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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第10章 アルバレス帝国編
  第50話 奇しき赫耀

アイリーンのユニバースワンにより、ほぼ全ての魔導士がマグノリアの街に集結を果たしたことで、皆は困惑していた。
「赤い光に包まれたかと思ったら…」
「どうしてマグノリアに?」
カグラとウルティアが辺りを見回しながら口を開く。そこには、ほぼすべてのフェアリーテイルの魔導士に加えて、よく見知った他ギルドの魔導士の姿も見て取れた。
マグノリアの街には、遥か遠方に飛ばされたアレンと、アイリーンの戦闘を行っているエルザ、ジェラール、ウェンディと行方の分からないナツ、ルーシィ、グレイ、ハッピー、ミラ、エルフマン、リサーナ以外の全てのフェアリーテイルの魔導士に加え、ミネルバ、ローグ、スティング、オルガ、ルーファス、シモン、トビー、ユウカ、シェリー、シェリア、アラーニャ、ミリアーナ、ベス、フレア、一夜、ヒビキ、イブ、レン、ジェニーの姿があった。
「理由はわからねえが、あの赤い光が関係してんのは確かだな…」
「でも、消耗しているとはいえ、皆無事でよかった」
ラクサスが先の2人の質問に返すように言葉を発すると、フリードが少し安心したように口を開く。
「とりあえずは、ギルドに戻りませんか?」
「私達は先ほどまでギルドにいたはずなのですが…不思議なものですね」
ヒノエが状況整理もかねて皆に提案を投げかける。それに対しミノトは、それを承諾しながらも、些少の疑問を滲ませていた。
「…そうじゃな、皆がここに集まっておるということは、陣形もバラバラということじゃ…一度ギルドに戻り、体勢を…ッ!」
マカロフがヒノエの提案に乗ろうと言葉を発しが、それは圧倒的な力によって遮られることになる。フェアリーテイルのギルド前を塞ぎこむようにして赤き稲妻が発生したかと思うと、そこには強大な龍の姿が現れたのだ。
「お、おい…」
「なんで…あいつが…」
その姿を目にした皆は、目を見開いて驚愕する。それをガジルとレヴィが代表するようにして小さく呟く。
「バ、バルファルクだとッ!?」
「ア…アレンと戦ってたんじゃ…」
ギルダーツとカナもそれに続いて口を開く。瞬間、バルファルクの強大な咆哮がマグノリアを駆け巡る。その凄まじい轟音に、皆が苦悶の表情を見せる。
「…貴様らのようなカスでも…これだけ集まれば少しは楽しめるか?」
バルファルクの低く唸るような声に、フェアリーテイルのメンバーは一瞬で臨戦態勢へと移行する。
「なぜ…なぜ貴様がここにおるのじゃ!!アレンは一体どうした!!」
マカロフが激高したように言葉を発すると、皆も怪訝な表情を見せ、バルファルクを睨みつける。
「アイリーンの仕業だ…ユニバースワン。フィオーレ王国の全土に付加し、この大地、空間にいるもの全てをランダムに入れ替えたらしい…。おかげでアレンとの戦いの途中で我も飛ばされたということだ…」
バルファルクの言葉に、皆はまたも驚き見せる。フィオーレの全土の付加させるという信じられないほどの広範囲魔法もそうであるが、皆がバラバラに飛ばされたという話に、驚きを隠せなかったのだ。
「だが、貴様らほぼ全員がこのマグノリアに集結したのは、反作用だそうだ…ゼレフと俺をフェアリーテイルのギルドに、アレンとアクノロギアを遥か遠方に…その4つを指定したことで、お前らは一カ所に集まってしまったようだな…」
「ア…アレンが遠方じゃと…ッ!それに、ゼレフが…ゼレフが今ギルドにいるのかッ!」
マカロフは嫌な汗をダラダラと流しながら口を開いた。それが何を意味するのか、理解した他の皆も、狼狽した様子を見せる。それを察したバルファルクはニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「そう…ゼレフは妖精の心臓を手に入れようとしている…そして、アレンとアクノロギアは彼方遠方の地…戻ってくるのに数時間はかかる…つまり…」
バルファルクはその身を皆のいる前方の地面へと降ろし、赤く輝く槍翼を大きく広げる。その圧倒的なまでの威圧感と力に、皆は半歩引いて身構える。
「…貴様らはもう…負けたということだ…」
バルファルクはそう言葉を発すると、強大な槍翼と赤き龍弾を魔導士たちに向けて解き放った。

アイリーンは、自身の過去とエルザの出生の秘密を語った。語り終わったと同時に斬りかかってきたエルザの攻撃を軽くあしらいながら、ニヤッと口角を上げた。そんなアイリーンの様子を怪訝に思ったエルザは、アイリーンとの鍔迫り合いをしながら疑問を投げかける。
「何がおかしい…」
「ほんと、おバカさんね…今の話の中で、アレンが登場していないの、疑問に思わないの?」
エルザの問いに、アイリーンは嘲笑するかのように言葉を発した。その言葉を皮切りに、エルザはアイリーンから距離を取る。ジェラールはアイリーンとエルザが離れたことで、自身の流星魔法を浴びせるが、それすらもあしらわれ、無力化されてしまう。
「簡単なことだ…貴様とアレンには関りがない…」
「ああ、なるほど。そういう考え方もできるわね…」
アイリーンはふぅ…と軽く息を整えながら微笑を浮かべる。
「さて、私は竜の女王…人間でありながら竜へと昇華した存在…」
「…アクノロギアと同じ、ということだろう…それがなんだ」
アイリーンがゆっくりと発する言葉に、エルザは畏怖を込めて口を開いた。アイリーンの過去を聞き、些少の同情はあれど、敵であるという認識に変わりはなかった。かつて、グランディーネというウェンディの母から齎された話から、アクノロギアが元は人間であったことは聞き及んでいた。それと同じような状況に立たされたアイリーンに、エルザは先の言葉を放った。
「そう…私はもはや人間ではない…竜そのもの…さて、あなたたちはアレンが何に大切な者を奪われたのか、知っているかしら?」
アイリーンは不敵な笑みを浮かべながらニヤリと笑いかける。
「なぜ…なぜ貴様がそれを…」
「それは…私たちしか知りえないはず…」
エルザとウェンディは、アイリーンの言葉を信じられないと言った様子で狼狽して見せる。
「そんなことないわよ…ふふっ!…奪った本人なら…知っていて当然じゃなくて?」
アイリーンの不穏な笑みと共に放たれた言葉は、エルザ達3人に驚愕の表情を生む。徐々に理解し、認識する。アイリーンの言葉の意味を…。そして、それは次第に怒りが滲んだようなものへと変わっていく。
「き…貴様が…アレンの…」
「家族を…友を…恋人を…ッ!」
「…殺したんですかッ!?」
エルザ、ジェラール、ウェンディは怒りでうまく働かない口元を何とか動かし、言葉を言い放った。
「そうだ…今でも覚えておるぞ…アレンの絶望と…可哀そうな泣き顔を…ぷっ!」
アイリーンはどこか楽しげな様子で言葉を漏らす。瞬間、エルザが目にも止まらぬ速さでアイリーンへと近づき、剣を振り下ろす。その表情は、これまでにないほど瞳孔を開かせ、真顔ながらも憤怒の様相が見て取れた。アイリーンはその剣を自身の杖で受けるが、先ほどとは比べ物にならない力に小さく目を見開く。
「ほう…感情で力が増幅したのか?…ああ、そうか…。お前はアレンを愛しているのだな…」
「…貴様は私を生んだ女…そして数奇な運命に晒された哀れな人…そんな思いが些少の憐れみを生んだが…」
エルザはアイリーンを力ずくで押しのけると、魔力を解放しながら視線を向ける。その視線は、目だけでその相手を殺せるほどの畏怖を抱かせるものであった。そして、解放した魔力がエルザの身体に纏わりつき、それは巨大な骨を形成し、巨人の上半身を思わせるものへと形作られていく。
「それも完全に消え失せたッ!!貴様は私が確実に殺すッ!アレンの代わりに!!!」
「へえ…これがスサノオか…。なるほど、素晴らしい力ね…でも…」
エルザのこれまでにな激高に似た叫び、アイリーンはそれでも冷静に言葉を返す。そして、途中で含みあるように言葉を止めたかと思うと、アイリーンの身体にも同様に魔力があふれ出る。そしてそれはアイリーンを異形のモノへと変化させる。
「奥の手があるのは…あなただけじゃないのよ…エルザッ!!」
アイリーンはその身を竜の姿へと変え、咆哮をあげながらエルザの名を口にした。
エルザはスサノオを第3形態にまで力を増幅させて、竜の姿へと変化したアイリーンへと斬りかかった。

天彗龍バルファルク、その変異個体である奇しき赫耀のバルファルクに対し、フェアリーテイルを始めとした魔導士たちは、ヒノエ、ミノト、ギルダーツ、ラクサス、カグラ、ウル、ウルティア、リオン、ガジル、ジュビア、ミネルバ、スティング、ローグ、一夜を主力として戦闘に臨んでいた。
かつて、首都クロッカスで発生した『ドラゴンレイド』と時ですら畏怖を覚えたバルファルクの力であったが、それが全力ではなく、力を隠していたという事実を知り、皆は恐怖を抱きながら戦闘を行っていた。
バルファルクの攻撃に対し、反撃含め何とか対処できていたのは主力メンバーの中でもヒノエ、ミノト、ギルダーツ、ラクサス、ウルのみであり、他のメンバーは攻撃を避けることで精いっぱいであった。
「はぁ…はぁ…これが、バルファルクの本当の力か…」
「参るわね…なんとか攻撃を当てても、殆どダメージを追っている様子がない…」
ラクサスとウルは、赤き槍翼を大きく広げて鎮座するバルファルクを睨むようにしながら、悪態を付く。
「正直、ウルティアの未来予知がなきゃ…とっくにやられていた…」
「でも、私の魔法も、そう長くはもたないわよ…」
先の2人と同じように、カグラとウルティアが息を荒げながら口を開いた。ウルティアは時のアークの覚醒である『未来予知』により、バルファルクの攻撃を先読みしていた。だが、先読みできるのは5秒程度であり、バルファルクのスピードと攻撃力を考えると、それはあまりにも心許ないものであった。
アルバレス軍、そしてスプリガン12との戦闘も含め、皆相当なダメージを負っていた。そんな折、バルファルクが槍翼を重ねて、皆の方へと向けてくる。皆はそれを見て、大きく目を見開く。見覚えのあるモーションであった。
「くっ、これはまさか…」
「龍気ビーム…!」
ヒノエとミノトが、吐き捨てるようにして言葉を漏らす。ミノトは、強大な盾を構え、それを迎え撃とうとする。
「ッ!無茶よ、ミノト!!」
「しかし姉さま…。今はこれしか方法が…」
ヒノエは、ミノトが盾を構えるのを見て、怒号を飛ばして制止しようとする。そんなヒノエにミノトも困惑して言葉を返す。そんなやり取りをしている一瞬、バルファルクは目にも止まらぬ速さで上空を駆け、2人含め、皆が集まる上空へと移動する。
「しまった…」
ミノトは、自身が盾で受け止めようとしたことをバルファルクに見抜かれ、ガラ空きの上空へと移動させてしまったことに苦悶の表情を浮かべる。龍気ビームの集積は終わりを見返ている。
ヒノエがそう判断したと同時に、皆の集まる場所へとそれが放たれる。
「皆さん!!避けて!!!」
ヒノエは普段では考えられないような大声を上げる。その声と同時に、皆は上空を見上げ、その場に身を固める。すでに、避ける時間など残されていなかったのだ。そんな皆にできたことは、その場で身を固めて甘んじて攻撃を受けることだけであった。
しかし、ある2人がそれに気づいて龍気ビームに向かって魔法を放つ。雷と氷が渦を巻いて龍気ビームと相対する。
「ラクサスさんっ!ウルさんっ!」
ヒノエはそんな2人を視界に捉え、名を呼称する。2人の魔法は凄まじい力を持っていたが、バルファルクの攻撃を比べると、それはあまりにも貧弱であった。2秒程度であろうか?龍気ビームを止めたのち、2人の魔法は赤き光に飲み込まれる。
「ッ!くそっ!」
ラクサスは自身とウルの攻撃が消滅したことに、悪態を付きながら視界を暗くする。
…だが、何時まで経っても攻撃はやってこない。恐る恐る視界を開く。すると、そこには淡い黄色い光を放つ膜のようなものが、ラクサス含め、皆を包み込むようにして発生していた。目を見開く。
そして、ゆっくりと視界を移動させると、一際大きな輝きを放つものが見て取れた。それは、小さなお守りのようなものであった。この光の膜のようなものは、そのお守りから発せられることを理解する。そして、そのお守りの真上…そこには、光に包まれた人影が見て取れた。
目を凝らす。と同時に、少しずつその光は止み、人影を鮮明に捉えることに成功する。
驚く。
視界に入ってきたのは、緋色の長い髪の毛を腰まで下ろし、見たことのない鎧のようなものを身に待っとった女であった。見覚えのある姿であった。故に、ラクサスは憶測を込めてその名を口にした。
「エ…エルザ…?」
ラクサスは小さくその人影に向かって名を呼ぶが、その呼びかけに対し、その緋色の髪の女が反応を見せることはなかった。

竜へとその身を変えたアイリーンと、スサノオを発動させたエルザは、何度か打ち合うようにして戦闘を繰り広げていた。加えて、ジェラールの天体魔法による支援攻撃や、ウェンディの滅竜魔法の付加もあり、比較的優位な状態で戦闘を繰り広げていた。
しかし、竜の力に加えて、あらゆる物質に付加できるというアイリーンの力は凄まじく、それはエルザの発動したスサノオすらも貫通する攻撃力を誇っていた。そのため、エルザ達は皆疲弊しきった状態となっていた。
だが、それはアイリーンも同様であり、これ以上の戦闘続行は難しいと考え、自身が有する高位付加魔法の神髄、極意付加魔法ともいえる力をエルザ達にぶつけるに至る。
「こ、これは…まさか…」
「くっ…奴の付加魔法はなんでもありなのか…」
「こんなことって…」
エルザ、ジェラール、ウェンディは上空から迫りくる攻撃に、身を震わせて困惑する。
「は、ははッ!跡形もなく消え去りなさい…デウス…セイバー!!」
アイリーンは上空を見上げながら大きく言葉を発する。竜の力によって増幅した付加魔法は、天体そのものに付加を与え、エルザ達の上空に強大な隕石を齎す。
「ありえん…俺の魔法の…完全なる上位互換…ッ」
「こんなのを喰らったら…」
「スサノオでも防ぎきれんぞ…」
ジェラール、ウェンディ、エルザは、苦虫を噛んだような表情を浮かべながら狼狽する。
「はぁ…はぁ…さすがに、バルファルク様のような都市一つを包み込むような隕石は降らせることはできないけど…あなたたちを屠る程度のものは浴びせられるわ…」
アイリーンは不敵に笑って見せ、勝利を確信する。だが、目の前の3人の行動は全く違っていた。
ウェンディはエルザのスサノオに最大限の強化魔法を、ジェラールは強大な隕石の周りに纏わりつく小さな彗星を打ち砕く。…そして、エルザはスサノオを発動させたまま地面を蹴り上げ、隕石へと立ち向かっていった。
「なっ!!」
「はああああああぁぁぁッッ!!」
アイリーンの驚きも束の間、エルザは雄叫びをあげながら飛翔する。
「い、隕石に突っ込むつもり!?どれだけ馬鹿な子なの!?
「はああああああああああああああああ!!!!!!」
「いけっ!!エルザっ!!!」
エルザは更なる雄たけびを上げて猛進する。それを後押しするようにして、ジェラールが叫ぶ。
「人間が…隕石を…止められるわけないでしょ!!」
「アレンは…粉々に、切り刻んだ!!!」
「そ、それはあの男だからよ!!あなたなんかに…」
アイリーンは酷く困惑して声を発するが、エルザはこれ以上にないと言った様子で真剣に言い返す。アイリーンにとってその言葉は、比較するのがお菓子と言わざる終えないという内容であった。
「私はいつからか…妖精の女王、ティターニアと呼ばれるようになった…。そしてアレンは竜の天敵、妖精の王、オベイロンと…」
エルザは発動しているスサノオの両手に先ほどよりも強大な剣を生成する。スサノオと同じ緋色の剣を、重ねるようにして隕石へと向ける。
「妖精の王と呼ばれるアレンが…巨大な隕石を薙ぎ払って皆を救った…なら、その番いである妖精の女王…私がこんなちっぽけな隕石を防げないとあっては…話にならんッ!!!」
エルザはそう叫ぶと同時に、隕石へとその両の剣を突き立てる。エルザによって発動されたスサノオの剣は、隕石を一瞬で弾き飛ばし、切り刻む。そして、強大な爆発を起こしたかと思うと、四方八方へとその破片が飛散する。
アイリーンは、そんな信じられない光景を、目を見開いて見つめていた。
「こ、こんなことが…ありえるはずが…」
アイリーンの目に、こちらに向かって突進してくるエルザが、スサノオが目に映る。
「かくごー――!!!!」
「ちょ、調子に乗るなー!!小娘の滅竜の力を付加した程度で…私の鱗を切れると思うなー!!」
エルザのスサノオの剣を受け止めるようにして、アイリーンは強大な腕を振りかぶる。
スサノオと滅竜の力、更にはジェラールの魔法によって極限まで速度を高めた斬撃は、アイリーンの身体をいとも容易く切り裂き、大量の血を噴出させる。
「あああああああっっっ!!!!!」
アイリーンは致命傷に近い傷を負い、竜の姿を解き、人間へとその姿を戻す。
エルザはアイリーンを切り裂いたのと同時に、限界を迎え、スサノオの力を弱める。そして、エルザを覆っていた緋色のスサノオは完全に消失し、地面に伏する形となった。ジェラールとウェンディももはや少しの魔力も残っていない様子で、苦しそうに地面に身を預けている。
だが、アイリーンは人間の姿へと戻ったことで、竜の姿で受けたエルザの傷を還元することなく未だ立っていた。
「くっ…竜の時の傷が…」
「傷は連鎖していない…のか…」
エルザとジェラールは、先ほどエルザが真っ二つに近い形でつけたはずの傷が、人間に戻ったアイリーンに見られないことに恐怖滲ませていた。
「はぁ…はぁ…、ダメージはあるわよ…ただ…傷は連鎖…しない…っ!クソガキ共が…てこずらせやがって…」
アイリーンは覚束ない足取りでエルザへと近づき、魔力を込める。そして、その魔力を刀の形にしてエルザの首元へと突きつける。
「くっ…エルザ…」
「エルザさん…ッ!」
ジェラールとウェンディはそれを見て何とか阻止しようと身体を動かすが、それは敵わない。
「終わりよ…エルザ…」
アイリーンは首元へと向けた切っ先をエルザへと更に近づける。そして、エルザの顔を見る。…剣が止まる。いや、止めたのだ。…エルザが小さく微笑したことによって…。アイリーンはそれを見て、400年前の、エルザへと自身の人格を付加させようとしたときのことを思い出す。そう、人格を付加させようとしたその時、自身に笑いかけた赤ん坊の頃のエルザの顔を…。その時の感情を思い出し、アイリーンは震えながら歯ぎしりする。
「笑うなーッ!!!!」
アイリーンはそれをかき消すようにして怒号を放つ。
「まだ…諦めてないぞー!!!!」
「がはっ…」
それを聞き、エルザは最後の力を振り絞ってアイリーンに頭突きをかましてみせる。エルザは再度地面へと伏する。
アイリーンはそれでも、体勢を整えて立ちの姿勢を崩さない。
「まだ、詰めが甘いわね…」
アイリーンは再度魔力によって剣を生成する。…そして、小さく笑いかけると、なんと、自身の心臓にその剣を突き刺した。
アイリーンの行動に、エルザ達は目を見開いて驚愕する。
「情けないわ…帝国最強の女魔導士の私が…自分の娘だけは…殺せないなんて…」
「え…?」
アイリーンの行動と言葉を聞き、エルザは困惑して言葉を短く発した。魔力で生み出した剣が掻き消えると同時に、アイリーンは両膝を地面へと着く。
「な、なぜ…」
「さあ…なぜかしらね…」
エルザの問いに、アイリーンは地面を見つめながら小さく呟く。
「思い出したから…じゃないかしら…」
エルザはアイリーンの言葉に、静かに耳を傾ける。ジェラールとウェンディも、驚きつつも、同じようにしている。
「本当は…あなたを愛していたことを…」
「わ、私を…」
「実はね…あなたに人格の付加ができなかったんじゃないの…しなかったのよ…」
アイリーンの言葉に、エルザ達は更に目を見開いて驚きを露にする。
「生まれたばかりの其方が…可愛くてな…」
アイリーンの弱弱しい声に、エルザは小さく涙を浮かべる。自分は…愛されていたのだ。実の母に。それを知り、感情が高ぶったためであった。
「その決心が鈍らないうちに…其方を捨てた…まあ、そんなこと信じては…もらえんだろうが…」
アイリーンはその身を地面へとゆっくりと降ろし始める。
「其方が…笑ったせいで…」
アイリーンはそう言ってゆっくりと目を閉じる。地面へと衝撃するとともに、意識は途切れる。そして死を迎える…。そう思っていた。だが、その身体は地面へと衝撃を果たすことはなく、誰かに支えられるような感覚を覚える。アイリーンはその感覚のもと、ゆっくりと目を開ける。
そして、自身を支えるものを認識しようする。感触からして、男であろうか…。この上ないほどに鍛えられた男の身体…その感触がある。
アイリーンはその男を視界に捉えようと視線を動かす。そして、目を見開く。だが、アイリーンが口にする前に、エルザがその男の名を口にした。
「ア…アレン…」
エルザ達は、アレンの後ろ姿を見て、目を見開いて驚いていた。
「な、なぜ…」
アイリーンは自分を支え、剰え優しく抱きしめるアレンに何とか声を漏らして口を開いた。
「なぜ…か。それは、俺が遠方から戻ってきたことによる疑問か?それとも、お前の命を救うことに対しての疑問か?」
アレンは大穴の開いたアイリーンの心臓を埋めるようにして魔力を注ぎ込む。瞬間、その魔力は回復を帯びたものへと変化し、アイリーンの心臓を、身体を綺麗に修復して見せる。
「い、一体何を…」
アイリーンは、アレンが自信を救うという言葉に、震えて驚きを見せる。先ほどまで死に瀕していた身体が、意識が、少しずつ戻ってくる。
「…それとも…お前を竜から人間へと戻すことに対する疑問か?」
アレンの言葉に、アイリーンは大きく目を見開く。
「人間に…だと…、其方は一体何を…ッ!」
アレンは、アイリーンの疑問を最後まで聞くことなく、言葉を発し、一つの魔法を発動した。
「答えは…全部だ…。八卦解印っ!」
アレンがそう呟くと、アイリーンの身体はオレンジでそれでいて金色を思わせる魔力に包み込まれた。

ヒノエとミノトは、初めてフェアリーテイルのギルドでエルザとジェラールの姿を見たとき、これまでにない衝撃を受けた。それは、よく見知った人物に瓜二つであったからだ。生きていたのか…そう思った。だが、それは一瞬で否定されることとなった。顔も姿も全く同じと言って差し支えなかったその2人は、性格も名も、全く違うものであったからが。だが、容姿だけでなく、エルザにはもう一つだけ同じものがあった。それを聞いた時、ヒノエとミノトは姉妹かと考えた。そして、エルザにそれを問うた。…帰ってきた答えは、「アレンから授かった」というモノであった。それを聞き、2人は確信した。エルザに対して与えたそれは、その瓜二つの人物に重ねて与えたものであったと…。
…だからこそ、目の前に現れた、先ほどまで黄色い光を放っていた人物が誰であったのかを容易に認識することができた。
「カ…カリン…さん…」
「ど、どうして…」
ヒノエとミノトの狼狽した様子に、ラクサス達は驚愕の表情を見せる。だが、その表情はそれに対してではなかった。ヒノエの発した言葉によるものが大きかった。
「カ、カリンだと…」
「それって…」
「ア…アレンの…」
ラクサス、ウル、ウルティアが酷く困惑した様子で口を開く。名前は、数回しか聞いたことがない。だが、アレンにとって特別であったその名は、フェアリーテイルの皆であれば、頭に、心に、記憶に刻み込んでいたものであった。
カリンと呼ばれた女は、ゆっくりと手を添えると、とある魔法を発動する。
「…人を愛せし真の五龍…今ここに顕在せしめる…」
その呟きを聞いたバルファルクが大きく目を見開く。
「バ、バカな…その魔法は…っ!」
バルファルクは酷く狼狽した様子を見せ、半歩身を引く。そんなバルファルクの驚きように、皆も驚いた様子を見せる。
「数多を焼き尽くすは炎竜王、天を裂きしは天空竜、全てを薙ぎ払うは鋼鉄竜、白く染め上げるは白鳳竜、影より翔けるは影翔竜…異形と化した悪竜を、転じてここに滅び去らん…」
カリンの発する言葉に、皆は驚きの表情を生む。特に、ガジル、スティング、ローグの驚きは尋常ではない。それもそのはず…。目の前の女が発した言葉は、自分たちがよく知る竜の異名であったからだ…。
「ッ!…そんな魔法を使わせると思うかッ!!!」
バルファルクはそれを聞き、カリンへと攻撃を仕掛けようとする。だが、その身を動かすのが一瞬遅かった。バルファルクの攻撃がカリンへと伸びるより先に、カリンが詠唱を完成させる方が早かった。
「破道の九十九『五龍転滅』…」
カリンがそう言い切ると、地面を割るようにして圧倒的な魔力が発生する。その魔力は先の詠唱にあった5体の竜を形作る。そして、その竜がバルファルクへと突進していく。
「く、くそがー――!!!」
バルファルクは怒号を発しながら、カリンの魔法へと飲み込まれていく。刹那、5体の竜を象った魔法は凄まじいまでの破壊力と轟音、暴風を伴って衝撃を迎える。
魔導士たちは、その圧倒的な攻撃に驚きながらも、轟音と暴風に身を固めて耐える。暫くして、先の攻撃の波動が収まりを見せたことで、冷静さを取り戻す。そして、皆は視線をカリンへと向ける。
「ほ、本物…なのか?」
「…エルザにそっくり…」
「あれが…カリン…さん?アレンの…恋人…」
「な、なぜわらわの護符から…」
ビックスロー、カグラ、レヴィ、ミネルバが口々に言葉を漏らす。カリンは、そんな魔導士を気にすることなく、とある人物に声を掛けた。
「…久しぶり…ヒノエ、ミノト…」
「カ…カリンさん…どうしてあなたが…」
「あなたは…死んだはず…」
声を掛けられたヒノエとミノトは、嗚咽を漏らすかのように口を開いた。カリンはふっと笑いかけると、めんどくさそうに口を開いた。
「詳しく話すと長くなる…だから簡単に言うわ」
カリンはそう言って、ミネルバへと視線を移す。ミネルバは急に視線を向けられたことで、目を見開き、緊張した面持ちを見せる。
「あの子が持っていた護符…あれは私がアレンにあげたもの…そしてアレンが私を看取った時、アレンが身に着けていた物よ…死ぬ瞬間私の魂の一部があの護符に乗り移った…そして15年以上の時間をかけて少しずつ力を溜め、今こうして姿を現した…ってところよ…」
カリンが簡単に説明したことで、ヒノエとミノト含め、皆の顔に驚愕の表情が浮かぶ。
「ということは…つまり…」
「そう、私はただの幽体…そして、もう溜めていた力も使い果たした…」
ヒノエの質問に、カリンは小さく呟く。と同時にカリンの身体がゆっくりと透けはじめる。
「ッ!カリンさん!」
消えゆくカリンを引き留めようと、ミノトが大きく声を張り上げる。だが、それに反してカリンの身体が更に薄まり、足元から光の粒子となって掻き消える。
「…私が守ってあげられるのは、この一回限り…用心して…あれは、『奇しき赫耀のバルファルク』…アレンや私でも、勝てるかどうかわからない存在…」
カレンの下半身が完全に消失する。
「先の魔法も、バルファルクを倒せるには至らない…でも傷は負わせた…後はあなたたちに託す…」
カリンの身体はほぼすべてが掻き消え、それは顔にも差し掛かる。
「…それと、アレンのことも…たの…む…わよ…」
それを最後に、カリンの姿は完全に消滅するに至った。暫くそれを…カリンの言葉と消失を見届けていた魔導士たちであったが、ヒノエは膝から崩れ落ちたことで、皆は平常心を取り戻す。
「くっ…カリンさんは…アレンさんに会いたかったはず…なのに、最後の機会を…私たちを守るために…ッ!」
「…姉さま…」
ヒノエの言葉に、ミノトは掛ける言葉がないと言った様子で口を紡ぐ。他の者も皆、ヒノエの言葉を皮切りに、苦悶の表情を浮かべて震える。中には、涙を流している者も見て取れた。
そんな絶望に似た雰囲気を更に絶望に染め上げる出来事が起こる。バルファルクが、ゆっくりと先の攻撃が衝撃した元から姿を現した。
「実に残念だ…あの女が生きていれば…アレンと同等の戦いが楽しめたというものを…」
バルファルクの発言をもとに、一人の男がゆっくりと歩みを進める。その男の目には、決意に似た何かが秘められていた。
「ラ…ラクサス…」
その男の名を、カグラは小さく呟く。
「ッ!全員立て!!アレンの女に救われたんだ!!!必ず…必ず俺たちの手で、奴を倒すぞッ!!!!」
ラクサスの怒号に、皆が、ゆっくりと身体を持ち上げる。
「そして…聞いてやろうぜだ!!伝えてやろうぜ!!カリンのことを!!!」
ラクサスはそう言い放つと、バルファルクに向かって駆け出した。他の皆も、それに追従する形で、バルファルクとの戦闘を再開した。 
 

 
後書き
次回更新日は、明日の9月23日(金)朝7時となります。
ストック話数は5話分となっております。
よろしくお願い申し上げます。  
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