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人を呪わば

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第一章

                人を呪わば
 身体が小さく弱く学校の成績も悪かった、その為野上信彦はいつもいじめられていた。その為だった。
 元予科練で航空自衛隊でパイロットだった曾祖父の芳朋に言うと彼は曾孫に対して強い声で答えた。
「ひい祖父ちゃんは予科練だった、予科練はいじめられなかった」
「そうだったんだ」
「シゴキは凄かったがな」
 それでもというのだ。
「戦場に出てから自衛隊に入ってからはな」
「いじめられなかったんだ」
「元予科練だと言われてだ」 
 それでというのだ。
「いじめられなかった」
「それはどうしてなの?」
「いつも勉強をして厳しい訓練を積んでな」
 そうしてというのだ。
「頭も身体も凄く鍛えていたからな」
「だからなんだ」
「そうだ、とても強いと思われていたからな」
「強かったからなんだ」
「いじめられなかった、誰からも頼られていた」
「じゃあ僕も強くなったらだね」
「ああ、いじめられなくなるぞ」
 曾孫に笑って話した。
「絶対にな」
「じゃあ僕強くなるから」
 曾祖父に誓う様に答えた。
「絶対にね」
「そうなるんだ、いじめられたくないならな」
「絶対にあいつ等見返すよ」
「そうするんだぞ」 
 この時曾祖父は曾孫の言葉にあるものを見落としていた、見返すという言葉に何があるのか。そしてだった。
 信彦はこの日から毎日勉強に励む様になり空手もはじめた、そうして人の何倍も努力していき。
 すぐに小学校二年で喧嘩は一番強いと言われる様になった、成績もトップクラスになった。それからもだった。
 彼は常に学年で一番強く成績も優秀であり中学でも高校でも評判であり大学でもだった。 
 優秀な学生として知られていた、しかし。
 彼の所属するゼミの教授である長内裕は心配そうに周りに話した。
「野上君だが」
「優秀な学生さんですね」
「そうなんだが」
 自分の下にいる院生に話した。
「しかしどうもね」
「何かありますか?」
「あの目を見ていると」
 野上のそれをというのだ。
「怖い時があるんだ」
「そうですか?」
「どうもね」
 こう言うのだった、四角い眼鏡の奥の理知的な目を顰めさせて。四角い顔で半分白くなっている髪の毛を江戸時代の医師の総髪の様にしている。一八〇以上の背で体格は趣味のジム通いの為かなり逞しい。
「怨みや憎しみが感じられて」
「それって僕達を」
「いや、私達はそうは見ていないみたいだが」
「ならいいじゃないですか」
「怨みや憎しみはそれ自体がよくないんだ」
 こうも言うのだった。
「もうね」
「よく言われますね」
「それが一番心を歪ませる」
「それも言われていますが」
「事実だからね」
「物凄い優秀ですよね」
 院生は教授に話した。
「野上君は」
「院に残ると言っているね」
「はい、そう」
「フェシングをやっていてだ」
 長内は野上のこのことを話した。 
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