相良絵梨の聖杯戦争報告書
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令呪オークション その4
京都。
この国の霊的な都の一つであると同時に、積み重なった呪の都でもある。
現在、私と姉弟子様と六導玲霞の三人は安倍雨月さんの管理する屋敷に匿われていた。
「私自身にはたいした力はありませんが、この屋敷は昔から京の鬼たちを歓待する為に作られまして。
西洋の方々のおもてなしはとりあえずできるかなと」
とはわざと標準語を喋ってくれる安倍さん。
なお、京の鬼ってのは酒呑童子や茨木童子あたりの事を指すのを知っていると、この屋敷対鬼用の霊地というか神殿だったりする訳で。
千年の都の業や呪すら組み込んだこの神殿なら大丈夫……といえないのが聖杯戦争の恐ろしい所。
呼び出されたキャスターがメディアという神代の魔術師なので、彼女あたりなら突破しそうなのが怖い。
「魔術師連中の追手とか大丈夫かしら?」
「大丈夫だと思いますよ」
姉弟子様の呟きに私が返事をする。
逃げ出したのが昼間だったのが大きい。
そのまま新幹線で京都。
隠ぺいするには大きすぎる人の中で逃げ続けた結果、彼らは京都に入るまで手出しはついにしなかった。
そして、京都からここに来るまでの魔都の瘴気が追手を困らせる。
「木を隠すには森の中。
魔的なものをここで探すには直に足を踏み入れないと無理でしょう。
そして、魔は魔に魅かれます。
踏み込んでた来たなら、追うどころの騒ぎじゃなくるでしょうね」
我々が対策本部を京都に置いたのもこれが理由である。
この国の魔的な物が折り重なっているこの都は、知らない者が気軽に入れる場所ではないのだ。
「で、この令呪ですか何とかなりそうですか?」
「まぁ、これも呪いみたいなものですから大丈夫でしょう」
ここに来たもう一つの理由が、令呪の剥ぎ取りである。
既に襲撃を受けている以上、誰が敵に回るか分からない。
襲撃理由の令呪を消す事は、この場の人間で誰も反対しなかった。
「要するに身代わりの符なり人形なりを用意して、そっちに令呪を認識させます。
令呪が移ったそれは煮るなり焼くなりお好きなように。
それよりも……」
安倍さんは私と姉弟子様を呼び寄せて外の監視カメラを見せる。
カメラ越しにも関わらず、明らかに何かが居るのが分かった。
「多分、令呪に惹かれてやってきたんでしょうな」
「もし、召喚したらあれがサーヴァントになるのでしょうね」
安倍さんと姉弟子様ののんびりした会話を横目に、私はカメラを拡大してその何かを拡大する。
影みたいな姿の頭部にでっぱりが二つ。
「耳ならいいけど……角?」
「鬼でしょう。京都ですから」
あっさりと言う安倍さんだが、そんなのが闊歩してのんびりと言うあたりでこの人の力量が分かろうというもの。
こういう人たちの努力でこの国の霊的ものは守らているのだった。
「で、移した令呪は使えます?」
「使おうと思えば使えますが、止めた方がいいと思いますよ」
私の質問に安倍さんはおっとりした声で否定する。
理由はと私が聞く前に理由を口にした。
「これが呪いの類だからですよ。
呪いは必ず己に返ってきます。
逆凪対策もせずに、願いを祈るなんて恐ろしい事をしたいですか?」
同時に首を横に振る私と姉弟子様。
あくまで西洋魔術の術式でそのあたりをごまかしているが本質は変わらない訳で。
過去の聖杯戦争の失敗もこのあたりがあるのかもしれないなとなんとなく思っていたら、この屋敷の備え付けの電話が鳴る。
安倍さんが私たちに聞こえるようにして受話器を取ると、知らない男の人の声が流れてきた。
「安倍の旦那。
相変わらずのんびり茶でもすすっているのかい?」
「そんな所ですよ。
久しく見ませんでしたが、元気そうでなりよりですよ。
獅子劫界離さん」
私はオークション参加者の資料を思い出す。
たしか彼はこの国に流れてきた魔術師で死霊魔術を使っていた。
だったら、この国の京都がとういう場所であり、安倍さんの家系が何処に繋がっているか分かるだろうから……ん?
久しく……この二人知り合いかよ!?
「昔話は後にして本題に入ろう。
あんたの所に来ている令呪を買い取りたい。
十億で」
安倍さんは私の方を見るが、私は即座に首を横に振った。
そのままペンを取り、書いたものを安倍さんに見せる。
「残念ですが、もう令呪は使えないようにしてしまった後なんですよ。
まだマスターは四人までしか埋まっていません。
冬木に行って召喚の儀式を行った方が早いですよ」
「……そうか。
邪魔したな。
この仕事が終わったらそっちに寄るから、茶でも飲みつつ話でもしようや」
電話が切れる。
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトみたいに突っ込んでくるかと怯えたのだが、傭兵らしい慎重さでこちらを敵に回す事は避けたらしい。
彼が聖杯戦争に参加するのならばその勝利こそが目的であって、私たちみたいなその周辺で後始末に奔走している表の人間を敵に回すなんて余裕はないだろうからだ。
六導玲霞の髪の毛と血を編み込んだ身代わり人形に令呪が移り、その令呪ごと護摩の火の中にくべられて煙となってゆく。
(……なんや。つまらんなぁ。
久しぶりに遊べるとおもったんに……)
そんな声が私に耳に届いたような気がしたが、気のせいと思う事にした。
東京に帰った私たちに、言峰綺麗から遠坂凛がサーヴァントを召喚した事が留守電に入っていた事を知る前の話である。
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