ウルトラマンカイナ
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銀華編 ウルトラクルセイダーファイト 前編
前書き
◇今話の登場メカ
◇BURKプロトクルセイダー
BURKセイバーの後継機として開発が進められている、次期主力戦闘機「BURKクルセイダー」の先行試作型。GUYSガンクルセイダーを想起させる曲線的なフォルムが特徴であり、メインパイロットとナビゲーターに分かれた複座式となっている。リーゼロッテをはじめとする女性パイロット達が搭乗する。
※原案は魚介(改)先生。
※こちらのイラストはたなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂きました! 空を駆け抜けるBURKプロトクルセイダーと、その僚機の側を飛んでいるリーゼロッテの姿をカッコ良く描いた珠玉の1枚! たなか先生、この度は誠にありがとうございました!
――ホピス星の戦いから、約半年後。地球では再び怪獣や異星人らによる侵略が頻発するようになっていた。
弘原海や駒門琴乃をはじめとするBURKの隊員達は皆、毎日のように戦場へと駆り出されるようになっていたのである。
そしてこの当時、そんな彼らと肩を並べ、地球を守り続けている光の巨人が居た。ウルトラマンカイナに続いてこの地球に降着した第2の戦士――ウルトラアキレスだ。
19歳の大学生・暁嵐真の身体を借りてこの地球に常駐していた彼は、地球の守護を担う当代のウルトラ戦士として、怪獣や異星人の侵略に何度も立ち向かっていたのである。
これは、そんな戦いの日々が始まって間も無い頃のことであった。
◇
「それは本気で仰っているのですか、綾川司令官ッ!」
「……これほどタチの悪い冗談を、このような場面で口にすると思うかね。残念だが、これは内閣総理大臣の決定だ。我々には従う義務がある」
BURK日本支部の基地に設けられた、作戦司令室。そこに響き渡る弘原海の怒号に対し、綾川司令官は眉一つ動かすことなく冷酷な「指令」を告げていた。
――約10時間前。地球近辺の宙域をパトロールしていた駒門琴乃のBURKセイバーが、とある宇宙怪獣の襲撃を受けたのである。
クラゲ状の身体と7本もの触手を持ち、「円盤生物」とも呼称されているその怪獣の名は、シルバーブルーメ。
ドイツ語で「銀の華」を意味するこの怪獣は、防衛チーム「MAC」を壊滅させた凶悪な生物として記録されている魔物なのだ。
しかもこの個体は、救援に駆け付けて来たウルトラアキレスを撃退してしまうほどの戦闘力を有しているのである。シルバーブルーメの体内に取り込まれた琴乃機を救出できないまま、未熟な真紅の巨人は7本もの触手によって叩き落とされてしまったのだ。
基地の医務室で眠り続けている暁嵐真は起き上がることすら困難なほどの重傷であり、例え意識を取り戻したとしても万全に戦える状態には程遠い。日本支部は今、ウルトラアキレスの敗北という残酷な事実に直面している。
そんな中。その事実を受けた政府から日本支部へと、冷酷な「指令」が通達されたのである。
――シルバーブルーメが大気圏を突破して地球に降下して来る前に、大型レーザービーム砲「シルバーシャーク」で迎撃、これを撃破せよ。
それは事実上、シルバーブルーメに取り込まれた琴乃を見殺しにするという判断であった。
「シルバーブルーメの体内に取り込まれた駒門のBURKセイバーから、生命反応が出ていることは司令もご存知でしょうッ!? アイツはまだ生きているんですよッ!」
「だからと言ってこのまま奴の降下を許せば、地上の市街地に甚大な被害が出る。……MACの全滅後に起きた惨劇は、君も知っていよう」
超獣を撃破した実績もあるシルバーシャーク砲ならば、確かにシルバーブルーメも容易く倒せるだろう。だが、琴乃が搭乗しているBURKセイバーは確実に助からない。
故に弘原海は隊長として、人間として、断固として反対しているのだ。綾川司令官はそんな彼の想いと怒りを承知の上で、彼の怒号を一心に浴びている。
遥か昔、シルバーブルーメの急襲によりMACが全滅した直後。当時の市街地に設けられていたデパートが、その円盤生物の襲来を受け、為す術もなく蹂躙されるという事件が起きていた。今回の決定を下した総理大臣の身には、その惨劇で家族を喪った遺族の血が流れているのだ。
シルバーブルーメが地上で起こした、凄惨たる怪獣災害。その地獄を味わった遺族を先祖に持つ彼が、今回の決定に踏み切るのは必然だったのだろう。その過去を知るが故に、綾川司令官は総理の判断を恨むことすら出来なかったのである。
「……私を殴って君の溜飲が下がるのなら、そうすれば良い。私を殺せば駒門隊員の命が救われるというのなら、この老耄の首など喜んで差し出そう」
「司令……!」
「それでも私は牙無き人々を守るBURKの司令官として、然るべき決断を下さねばならんのだ。ここで業を背負えぬようでは、それこそ梨々子に合わせる顔がない」
より多くの市民を救うため、自分を慕っていた部下を殺す。その深き業を背負い、シルバーブルーメを討つという覚悟を決めた綾川司令官は、一歩も退くことなく毅然とした佇まいで弘原海と向き合っていた。
大切な愛娘を想う1人の父親として。より多くの人命を預かるBURKの司令官として。葛藤という道のりをすでに乗り越えた、1人の大人として。彼は、全ての重責を背負う決意を固めていたのである。作戦司令室のデスクに置かれた灰皿には、彼の苦悩を物語るかのような、吸い殻の山が築かれていた。
そんな彼の悲壮な信念を目の当たりにした弘原海は、怒りとも悲しみともつかない表情で唇を噛み締める。この会話を琴乃が耳にしていれば、自分に構わず撃ってくれと懇願していたのだろう。そこまで想像がつくからこそ、苦しまずにはいられないのだ。
そして言葉を失った弘原海に対し、話は終わりだと言わんばかりに綾川司令官が踵を返した――次の瞬間。この一室を満たす暗澹とした空気を浄化するかのような、甘い匂いが吹き込んで来る。
「そんな業を独りで背負おうなんて、思い上がりが過ぎるんじゃないですかぁ? あの喧しい乳牛女が居なくなったら、それはそれで張り合いがなくてつまらないんですけどぉ?」
「……! お、お前達は……!」
作戦司令室のドアをノックも無しにいきなり開き、ずかずかと押し入って来る無礼な集団が現れたのである。だが、弘原海の表情を染め上げたのは怒りではなく、驚きの感情であった。
かつてのBURK惑星調査隊に参加していた女性隊員にのみ支給されていた、赤いレオタード状の特殊戦闘服。鼠蹊部に深く食い込んでいるそのスーツを纏う美女達が、「久方振り」に弘原海の前に現れたのだ。
「久しいな、弘原海隊長。このような状況下で言うことではないかも知れんが……壮健なようで、実に何よりだ」
艶やかな黒髪を靡かせ、100cmもの爆乳をどたぷんっと弾ませている、ヴィルヘルミーナ・ユスティーナ・ヨハンナ・ルーデル。
「駒門隊員のピンチとあっては、私達だって黙ってはいられませんからねっ!」
「……あなたが黙ってたことなんかないでしょう、八木」
拳を握り締め、勝ち気な笑みを浮かべている八木夢乃と、そんな彼女を嗜めている望月珠子。
「多くの実戦経験を持つ熟練隊員の殉職は、残された隊員達の士気にも関わる。……怪獣災害の終わりが見えない今、彼女を捨て石にするという判断は合理性に欠けるわ」
「……要は駒門が心配だって言いたいんだろ? いちいち理屈っぽいんだよなぁ、アリアは」
「あなたが感覚に頼り過ぎなだけよ、クーカ」
アリア・リュージュの「分析」に苦言を呈する、ラウラ・"クーカ"・ソウザ・サントス。
「駒門隊員は私達の大切な仲間なんだから、見捨てるなんてあり得ないよっ!」
「……僕も同意見だ。パイロットが減ると、その分だけ僕達の仕事も増えてしまうからね」
「もーっ、だめだよ! こんな時まで意地悪言ったら!」
「ふふっ……これは失礼。だけど、死なれたら困るという気持ちは本物さ。……彼女は、これからのBURKに必要な存在なのだからね」
アルマ・フィオリーニに可愛らしく叱咤され、飄々とした微笑を浮かべている劉静。
「皆の言う通り、琴乃は大事な仲間だし……これからのBURKには絶対に絶対に、必要な人なんだよ! こんな形でお別れなんて、私は嫌だからねっ!」
「私も……彼女を見捨てることなんて、このまま指を咥えて見ているなんて……出来ませんっ!」
勢いよく声を上げるナターシャ・ジャハナムと肩を並べ、懸命に琴乃の助命を懇願するエリー・ナカヤマ。
「ふふ〜んっ……ほーら、私の元部下達もこう言ってるんですよぉ? いいんですかぁ〜? 本当にこのままでいいんですかぁあ〜?」
そして――くびれた腰に手を当て、102cmの爆尻をばるんっと揺らしているリーゼロッテ。
かつてBURKセイバー隊として、弘原海や琴乃と共にホピス星で戦っていた彼女達10名が、この作戦司令室に勢揃いしていたのである。リーゼロッテをはじめとする女傑達は皆、自信と決意に満ち溢れた表情を浮かべていた。
雄の情欲を煽る豊満な乳房と巨尻がぷるんと弾み、むちっとした肉感的な太腿をはじめとする瑞々しい柔肌が、芳醇な色香を放つ。ホピス星の戦いを経て、彼女達の肉体はより「成長」していたらしい。
駒門琴乃にも劣らぬ濃厚な色香の持ち主であり、BURK内外を問わず数多くの男達を、すれ違うだけで魅了して来た絶世の美女達。彼女達の柔肌から漂う蠱惑的なフェロモンは、暗く澱んでいた作戦司令室の空気を一変させていた。
「お前達、どうしてここへ……! というか、ここまで一体何しに来やがった!?」
「ふんっ、相変わらず頭の回転が鈍いゴリラですねぇ。……総理の決定に納得していないのは、あなただけではないってことですよ」
「……政府から直接命令を受けた部隊はすでに、シルバーシャーク砲の発射準備を始めている。予定通りに準備が完了し、砲撃が開始されるのは時間の問題だ。君達ならばその前に、あのシルバーブルーメを倒して駒門隊員を救出できるというのかね?」
「私達10人だけ……では無理でしょうねぇ。でも、黙ってられない人は他にもいるみたいですよぉ?」
「……!」
綾川司令官の言及に対し、小生意気な微笑を浮かべるリーゼロッテ。そんな彼女の背後に現れたのは――上半身に包帯を巻いたまま、ここに足を運んでいた暁嵐真だった。
全身傷だらけになりながらも、燦然と輝くその双眸は闘志に満ち溢れている。その手に握られたアキレスアイも、出番を待っているかのように煌々と輝いていた。
「弘原海隊長、俺も戦います……! 琴乃さんをこのまま見殺しになんて出来ないし、させるわけには行かないッ! この人達もそのために、世界各国の基地から駆け付けて来たんですッ!」
「……って、ウルトラアキレスご本人も言ってるみたいですよぉ? うだうだ迷ってる暇なんて、ありませんよねぇ?」
琴乃の窮地と日本政府の決定を聞き付け、世界各国の支部から急行して来た10人の女傑。そして、傷付いた身体を奮い立たせて再戦の意思を表明したウルトラアキレスこと、暁嵐真。
これだけの条件が揃った今ならば、可能かも知れない。琴乃の救出と、シルバーブルーメの打倒。その両立を実現出来る光明が、差し込んだのかも知れない。
「司令……!」
「……君達の信念、よく理解した。だが、私の権限でも発射そのものを止めることは出来ん。せいぜい、発射時刻を少し遅らせる程度が関の山だ。それで構わんか?」
「ふふんっ、上等ですよぉ綾川司令。その僅かな誤差で、この運命……変えて見せようじゃあないですかっ!」
やがて、そこに希望を見出した弘原海と綾川司令官が互いに頷き合い、リーゼロッテが高らかに声を上げた瞬間。駒門琴乃の救出を視野に入れた両面作戦が、幕を開けたのだった。
◇
生理的嫌悪感を煽る、禍々しい色の粘液が視界の全てを覆い尽くしている。周囲の景色はその粘液によって歪められ、逃れられない「死」の瞬間が近付きつつあることを示していた。
そんな絶望感な世界――シルバーブルーメの体内に囚われていた駒門琴乃は、憔悴し切った様子でその光景を眺めている。
パトロール中に突然襲撃を受け、乗機のBURKセイバーもろとも体内に取り込まれてから、すでに10時間以上が経過しようとしていた。
「……どうやら、私の悪運もここまでのようだな」
彼女を乗せたBURKセイバーの装甲はシルバーブルーメの体液によって徐々に溶解し始めており、原型の維持すら困難なほどにひしゃげていた。
何も出来ず、ただゆっくりと迫り来る死を受け入れるしかない。そのような状況に長時間置かれれば、厳しい訓練を受けたBURK隊員の精神力でも耐え切れないのだろう。
「だが……私とて、人類の矛たるBURKの隊員だ。このままタダで死んでなるものかッ……!」
一種の自暴自棄なのか。虚な目で自爆スイッチに視線を移した彼女は、救助を待たずしてシルバーブルーメを内側から吹き飛ばそうとする。
だが、彼女の震える指先はどうしても、その先にあるスイッチを押し切れずにいた。やがて自嘲の笑みを浮かべ始めた彼女は、力無く手を下ろしてしまう。
「……ふ、ふふっ。何がBURKの隊員だ、笑わせる。ただの学生だった嵐真をウルトラマンとして戦わせておいて、自分は死を恐れるとはなっ……!」
ウルトラアキレスとして地球を救う宿命を帯びてしまった青年、暁嵐真。ただの学生だったはずの彼を戦いに駆り出していながら、BURKの隊員である自分が死を恐れている。
その現実に直面した彼女は己の弱さを嘆き、悔しさに拳を震わせていた。
「……!?」
そんな時。聞き覚えのある轟音が遥か遠くから響き渡り、彼女はハッと顔を上げる。それはまさしく、BURK製戦闘機のエンジン音だったのだ。
「こ、この音は……まさか!?」
その「音源」が凄まじい速さで近付いてくる。しかもそれは、1機や2機ではなかったのだ。
琴乃がその異変に気付いた時にはすでに――地上の基地から飛び立ったBURKの戦闘機部隊が、宇宙を漂うシルバーブルーメの姿を捕捉していたのである。
しかも。純白に塗装された流線型のボディを持つ、その機体は――ただの宇宙戦闘機ではなかったのだ。
BURKセイバーの後継機として開発が進められている、次期主力戦闘機――「BURKクルセイダー」。
その先行試作型として僅か5機だけ生産された、複座式宇宙戦闘機「BURKプロトクルセイダー」だったのである。
後書き
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