リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第七楽章「基本的に身近な人物」
前書き
込み入った家庭の話
(グランバニア城下町:中央地区:アマン・デ・リュムール)
アイリーンSIDE
「ちょっとちょっと、凄い事じゃない! 何々このドロドロな演劇みたいなシチュエーション?」
「ドロドロ? う~ん、まぁドロドロっていえばドロドロねぇ。でも……内情はもっとドロドロよ、聞きたい?(笑)」
「聞きたーい♥」
キャバ嬢が嬉々として手を上げ答える。
私も聞きたいわ。
「じゃぁ問題ね。私の父は私の母親と、あの娘の母親と……結婚してるのは誰の母親でしょうか?」
あ、そっか……二人とは結婚できないから、どちらか片方とは夫婦なのよね。
この場合……二人共がグランバニアに居るらしいから、あのウェイトレスの母親と結婚してると考えるのが自然じゃないかしら?
「うーん……出題者がわざわざ言うって事は、貴女の母親と結婚してるんじゃないの?」
なるほど……そういう考え方も出来るのか。
キャバ嬢なだけの、ちょっと捻た考え方な気がする。
「はずれ。ドロドロって言ったでしょ」
「じゃぁやっぱりリューノちゃんのお母さんと?」
澄ました顔で誤答を伝えるリューナ……それに思わず沈黙を破って発言してしまったピエ。アンタも興味津々ね。
「あらあらウフフ……芸術家にしては発想力が足りなすぎませんか?」
「え、如何言う事?」
ピエもそうだが、この場に居る全員が怪訝な顔で固まる。
「そんなサラサラなドロドロ劇は無いわよ(笑) 私の父は他の女性と結婚して、お二人の間には一男二女の子宝に恵まれてるわ。因みに私の母は私しか産んでないし、リューノの母親も同様よ」
「うわぁ……ドロッドロ」
流石のキャバ嬢も言葉を失っている。
「何か……こう言っちゃぁ悪いけど……貴女のお父さんって最低ですね」
「……? ピエッサさん、私の父親のどの辺が最低なのでしょう?」
いやいやいや……だって……
「結婚して奥さんとお子さんが居るのに、色んな女性に手を出して無責任なところです」
もしかしたら“結婚前の火遊び”かもよ?
「そうねぇ……確かに結婚して長男となる息子さんが生まれてから私達が生まれたから、所帯を持った後の不貞って事にはなるけど……」
一縷の望みでもある“結婚前の火遊び”説は無くなった。
「じゃぁ今の内にもう一個情報を投下しておくわね(微笑)」
「え、まだ何かあるのか?」
流石の彼氏もドン引いてる。
「私の父には、奥様と私・リューノの母親とは別の女性との間に、二人の娘さんが居ります……私が判っている限りで、男一人・女七人の子供が居ますわよ(ニッコリ)」
「うわぁ~もう最低中の最低な奴じゃん!」
おいキャバ嬢、面と向かって父親の事をディスるな!
「ウフフ……その考え方は押し付けですね。私も私の母も不幸に感じた事はありませんし、何時でも会いに来てくれて父親をしてくれましたから、寂しい思いはしませんでした。母もそうですし未だにラブラブです。金銭面も苦労した事は無いですし。これは他の女性方も同じだと思います……と言うよりも、私を含めた男一人・女七人に会ってますが、誰も父親の事を嫌ってたり憎んだりしてる者は居りません。まぁ唯一の男子が違った意味で反抗期になってますけどね……いい加減大人になれば良いのに」
「いやいやでもでも……そんな男が父親で幸せなわけが……いくら養育費を払っているからって言っても……ねぇ?」
「いや、私に同意を求めないでよ」
少し強めな口調で良い責められ、弱気な口調で自分の主張を通そうとするも、負け戦に同情を私に求めるキャバ嬢。
「器じゃないかしら?」
「「「器?」」」
如何言う事だろうか?
「器が大きいから、愛人が居ようと腹違いの子供が居ようと、皆を公平に愛し幸せに出来る。一般の男では、その器が小さいから、そんな事をすれば何処かに歪みが出来て不幸になる」
「う~ん……理解は出来るけど、納得は出来ないわね」
ピエは潔癖気味なのか、リューナちゃんの言葉に嫌悪感を見せた……私は、100%ではないが、ある程度納得できる。
「でも随分とハッキリ、そして明確に言い切ったわね。何か理由でもあんの?」
キャバ嬢は仕事柄なのか、嫌悪感こそ無いが不思議そうに尋ねる。
「私の身近にね、結婚前提で付き合ってる……しかも別れる事が出来そうに無い彼女がいるにも関わらず、別の女に手を出して……剰え孕ませやがったクズ野郎が居るんだけど、ソイツとの器の違いを実感してるのよ」
「うわぁ~クッズぅ~(笑) ねぇねぇどんな奴? ソイツってばどんな奴なのぉ?」
キャバ嬢身を乗り出しすぎ!
ウェイトレスがケーキとコーヒーセットを運んできたのに、テーブルに置けないでしょ!
「さぁて……私の口からでは~」
そう言うとテーブルから離れようとしてたウェイトレスの腕を掴み、
「皆さん貴女の彼氏の事を聞きたいそうよ。教えてあげたら?」
と話しかけ留める。
「えっ!? そ、その……お腹の子の父親って……不倫?」
「あー……せ、正確にはそうなりますね(苦笑)」
何なの先刻から展開するドロドロ劇場は!? もうお腹いっぱいなんですけど!
「ねぇねぇ教えてぇ~。おねいさんにカレピの事を教えて~ん♥」
やだ……この娘と同じ人種に思われたくない。でも本音は聞きたいから止める事も出来ない。隣のピエを見たが、表情からして同じ気持ちらしい。
「そ~ですねー……一言で言うと『ヘタレ』ですね」
「ヘ、ヘタレなの? 何所に惚れちゃったのかなぁ……?」
惚れてないけど、ヤったら出来たって事かしら?
「か、格好は良いんですよ!」
「見た目だけね」
「や、やる時はやる男だし……」
「男は皆、ヤれる女の前ではヤるわよ」
「う゛っ……み、皆には誤解されてるけど、本当は優しい人だし」
「誤解される事自体が問題なのよ」
「う゛ぅぅぅぅぅ~……え~と、その……強い……そう、強いの!」
「メンタルは激弱よ」
「あの……その……え~と……お、お金……持ち? だし」
「金無きゃただのクズじゃない」
素晴らしいくらい息の合った掛け合いだ。
流石は姉妹……
片親だけが同じでも、これほどまでに息が合うとは……面白い。
「う、うるさいわね、先刻から!」
「事実を言ってるだけでしょぅ」
このクズ男の事は知らないが、彼女自ら『ヘタレ』と評してたくらいだから、事実である事は疑いないのだろう。
「う~……ムカつくぅ」
「私がこの世で……いえ、異世界を含めて最も尊敬する人である、お父さんが言ってたわ。『事実こそ、最も人を傷つける』って。あらヤダ……そう言えば父親は同じだったわね(ウフフッ)」
おやおや。流石は魔技高校で優秀な成績を保持し続けてるだけはあるわね。私もその言葉を聞いた事があるわ……私が最も尊敬する人、陛下か……ら?
え!? 何で陛下が仰っていた言葉を、彼女が父親からの言葉として知ってるの?
嘘……もしかして……え、嘘!?
へ、陛下は確かビアンカ王妃陛下との間に……一男二女で……聞いてる話じゃあの女を含めて娘が五人居るはずで……え~と、合計すると……
“一男七女”!!!!!
そ、そして先刻の台詞……
思考が追い付かない……いや違う、思考が動かない。
私は如何な表情をしていたのだろうか? それは判らないが私の視線に気が付いたリューナちゃんが、不思議そうな顔で私を見つめ返した。
そして何かを察した様な顔を一瞬すると、また愛らしい表情に戻り微笑みかける。
だが瞳の奥は笑っておらず、声を出さず口だけ動かし“Top Secret”と私に伝える。
間違いない……この美しさは、母親だけの遺伝子じゃぁない。
そこで一生懸命彼氏擁護をしているウェイトレスも、内面に著しく難のあるあの娘やあの小娘も、一律して見た目だけは最高に良い。
うん。納得だ……器が違うわよ。
彼女の彼氏が何所のクズ野郎かは知らないけど、陛下と比べちゃったら器は小さく思えちゃうわよ。
あ~……こうなると見てみたいわクズ野郎の面を!
如何なアホ面ぶら下げてるのかしら(笑)
アイリーンSIDE END
後書き
アイリーンもそれなりに頭は良いよ。
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