル帝国軍の一員としてエレボニア帝国軍と戦われていたのですか!?」
「……はい。それも後方支援ではなく、最前線でリィンさん達と共に戦い、エレボニアの兵達の命を自らの手で葬った事もあったとの事ですし、先日の大戦でもリィンさんがヴァンダイク元帥を討つ為の支援も行っていたとの事です。」
クローディア王太女の質問に答えたシルヴァン皇帝の話を聞いてアルフィンがメンフィル帝国軍に所属した事等が初耳のルーシー秘書官は信じられない表情で声を上げ、ルーシー秘書官の疑問にセドリックが辛そうな表情で答えた。
「ア、アルフィン皇女殿下―――――エレボニアの皇家の方が何故メンフィル帝国軍に所属して祖国の兵達を……………………」
「……アルフィン皇女殿下の件で先程から気になっておりましたが、この書面の最後に書かれている”戦争勃発前に実行済みのアルフィン皇女の処罰”とは一体どういう事ですか?」
セドリックの説明を聞いたルーシー秘書官が困惑している中、アルバート大公は厳しい表情でシルヴァン皇帝に訊ねた。
「戦争勃発前に内戦の件での賠償をエレボニアの要求した際に、賠償内容の一部としてアルフィン皇女の廃嫡並びにその身柄をメンフィルに引き渡し、メンフィルに身柄を引き渡されたアルフィン皇女がメンフィルによって処罰されることを一切の反論なく受け入れる事がある。」
「アルフィン皇女殿下は内戦で犯したメンフィルに対する自身の罪を償う為に自身の判断でエレボニアを出奔され、リベールのロレント市郊外にある我が国の大使館を訪問し、その際にアルフィン皇女の対応をしたリウイ陛下の判断によってアルフィン皇女の身柄は処罰内容の関係もあってリィンの下へと送られ、その後はリィン達と共にメンフィル帝国軍の一員として活動されているのですわ。」
「そんな………!何故、メンフィル帝国は内戦の件でアルフィン皇女殿下にまでメンフィル帝国が決めた処罰を受けさせる事を求められたのですか!?」
シルヴァン皇帝とセシリアの説明を聞いたルーシー秘書官は悲痛そうな表情を浮かべた後怒りの表情を浮かべて反論した。
「”何故”、だと?レミフェリアは今回の戦争勃発の原因の一つとして、内戦の最中アルフィン皇女がアルノール皇家と縁がある貴族にして、アルフィン皇女自身も心から信頼できる数少ない友人の実家であるシュバルツァー家を頼ってメンフィル帝国領であるユミルに身を隠し、その結果アルフィン皇女の拉致を目的に前アルバレア公であるヘルムート・アルバレアが猟兵達にユミルを襲撃させた事である事すらも把握していないのか?」
「確かにその件は把握しておりますが、何故貴国はアルフィン皇女殿下にまでユミル襲撃の責任を取る事を求められたのですか?この場合、責任を取る事を求められるのは猟兵達にユミル襲撃を指示した前アルバレア公と、アルフィン皇女殿下がユミルに身を隠さなければならない事態を起こした貴族連合軍の首魁である前カイエン公ではありませんか。」
「アルフィン皇女の護衛を担当していた遊撃士の余計な助言があったとはいえ、ユミルに避難後メンフィル帝国唯一の大使である父上を通してメンフィル帝国に亡命等の申し出をしなかった所か、襲撃が起こる日までメンフィル帝国にも内密でユミルに身を隠し続けた結果、ユミルが猟兵達に襲撃された事でユミルに少なくない被害をもたらし、領主であるテオ・シュバルツァー卿は重傷を負い、更には領主の娘であるエリス嬢が襲撃時の混乱を利用した貴族連合軍の手の者によって拉致されたのだから、ユミルが襲撃される”原因”であり、メンフィル帝国領であるユミルに”密入国”した挙句その理由の一切をメンフィル帝国に説明せず、また自身の存在をメンフィル帝国にも隠し続けたアルフィン皇女にも非があるのは明らかだろうが。―――先に言っておくが、アルフィン皇女やエレボニアの状況を考えた上でアルフィン皇女の処罰内容は相当妥協したのだぞ?戦争勃発の原因になった者は例え皇族であろうとも”死罪”が求められてもおかしくないのだからな。」
「…………それは…………」
厳しい表情でシルヴァン皇帝に指摘したアルバート大公だったが、シルヴァン皇帝の反論を聞くと複雑そうな表情で答えを濁し
「先程アルフィン皇女殿下の処罰内容の関係で、リウイ陛下の下を訪れたアルフィン皇女殿下はシュバルツァー将軍の下へと送られたと仰いましたが、その処罰内容とは一体どういうものなのですか?」
「処罰内容はアルフィン皇女がリィン・シュバルツァー専属の使用人兼娼婦として一生リィンに仕える事です。……ちなみに”娼婦”とはこちらの世界で言う”売春婦”と同じ存在ですわ。」
「な―――――」
「ば、”売春婦”ですって!?幾ら戦争勃発の原因になってしまったとはいえ、意図的に戦争勃発を誘発した訳でもなく、また成人もしていないアルフィン皇女殿下にそんな女性の尊厳を穢す処罰を受けさせるなんて、不敬を承知で申し上げますがメンフィル帝国は”人”の心を持たれていないのですか!?」
「お、落ち着いてください、ルーシー先輩!確かにアルフィン皇女殿下は結果的にはメンフィル帝国が求めた処罰を受けられましたが、実際の状況は先輩が想定しているような状況では―――」
アルバート大公の質問に答えたシルヴァン皇帝とセシリアの説明を聞いた大公自身は驚きのあまり絶句し、ルーシー秘書官は血相を変えて声を上げた後怒りの表情でシルヴァン皇帝達に反論し、その様子を見たクローディア王太女は慌てた様子でルーシー秘書官を諫めようとしたその時
「―――――”黙れ”。」
「……ッ!?」
シルヴァン皇帝が全身に覇気を纏い、ルーシー秘書官に向けて凄まじい殺気を向けて一言口にした。シルヴァン皇帝がルーシー秘書官に向けた声は決して大声や叫び声の類ではなく、静かな様子の声ではあったが、広間全体に響き渡り、シルヴァン皇帝に殺気を向けられたルーシー秘書官は息を呑んで黙り込んだ。
「アルフィン皇女の処罰の件は”既に終わった事だ。”アルフィン皇女の処罰の件については、ヴァイスラント新生軍もそうだがアルノール皇家も把握し、受け入れているのだから、内戦の件には全く関係していない”部外者”であるレミフェリアに今更でしゃばる”資格”等ない。」
「な―――――」
「……今の話は本当ですか?」
シルヴァン皇帝の指摘にルーシー秘書官が驚きのあまり絶句している中アルバート大公は信じられない表情でオリヴァルト皇子達に確認した。
「はい。アルフィンの出奔を知った後、リベールにパント臨時大使との面談の仲介をして頂いて事実確認をした所、アルフィンはリウイ陛下より自身が受ける処罰内容を説明された後その場で処罰を受ける事を決断し、更にはオズボーン宰相主導によるエレボニアを止める為もそうですが何よりも内戦の件でのリィン将軍への恩返しの為にもメンフィル帝国軍に所属してリィン将軍達と共にエレボニア帝国軍と戦う決意をし、今までリィン将軍達と共に戦い抜いてきたのです。」
「それと姫様は内戦の時にリィン将軍によって貴族連合軍によって幽閉されていた場所から救出してもらった件もそうですが、紅き翼の一員としてリィン将軍閣下達と共に活動していた件で元々リィン将軍閣下に思いを寄せられていましたから、姫様はメンフィル帝国の処罰によって結果的には”皇族という重い枷”を外す事ができて姫様にとっての想い人であるリィン将軍閣下が侍らせる女性の一人になる事ができました。それに私も灰獅子隊の一員として姫様の様子を確認しましたが、姫様はリィン将軍閣下に誠心誠意お仕えしていて、またリィン将軍閣下も既に恋仲にまで発展している他の女性達同様姫様の事を大切になさっていますわ。ですから、ヴァイスラント新生軍の総主宰としてもそうですが、姫様の友人としても、今の姫様は姫様個人として幸せな状況である事は保証致しますわ。」
「ええっ!?そ、それではシュバルツァー将軍に想いを寄せられているアルフィン皇女殿下にとってメンフィル帝国の処罰は………」
「”アルフィン皇女殿下個人としては、好都合な処罰”という事ですか………」
「―――――結果的にそうなっただけの話だ。専属の使用人兼娼婦となったアルフィン皇女をその後どう扱うかは”主”であるリィン次第で我らは処罰を実行した後のリィンとアルフィン皇女の関係について口出しするつもりもないし、”アルフィン皇女の娼婦としての役割を求める事ができるのはあくまで主であるリィンのみだ。”それに”リィン専属の使用人兼娼婦”という形にはなるがアルフィン皇女もメンフィル帝国の民となった以上当然他のメンフィルの民達と同様の人権はあるし、手柄を立てたりメンフィルに何らかの貢献をすればそれらに対して正当に評価している。」
「その”手柄”が第三機甲師団をヴァイスラント新生軍に合流するように第三機甲師団を率いているゼクス将軍を説得した事もそうですが、エレボニアの皇家の一員でありながら今までメンフィル帝国軍の一員としてエレボニア帝国軍と戦った事によるメンフィル帝国への”貢献”を評価した結果、アルフィン皇女殿下はメンフィル帝国から”子爵”の爵位を授かられたのですか……」
オリヴァルト皇子とミルディーヌ公女の説明を聞いたルーシー秘書官は驚きの表情で声を上げた後信じられない表情を浮かべ、アルバート大公は気まずそうな表情で呟き、シルヴァン皇帝とアリシア女王はそれぞれ静かな表情で呟いた。
「フッ、シルヴァン皇帝も人が悪いな。予めアルフィン皇女がリィンに対してどういう想いを抱えていたかを説明してやれば、セイランド秘書官が”道化”を演じる事もなかったというのに。」
「フン、内戦の件では完全に”部外者”であるレミフェリアの代表者達にそこまで気遣う必要もないし、それ以前に情報収集を怠っていたレミフェリアが悪い。」
「確かにそうですね。内戦時リィン君とアルフィン皇女は共に”紅き翼”として内戦終結の為に活動していた事もそうですけど、リィン君が貴族連合軍に拉致されていたアルフィン皇女を単身で救出した事もちょっと調べればすぐにわかりますし、アルフィン皇女がリィン君に恋心は抱いていなくても、内戦の件で感謝している事やユミルの件で責任を感じている事でアルフィン皇女がリィン君専属の使用人兼娼婦になる事についてそれ程抵抗感がない事の推測は簡単にできますものね。」
「……返す言葉もありません………」
「……ッ!―――シルヴァン陛下、事情も知らずに一方的に貴国に対して失礼な事を口にしてしまった事、誠に申し訳ございませんでした。」
(先輩………)
(アルフィン皇女殿下の処罰の件でレミフェリアの代表者に”メンフィル帝国の事をわざと誤解させた事”にシルヴァン陛下が先程口にされた”レミフェリアは部外者”と言う指摘。恐らくシルヴァン陛下の狙いは―――)
苦笑を浮かべたヴァイスの指摘にシルヴァン皇帝は鼻を鳴らして呆れた表情で答え、シルヴァン皇帝の意見にルイーネは同意して苦笑しながらアルバート大公とルーシー秘書官を見つめ、アルバート大公は重々しい口調で答え、ヴァイスの指摘から自分はシルヴァン皇帝によってわざと怒らされた事に気づいたルーシー秘書官は悔しそうな表情で唇を噛み締めた後すぐに気を取り直してシルヴァン皇帝に向けて頭を深く下げて謝罪をし、その様子をクローディア王太女が複雑そうな表情で見つめている中シルヴァン皇帝の意図についてアリシア女王は目を伏せて考え込んでいた。
~待機室・特務支援課側~
「シルヴァン陛下が怒り出した時は会議はどうなってしまうのかと肝を冷やしましたが、すぐに収まってよかったですね。」
「はい……でも、ヴァイスハイト陛下も仰っていましたが、シルヴァン陛下、ちょっと意地悪じゃありませんか?処罰の件を説明する前に予めアルフィン皇女殿下がメンフィル帝国の処罰を受ける前からリィンさんに想いを寄せていた事を説明していたら、大公閣下達もシルヴァン陛下達の事を誤解しなかったと思いますし。」
「ま、メンフィルにとって賠償の件で意見できるのはレミフェリアのみの上、実際内戦の件に関してレミフェリアは”部外者”だから、わざわざ詳しい説明をしてやる義理はないと思ったんじゃねぇのか?」
一方その頃会議の様子を端末で見守っていたノエルは安堵の溜息を吐き、ジト目で呟いたユウナの指摘にランディは疲れた表情で答え
「……いえ……もしかしたらだけど、アルフィン皇女殿下の件でレミフェリアにメンフィルの事をわざと誤解させて怒らせたのはシルヴァン陛下のレミフェリアに対する”罠”かもしれないわ。」
「”罠”ですか?」
「今のやり取りだけで、シルヴァン陛下はアルバート大公閣下達にどんな”罠”をかけたんだ?」
シルヴァン皇帝の狙いを悟ったエリィは複雑そうな表情で呟き、エリィの言葉が気になったティオは首を傾げ、ロイドは戸惑いの表情で訊ね
「恐らくシルヴァン陛下の狙いは―――」
ロイドの疑問にエリィは真剣な表情で答え始めた。
~同時刻・待機室・紅き翼側~
「”内戦の件に関してレミフェリアは部外者である事を自覚させると同時に、レミフェリアがアルフィン皇女殿下がリィン君の専属の使用人兼娼婦を務める事を処罰としているメンフィルを責める事―――つまり、レミフェリアがあからさまにエレボニアを擁護する事で各国のVIP達にレミフェリアは公平性を欠けている為中立の立場としてメンフィルがエレボニアに要求する賠償内容に意見する資格はないのではないかという疑念を抱かせる為”だと思うよ。」
「そ、それって……!」
「内戦の件も関係している賠償内容に内戦の件に関しては部外者であるレミフェリアを牽制すると共に、レミフェリアの賠償内容に関する発言権を失わせる為の”罠”か……!」
「もし、各国―――エレボニアを除いたVIP達がレミフェリアは”中立の立場として相応しくない”と認めざるを得ない状況になってしまったら、賠償内容に対する反論や緩和の為の意見はオリヴァルト殿下達のみで行うしかなくなりますね……」
同じ頃トワはその場にいる全員にエリィと同じ説明をし、トワの説明を聞いてある事を察したエリオットは驚きの表情を浮かべ、ユーシスは厳しい表情で呟き、アネラスは不安そうな表情である推測をし
「そのエレボニアのVIP達に関しても、唯一連合も考慮せざるを得ない発言権を持つミルディーヌ公女は今回の会議の前の連合との打ち合わせで賠償内容も開示されている事もそうだが、その時に緩和の為の交渉等も行っているだろうから、皇子達の味方をするつもりはないだろうな。」
「つまり連合とヴァイスラント新生軍にとってこの国際会議すらも”茶番”のようなものという事ね……」
「いえ、この会議で賠償内容が確定してしまえば中立の立場であるリベールとレミフェリアも同意した事にもなるから、連合とヴァイスラントにとってこの会議は”中立国も認めざるを得ない賠償を確定させる為の会議よ。”」
「くっ………中立国であるレミフェリアも貶めようとするなんて、あの腹黒将軍を侍らせている皇帝だけあって、あの腹黒将軍以上に腹黒い皇帝ね……!」
「多分ですけどシルヴァン陛下にとって今のやり取りは挨拶代わりの軽いジャブのつもりかもしれませんね。」
真剣な表情で呟いたジンの推測を聞いたセリーヌは呆れた表情で呟き、真剣な表情で呟いたエレインの推測を聞いたサラは唇を噛み締めて端末に映るシルヴァン皇帝を睨み、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐いた。
~紋章の間~
「話を戻すが、今回の戦争でリィンを含めた灰獅子隊の部隊長達は将来、メンフィル貴族としてゼムリア大陸側のメンフィル帝国領の統治等に深く関わっている事が決まっている。―――ちなみに先程エレボニア総督として名前があがったリィンはエレボニア総督の任務を終えた後はメンフィル軍を除隊、並びに今回の戦争で領土割譲されることになっているクロイツェン州統括領主も兼ねているシュバルツァー公爵家の当主に就いてもらう予定だ。」
「エレボニア総督の任を終えられたシュバルツァー将軍は今回の戦争でメンフィル帝国が得る事になるクロイツェン州の大半の領土を統括する立場に就かれるのですか………」
シルヴァン皇帝の説明を聞いたクローディア王太女は複雑そうな表情でオリヴァルト皇子達に視線を向けて呟いた。
「そして賠償内容として第7条を定めた理由だが………―――――元エレボニア貴族や元エレボニア人であるこの書面に書かれている我が国の貴族達が情にほだされて”かつての故郷であるエレボニアが苦境に陥っているから、かつてのエレボニア人としてのよしみで助けてくれ”という理由でエレボニア帝国貴族からの縁談に応じてしまう事を防ぐ事もそうだが、その縁談を理由に賠償内容の緩和の主張をさせない為だ。」
「……それは………」
「失礼を承知で申し上げますが、幾ら何でもそれは貴国の被害妄想ではないでしょうか?」
第7条を定めた理由を知ったオリヴァルト皇子はメンフィルの推測は実際にありえるかもしれない事である事にすぐに気づいて複雑そうな表情を浮かべて答えを濁し、アルバート大公はシルヴァン皇帝に指摘した。
「既に”内戦の最中、アルフィン皇女がかつてのエレボニア帝国貴族でアルノール皇家とも縁があり、今はメンフィル帝国貴族であるシュバルツァー家を頼った事で、シュバルツァー家がアルフィン皇女の潜伏場所としてユミルを提供した前例”があるのに、何故我らの推測が”被害妄想”と言える?」
「そ、それは…………」
目を細めて反論したシルヴァン皇帝の反論に対して答えられないルーシー秘書官は複雑そうな表情で答えを濁し
「”前例”があるからと言ってそれとこれとは別問題と論ずるつもりなら、具体例を挙げてやろう。――――――エレボニアの政府の関係者もそうだが貴族達がエレボニアの信頼回復や賠償金の減額等の為にシュバルツァー家の令嬢であるエリゼ・エリス姉妹のどちらか、最悪はその両方をセドリック皇太子かオリヴァルト皇子、もしくはその両方の”正妃”として迎える等と言った本人達もそうだが、二人と既に婚約を交わしているリィン自身も怒りを抱くようなあまりにも愚かな嘆願をシュバルツァー家にしてくる事だ。」
「………ッ!」
「待って下さい!僕もそうですが、兄上もリィンさんとリィンさんの妹であるお二人の仲は既に婚約関係にまで到っている事は把握していますから、例えそのような案が出たとしても、僕達アルノール皇家がそれを理由に即却下します!」
シルヴァン皇帝が口にした具体例を聞いたオリヴァルト皇子は息を呑み、セドリックは真剣な表情で反論した。
「例え皇太子達がそのつもりであっても、”シュバルツァー家ならばアルノール皇家やエレボニアの為に承諾してくれると自分勝手な希望を抱く者達”が全く出ないとまでは言えまい?何せシュバルツァー家は今回の戦争もそうだが、内戦でも”エレボニアの為の行動”をしているのだから、そんなシュバルツァー家の仁徳を”悪用”してくる者達が出て来てもおかしくないのだからな。後はユーゲント三世が第5条の実行――――――つまり、シュバルツァー家への”詫び”代わりにエリゼかエリスを自身の跡継ぎである皇太子の正妃として迎える提案をしてくる可能性も考えている。今回の戦争で衰退したとはいえ、一国の王の正妃として嫁げる事は”貴族としては名誉な事”の上、”ユーゲント三世にとって信頼できるシュバルツァー家ならば元エレボニア人である我が国の貴族に縋ろうとする他の自分勝手な考えを抱くエレボニア貴族のように自分の希望に応えてくれる”と言ったような考えを抱いてもおかしくないのだからな。」
「……ッ!」
「……シルヴァン陛下もそうですが、メンフィル帝国はそこまで父上――――――ユーゲント陛下の事を信用なされていないのですか……」
反論したセドリックだったがシルヴァン皇帝の指摘を聞くと辛そうな表情で唇を噛み締め、オリヴァルト皇子は辛そうな表情で呟いた。
「当然だ。メンフィルにとってアルノール皇家の中でもユーゲント三世が最も信用できない人物だ。”黄昏”に諍う事を諦め、オズボーン宰相に全てを委ねた結果、メンフィル、クロスベル、そしてリベールを巻き込んだ世界大戦へと発展させたのだからな。この際言わせてもらうが、連合の盟友となり、戦争序盤から今まで共に戦ってきたヴァイスラント新生軍の総主宰であるミルディーヌ公女の執り成しや灰獅子隊の一員としてリィン達と共に戦い続けたアルフィン皇女やヴァンダール家のメンフィルへの貢献、後はリィン達シュバルツァー家の仁徳がなければ、賠償内容の中にユーゲント三世の身柄をメンフィルに引き渡し、引き渡されたユーゲント三世が”斬首刑”にされることも受け入れる事を加えていた。」
「こ、皇帝陛下が”斬首刑”………」
「そんな…………それでは、もしミルディーヌ公女殿下の執り成しやアルフィン皇女殿下達のメンフィルへの貢献、シュバルツァー家の仁徳がなければ、ユーゲント陛下は………」
「……………………」
不愉快そうな表情を浮かべて語ったシルヴァン皇帝の話を聞いたレーグニッツ知事は表情を青褪めさせ、クローディア王太女は悲痛そうな表情を浮かべ、アリシア女王は重々しい様子を纏って黙り込んだ。
「あの……話を逸らす事になって申し訳ないのですが、先程シルヴァン陛下はシュバルツァー家の令嬢達が令嬢達にとって”兄”であるシュバルツァー将軍と婚約されていると仰いましたが……」
「事実だ。リィン達の事を誤解させない為にも先に言っておくがリィン達の結婚は兄妹間の結婚だからと言って、”近親婚”ではない。リィンはシュバルツァー家の”養子”の為、”義妹”であるエリゼ・エリス姉妹とは血の繋がりは一切ないのだからな。」
「なんと……シュバルツァー将軍は養子だったのですか……」
(さすがにリィンが”鉄血宰相”の息子であるという事実を口にするのは控えたようだな。)
(フフ、もしそれをここで口にしたら、話が更に逸れて会議が長引く事は目に見えていたから、控えたのでしょうね。)
戸惑いの表情のルーシー秘書官の疑問に対して答えたシルヴァン皇帝の説明を聞いたアルバート大公は驚きの表情で呟き、シルヴァン皇帝がある事実を口にしていない事やその意図に気づいたヴァイスとルイーネはそれぞれ苦笑しながら小声で会話していた。
「……第7条を定めた貴国の意図は理解しました。ですが、将来エレボニアの上流階級の関係者とこの書面に書かれているメンフィルの上流階級の関係者が恋仲へと発展してもこの賠償内容によって結婚はできない為、人権面での問題が発生すると思われるのですが………」
「何も結婚を完全に禁止している訳ではない。その書面にも書かれているようにメンフィル皇家である我らマーシルン家に認められる事もそうだが、我らに認められなくてもこの書面に書かれているメンフィルの貴族の関係者がエレボニアの貴族や皇族に嫁ぎさえしなければ結婚は可能だ。」
「”指定のメンフィルの貴族の関係者がエレボニアの皇家や貴族に嫁ぎさえしなければ、メンフィルの皇家であるマーシルン家の許可がなくても結婚は可能”という事は結婚をする当事者たちが互いの身分や家を捨てる――――――所謂”駆け落ち”は見逃すという事でしょうか?」
ルーシー秘書官の意見に対して答えたシルヴァン皇帝の説明を聞いてある事が気になったアルバート大公は新たな質問をした。
「そこまでする必要はない。”エレボニアの貴族や皇族の関係者がメンフィルの貴族や皇族に嫁ぐ事に関しては”何の問題はない。」
「え………エレボニアの上流階級の家に嫁ぐ事は制限し、その逆は何故制限されていないのでしょうか?」
アルバート大公の質問に答えたシルヴァン皇帝の答えを聞いて新たな疑問を抱いたクローディア王太女は質問をした。
「エレボニアの貴族や皇族に嫁げば、当然嫁いだ者はエレボニアの貴族や皇族の一員になってしまう事で、エレボニアの苦難を背負う羽目になるからだ。」
「要するにシュバルツァー家を含めたメンフィルの貴族の関係者達をエレボニアの苦難に巻き込ませない為という事だな。」
「今回の戦争による敗戦で間違いなくエレボニアには”冬の時代”が到来するでしょうから、エレボニアの皇族もそうですが貴族も”冬の時代”を乗り越える為に苦労する事は目に見えていますものね。」
「そんな……!それでは一種の”人種差別”ではありませんか!?」
シルヴァン皇帝の話の後に推測を口にしたヴァイスとルイーネの推測を聞いたルーシー秘書官は血相を変えて反論した。
「”人種差別”?フッ、笑わせてくれる。指定のメンフィル貴族とエレボニア貴族や皇族との結婚の制限は我が国の貴族達をメンフィルに縋ろうとするエレボニアの愚かな思惑に巻き込ませない為の”政策”だ。――――それにしても”エレボニアの貴族や皇族達の為”に”内政干渉”をしてまで第7条について反論するとは、先程セイランド秘書官自身が口にした宣言――――――”政治に私事を反映させるといったこの国際会議に参加する者として相応しくない行為”をもう反故にするつもりか?」
「………ッ!」
(先輩………)
ルーシー秘書官の反論に対してシルヴァン皇帝は嘲笑した後、ルーシー秘書官を睨んで指摘し、シルヴァン皇帝の指摘に反論できないルーシー秘書官が悔しそうな表情で唇を噛み締めて顔を俯かせて黙り込んでいる様子をクローディア王太女は心配そうな表情で見守っていた。
「先程シルヴァン陛下はエレボニアの貴族や皇族の方々がこの書面に書かれているメンフィルの貴族の関係者と婚姻を結ぶ際はメンフィルの貴族側に嫁ぐ以外にも、マーシルン皇家に認められた場合も可能と仰いましたが、その認められる方法としては何らかの方法でメンフィル帝国に皇家の方々も賞賛する程の貢献をした場合になるのでしょうか?」
「さすがアリシア女王。察しが良くて説明も省けて助かる。我らマーシルン皇家に認められたエレボニアの貴族ならば、この書面に書かれているメンフィル貴族の関係者達がその家に嫁ぐ事も可能だ。」
「ちなみに現在マーシルン皇家に認められているエレボニアの貴族は”カイエン公爵家”と”ヴァンダール子爵家”になりますわ。」
アリシア女王の質問に対してシルヴァン皇帝は静かな笑みを浮かべて答え、セシリアは静かな表情で答え
「なるほど……”カイエン公爵家”――――――ヴァイスラント新生軍の総主宰にして灰獅子隊の一員でもあるミルディーヌ君は言うまでもなく、今回の戦争でメンフィル帝国に多大な貢献をしていますし、”ヴァンダール子爵家”はクルトとオリエさんが灰獅子隊の一員として今までメンフィル帝国に貢献してきましたから、その二つの家は既にマーシルン皇家に認めれているのですか……」
セシリアの話を聞いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた。
「第7条についても理解しました。次は第10条――――――エレボニアの領土に設立予定の大使館に何故、メンフィル帝国軍を駐留させる事もそうですが、駐留軍の費用の半分をエレボニアの政府が負担しなければならない事について伺いたいのですが。」
「まず、大使館にメンフィル帝国軍を駐留させる理由は単純な話、”メンフィルがエレボニアを信用できないからだ。”」
「……その”信用できない理由”はやはり、今回の戦争の件でしょうか?」
アリシア女王の質問に答えたシルヴァン皇帝の説明を聞いたセドリックは辛そうな表情で訊ねた。
「当然だ。先程皇太子や知事は”エレボニアに2度と戦争を起こさせない”と言ったが、”世代”が替わればその国の皇家や政府の方針が大きく変化する事もそうだが、その国が経験した”過去”も風化され、忘れ去られる事は十分に考えられる。――――――それこそ、エレボニアが”過去の罪”を忘れ、かつてエレボニアを衰退させた原因であるメンフィルやクロスベルに復讐し、かつての繁栄を取り戻す為にメンフィルもそうだが、クロスベルにも戦争を仕掛けてくる事もな。」
「そ、それは………」
「むう…………」
「………………陛下の話から察するに、エレボニアの領土に設立予定の貴国の大使館にメンフィル帝国軍を駐留させる理由は、代替わりしたエレボニアの皇家や政府の方針によってエレボニアがメンフィルへの報復を決めた際に大使館の関係者達を護る為でしょうか?」
シルヴァン皇帝の説明を聞いたクローディア王太女は辛そうな表情で答えを濁し、アルバート大公は複雑そうな表情で唸り声を上げ、アリシア女王は重々しい様子を纏ってシルヴァン皇帝に確認した。
「ああ。より正確に言えば、大使館の関係者達をエレボニアの国外へと逃がす時間を稼がせる為の駐留軍だ。そしてエレボニアに駐留軍の軍費の半分を負担させる理由は、メンフィルにそこまでさせる程信用を失ったエレボニアには軍費の半分は負担させるべきだという考えだ。」
「……それは………」
「ちなみに駐留軍の規模もそうですが、駐留軍にかかる年間の軍事費はどのくらいの額になるのでしょうか?」
シルヴァン皇帝の説明を聞いていたオリヴァルト皇子は複雑そうな表情で答えを濁し、ルーシー秘書官は複雑そうな表情で訊ねた。
「駐留軍の規模は1個旅団で、駐留軍の年間の軍事費は概算にはなるがおよそ100億ミラになる。」
「100億ミラということはエレボニアはその半分を負担しなければならない事になりますから毎年50億ミラですか………ちなみに、この書面には”メンフィル帝国が指定するエレボニア帝国の領土内”と書いてありますが、貴国はエレボニアのどの領土に大使館の設立とメンフィル帝国軍の駐留を予定されているのでしょうか?」
「ラマール州の公都――――――”海都オルディス”です。」
「え…………」
「な……何故、他国の大使館も既に建てられている帝都ではなく、海都に……!?」
レーグニッツ知事の質問にシルヴァン皇帝の代わりに答えたセシリアの答えを聞いたセドリックは呆け、レーグニッツ知事自身は困惑の表情で疑問を口にした後ミルディーヌ公女へと視線を向けた。
「オルディスを選んだ理由は3つある。一つはオルディス地方はこの賠償内容にも書かれているようにメンフィルの盟友であるクロスベル帝国領となるフォートガード地方に隣接している為、エレボニアの方針がメンフィルへの報復へと変わった時に大使館の関係者達や駐留軍をメンフィルの”盟友”であるクロスベル帝国領へと撤退させることが可能だからな。」
「当然、”万が一”があった際は撤退してきたメンフィル帝国軍や大使館の関係者達を受け入れて庇う事はクロスベルも了承済みだ。」
「その”万が一”は少なくても即位した皇太子殿下が現役の間はありえないとは考えておりますが、もしその”万が一”が起こってしまえばラマール領邦軍にも撤退の為の時間稼ぎをさせる事もメンフィル帝国にお伝えしておりますわ。」
「ミルディーヌさん………」
「ミルディーヌ公女………四大名門の一角の当主――――――それもエレボニア帝国貴族の筆頭である君が、皇太子殿下達――――――アルノール皇家や政府の関係者達の目の前で堂々と祖国であるエレボニアではなく、他国であるメンフィルの為に本来は領土を守る為に存在する領邦軍を動かす事を予告するのは幾ら何でも問題発言だと思うが。」
シルヴァン皇帝の説明の後にヴァイスとミルディーヌ公女がそれぞれシルヴァン皇帝の説明の捕捉をし、それを聞いていたセドリックは複雑そうな表情を浮かべ、アルバート大公は真剣な表情でミルディーヌ公女に指摘した。
「フフ、その点については心配無用かと。私は衰退したエレボニアを復興させる為にはメンフィルとの外交関係を回復させる事を最優先と考えている”親メンフィル派エレボニア貴族の筆頭”である事は周知の事実ですから、私がエレボニアとメンフィルの外交関係をこれ以上悪化させない為にもアルノール皇家や政府の方針転換に従う事よりもメンフィルとの信頼関係を崩さない為の行動を選択するのは”今更”ですし…………そもそも大公閣下の私に対するそのご指摘はエレボニアに2度と戦争を起こさせない――――――つまり、エレボニアはメンフィルに報復する事は考えないという皇太子殿下達の決意を疑っている事を自白しているようなものだと、自覚されているのでしょうか?」
「そんなつもりで発言した訳ではないが……先程のミルディーヌ公女への発言は皇太子殿下達を信じているミルディーヌ公女もそうだが、皇太子殿下達に対して失礼な発言であった事は認めよう。――――――申し訳ない、皇太子殿下、オリヴァルト殿下。それに知事閣下とミルディーヌ公女も。」
意味あり気な笑みを浮かべて指摘し返したミルディーヌ公女の言葉に反論できないアルバート大公は複雑そうな表情で答えた後セドリック達に謝罪した。
「いえ……僕達は気にしていませんので、どうかお気になさらないでください。」
「貴国の大使館を設立する場所をオルディスに選んだ理由は3つあると仰いましたが……その理由の一つはもしや、貴国がミルディーヌ公女――――――カイエン公爵家を信頼されているからなのでしょうか?」
アルバート大公の謝罪にセドリックが謙遜した様子で答えた後、ある事に気づいたアリシア女王はシルヴァン皇帝に確認した。
「ああ。内戦の件でアルバレア公爵家もそうだが、カイエン公爵家に対するメンフィルの印象は”最悪”まで落ちたが、メンフィルの盟友であるクロスベルでのユーディット皇妃・キュア公女姉妹の働き、そしてこの戦争でのミルディーヌ公女のメンフィルへの貢献を考慮した結果、”少なくてもミルディーヌ公女とその跡継ぎが現役の間はカイエン公爵家の方がアルノール皇家よりは信用できる”と政府・皇家共に判断した事もあり、エレボニアでの大使館の設立場所はカイエン公爵家の本拠地でもあるオルディスを選んだ。」
「……………………」
(オリヴァルト殿下………)
アリシア女王の確認に頷いた後答えたシルヴァン皇帝の説明を聞いて複雑そうな表情で黙り込んでいるオリヴァルト皇子に気づいたクローディア王太女は心配そうな表情を浮かべた。
「そして最後の理由だが……これに関しては”不確定要素”ではあったが、先日ミルディーヌ公女が”とあるメンフィル貴族と婚約を結んだ事で大使館の関係者達の安全度が跳ね上がる事が確実”となった事だ。」
「ええっ!?ミルディーヌ公女殿下は既にメンフィル帝国の貴族との婚約まで結ばれていたのですか……!?」
「一体メンフィル帝国のどのような貴族と婚約を……」
「まさかとは思うがミルディーヌ君が婚約を結んだ”とあるメンフィル貴族”は――――――」
シルヴァン皇帝が口にした驚愕の事実にその場にいる多くの者達が血相を変えている中ルーシー秘書官は信じられない表情で声を上げ、アルバート大公は真剣な表情でミルディーヌ公女を見つめ、察しがついたオリヴァルト皇子は驚きの表情で予想している人物―――――リィンを思い浮かべた。
「フフ………――――――このような場で私事を発表するつもりはございませんでしたが、シルヴァン陛下の各国の方々に対するご説明を捕捉する為に発表させて頂きますわ。――――――私ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンは先程シルヴァン陛下が仰ったように、メンフィル帝国の貴族にして”エレボニア総督”を任命されているリィン・シュバルツァー将軍閣下との婚約を先日結びましたわ。」
そしてミルディーヌ公女は静かな笑みを浮かべながらその場にいるメンフィルとクロスベルのVIP以外の者達にとっての驚愕の事実を口にした――――――
後書き
どうでもいいことでしょうが、ヴァイス達の護衛として同行している特務支援課メンバーはロイド、エリィ、ティオ、ランディ、ノエル、ユウナで残りのメンバーはクロスベルで留守番です。
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