海産物は好きでも
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第一章
海産物は好きでも
鈴木郁恵は大の海産物好きだ、魚だけでなく貝も甲殻類も蛸も烏賊も海草も大好きだ。それでいつもだった。
刺身に焼いたものに煮たもの、揚げたものに酢のものを食べていた。それで今は同居している息子夫婦と孫の勝昭にだった。
夕食の時に買ってきた鯨のベーコンとさらし鯨を出して笑顔で言っていた。
「懐かしの味よね」
「お袋自分で買ったのかよ」
「そうしたんですか?」
息子の崇も嫁の黒子も少し驚いている、息子は落ち着いた顔立ちで眉が太く黒い髪の毛をオールバックにしていて背は一七一程で少し肉がついてきている感じだ、嫁は一五〇程の背で楚々とした雰囲気で垂れ目に黒い髪の毛をロングにしている。
「わざわざ」
「そこまでして食うのかよ」
「母さんは鯨好きだしな」
幾重の夫の仁は素っ気なく言った、崇が歳を取って白髪になって黒髪をざんばらにした様な外見である。
「だからな」
「そうよ、海のものは何でも好きだけれど」
郁恵自身も言ってきた、黒髪をパーマにしていて目尻の皺が目立つ笑った感じの目に細い眉にふっくらとした頬と優しい感じの唇にと小柄で豊満な身体である。
「鯨も好きで特価だったから」
「買ってきたのかよ」
「そうされたんですか」
「そうよ」
その通りという返事だった。
「昔はもっと食べられたけれどね」
「今はやっとだな」
夫が応えてきた。
「捕鯨出来る様になったからな」
「昔みたいにね」
「これから戻れるかもな」
「そうなってきたけれどでしょ」
「長い間違ったからな」
「だから鯨もそうは食べられなかったけれど」
それでもというのだ。
「そうなってきていて今日はね」
「特価だったからか」
「買ってきたのよ、皆食べてね」
「今日は唐揚げだけれどな」
息子はそれはと言った、サラダもある。
「それでも鯨もか」
「皆で食べましょう」
「お袋本当に海のもの好きだな」
息子はこうも言った。
「昔から」
「大好きよ、じゃあ食べましょう」
鯨もというのだ。
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