DQ11長編+短編集
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守り導く者として
前書き
主に主人公と双賢の姉妹のダイジェスト的なお話。
「───ご覧下さいませジュイネ様、大きな鳥さんが優雅にお空を舞っていますわ⋯⋯!」
「そうだねぇ、鳥は自由に空を飛べて気持ちよさそうだなぁ」
「⋯⋯あのね、あれ普通に魔物よっ? 見分けつかなくてどうするのよ」
ぼんやりと空を眺める勇者のジュイネと妹のセーニャにベロニカは呆れる。
「あ、ジュイネ様⋯⋯この素材使えそうですよ? 採取しておきましょう⋯⋯!」
「何かよく分からないけど、持っておいたら役立つかもしれないもんね。あ、これも取ってこう」
「採取はいいけど、周囲に気をつけなさいよねっ」
不意打ちしてきそうな魔物を呪文で倒し、安全を確保しておくベロニカ。
「あら? スライムが群れをなしていて可愛らしいですわ⋯⋯! 見ていて和みますねぇ」
「ほんとだねぇ⋯⋯どこまで増えるんだろう、気になるから見守ってようか」
「ちょっと待ちなさいそれ、のんびりしてるとキングスライムになっちゃうわよ⋯⋯!?」
「あ、そういえばそうでした。忘れていましたわ」
「⋯⋯もうなっちゃったけど、大きくてさらにプルプルしててかわいいなぁキングスライム」
「呑気に見つめてる場合!? その大きなプルプルで押しつぶされるわよっ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ⋯⋯あんた達のそのおっとりした所、ほんとにそっくりね」
「そうですか? ふふ⋯⋯何だか嬉しいですわ」
「セーニャの方が、しっかりしてると思うけどなぁ」
「そんな、ジュイネ様の方がしっかりしてらっしゃいますよ」
「⋯⋯おっとり同士が言っても説得力ないわね。全く、手のかかる妹がもう一人増えたみたいよ」
「妹が、もう一人⋯⋯??」
「あっ、ごめん⋯⋯あんたの場合弟だったわ」
「ベロニカが、僕のお姉さん⋯⋯。ベロニカお姉さま⋯⋯?」
「⋯⋯あんたにそう呼ばれると調子狂うからやめなさい」
「ジュイネ様がベロニカお姉様の妹⋯⋯いえ弟様なら、私からするとジュイネ様は兄と弟のどちらなのでしょう?」
「何でそういう話になるわけっ?」
「ベロニカとセーニャは双子だし、ベロニカが僕のお姉さんならセーニャも必然的にお姉さんになるんじゃ⋯⋯。ってことは、セーニャお姉さまだね」
「わっ、私が⋯⋯ジュイネ様の、お姉様⋯⋯」
ジュイネに微笑まれ、恥ずかしげに顔を覆うセーニャを見て溜め息をつくベロニカ。
「⋯⋯何か面倒くさいわ」
「私がジュイネ様を、お兄様⋯⋯とお呼びしても構いませんよね⋯⋯? ジュ、ジュイネお兄様⋯⋯! きゃっ」
「僕がセーニャのお兄さまかぁ⋯⋯。僕一人っ子だから、弟の立場にもお兄さんの立場にもなったことないし、新鮮だなぁ。あ、でも育った故郷で弟分みたいな子はいたし、その感覚に近いのかな?」
「何にしても、二人してあたしがお姉さんとして守ってあげないとダメなタイプなのは違いないわね。普段からぼーっとしてて危なっかしいったらありゃしないもの」
「うーん⋯⋯守られてばかりなのは勇者としてどうかと思うから、ベロニカも守れるようにがんばるよ」
「私も⋯⋯勇者であるジュイネ様をお守りしつつ、ベロニカお姉様もお守り出来るよう精進致しますわ」
「ふーん⋯⋯ま、その心意気は評価してあげるわ。精々がんばんなさいねっ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【異変後の世界、聖地ラムダの静寂の森にてベロニカが遺した記憶を垣間見て】
『あたしは、どうなってもいい⋯⋯みんな、あいつから世界を救ってちょうだい⋯⋯!』
『呪文で場所を指定する暇ないから、どこに飛ばしちゃうか分からないけど⋯⋯みんななら、きっとまた再会出来るって信じてるから───』
『ジュイネ⋯⋯あんたが勇者の使命を果たすまで、傍に居て守り続けることが出来なくてごめんね⋯⋯』
『セーニャ⋯⋯いつかまた、同じ葉の元に生まれましょう。ジュイネの事、頼んだわよ⋯⋯』
『⋯⋯⋯─────』
「⋯⋯⋯⋯っ!」
「そん、な⋯⋯ベロニカ、お姉様⋯⋯」
ジュイネとセーニャは衝撃を受け目を見開き、他の仲間達もそれぞれショックを隠せない。
「(いつものように、運良く助かったんじゃなくて⋯⋯ベロニカが命懸けで守ってくれたから、僕達は───)」
「お姉様は、もう⋯⋯居ない。居ないのですね。お姉様の決死の覚悟を⋯⋯私は受け入れます。───里の皆様にも、お伝えしなければ」
「(⋯⋯セーニャ)」
聖地ラムダにてベロニカの葬儀後、長老ファナードから大聖堂で神の乗り物について話を聞き、その後休む事になったがそれぞれ眠れぬ夜を過ごす。
「(みんなには休めって言われたけど、そのみんなはいつの間にか宿屋を出て行った。⋯⋯色々考えてしまって、眠れるわけない。あの時握り潰された勇者の力は、ユグノアの地下で取り戻したと思ってた。けど⋯⋯その勇者の力を取り戻した所で、ベロニカにはもう⋯⋯会えない)」
「(僕がもっと、勇者としてしっかりしていればベロニカは───)」
静かに降り続く雨音に混じって、物悲しい竪琴の音色が聴こえてくる。
「(⋯⋯⋯)」
宿屋から出たジュイネは、竪琴の音色を辿り展望台まで重い足を運ぶ。⋯⋯そこには、一本の木の幹にベロニカの杖を立て掛け雨に泣く空へ向け哀しき歌と共に竪琴を奏でるセーニャの姿があった。
「───この歌は、誰が遺したのか分かりませんが、この里にずっと伝わる愛する者との別れを惜しむ歌⋯⋯。小さい頃から、私はこの歌が好きでした。お姉様へ向け、歌い奏でる時が来るとは思いもしませんでしたが⋯⋯」
「─────」
「私は⋯⋯幼い頃からお姉様に何もかも遅れていました。まさか、こんな時にまで先に行かれてしまうなんて」
「セーニャ⋯⋯ごめん。謝って済む問題じゃないけど、本当に⋯⋯ごめんなさい。僕のせいで、ベロニカは」
「いいえ⋯⋯違います。ジュイネ様は何一つ悪くなどありません。お姉様は⋯⋯命を懸けて勇者を守るという使命を、果たしたのですから。なのに、私は───お姉様の気持ちを無下にしてしまった」
「⋯⋯⋯?」
「命の大樹に向かう前夜⋯⋯お姉様は自身の運命を悟られていたのか、この先自分に何かあっても一人で生きていける事を、私に約束させようとしたのです」
「!」
「そのお姉様に私は⋯⋯そんな約束、出来ませんと⋯⋯お姉様が居なくなるなんて私、考えられませんと答えてしまい、それ以上何も言えなかったのです」
「⋯⋯⋯⋯」
「私は、お姉様とは芽吹く時も散る時も⋯⋯同じだと思っていましたから。ですが⋯⋯私はグズでしかなかった。ジュイネ様を守れず魔王誕生も阻止出来ず、お姉様だけをあの場に残して⋯⋯お姉様に助けられ、生き残ってしまった」
「ベロニカ、は⋯⋯セーニャに、勇者を守る使命を改めて託したんだと思う、けど⋯⋯僕は、セーニャにまで死んでほしくなんてない⋯⋯。魔王を誕生させてしまって、仲間も死なせた上に多くの人々を犠牲にしてしまった⋯⋯⋯勇者として失敗した僕を、守る価値なんてないよ」
「そんな事、仰らないで下さいませ⋯⋯。勇者として守る価値のあるなしで、お姉様は命懸けでジュイネ様を守った訳ではありません。失敗したという意味でなら、私だって同じです。それでも───それでも私達は、ベロニカお姉様に託されたのです。あいつから⋯⋯魔王から、世界を救う事を」
「───⋯⋯」
「諦めてなど⋯⋯いられませんね。守って頂いたこの命、ベロニカお姉様の想いを⋯⋯未来に繋げなければ」
「(セーニャ⋯⋯)」
「ただ、少しだけ⋯⋯少しだけ、ジュイネ様の隣で、泣かせて下さい⋯⋯っ」
咽び泣くセーニャの隣で、ジュイネもただ静かに降り続く雨のように泣き沈む。
「───もう、涙は見せません」
ひとしきり二人で泣いた後、ふとセーニャがそう述べ、一歩前に出て懐刀を取り出すと後ろに流れる長い髪に触れ、一気に切り離して断髪する。
「今までありがとう⋯⋯さようなら」
切った髪の毛を微風に乗せて空へ放つと、優しい炎がそれを燃やし、同時に木の幹に立て掛けていたベロニカの杖が輝き出す。
「(ベロニカ、そこに居るの⋯⋯?)」
ジュイネの心の呼び掛けに反応したかのように、ベロニカの杖の先端から暖かな光を放つ球体が現れ、ジュイネの髪をふわりと撫ぜるように通り過ぎると、今度はセーニャの方に向かい目の前で静かに煌めく。
「⋯⋯───」
セーニャは何かを察し、その暖かな光を放つ球体を受け入れるように瞳を閉じると、球体はセーニャの身体と一体化し仄かな輝きを全身に帯びる。
「! この魔力は」
身体中にみなぎる魔力を感じ、セーニャはかつてベロニカがしていたように人差し指の先に小さいながらも勢いのある炎を出して見せる。
「それって、ベロニカの⋯⋯!」
「お姉様の魔力とその意志を⋯⋯受け継ぎました」
両の手を胸の前に組み、感謝と祈りを込めるセーニャ。降り続いていた雨も、いつの間にか止んでいた。
「そっか⋯⋯ベロニカの魔力は、セーニャの中に宿ったんだね」
「えぇ⋯⋯お姉様の心と、一つになれました。ベロニカお姉様は、私の中で確かに息づいています。ですから⋯⋯寂しがる必要はありません」
「うん⋯⋯」
「さぁ、ジュイネ様⋯⋯安心して宿でお休み下さい。さぞお疲れでしょうから。私もお傍に付いております」
「え、でも」
「⋯⋯『なぁに、あたしの言うことが聞けないわけっ?』」
「⋯⋯⋯⋯」
両手を腰に当て、強気な表情でこちらを覗き込むような仕草とベロニカ口調のセーニャに、思わず目を丸くするジュイネ。
「私の中のお姉様が、仰っていますわ。『言うこと聞かないと無理矢理寝かすわよ!』って」
「あはは⋯⋯それは怖いかも。さっきのセーニャ、ほんとにベロニカみたいだった」
「それはそうですわ。私とお姉様は同じ葉の元で生まれた双子⋯⋯私はお姉様の、妹ですもの」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【魔王討伐後の、とこしえの神殿にて】
「───過去に戻り、魔王誕生と大樹崩壊を阻止し、お姉様や数多くの人々を死なせないようにして世界を救い直す事が出来るのは、勇者であるジュイネ様だけ⋯⋯。私達は、現在の記憶を手放す事に⋯⋯?」
「⋯⋯⋯。ベロニカにまた逢えるなら、ベロニカを死なせないように出来るなら、僕は」
「いけません、ジュイネ様⋯⋯。私達も過去に戻れるならともかく、ジュイネ様だけ危険な目に遭わせ過去に遡らせるなんて⋯⋯!」
「───⋯⋯」
「失敗してしまったら、永遠に時空の狭間を彷徨う事になるのですよ⋯⋯そんな事、ベロニカお姉様だって望みはしません。⋯⋯とこしえの神殿から離れましょう、この場所で見聞きした事は忘れるべきです。世界を救い直すなんて、そんな都合のいい話⋯⋯今現在の私達を、ベロニカお姉様の死の意味を完全に否定する事になりますから」
「そう、だね⋯⋯。一旦冷静になるべきかもしれない」
【聖地ラムダ、静寂の森のベロニカの墓前】
「(お姉様、私は⋯⋯⋯)」
「⋯⋯セーニャ」
「ジュイネ、様⋯⋯」
「他のみんなとも話し合ったけど、やっぱりみんなも僕だけ過去に戻るのは反対みたいだ。それに危険も伴うからって⋯⋯」
「私達皆、現在の記憶を持って過去に戻れるなら⋯⋯例え危険であっても、迷わずそうするのですが。私独りでだって、ベロニカお姉様を⋯⋯」
「僕は、勇者としての自分の失敗を無かったことにして世界を救い直したいわけじゃない。ただ、ベロニカにもう一度逢えたらって⋯⋯あの時、死なせないように出来たら、どんな違った未来が見れるんだろうって⋯⋯興味本位じゃなくて、本当に⋯⋯ベロニカが存在してくれる世界を見たいって、思うんだ」
「⋯⋯───その世界に、“今”の私達が⋯⋯“私”が、存在しなくとも⋯⋯ですか」
「時の番人が言っていたはずだけど、世界ごと時が巻き戻されるそうだから⋯⋯今現在をセーニャ達が忘れてしまっても、完全に“無かったこと”にはならないと思う。今ある元の世界で起きた出来事を、僕が覚えてさえいれば」
「ベロニカお姉様だけでなく、私の事も⋯⋯また、見つけ出してくれますか」
「見つけるよ、ベロニカもセーニャも⋯⋯仲間のみんなも。だから───」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「⋯⋯あらセーニャ、あんたいつの間に髪を切ったのよ?」
「ちょっと、気分転換に⋯⋯どうでしょうかお姉様、似合います?」
「何かさっぱりしてて大分印象が違うわね、頼りない感じが抜けてしっかりして見えるわよ。ねぇ、そう思わないジュイネ?」
「うん、似合ってるよセーニャ」
「ふふ⋯⋯ありがとうございます」
「けど確かセーニャ、あたしと同じ三つ編みお下げにする為に髪を伸ばしてたんじゃなかった?」
「あ⋯⋯もしかしてベロニカ、ちょっと寂しかったり?」
「別にそんなんじゃないわよっ、髪が短くなってもあたしの妹には変わりないんだし」
「またここから髪を伸ばして、お姉様と同じお下げを目指しますから安心して下さいませ」
「だからあたしは別に⋯⋯こうなったらあたしもセーニャと同じくらい髪を短くしてやろうかしらっ」
「ショートのベロニカも似合うだろうけど、お下げのままのベロニカがいいかな」
「あっそ! じゃあこのままでいてあげるわよっ。逆にジュイネ、あんたそれ以上髪を伸ばしたらほとんど女の子にしか見えなくなっちゃうわね!」
「え⋯⋯ベロニカ、そんな僕を見たいの?」
「ちょっとは見てみたい気もするけど⋯⋯冗談よ、真に受けなくていいからっ」
「ベロニカがこれ以上髪を伸ばした僕を見たいなら、そうしてもいいけど⋯⋯」
片側のサラサラな髪を指でクルクルいじるような仕草をするジュイネを見ているのが、何やら恥ずかしくなってくるベロニカ。
「だから冗談だって言ってるでしょ!? 只でさえ女の子っぽい顔してるのにそれ以上そうなってどうするのよあんたっ」
「ふふっ⋯⋯」
「ちょっとセーニャ、笑ってないであんたからも何とか言って───どうしたのよセーニャ、笑いながら泣いたりして⋯⋯そんなにおかしかったわけ??」
「あ、あら⋯⋯どうしてでしょう、何だか泣けてきてしまって⋯⋯今この瞬間が、とても愛おしい光景に感じるのです⋯⋯」
セーニャは零れ伝う涙を拭い、それを見たジュイネは心がきゅっと締めつけられる思いがした。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯あたしもね、魔道士ウルノーガをみんなで倒した直後は、みんなと一緒に居られる事がとても幸せに感じたわ。いえ、ほんとはもう少し前⋯⋯そうね、聖地ラムダの大聖堂でジュイネが急に居なくなって、他のみんながジュイネを探しに行ってる間にあたしは賢者セニカ様に祈りを捧げてて⋯⋯その時にジュイネがいつの間にか戻って来て、あたしと目が合った瞬間ジュイネは泣きそうな顔してた⋯⋯あたしも何だか、ジュイネに再会出来た事を嬉しく思ったのよ⋯⋯。離れていた時間なんて、そんなに長くなかったはずなのに」
「⋯⋯───」
「何となくだけど分かるの⋯⋯あんたはきっと、途方もない事を成し遂げてくれたのよね。感謝してるわ⋯⋯ありがとね、ジュイネ」
「そんな⋯⋯感謝してもしきれないのは、僕の方だよベロニカ。ありがとう⋯⋯それに、ごめんね」
「謝られる筋合いは無いわ、あたしは今こうしてあんた達と居られる事が幸せなんだから⋯⋯それでいいの。何ていうか、いつの間にかあんた達は姉のあたしが面倒見なくても頼もしくなってるし、二人の姉としては嬉しい限りかしらね。ちょっと、寂しい気もするけど⋯⋯」
「───お姉様とは今度こそ、同じ葉の元に生まれた双賢の姉妹として⋯⋯使命を果たしますわ。ジュイネ様が私達を、再び見つけ出して下さったように」
「⋯⋯!」
セーニャに真っ直ぐ見つめられたジュイネはハッとし、ベロニカは相槌を打って強気な笑みを見せた。
「えぇ、そうねセーニャ。⋯⋯ジュイネ、覚悟なさい? あたし達の使命はなにも、勇者であるあんたが邪神を倒すその時まで守り抜く事だけが使命じゃないわ。その先もずっと、あんたを傍で見守っててあげるんだからねっ!」
「はは⋯⋯心強いな。これから先もずっと、よろしくねベロニカ、セーニャ。僕も今度こそ、二人を守り抜くよ」
end
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