魔法使い×あさき☆彡
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第三十章 わたしたちの世界、わたしたちの現在
1
いまの、ヴァイスちゃんの話って……
ま、まさか……
いや、でも、そんなことが……
ごくり、
アサキは、唾を飲み込んだ。
目の前にいる治奈とカズミは、口半開きの狐につままれた顔をしている。二人は、お互いの表情に気が付くと、咳払いしたり頭を掻いたりして、決まりの悪さをごまかした。
治奈はもう一度咳払いすると、涼やかな笑みを浮かべ立っているヴァイスへと顔を向けた。
「遠い遠い話、って語り出しじゃったけど……」
受け取り方、というか、受け取った自分の気持ちをまだ決めかねているというのか、確かめるかの如くおずおずとした態度で震える声を発した。
「その割に、しっかり令和も出てきたけどな」
カズミが、ははっとつまらなそうに笑う。
茶化しただけ。
だけどそれは、内面を気取られぬための健気な努力でもあったのだろう。
緊張の面持ちを隠しようがないくらいに、彼女の顔は青ざめ、身体を微かに震わせていたのである。
「SF映画のストーリーかと思ったけえね」
「だな。未来の作り話なんかして、あたしらになんか関係あんのかよ? お前がその、遠い未来から、時を越えてきたとでもいうつもりかよ!」
食って掛かるカズミ。
青ざめた顔で。
微かに震える、身体で。
「いえ、未来のお話ではありません」
白衣装の少女、ヴァイスは、首を小さく横に振った。
決定的であった。
その言葉と、態度は。
真実かはともかく、なにをいおうとしているかにおいては。
青ざめ悲壮感を漂わせ始めていた治奈とカズミの顔が、もう完全に蒼白といってよいほどになっていた。
鏡がないからアサキには分からないが、おそらくアサキ自身も同様なのだろう。
当たり前だ。
誰だって、そうなるに決まっている。
だって……
戦って、絶望して、身体を粉々に破壊されて、わたしたち、
死ぬのだなと思ったら、生きていて、
でもそこは奇妙な、暗い、遥か遠い未来のような世界で、でも、そこは未来ではなくて……
未来では、なくて……
「ほ、ほじゃけどっ! そそ、そうじゃとしたらっ!」
治奈のひっくり返った大声に邪魔されて、アサキは心の呟きをやめ、視線をヴァイスへと向けた。
白い衣装、ブロンド髪の、幼い外観の、でも妙に大人びた落ち着きのある少女であるヴァイスは、小さく口を開いた。
「はい。わたしが語ったのは、遥か遠い、過去の話ですから。あなたたちにとってイメージすることも難しいような、気の遠くなるほどの」
淡々とした、ヴァイスの口調。
その言葉に、アサキはぶるりと身震いした。
頭が、ほとんど真っ白な状態になっていた。
ほとんど、なにも考えられない状態になっていた。
残った僅かな思考も、ぐるぐる無意味に揺れ回るばかり。
語られている最中に、じわじわと湧き上がる想像こそあったが、だからといって微塵もショックのやわらぐものではなかった。
なにが、なんなのか。
まったくわけが分からないよ。
いや、いっていることは、分かるよ。
でも、信じられない。
いま彼女が語っていた仮想世界、それがわたしたちのいた世界だったなんて。
信じられるはずが、ないじゃないか。
でも……
でも、
「もしもそれが本当のことだというのなら、今というのは……現在、というのは……」
ふーっ、と息を吐き感情を乱さないようにしながら、でも震える身体に心が乱れていること丸分かりな状態で、アサキは小さく口を開き、尋ねた。
いい終えるより前に、返答された。
「あなたたちがこれまで『自分たちが生きている現在と認識していた時代』から、1800億年後です」
聞くだけで身も心も粉々に砕けそうな言葉を、こともなげに、ブロンド髪の少女は吐くのだ。
わたしたちの、認識していた現在。
宇宙が誕生し、確か、92億年後に地球が作られて、さらに46億年後の世界。
その、はずだったのに……
「じゃあ……じゃあ、本当の、地球は……」
「星の寿命って、どれくらいか知ってますか?」
ヴァイスは、ほとんど感情も表情もない、大人びた、落ち着いた顔を、アサキへと向けた。
その問い自体が、答えなのだろう。
つまり、地球はもうこの宇宙に存在していない。
仮に、存在しているとしても、それは自分たちの知る地球ではない。
少女のいっていることを、事実であるとするならば。
だって、わたしたちの知る、わたしたちが守ろうとした地球は、コンピュータが作り出した単なる仮想世界だったのだから。
「なんなんだよ、それ! 無茶苦茶なことばかりいいやがって!」
カズミが、両手で髪の毛をばりばり掻きむしりながら、声を荒らげた。
「ここはどこか、という先ほどあなたが発した問いに答えたものです。あなたたちの世界での語彙を借りるなら、ここは『絶対世界』であるということです」
その言葉。「絶対世界」という言葉に、アサキの身は凍り付いていた。
だって、見も知らないその世界のために、これまでどれほどのことがあったというのか。
ヴァイスタという怪物と戦い続け、
わたしの仲間であり親友の、正香ちゃんや、成葉ちゃんが死んだ。
ウメちゃんも、妹の雲音ちゃんを助けるために、その「絶対世界」を目指し、死んだ。
至垂リヒト所長が「絶対世界」への道を開こうとするのを阻止しようと、万さんたちたくさんの魔法使いが死んだ。
わたしの両親、修一くん、直美さんまでが、人質に取られて、そして……
生き死にだけじゃない。
攻防の過程で、わたしは自分が人間じゃないことを知った。
それでも人間であるとして、戦い続けた。
みんなと暮らす世界を守るために。
戦った。
でも、その世界が、作り物だっただなんて……
わたしたちの存在が、思いが、単なるデータだったなんて……
そして、現実の世界は、こんなことになっているだなんて……
「仮想世界に対しての、現実世界……つまりは『絶対世界』ということじゃな。ここは」
治奈の、いまにも泣き出しそうな顔、ため息混じりの声。
嘘であって欲しい。
夢であって欲しい。
とでも、いいたげな。
でも、
アサキは思う。
ほぼ、間違いのないことなんだろうな。
ここまでこの少女が、ヴァイスちゃんが、語ったことは。
ここが、現実の世界だということは。
ヴァイスちゃんが嘘を付いているとは、わたしには思えない。
そもそも、なんの意味がある?
嘘など付いてなんの得がある?
わたしも、至垂所長との戦いの中で、デジタルの世界が崩壊し掛けた様を目撃している。あの時は、さっぱりなんだか分からなかったけど、そういうことだったんだ。
この世界のこの周辺、奇妙な造りの建物は小さな町を作れるほどに広大な規模だ。
にも関わらず、数人の少女たち以外は誰もいない。
もしも遥か未来というのが嘘で、わたしたちは、わたしたちの世界、わたしたちの時代に生きているのだとしたら、こんな不自然な話はない。
こんな大掛かりなドッキリを、誰がなんのためにする必要がある?
だからきっと、正しいんだ。
ヴァイスちゃんのいっていることは。
嫌だけど……
わたしたちが生きていた世界が、コンピュータの中だったなんて、既に本当の地球はない、宇宙も終わり掛けているだなんて、嫌だけど……
はあはあ、
アサキの息が、荒くなっていた。
ここには、そもそも酸素などないというのに。
つまり、呼吸などしていないのに。
どういう仕組みなのかは分からないが、とにかく心が疲弊して、視界もぐるぐる回って、呼吸荒く倒れそうになっていた。
改めて、壁に助けを求め寄り掛かると、涙目を袖で拭った。
はっ、とため息を吐いた。
それでショックが微塵も薄らいだわけではなかったけれど。
まだ、心臓がドキドキしている。
酸素のない世界で、なんのために存在する心臓なのかは、分からないけど。
視界が回って、考えもぐるぐるして、なにもかも、定まらない。
考えられない。
だって、なにを思えばいい?
こんな、状況で。
なにも知らず、死んでいくことが出来ていたら、どんなによかっただろう。
仮想世界の住民であったまま、仮想世界の中で、平和に生きて、死んでいくことが出来ていたら。
そもそも、何故わたしたち?
何故、わたしたち三人が、こんな目に遭わなければならない?
何故……
2
まるで綿菓子にも見える、猛烈に濃い霧の中。
それでも遮られずにお互いの姿がはっきり見えるし、遥か先までもが見えている。
それは、魔力の目を通して、すべてを見ているからである。
彼女たちが薄々と気が付いていた通り、この人工惑星には照明の類はいっさいない。
漆黒の世界だ。
魔力の目により見えている広大な空間を、ヴァイス、アサキ、治奈、カズミ、四人の少女たちが、猛烈な速度で降下し、次々と綿菓子雲を突き抜けている。
ここは人工惑星の内部。
超次元量子コンピュータを見せようと、ヴァイスが招き入れたものだ。
先ほどまでいた部屋でヴァイスが、いつの間にか手にしていた小さな機器のスイッチを押した瞬間、ストンとみなの身体が床を突き抜けて、その瞬間にはここにいた。
雲の中を、なんの摩擦も抵抗もなく、もくもくとした綿菓子の中を、凄まじい速度で落下していたのである。
まるで透明なエレベーターに乗っているかのような、重力に対して正の姿勢。
アサキたち三人は私服姿で、みなスカートなのだが、この猛スピードにめくれ上がるどころか揺らぎすらもしていない。
真空状態だからである。
この人工惑星は、全ての設備を半永久的に稼働させるために、あえて大気を纏わせないようにしているためだ。
落下した瞬間こそ慣性の法則でスカートがめくれそうになったが、それを手で押さえると身体に貼り付いたままもうはためくどころか震えることもない。
酸素のない中で、ヴァイスがなんともないのは、彼女がもともとこのような状況下での活動を想定して作られた、生体ロボットだからである。
アサキたちがなんともないのは、仮想世界において魔法使いであったという、その陽子式そのままにこの現実世界においても物理構成されているからである。
と、そのようにヴァイスからは説明を受けている。
聞こえる音やら呼吸やらの感覚にずっと違和感を抱いていたアサキなので、そう説明されれば納得するしかない。
しばらく、重力に引っ張られる以上の猛スピードで落下を続けていた四人であるが、突然、ぴたりと静止した。
……着いた?
でも、これまで幾層も突き抜けて来た綿菓子雲の、色がより濃くクリームに近くなったという程度で、特に機器機械の類は見当たらない。
アサキたち三人は、きょとんとした顔で周囲を見回した。
「探しても見付からないですよ。というよりも、これまで通ってきたすべてがそうなのですから」
優しく落ち着いた、だが少し抑揚の乏しい、ヴァイスの声である。
「へ? このもくもくもわもわしたのが、コンピュータなのかよ?」
理解の範囲をどれほど超えているのか、この中で一番ぽっかんと口を開けていたカズミであるが、目をぱちぱち瞬かせると、ぽっかんとしながらも一番に質問の言葉を吐いた。
「そうですね。最中心の主電脳層は別で、少しはあなたたちも知るような機械部品もあります。守護が厳重で、簡単には行かれませんが。でもここも、機械室でもありますが機械本体の一部でもあるのです。一度、あなたたちにもお見せしようと思いまして、お連れしたのです」
「ヴァイスちゃん、この霧みたいなのは、なんなの?」
アサキが尋ねる。
尋ねた後に、自分で、ちょっと間抜けな質問かなとも思った。
だって、これが超次元量子コンピュータの機体なのだと、説明されたばかりなのに。
でもやっぱり、これが機械の一部だなんて、どうしても思えなかったから。
「ふんわりした霧が機械なのが不思議ですか? これは、反応素子をエーテル式で作っているためです。空間そのものをコンピューティングに使っているから、流れと重ねで、霧状に濁る。……あなたたちは誕生したばかりとはいえ、知識は二十一世紀だから、コンピュータというと半導体を使った物を想像するでしょう?」
「いや、そもそもコンピュータってなに、ってレベルなんだけど、あたし。ハンドータイなんて聞いたこともねえや」
口を挟むのはカズミである。
そんなことよりアサキは、ヴァイスの発した他の言葉に、引っ掛かっていた。
生まれたばかり、というところに。
ヴァイスの説明が真実ならば、地球は一千億年以上も前に消滅している。
その後も、仮想世界は稼働を続けていた。
何十億年という無限に近い時間を、何十回もやりなおし、そんな、何十回目だかのある仮想世界の中で、自分は生まれた。
仮想世界と、現実とは、時間が同期している。
つまり、自分が生まれ、まだ十四年。
話の規模を広大に思うほど、無限の時間の中に一瞬にもならない自分の人生。それがちょっと怖く感じられたのである。
たくさんのことのあった、他人は笑うかもしれないけどそれなりに豊かな人生、そう思っていたのに。
3
アサキがそのようなことを考えていた間にも、ヴァイスの説明は続いている。
「……つまり、なにかの存在状態に対して0と1とみなし判断に利用すのが古来のコンピュータ。重ねという要素が加わったのが、あなたたちの知識の時代にもあったはずの、量子コンピュータ。角度とずれ戻り、が加わったのが超量子。さらに、反応素子にエーテル式を使ったのが超次元量子。エーテル式を使っているため、この世に存在しつつも存在しない、存在しないものだから、宇宙ある限りは壊れない」
「いやいや、時間をどうこう操作しようとして『壊れちゃったあテヘペロ』とか、そんなこと話してたじゃんかよ」
コンピュータってなに、などといっておきながら、こうした突っ込みは素早く的確なカズミである。
「時送りの不具合は、たぶん霊的な問題です」
「霊的?」
尋ねたのはアサキである。
その表現に、疑問を感じて。
こちらの世界の技術は、純然たる科学のみだと思っていたから。
「ああ、語弊がありますね。わたしたちの理論で解明出来ないというだけで、科学に基づいた挙動や結果なのだとは思います。いかんせん解明するための技術設備が、ここにはないので」
納得した。
確かに現象の解析改善の技術があれば、とっくに解明した上で、その「時送り」を実行し、宇宙延命の技術を手に入れているだろう。
「でも理論云々は関係なく、無限空間記憶層を媒介にしている以上は、時送りに支障が出るのは当然という気もしますね」
淡々と語るヴァイス。
その言葉に、アサキは思わずほっと安堵していた。
別に大した理由ではない。
彼女にも知らないことがある、ということに人間的なものを感じたためだ。
「こがいな、もやもや雲の中に、うちらの世界があった、うちらは、生活しとったじゃなんて……」
まだまったく実感がわいていないようで、相も変わらず不思議そうな顔の治奈である。
「そうですね。このエーテル式による演算が、あなたたちの住んでいた仮想世界を作っていた。でも、記録層つまりメモリ空間の物理媒体ということならば、この宇宙すべてが、ということになるけれど」
「い、い、意味が分かんねえぞお」
綿菓子雲の中をふわふわ浮かびながら、カズミが両手で頭を抱えた。
ヴァイスは、ちらりそちらへ視線を向けると、小さく息を吐いた。
「正直にいうとね、あなたたちに理解出来なくてもいいんですよ。わたしにしても、この変わらぬ日々の中そのまま朽ち果てていくのならばそれはそれで構わない、という気持ちにもなっていたのですから。……つまり、あなたたちは別に、こちらの世界へ来なくたってよかったんだ」
「はあああ? なんだそりゃあ! 栗毛! お前、なんか超絶ムカツクんだけどお!」
「すみません冗談です」
あっさり、ヴァイスは謝った。
「そういう気持ち考えが、微塵もないわけじゃない。でもわたしは別に半導体のコンピュータじゃないし、疑似といえ感情がありますから。……幾ら神から、白たる意思を植え込まれたといっても、それだけには成り切れない。……でも、そうもいっていられないですよね。この宇宙は、守らないと。そのための、努力はしないと」
「わたしたちに出来ることがあれば、力を貸したいけど。……ねえ、ヴァイスちゃん、宇宙を守るもなにも、現在、ええと……昔あった地球のような、生命の存在する星ってあるの?」
アサキの問いに、ヴァイスは即答した。
「おそらくは、ありません」
と。
「ないことの証明は難しいですが、エーテルの反応から見て、恒星、惑星、ほとんどの星は滅んで塵に帰し、新たに生まれてはいる様子はない。……でもね、宇宙さえあれば、可能性は残るんです。だから……」
「そうだよね」
なにに対して、そうだと相槌打ったのか、自分でも分かっていなかったが。
ただ、口をついて言葉が出ただけだ。
「なすすべは、残されていないのかも知れません。でも、やれることはやっていかないと。だから本当は、シュヴァルツたちとも手を結ばないと。争ってなんか、いられないのです」
シュヴァルツ、先ほど名付けたばかりの、黒服四人のリーダー格だ。
「協力して、なにか方法を探らなければならないはずなのに、でも、彼女は世界を終わらせたがっている。……お話した通り、彼女は黒の意思を植え込まれているために」
「世界を終わらせる、ってどうやって?」
アサキが尋ねる。
「手段は分かりません。まず狙うは、超次元量子コンピュータの物理的な破壊でしょう。無理ならばせめて遠隔からでも入り込んで、ソフトウェアつまり現在の仮想世界を消滅させる。理を跳ね返して奇跡を起こす、そんな可能性を持っている偉大かつ特異な存在を、この現実世界に生み出さないように」
「でも、手をこまねいている間に生まれちまったわけか。この現実世界に、アサキが。……そっか、だからあいつら執拗にアサキを狙っていたのか」
カズミは、納得といった表情を浮かべ、拳で判を押すように手のひらを叩いた。
「わたしなんか、別にそんな、たいした力なんか、ないのに」
「だからあ、もう謙遜すんのやめろっての!」
カズミは、げんこ作った右腕振り上げ、アサキへと近寄ろうとする。ふわふわ浮かぶばかり、全然移動が出来ないので、かわりに上着を脱いで振り回して、アサキの顔をひっぱたいた。
「いたいっ! 謙遜なんか、してないよ、わたし」
本心から思っていることだ。
自分はキマイラ、つまり臓器等パーツを合成して造られた人間ということだが、そんな実感などはないし、自分はただの、地味で泣き虫な、普通の女の子だ。
それに、それも仮想世界の中でのことだ。
もう、わたしもカズミちゃんも治奈ちゃんも、違いなんかありはしないじゃないか。
「いえ、あります」
というヴァイスの言葉に、アサキはドキリとした。
心を読んだという自覚がないのか、ヴァイスはまったく気にした様子もなく続ける。
「仮想世界は、無限空間記憶層の時空位相以外は、現実世界とまったく同じ陽子構造式と時形で成り立つ世界です。その世界での個体要素つまり陽子配列そのままに、あなたたちは現実世界へと転生をした。……だからこそ、あなたたちはこの世界でも魔法が使えるのです」
「よく分かんねえけど……んじゃさあ、アサキはバカだけど世界最強の魔法使いだったから、それはこの世界でも同じってわけだな?」
「もちろん、上がいれば最強ではなくなりますが、仮想世界でのアサキさんと現在のアサキさんは、まったくの同一ですよ。ただ、まだ力を完全には取り戻せていないようですが」
「ああ、至垂のクソにも苦戦したもんな。あん畜生、こんど会ったらボコボコにしてやれ、アサキ!」
「強さなんか、いらないんだよ、わたしは」
アサキは苦笑した。
「おいおい、まだいってんのかよお、お前はさあ」
「だって……結局わたしは家族、修一くん、直美さんを、救うことも出来なかった。他にも、たくさんの仲間たちを失った。わたしは、なんにも出来なかったんだ」
仮想世界の中とはいえ、あれは、わたしたちには、現実だった。
なのに、そのわたしたちの現実世界を、こともあろうにわたしは壊そうとすら、してしまった。
強くなんかないし、強くある資格すら、ないじゃないか。
「あ……」
仮想、世界。
現実……
わたしたちは……
「あ、あのね、ヴァイスちゃん、き、聞きたいんだけど」
「なんでしょうか、アサキさん」
「この、超次元量子コンピュータというのは、まだ、正常に稼働しているんだよね?」
「はい。どこにも異常は見られません」
「……わたし、目覚めたばかりのせいか、頭が回っていなかった。勝手に、世界が滅んだものと思ってた。仮想世界だったというショックは大きかったけど、それでもそれはわたしたちの現実なんだ、という気持ちも持っていたくせに、なのに、その現実はどうなっているんだということを、全然考えてなかった……」
「あ、そうかっ!」
カズミと治奈が、二人同時に大きな声を出した。
そして、今度は三人一緒に、こういったのである。
「まだ、我々の地球は、存在している」
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