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Fate/WizarDragonknight

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捕らわれのマスター

「アカネちゃん!」

 捕縛されているアカネの姿を見るや否や、友奈はムーンキャンサーの身体に触れた。
 水を個体に固めたかのように柔らかく、掴みどころのないそれは、友奈の腕力を完全に否定していく。

「何これ!?」

 両手で、友奈はムーンキャンサーの腹を掴む。だが、あまりにも滑りやすいそれを友奈が破ることはできなかった。

 そして、自らの体に接触する友奈を、ムーンキャンサーは放っておくはずがない。ゆっくりとその鎌首をもたげ、友奈の姿を見下ろした。
 その黄色く、つぶらな瞳を持つムーンキャンサー。だが、すでにそれはアカネを取り込んだ影響が始まっていた。丸みを帯びた頭部はだんだんと後頭部が尖っていき、より刺々しくなっていく。

「っ!」

 ムーンキャンサーの視線に、友奈は即座に飛び退く。同時に、ムーンキャンサーの口から黄色の光線が発射される。
 鼓膜を揺さぶるような光線が、友奈が立っていた場所を切り裂いていく。
 さらに、ムーンキャンサーは追撃とばかりに友奈を睨む。

「!」

 ムーンキャンサーの無言の悪意。
 それは、生身の友奈への光線という形で現れた。
 だが。

「……っああああああ!」

 その叫び声は、洞窟入り口のアンチから。
 紫の怪獣となった彼は、友奈の頭上を飛び越えて、ムーンキャンサーの前に立つ。超音波メスを切り払い、そのままムーンキャンサーに掴みかかった。

「新条アカネを、放せ!」

 アンチは、その剛腕で連続パンチを放つ。ムーンキャンサーどころか、洞窟全体を揺らす衝撃がムーンキャンサーに与えられるが、それでもムーンキャンサーは揺らぐことはない。
 無数の触手が、アンチの背後に忍び寄る。

「アンチ君!」

 友奈が呼びかけるがもう遅い。
 アンチの四肢とはらに巻き付いた触手が、彼を縛り上げていく。
 ムーンキャンサーはそのままアンチを天井に叩きつけ、続け様に地面に叩き落とす。

「がはっ……!」

 あっさりと生身に戻されたアンチ。
 ムーンキャンサーは、アンチにトドメを刺そうと触手を持ち上げている。
 アンチを貫こうとする触手。
 だがそれは、その前に割り込んだ友奈の体を貫いた。

「がっ!」

 体に走る痛み。
 だが、例えそれが致命傷だったとしても、友奈の体が死ぬことはない。
 牛鬼___友奈の世界、その根元の力である神樹の力は未だに残っている。如何なる脅威が友奈を襲おうと、死ぬことは許されない。

「お前……なんで助けた?」

 だが、そんなことを知らないアンチは信じられないような顔をして友奈を見上げる。
 平気、と友奈がほほ笑むと同時に、友奈の全身に無数の痛みと脱力感が襲った。
 勇者の衣を貫通して、ムーンキャンサーの触手が友奈の体に針を通していたのだ。
 そして、静かに振り向いて、友奈はぞっとした。
 ムーンキャンサーの触手、その内部に赤い液体が流動していた。
 友奈の血液が、抜き取られている。
 その事実に青ざめた友奈は、慌てて背中の触手を引きちぎる。
 痛みを感じ、貧血により友奈は大きく揺れ動く。さらに、ムーンキャンサーは友奈へ無数の触手を放ってきた。
 友奈を切り殺そうとする、ムーンキャンサーの触手。その攻撃一つ一つを、神樹の力である桃色の光で防いでいく。
 しばらくして、ムーンキャンサーは触手による攻撃を収める。
 異形の者同士、何かシンパシーを感じたのか、ムーンキャンサーと牛鬼は睨み合っていた。

「牛鬼……! 変身いける?」

 友奈は右肩を抑えながら、スマホの牛鬼に確認する。
 牛鬼は友奈に応えるように頷く。同時に、スマホから無数の花びらが舞い上がった。
 友奈がスマホのボタンを押すのと、ムーンキャンサーが再び光線を発射するのは同時だった。
 音速の光線は、友奈が変身する際に放たれる光の花々によって阻まれ、霧散する。洞窟内に反射される光は、そのまま洞窟の岩石を切り裂いていく。
 勇者の姿に変身を完了させた友奈は、そのまま身構えて突進。アカネが捕らえられている腹部を避けて、その上部のムーンキャンサーの頭部へ拳を向けた。

「勇者パンチ!」

 桃色の花びらとともに、友奈の主力技がムーンキャンサーに炸裂する。
 ムーンキャンサーの軟体とした頭部が大きく跳ねる。
 だが、アカネを捕えたままのムーンキャンサーの腹に影響はない。
 友奈は歯を食いしばり、再び勇者パンチを身構える。
 だが。

「っ!」

 友奈は勇者パンチを即座に中断、アンチの前で両腕を交差させる。
 両腕の間に半透明な花びらが咲き、大きな盾となる。同時に、そんな花びらへ、蒼い雷が飛んできた。

「ぐっ……!」

 防御を貫通して、友奈を圧す雷撃。
 花びらの防御が、雷と同時に消失、少しふらふらとしながらも、その雷撃の発生源を睨む。

「今の……!」
「おいおい……邪魔は止めてくれよ、セイヴァー」

 ムーンキャンサーの背後に現れる蒼い闇。

「トレギア!」

 その姿に、友奈とアンチは警戒する。
 蒼い闇のサーヴァント、トレギアは、即座に腕に暗い雷をチャージ。暗い洞窟内で、即効性を持つトレギアのトレラケイルボスが、友奈の体を吹き飛ばす。
 友奈はそのまま、アンチの前に転がり出る。
 唇を震わせるアンチは、ずっとムーンキャンサーの胎内のアカネから目を離せない。
 友奈はアンチを洞窟の外側へ押しやり、叫ぶ。

「トレギア……っ! アカネちゃんは、あなたのマスターでしょ!? 友達じゃないの!? 大切な人じゃないの!?」
「おいおい……私にとっての大切な人というのは……」

 そこまで言って、トレギアは沈黙を選んだ。
 その流れの中断に、友奈は一瞬目が点になる。
 トレギアは首を振り、再びトレラケイルボスを放つ。
 友奈はジャンプして蒼い雷撃を避ける。
 低い天井、その岩壁に張り付いた友奈は、そのまま直下のトレギアへかかと落とし。

「だあっ!」

 だが、トレギアは手を振り、友奈の反撃を弾き飛ばす。

「ぐっ……!」

 さらに、トレギアのうねるような雷の動きに、友奈は地面に投げ出されてしまった。
 やはり友奈とトレギアの相性は最悪。
 それを証明するかのように、一日に二度、トレギアに敗れてしまった。

「おいおい……無駄なことなのに、よくやるよね君も……」

 さらに、トレギアもまた攻撃の手を緩めることはない。
 鞭のように伸びていくトレラケイルボス。反撃しようとする友奈の手足を次々と封じ、だんだんと友奈を追い詰めていく。

「っ! こうなったら、満開でっ……!」

 友奈は、弾かれながらも、その右腕を盗み見る。
 桃色の光が溜まりかけているが、まだ足りない。
大急ぎで 二人を相手に、だんだんじり貧になっていく。その時。
 吠える唸り声。
 赤い龍、ドラグレッダーが狭い洞窟内の中にその姿を現した。
 友奈とアンチを守るようにその体を盾とし、二人の体を包む。
 トレギアのトレラケイルボスは、その赤い体に阻まれ、友奈たちに届くことはなかった。
 そして。

「友奈ちゃん!」

 ドラグレッダーがいるならば、彼がいるのもまた同義。
 城戸真司が、息を切らしながら洞窟の中に飛び込んできていた。

「大丈夫か!? それに、その子さっきの……」
「うん……真司さん、前!」

 引き攣った顔で、友奈は前を指差した。
 真司へその爪で襲い掛かって来るトレギア。
 真司は慌ててドラグセイバーを手に、トレギアの攻撃をいなしていく。
 そのまま蹴りでトレギアの腕を弾いた真司は、「だああああっ!」とドラグセイバーでその体を切り裂いた。

「真司さん!」

 トレギアをムーンキャンサーのところまで離して、真司は友奈に手を差し伸べる。

「ほら、まだ立てるか?」
「うん。ありがとう」

 友奈は真司の手を握り返す。

「ライダー……」

 真司の姿に、友奈とトレギアは真逆の反応を示す。

「友奈ちゃん、大丈夫か?」
「うん!」

 真司に助け起こされた友奈は、フラフラとしながらも体勢を保つ。
 真司は頷いて、トレギアを睨む。

「トレギア……!」
「へえ……ライダー、ゴーヤベックを倒してきたんだ」

 トレギアは真司の姿を見て舌を巻く。

「ああ……中々のデカブツだったぜ」
「へえ……」

 トレギアはゆっくりと首を回した。

「それはそれは……君に派遣しておいて正解だったかな?」

 真司は静かに、ムーンキャンサーに捕らわれているアカネを見上げた。
 さっきから何度もムーンキャンサーと戦っているが、皮肉にもムーンキャンサーの防御力により、アカネは外の戦闘を知る由がなかった。

「トレギア……紗夜さんをひどい目に遭わせて、コヒメちゃんを誘拐して、今度はその子か!?」
「おいおい……いいだろう別に」

 トレギアは続いて肩を鳴らす。

「君には関係のないことだろう?」

 その言葉に、真司は更に顔を歪める。
 友奈は真司に並び立つ。すると、真司は静かに告げた。

「友奈ちゃん、トレギアは俺が食い止める。あの子のことは、頼んだぜ」
「分かった!」

 真司はそして、ポケットに入れている龍のエンブレムを翳した。

「止めてみせる……お前が引き起こした、この戦いを!」

 すると、どこかの鏡像から、それは現れた。銀のベルト、Vバックル。それが装着されると同時に、真司は右手を斜めに真っすぐ伸ばす。
 そして。

「変身!」

 虚空より重なる鏡像。
 暗い洞窟内を、鏡の反射する光が照らしていく。
 赤い仮面騎士、龍騎。
 闇が支配する洞窟内を、炎の光が照らし出していった。 
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