リーゼロッテ達の眼前で猛威を振るっていたキングジョーは、その常軌を逸したパワーだけを武器に、ウルトラ戦士達を圧倒していた。だが、その規格外な馬力を目の当たりにしてもなお、ウルトラマン達は怯むことなく肉弾戦を仕掛けている。
『……ウルトラマンにばっかり良い格好させるもんですかっ! レーザーがダメならミサイルで吹っ飛ばしてやるまでですッ! 全機、両翼部ミサイルで上空から仕掛けますよッ!』
『了解ッ!』
だが、キングジョーに立ち向かっているのは彼らだけではない。強さと気高さ、そして美しさを兼ね備えたBURKの女傑達も、ただ見ているわけではないのだ。彼女達は同時に操縦桿を引き上げ、キングジョーの頭上を取るように急上昇して行く。
リーゼロッテ機を筆頭とする10機のBURKセイバーが、両翼部に搭載されている
奥の手の安全装置を同時に解除したのは、その直後であった。
『1発限りなのですから無駄撃ちは許しませんよっ! 外した子には私の足を舐めてもらいますからねっ!』
『隊長こそ外さないでくださいよっ!』
レーシングシート状の操縦席にむにゅりと乳房を押し当てながら、むっちりとしたヒップをぷりんっと突き上げて操縦桿を握り締めている、BURKセイバーの美女パイロット達。リーゼロッテを筆頭とする彼女達も、その命を愛機に託し、この戦場の空を駆け抜けているのだ。
『ざぁこ、ざぁこッ! よわよわロボットッ! 私達BURKを、
無礼るなッ!』
『はぁあぁあぁあーッ!』
愛機が空を切るたびに飛び散る健康的な汗に、甘い女の芳香を滲ませて。しとどに汗ばんだ肉体を前方に傾け、扇情的な曲線を描く背を弓なりに反り。安産型の桃尻をばるんっと後方に突き出しながら、彼女達は上空からの急降下攻撃を仕掛けていた。その衝撃により、レオタード状の戦闘服がより深く、彼女達の鼠蹊部に食い込んで行く。
『見ろ! リーゼロッテ達が上昇して行くぞ……!』
『……皆、今だ! 全員でキングジョーを抑えろッ!』
『おうッ!』
一方。シュラを筆頭とするウルトラマン達は、BURKセイバー隊の挙動から急降下攻撃の角度を予測し、同時に動き出して行く。キングジョーは一斉に組み付いて来た彼らに手足や身体を掴まれ、身動きが取れない状態に陥ってしまうのだった。
そして――その内部機構が露出している箇所を狙い。濃厚なフェロモンを滲ませた汗を、その肉体から振り撒く美女パイロット達は、両翼の下部に搭載されたミサイルの引き金を引く。
『いっ……けぇぇえぇーッ!』
両翼から解き放たれた弾頭の豪雨がキングジョーの頭上から降り掛かり、外装に守られていない機構部分を次々と吹き飛ばして行った。
ライトンR30爆弾をベースに量産された新型ミサイルには、さしものキングジョーもノーダメージとは行かないようだ。ウルトラマン達に拘束されたまま弾頭を浴び続けたキングジョーの全身からは、黒煙が立ち昇っている。
『やった……! 全弾命中ですよ、望月先輩っ! これならあのキングジョーもイチコロ……うひゃあっ!?』
『集中しなさい八木ッ! まだ戦闘は終わっていないわッ!』
『皆、無事か!? こんなところで堕とされるんじゃあないぞッ! 我々BURKセイバー隊は、全員で生きて地球に帰らねばならんのだッ!』
だがキングジョーはまだ沈むことなく、四方八方に破壊光線を乱射していた。乱れ飛ぶ金色の熱線が、10機のBURKセイバーに容赦なく襲い掛かる。
八木が搭乗するBURKセイバーの片翼を、その熱線が僅かに掠めて行く。望月とヴィルヘルミーナの乗機は、間一髪その閃光を回避していた。急激な旋回によってコクピットが大きく揺さぶられ、彼女達の乳房がどたぷんっと躍動する。
彼女達の白く豊満な肉体は冷や汗でじっとりと濡れそぼり、コクピット内を芳醇な香りで満たしていた。一方、他の機体も乱れ飛ぶ破壊光線の回避に徹している。
『ハッ、そんな甘い狙いで俺を墜とせると? 舐められたもんだぜッ!』
『クーカ、油断しないで! この不規則な光線の連射……私達のデータには無いわッ!』
『足りないデータは「勘」で補って来たのが俺達だろうが! 今さらそれくらいが何だってんだよッ!』
クーカとアリアの機体はパイロットの身体が小柄な分、追加の演算装置が増設されており、戦闘中での情報分析能力が他の機体よりも高くなっている。10機のBURKセイバーが寸分の狂いもなく急降下爆撃に成功したのも、彼女達の機体に搭載された演算装置の補助があってこその成果だったのである。
そのアドバンテージと長年の操縦技術を活かした高機動で、彼女達は破壊光線を難なくかわし続けていた。
『……! アルマ、その角度で飛んではいけないッ!』
『えッ!?』
だが、全てのパイロットが彼女達ほどの練度に達しているわけではない。直撃コースに入りかけていたアルマ機を庇うように飛び込んで来た劉静機が、片翼を消し飛ばされてしまったのである。
『うあぁああ……ッ!』
『劉静ッ! 隊長、劉静機が被弾ッ!』
『何ですって!? アルマ、劉静機の状況は!?』
男性的でありつつも、どこか扇情的でもある劉静の悲鳴が全機の通信機に入って来る。だが、焦燥を隠し切れないリーゼロッテの問い掛けにアルマが応えるよりも早く、劉静機は片翼を失いながらも辛うじて体勢を持ち直していた。
『リ、劉静……!』
『……片翼は失いましたが、まだ飛べますよ隊長。アルマ、君こそ無事だったかい?』
『わ、私は全然平気だよっ! それより劉静こそ……!』
『ふふっ……この前の約束とは逆になってしまったけど、こういうのも悪くはないね』
九死に一生を得た劉静は、しとどに汗ばみながらも不敵な笑みを溢している。コクピットのキャノピー越しに、心配げに見守るアルマやリーゼロッテに微笑み掛けながら、彼女は安堵の息を漏らしていた。
他人を体良く利用している魔性の男役。自分がそう噂されること自体を疎んだことはないが、それでもやはり、自分を純粋に認めてくれる仲間達に誤解されたくはなかったのだ。
その可能性を少しでも払拭出来るのなら、こうして誰かの盾になるのも悪くはない。そんな胸中を滲ませるように、劉静は憔悴しつつも蠱惑的な笑みを溢していた。シートに押し付けられた彼女の乳房は、むにゅりと扇情的に形を変えている。
『エリー、今の状態で劉静の機体を狙われたら今度こそ助からないよ! 私達で仕掛けようッ!』
『……はいっ! 劉静さんを死なせるわけには……行きませんっ!』
一方、片翼を失った劉静機の姿を目の当たりにしたナターシャ機とエリー機は、キングジョーの狙いを引き付けるべく機首部のレーザー銃を連射していた。
一つの部位を執拗に狙い続け、相手の動きを阻害する戦法を得意とする彼女達の攻撃が、さらなる爆炎を呼び起こしている。
『各機、深追いは禁物です! ミサイルは確かに効いているのですから、無茶はしないでくださいッ! 高度を上げて距離を取りますよッ!』
『……了解ッ!』
リーゼロッテを筆頭とする女傑達はミサイルの効き目に確かな手応えを覚えつつ、すれ違いざまに操縦桿を引き戻して高度を取り戻して行く。艶やかな髪からふわりと漂う甘い香りも、瑞々しい柔肌を伝う汗の匂いも、彼女達のコクピット内を優しく満たしていた。
‘『ギ……ガ、ガガ……!』
――その一方。大破寸前となっているキングジョーは暴走を続けながら、不規則な電子音を発していた。そこには、開発者であるペダン星人にしか理解できない一つのメッセージが込められていたのである。
『オ……オデ、マモル……! ミンナ、マモル……!』
◇
希望と
平和を愛する人々が穏やかに暮らしていた、緑豊かな惑星――ホピス。
その美しい大地が「恐ろしい侵略者達」に狙われていることに気付いていたホピス星人達は、ペダン星人との交易を経てキングジョーを「輸入」していた。
どのような世界にも、戦うことでしか守り抜けないものがある。それを理解していたホピス星人達は、ペダン星が誇る最強の宇宙ロボットに母星の未来を託し、敢然と立ち上がったのである。
彼らにとってのキングジョーはまさしく、母星を守護する「鋼鉄の騎士」であった。その願いを託された特別改修機は、「ホピスナイトカスタム」という個体名を冠していたのである。
そして――そんなキングジョーには、ある一つの「特徴」があった。優れた継戦能力を維持するため、より高精度な人工知能を搭載していたその機体には、「心」があったのである。
あまりに精度が高い人工知能は、ホピス星人達との交流という「学習」を経て、人類が持つ情緒の動きを習得していたのだ。
そんなキングジョーに一輪の花を捧げていた1人の少女の言葉が――今もなお、人工知能の深層部に刻まれているのである。
――わたしたちを、まもってね。
そう微笑んでいたホピス星人の少女は、この惑星を焼き尽くした光波熱線に飲み込まれ、数え切れない犠牲者達の1人となった。
平和への祈りを一身に背負い、この星を守り抜くはずだった鋼鉄の騎士は。何の役にも、立たなかったのである。
――おれは、まもる。みんなをまもる。
どの口が言うのか。何も出来なかったというのに。全てが滅びた今になって、何から何を守ろうと言うのか。
それが分からないような知能ではない。キングジョーの頭脳はすでに、己の存在そのものが無意味に終わったことを理解していた。
だが、高度な人工知能が得てしまった「心」という「エラー」が、納得を拒んでいたのである。まだ自分は負けていない、まだ戦いは終わっていない。
その暗示を己に掛けていたキングジョーは、BURK惑星調査隊を侵略者と見做し、攻撃を開始したのである。自分の敗北を認められない哀れな人形は、この期に及んで無意味と知りながら、己のアイデンティティを闘争によって取り戻そうとしていたのだ。
何の役にも立たなかった、穀潰しの騎士は。ただひたすらに、惨めであった。