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チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜

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  L1話 Star【明星】を見定める者

 
前書き
Liella!編1話になります……!


語り手≠主人公ではないぞ?

語り手は一貫してるが。

 

 
光るスポットライト……


そんな中で少女は中央に立つ———独唱しろと。


ダメだ……ダメだ……





遠くなる意識———











「今の私」には…………







何もできない。








心がバラけた—————




————※————










結ヶ丘。


ここは原宿、青山、表参道の狭間にある地域———



個性を共存させ、真に調和する社会を目指すエルシャム王国。その勢力は瞬く間に拡大していった。

人間の寿命の急伸長、各大陸の拡大日本の形成、日本列島の文明中心化……そのような混沌とした世界を善を持って統治する王など稀な存在。

そのカリスマと善政に魅かれた者は多く……当然統治する領域は広大なものとなった。

その領域内では国や文化どうしでの対立、人種差別などはほとんど存在しない———まさに高度な文明でありながら、搾取がなく、縄文時代のようなお裾分けや共存共栄がなされた……限りなく理想郷に近いもの。

王国とは名ばかりの理想の園であった。



しかしながら、その存在を危惧する者は多くいた。

一部では大東亜共栄圏の実現だと揶揄され、まだ国内で強い権限を持つ欧米政府や多国籍企業が非難の声を上げた……

それもそのはず、彼らにとって搾取のない共存共栄など、自分たちの地位を脅かしかねない理想なのだから。


そこで———彼らの一方的な妥協案として、日本の現首都圏を日本政府による自治特区にしてはどうかと提案した。






首都圏は自治地区……というのは建前だ。

実際にエルシャム王国に接近している地域もあるし、距離を置いている場所もある……結ヶ丘は前者だ。

しかしながら、それをよく思わない住民だっている———



話を戻そう。

そんな地域の一角で、とある喫茶店の隣。


漢方屋を兼ねる…不思議な町医者————この物語の語り手 伊口才(いぐち まさ)とは俺のことである。


そして4階建の2階にて……



「いざ!勝負!!」
「……いいだろう。」


藍色の髪をした猛々しい男が勝負を申し込んだのは……ブルーと金の瞳を持つ、黒髪の男。

2人は竹刀を持って——対峙する。

それを見る2人の少女は……合図する。

「「初め!」」
「たぁっ!!」
「……」


大きな声で威圧するように振るう藍色の男。しかしスルッと見切りをつけられる……

そして………言う。


「お前、師匠の抹茶プリン食ったろ。」
「え、何で
「隙あり!!」


竹刀で足を掬われ、藍色の男は倒れる———勝負があっさり終わったことに、竹刀を勢い良く投げつける。


「おい!速人!お前、何で毎回俺の弱み知ってんだよ!?」
「逆に知らないと思ったか?お前の場合、全てにおいて隙だらけだしな。」
「毎回言うけどこれ反則負けだろ!?なぁ、かのん!千砂都!!」


藍色の男は……オッドアイの男 天羽速人(あもう はやと)の智謀を反則だと、審判役をやらされている幼馴染 澁谷かのんと嵐千砂都に訴える。

しかし……その熱さにかのんは苦言する。


「でも那由多君、いつも通りでいいって言ってたじゃん。」
「ぐっ…千砂都は!?」
「私も……同意見かな!」
「く、くっそぉぉぉぉ!」


結局敗訴……この狼のように吠える男 中川那由多。


ドタドタドタ……!


「また食ったのかお前はァ!」
「ゴブッ!」


突如として一階から登ってきた、この家の主人である俺 伊口才に強力なドロップキックを喰らう那由多……和室の道場の端までぶっ飛ばされる。

相変わらず、かのんと千砂都はこの一連の出来事に苦笑いしかできない。

俺は那由多に言い放つ。


「冷蔵庫を漁るどころかプリンを勝手に食うとは、毎回毎回どんな図太い神経してんだお前は。」
「師匠とはいえ……疲れた日にプリンがあったら食うだろ…」
「じゃあお前は疲れている日に道端にステーキが落ちていたら、そのまま食うのか?」
「あ?当たり前だろ。」
「「「……うわぁ。」」」


那由多の野人の如く発言に、幼馴染3人はドン引きする。


「それは…ちょっとワイルドすぎるよ——」
「近寄らないで。」
「一生お前と皿を共有しない。」
「お、お前ら……そこまで言わなくても……」


千砂都、かのん、速人の連続罵倒で完全に心を折られる那由多。これくらい言われてもおかしくないほどの不潔だし、野人だし———ま、俺が元々知ってたのは内緒の話。

俺は皆に聞こえるように、那由多に言い付ける。


「罰としてお前は武道場の片付けだ。」
「はぁ〜!?」
「——もっかいドロップキック喰らっとくか?」
「わ、わかったよ…!」


那由多に掃除をさせ始めたところで、かのんと千砂都にも言う。


「そろそろいい時間だ。明日は『入学式』だし……お前らも早めに帰っとけ。」
「うぃーっす!」
「……うん。」


千砂都と対照的に、明らかに影を落とすかのん……俺は速人に言う。


「春は気の緩む奴が多い……速人、2人と一緒に外に出ていろ。」
「……仕方ないなぁ。」
「さ、掃除の邪魔にならないように行こ行こ!」


千砂都の後押しで3人はそのままこの家から出ていった……



————※————




速人はかのんを家に届けた後、千砂都を家まで送っていく……その道中。


「明日はとうとう入学式だね〜」
「あぁ……」
「………もしかして、かのんちゃんのこと気にしてる?」


千砂都は速人が沈黙に近い態度の原因を、ズバリ言い当てる。見破られた速人は驚きもせずにチラッと青い右眼を彼女に向ける。


「別に気にしてるわけじゃない。ただ……」
「ただ?」
「結ヶ丘の普通科に行くアイツの未来が……見えないんだ。」
「え!?」


千砂都は驚く。

説明しておこう。天羽速人という男は、文武ともに人間離れしている……そんな彼の金の左眼は【全てを見通す】と近隣で有名だ。かのんや千砂都からは、かのんが飼うフクロウ「マンマル」に準えて、【フクロウの眼】とも言われているほどに全てを見通せる。

そんな彼の頭脳と目をもってしても見当がつかない……

当然千砂都は不安になる。


「そういえば…受験に失敗したら歌を諦めるって言ってたような———」
「結ヶ丘に入って最初の目標はかのんに音楽を続けさせること……か。物騒な社会の今に、泣きっ面に蜂だな。」


物騒な社会———実のところ、結ヶ丘をはじめとした首都圏各地で怪人が現れている。
これは2040年代ごろから現在2062年までずっと続いている。

特に最近はその怪人の目撃・被害件数が急に伸びてきているそう。
そして——驚くことに怪人の正体は…名もない様々な種族の市民であると。

このことに日本政府も対策を迫られていて……仮面ライダーなる装備を普及させることを進めているそう。


さて、重くなった話題を千砂都は吹き飛ばそうとする。


「物騒な社会もきっと黄金の戦士が何とかしてくれるって!」
「黄金の戦士ねぇ…たまに聞くな———確か、黄金の星のような鎧に、1本の星のツノに黄金のドレッドヘアーの特殊な見た目ながらスピードは時を超え、攻撃は一切通用しない無敵の戦士とかなんとか……」
「……一回だけ。」
「ん?」


ボソッと言う千砂都に速人は聞き返す。


「小さい時、かのんちゃんと私、見たことあるんだよね……その黄金の戦士。」
「……そんなこと言ってたっけな。」
「一瞬しか見えなかったけどね。」


千砂都はニコッと無邪気に笑い、話を有耶無耶にする。

黄金の戦士……もし存在するのなら神話級の戦士だ。そもそも戦士という枠に収まるものなのか、それすらも疑問である。

そんな話も終わりの時がやってくる。


「じゃ、そろそろ……」
「千砂都……1つ言っておく。」
「どした?」
「俺は———どんな形であれ、かのんに音楽を続けさせる……俺だけが夢を見て、アイツだけが現実に生きるなんて間違ってる。」
「かのんちゃんが嫌がっても?」
「嫌がるなんて俺の目には見えないな…!」


傲慢。まるで自分がこの世界の全て……澁谷かのんの心を見透かしているかのような発言。しかしそれがこの男なのだ———それは千砂都が何よりわかっている。


「そっか——じゃあ私もちょっとだけ、手助けするよ!!」
「頼んだ……」ポンポン
「うっ…ちょっと…///」


速人は頭1つ以上離れた彼女の頭を撫でる。流石にフレンドリーな彼女でも恥ずかしくなったのか、顔がぽっと赤くなる。



二本指で別れの挨拶をした。





————※————




早朝………かのんは携帯を自室のソファへと捨てる。


「ばーか。歌えたら苦労しないっつーの。」


独り言——というより、苦い過去を想像して嫌になったことで発せられた言葉だろう。トゲトゲとした態度と、家用のメガネと髪型……自分の鬱憤を言うのは十分すぎる空間だった。

そんな姉を起こしにやってくる妹——澁谷ありあ。名を呼びながら部屋へとやってくる。


「お姉ちゃん!いるんなら返事してよ!」
「あぁ⤵︎」
「何!?『あぁ⤵︎』よ!今日入学式でしょ!?早く行かないと遅刻するよ!?」
「わかってまーす。」
「早く!」
「あーい。」


無気力さが否応でも伝わってくる口調……これが自然体なのか、内弁慶なだけか。いや、そんなことはどうでも良い。



〜〜〜〜〜



………チン!



トースターからパンが2枚……典型的な朝の匂いだ。この食パンは澁谷家の姉妹のために用意されたものだと容易に想像できる。

そして客としてきている俺は——

音を立ててコーヒーカップが俺の前に差し出される———


「才さん、今日はブラックで良かったですよね?」
「あぁ。わかってるじゃないか澁谷母。」
「その前はオレンジジュース…そのまた前はチョコココア……好物のルーティンじゃないですか♪」
「流石、20年近く常連になった甲斐があるぜ。」


俺 伊口才はこの澁谷家の営むカフェの隣で、街の名医であり漢方屋をする者———同時に拾い子の速人と那由多を家に置き、武道を教える者でもある。

当然、この2人の幼馴染であるかのんと千砂都とも深い関わりもあるのだ……

澁谷母は息を吐く。


「20年か〜私も随分老けちゃったな〜」
「何言ってるんだ。平均寿命は300歳が現実味を帯びる中で、その程度の歳じゃ大したコトねぇよ。」
「そういう才さんは20年経っても、ちっとも変わらないですね。」
「まぁ…な。」


コーヒーをすする。

経歴からわかるだろうが、俺はかなり歳をとっている……が、よく20代と勘違いされるのは容貌の若さと189.6cmの背丈ゆえだろうか。高尺の教え子たちよりも背丈が高いのは、より際立たせているのかもしれない。

さて、年齢の話になると毎回聞かれるのだが……今回は澁谷ありあが聞いてきた。


「結局才さんは何歳なんですか?」
「うーん……137億歳。」
「その冗談はいいから!どうなんですか?」
「あんまり俺も年齢に執着してないから数えてないが……ここの祖母ちゃんよりは上だな、多分。」


煮え切らない回答に不満顔なありあ。そんなことはお構いなしに俺は再びコーヒーをすする。

そこに……気怠そうな声が入る。


「行ってきまーす……」
「おはようは?」
「……おはよう。」
「朝ごはんは?」
「———うん。」


母に挨拶を指摘される少女……澁谷かのん。

制服として新しいブレザーをとヘッドホンを着用し、全てに目を向けぬまま、このカフェのマスコットで澁谷家のペットでもあるコノハズク「マンマル」へと視線を向ける。


「マンマル…行ってくるね。」
『…?』


かのんは唯一、マンマルにだけ優しい目を向けた……そのまま彼女はドアを開けようとする——

流石の俺も、生まれてからずっとその生い立ちを見る少女に声をかけないのは少し心残りだし、気づいていない彼女に一言……少し皮肉をこめた。


「フクロウに声かけて、俺にノーコメは厳しすぎじゃないか?」
「うわっ!…ま、才さん!?いつから!?」
「この時間帯はずっといるだろ。」


まぁ彼女が気づかなかったのも当然、氣を極限までゼロにしていたのだから———というのは少し無理があるか。

さて…荒んだ少女に一言。


「———制服、似合ってるぞ。」
「……似合ってない!!」


扉が閉められた。想定通りの反応と言えば……そうかな。

ありあは母に尋ねる。


「まだ受験の失敗引き摺ってるの?」
「繊細だから……」


繊細か———確かに、トゲトゲとした言葉を使う者は、繊細ゆえだと唱える者もいる。

しかし……


「かのん———名前通り…か。だがそれも…フッ」



コーヒーをグイッと飲み干した。








————※————




「………」


人が通る……透き通るように。

速人は同じく結ヶ丘高等学校の男性用ブレザーを着て初登校。
ただ、彼は初の試みを行なっている———目を瞑ったまま、校舎まで辿り着こうとしている。武道を極めようとしている彼なりの修行……

人の氣——呼吸、オーラ、心拍……そういったものを第六感で感じ取り、道を進んでいる。

当然、人にぶつかったりは絶対にしない——


ただし……相手によるが。


「「!(疼!)」」


目を瞑っていた速人にボディーブローが襲う。しかし体幹の鍛えた彼はふらつきはせず、逆にぶつかった……体からして少女が尻もちをついてしまう。

流石の速人も目を開け、彼女に手を差し伸べる…パステルブルーの瞳と、グレージュのボブカットの。


「大丈夫か?」
「アウ…あ、はい…大丈夫デス……って、Gāo(高い)!!」
「(中国語……)どうも。」


方言的にとはいえ、日本語以外の言語も混じるように話されている。文字に至っては日本語には変わっていない。
ゆえに翻訳家の仕事は無くなるどころか、ワンワールドが意識されたことで増えているそう。

さて、速人を高身長だと言った少女……彼はこの娘が見覚えのある制服を身につけていると気づく。


「お前…結ヶ丘の?」
「はい!唐可可と言いマス!——あなたは?」
「——速人。天羽速人だ。ま、これからよろしく。」


自信ありげに名乗った彼に、可可という彼女はとあることを聞く。


「ハヤトさん、あなたに聞きたいことがありマス。」
「答えられる範囲なら…いい。」


遠回しのOKをもらった可可は、改めて彼に尋ねる。


「可可はスクールアイドルがやりたくて日本に来ました!だから可可と一緒にスクールアイドルに興味がある人を探しています!」
「なるほど。スクールアイドルを結ヶ丘で———」


スクールアイドル———日本で流行り始めたのはもう50年以上の話…今や世界の知るところであり、大陸が1つになった事でその人気は絶頂であり続けている。

いわゆる「学校でアイドル」というやつなのだが………彼に妙案が降りてきた。


「だったら紹介したい奴がいる。お前なら絶対気に入る…!」
「本当デスか!?その人はどんな人デスか!?」


目を輝かせて速人に迫る可可。

彼は———路地の分岐路を指差す………



微かに聴こえつつある……美なる歌声。










ほんのちょっぴり(歌:澁谷かのん)





〜〜〜〜〜






スキップしながら歌を終了した……というより、人前に出たから終了したという方が良いか。
ヘッドホンを外し、人が賑わう大通りへと合流する。

一言……かのんは呟く。


「はぁ…何でもない時はいくらでも声が出るのに———」


彼女は歌えなかった……結ヶ丘の音楽科の試験で。運命にしては呪われている。
絶世の歌声を持っていながら、それを世に出す事を禁じられた……まさに神の思し召しとしか言いようのない。

しかし———聞く者はいたのだ。


「うーっ!太好听的吧!!!」
「えっ、え、何!?」


突如かのんに発せられた意味不明の言語……現代社会の観点から、正確には方言に近いもの。

しかしどちらにせよ意味がわからないのは変わらぬが……お構いなしに——可可は迫り続ける。


「你唱歌真的好好听啊。简直就是天籁。刚才听到你唱歌了。」
「ちゅ、中国語!?」
「我们以后一起唱歌好不好?一起唱! 一起做学园偶像!!」


意味不明な言語に、近すぎる距離に、突如として向けられる輝いた瞳……敬遠したいのは言うまでもない。


「に、你好!謝謝!パンダ!拉麺セット定食ぅ!」ダッ


いかにも典型的日本人らしい、誤魔化し方でその場を去ろうとダッシュするかのん……しかし。


「待ってクダさい〜っ!!」
「怖い怖い~っ!」


諦めずに追ってくる可可に、かのんは逃げ続ける。

その様子を速人は背後から見ていた。


「スクールアイドルについて詳しく知っているわけではないが……かのん、お前のためだ。」


彼は———飛ぶように走った。



————※————





霞ヶ関の一室………


「今日は——結ヶ丘高等学校の入学式…開校式か。」
「結ヶ丘高等学校?何だねそれは?」


問いただす男……知らなくて当然のように、またある男は返す。


「結ヶ丘で起こったあの一件…その渦中の学校の跡地にできた学校だ。」
「何…?では、まさか———」
「あれほど怪人を発生させていると言うに……なかなか懲りん街だ。」


視線は———会議のリーダーへと注がれる。

彼は即決した。


「どうやら……痛い目に遭わないと分からんらしい。」
「では———その通りに。」




————※————




「はぁ…はぁ……まだ来るの〜!?」


かのんは逃げ続けていた……五分間走とでも言うべきハードさ。しかし可可とはだいぶ距離が離れた———

が、ここに黒い影が側方のビルを走る。


「よっと。ここは少しばかり通せないなぁ。」
「は、速人君!?」


かのんに立ち塞がったのは———速人だった。

5分で追いつくにはあまりに遠すぎる距離……それを難なく、息を切らさずに追いついたのだ。

意外すぎる人物が立ち塞がったかのん。しかし起死回生、彼女の真横に脇道——そこに入ろうとする……が。


「うぃーすっ♪」
「やっと追いついたぞ速人…!」
「ちいちゃん!?那由多君も…!?」


この2人を退かして進むことはできるが、その間に追いつかれる———そんなこんなするうちに…可可が残り10メートルまで迫る。

終わった。


「ゼェ…ゼェ……お、追いつきまシタ…!」
「え…これ……」
「まぁ落ち着いて話を聞いてやれ、かのん。」


怯えと絶望感が顔に現れるかのん……なんか、ドSホイホイっぽい絵面だが気にしない。







さて….




冗談は———終わりだ。












ドカァァァァン!!!





「「「「!?!?!?」」」」
「危ねぇ!」



突如道路の真ん中で起こった爆発……そこにいる4人が唖然とする中で、野生の勘を発揮させた那由多が1番離れていた可可を守る———

その代償を払ってしまう。


「ぐぐぐ……」
「大丈夫デスか!?」
「あぁ…肩だ———」


少しばかり不覚を取った速人…それに続いて、かのんと千砂都も心配にやってくる。

かのんは突如起こった出来事に困惑を隠せない。


「何?どういうこと!?」
「ガラスの破片だ…高速で刺さったからその分ダメージもデカいが——肩にズラしたのが幸いだな。」


速人は手持ちのタオルを那由多の鳩尾あたりに落とす。それを取った千砂都はガラスの刃を抜かず、そのままタオルで手当てする———

速人は…3人を守るため、前に出る。

爆煙から姿を現す———雪男のような容貌のバケモノ。


「何アレ……」
「ハワワワ...妖怪(Yāoguài)!?」


イエティメギド——一部の界隈ではこう呼ぶらしい。


そのイエティメギドは逃げ惑う人々に冷気を浴びせ、見るも無惨な氷塊へと変貌させ……破壊していく。



無惨すぎる……こうも人間はあっさりと死ぬモノなのか。


本当に———虚しい。




速人は破壊行為によって転がっていた鉄棒を拾い、その雪男を成敗しようと向かう———が、かのんはそれを許さず、彼の制服の裾を引っ張った。


「離せかのん。」
「何言ってんの!?いくら速人君でも…あんなの絶対無理だよ!!」
「でもここでアイツを逃したら、みんな死んじまう!だから……止めるんだよ!!」


かのんの手を振り払い、進み始める速人——が。

ギュッー!




かのんの体は速人の背にくっついて離れない。



「バカ……ばーか!!カッコつけんな…!」
「カッコじゃねぇよ——俺は」
「うるさい!何で私から離れるの…!?ここで速人君が死んじゃったら…私、誰に守って貰えばいいの……!?」
「————」
「約束したじゃん……速人君のバカ!」


約束……その言葉を聞いても顔色一つ変えない速人———だからこそなのかもしれない。

速人はカノンの手を振り解いた———が、ここで異変が起きる。


カチャ



「何これ……?」


速人のポケットに入っていた何か……掌サイズの赤い本——『BRAVE DRAGON』と書かれた炎の龍が描かれたそれを、かのんは取り出し、手にした。


速人は……かのんが手にした本を——触れる。





その瞬間———





【ブレイブドラゴン!】








ブォォォォン!







炎が彼等を包む……






驚くべきは———炎の起点が透けるように見える、「かのんの心」である!




「「「かのん(サン・ちゃん)……!!」」」




同じく炎のバリアに入った可可、千砂都、那由多はただ感嘆の声を上げる。


「速人君…!」
「かのん————」


かのんは烈火の如く本を、速人に渡す……と、炎はカノンの心に収束していく———ようやく炎の網は解かれ、神聖な炎はかのんの心から離れる。

霊魂のように浮かび上がった炎は———100cmの燃える剣を創り出した。


【火炎剣烈火!】



速人は確信するようにその剣を——抜く!!


すると……炎は黒いガジェットを形成していく———


【聖剣ソードライバー!】


「これが……俺の——かのんの想いがこもった剣。」


速人は……そのドライバーをあてがう。すると腰にベルトが自動展開され、固着される。

彼の奇異な青と金の瞳は決意に染まる———そしてかのんに言い放った。


「かのん……俺が何故、武道を極めてきたか———その答えは昔から変わってない。」
「え…?」
「お前らを……守るためだ!!」


【ブレイブドラゴン!】

【かつて、全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた…】


赤い本が読み上げた伝承———龍の如く燃える炎はその話に現実味を帯びさせる。

速人はその本を閉じて、ソードライバーへとセットする……ファンタジックな音楽が流れる。

その剣柄を握り……


「変身…!」


【烈火抜刀! ブレイブドラゴン!】



燃える火炎剣でクロスを描く。

炎から現れたドラゴンが装甲を形成、仕上げにX字の炎が複眼へと変貌する。



【烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!】



炎のドラゴンを右肩に肩取られ、頭頂に伝説の剣士としてソードクラウンを持つ———炎の剣士にして、明星を見定める先見を持つ者………仮面ライダーセイバー




「全ての結末は……俺が読んだ!」






〜〜〜〜〜〜





【火炎剣烈火!】



凍えるような世界に……温もりが訪れる。温もりは氷塊となった人々をあるべき姿へと戻す。

困惑するイエティメギドは、突如として現れたセイバーに脇腹をすれ違い様に斬られる。


「グォォォ…!」
「へっ…お前の弱点は全て見えてるぜ——!」


仮面ライダーセイバー 鍛え上げられた努力の剣士であるだけにあらず。

彼の青い右眼はあらゆる物質的な物を見通し、彼の黄金の左眼は全ての精神的なものを見通す神の全知の目———これを持ち、師匠である俺にしごかれた心身は世界でも有数であろう。


イエティメギドは怒りのままに吹雪を口から吐く。

しかしセイバーは火炎剣で炎をバリアのように展開して、吹雪を相殺する。

2人の間に湿った空気——セイバーはその距離を瞬時に詰め、その火炎剣をメギドの肩へと入刀する。その一撃に……彼の鍛え上げられた腕力と鋭利さが込められている。


二撃で大ダメージ……彼はソードライバーに納刀し、メギドを蹴って距離を取らせる。


「剣の方が得意だが……師匠の『フィニッシュは必殺技、最終必殺は蹴り』に従うか———」


【必殺読破!】


セイバーは師匠直伝のカッコいいポーズを2連続で決め、ジャンプする———そして火炎剣のレバーをもう一度引く。


【ドラゴン一冊撃! ファイヤー! 】



「全ては———俺の読み通りだっ!」


業火を纏った龍の蹴撃は……イエティメギドを貫く———怪物の体は消滅し、中から一般人が現れる。

カッコつけて着地したセイバーは終わったことを見届けると、変身を解除する。


「人が……怪物になってたのか———」


独り言のように呟いた言葉……そこにかのんと千砂都、怪我をした那由多が駆け寄ってくる。


「速人君……」
「———忘れるわけねぇだろ。約束は絶対に守るのが男だ……師匠はそう言っていた。」
「バカ……心配させないでよ///」


涙目になりかけたかのん……彼女の一途さゆえか。

と、ここで那由多があることに気づく。


「あっ!!こんなところで油売ってたら時間が……ん?」
「「「………!?!?」」」


驚くべきことに……時間は1分も経っていなかったのだ。


そして————もう一つ。



「あれ?スバラシイコエノヒト?スバラシイメメノヒト?はどこに…?」






はたして真相やいかに………















 
 

 
後書き
前編後編で分けていこうか、一話ごとにするか、少し考えてます。 
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