相良絵梨の聖杯戦争報告書
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誰がマスターとして舞台にあがるのか?
前書き
あっ……ファンぶった……
「あれ何とかして引っ張れないかしら?」
あれとは言峰神父の事であり、ぼやく若宮友里恵分析官の顔は苦虫を嚙み潰したようになっていたが私は無表情に首を横に振る。
「厳しいですね。
聖堂教会と魔術協会双方にコネがあって、既に聖杯戦争が始まっている中での監督役交代は双方から反発が来るでしょうね」
京都の対策本部のモニターにはCIA提供の遠坂家のサーモグラフィーが映っていた。
一人暮らしのはずなのに、身振り手振りで明らかに誰かと話しているのが分かるあたり、現代技術はすげぇと感心するしかない。
「法政科が動き出して、こっちにも口出ししてきたんでしょう?」
「ええ。
おとなしくしろと非公式の圧力を受けたけど、まだ米国がやる気だから非公式止まり」
「ワシントンDCの赤絨毯のお歴々がどう動くかが焦点でしょうね」
魔術が世界の影に隠れる事ができたのは、日の目に出ないように金やコネを駆使したという努力と歴史の結果でもある。
この聖杯戦争でも極東の地の一事件として処理できるのならば話は違ったのだろう。
2001年9月11日。
ニューヨークのツインタワーに飛行機がつっこむ前までは。
「テロのメリットが現在凄く高止まりしている現状で、冬木大災害クラスの災害が再度米国内で発生する可能性を赤絨毯のお歴々は無視できないでしょう。
この国と同じく選挙もありますし」
この国に居るからあまり意識していないが、米国にも選挙と言うものがある。
そして、その選挙の目玉である大統領選挙がこの年の秋に行われる予定の中、そういうテロが起これば選挙情勢は一気にぶっ飛ぶことになる。
法政科が魔術協会の金とコネを駆使したとしても、隠蔽性が高くその破壊力が戦闘機なみの個人武力なんてものを許容できるはすが無かった。
「冬木大災害がまた国内や米国で起こっていいんですね?」
私を含めたこちら側の人間はこの質問で、ほぼ魔術関係者以外を封殺できたのもこれが理由である。
言峰神父や法政科の化野菱理が我々の動きを封じきれないのも同じ理由だ。
「とりあえず、仕事に戻りましょう。
遠坂家はいつでも電気と水道を止められるようにしましたが、問題はアインツベルンです。
奴らの城は、井戸と発電機でこの手の封鎖は役に立ちません」
アインツベルンの城ある森の地図が置かれたテーブルを二人して眺める。
「急な聖杯戦争だったらしく、城の修理と生活環境の整備はペーパーカンパニーを用いて冬木の業者にさせていたみたいですね。
記憶は消していたみたいですが、納入記録までには手が回っていなかったらしく納入された品物から籠城への耐久が見えて来ますよ」
あの城一つを明るくする電気を生み出す発電機に、その発電機を動かすための軽油のタンク。
そして、三人が生活するための食料を保存する冷蔵庫と生活必需品がアインツベルンのペーパーカンパニーに納品されていた。
「納入された品物を見るに、多分狙い目は発電機を動かす軽油です。
多分、あの様子で使っていったら、一週間経たずに油が足りなくなるでしょう」
記憶を消せると高をくくっているのだろう。
そのあたりの狙い目を遠慮なく突かせてもらう事にしよう。
私たちでなく米軍あたりが。
「そういえば、接触してきたらしい獅子劫界離って男の行方が分からないのよね」
「安倍さんの知り合いらしく、後で触媒をお願いしてきましたよ。
鞍馬山の天狗の羽団扇を」
安倍さんが私たち側の人間という事を察して依頼してきたみたいで、受け取る予定の冬木のコインロッカーには未だ現れていない。
「召喚するとしたら鞍馬天狗かしら?」
「鬼一法眼かもしれませんがね。
何が出るか分からない縁召喚をするよりはましなんでしょうね」
聖杯戦争はある意味西洋系魔術によって英霊を召喚するという事から、東洋のというか日系の英霊を呼べないと言われているが、安倍さんの屋敷で見たシャドウサーヴァントが鬼だった事から、私たちは多分呼べると判断していた。
そのあたりを獅子劫界離が知らない訳がなく、私たちへのブラフだろうと判断していたが無視する訳にもいかない。
「そういえば、あのCIA来ないですね?」
大体監視も兼ねてここに来るはずのCIAのアンジェラの姿が見えない事を私が尋ねると、若宮分析官は白々しい顔でその理由を告げる。
「向こうはマスターを用意して参戦するんでしょう?
下手に私たちに情報を与えたくないんじょうね……もしもし?
え?テレビ??」
言われるがままにテレビをつけると飛行場みたいなところが一面大火災に陥っていた。
テロップには『横田基地にて米軍機墜落炎上』と書かれている。
「まさかこれ……」
「絵梨ちゃん。
多分当たっているわ。
ひそかに監視していた連絡員からの電話だったんだけど、カーシュラという魔術師が今日ここで召喚の儀式をやっていたらしいわ」
若宮分析官はそこまでしか言わなかったが、それで十分だった。
米軍が雇ったカーシュラという魔術師は何を呼び出して、何を失敗したのか今の私たちに分かるはすがなかった。
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