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不可能男との約束

作者:悪役
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そして日々はいとも簡単に壊れ

 
前書き
何時もと言われていた幻想は崩れ

変わるという現実が押し寄せてきた

同じと言う言葉は夢でしかないのか

配点(終了)
 

 
三河の郊外に位置する呑み屋の座敷で、三河の警護隊の総隊長である少女、本多・二代は今の状況に思わずふむぅ……と唸っていた。
何がどうなったらこうなるのだと。
実は先ほど、三河に降りてきた今、目の前で騒いでいる人間の一人、松平四天王が一人。酒井忠次に勝負を挑んだのである。
実は父に嗾けられたともいうが、そこら辺は割愛するで御座る。
結果は、自惚れを含めて言えば、勝負の流れという意味なら勝っていたような気がするが

……まさか、最後に尻を触られる余裕があったとは……拙者としたことが……!

まだまだ修行不足で御座るなと未熟の二文字を頭の中で浮かべる。
今、そこで騒いでいる自分の父。
東国最強の異名を持つ本多忠勝ならどうだったのだろうかと思うが、自分は父の本気もそうだが、酒井様の本気も見た事がないので、自分の中の情報では判断は不可能と断じた。
ただ、父は「ふっふーーん! 俺が酒井の馬鹿に負けるわけねーだろ! 割断しまくるんだかんね!」とか以前に言っていた。
割断というのは神格武装である蜻蛉切りの事を言っているのだろうけど、それ、思いっきり遠距離攻撃ばっかりで御座らんかと思うのは、拙者が父を信じなさ過ぎるからで御座ろうか?
未熟という言葉をもう一度脳内に浮かべながら周りを見る。
さっきも説明したようにここにいるのは松平四天王の内の三人。
酒井忠次
本多忠勝
榊原康政
自分で言うのも何だかと思うが、はっきり言えば自分がここにいるのは間違いなのではと思ってしまう―――主に一人だけ話が合わないという点で。
いやいや、だって、五十代頃の男ばかりの集団で、18の少女が話に入れるはずがないで御座ると自己弁護みたいなことを考えるが、当たり前の考えである。
故に自己紹介が終わったら、ただぼーっとしているだけしか出来ないと二代は思っていたのだが

「ダ娘君。君、こっちに来てみない? 君みたいな子が来てくれるとおじさん、かなり嬉しいんだけど」

「え? いや、それは……」

いきなりの申し出。
正直に言えば、かなり嬉しかった。自分は戦闘訓練は積んではいるが、実戦経験は全然積んでいない。
ようはかなり自分の自信に不安な状態であった。
今は三河の警護隊の総長を務めているから、過信ではなく拙者はそこそこのレベルにはなっているので御座ろうと思っている。
そこに元とはいえ松平四天王からの誘い。それはさっきの試しから自分の実力を認めれくれたというのであろうか? それともこれはただの自惚れなのだろうか?
それを隠すことが出来ないというのは、やはり未熟という思いがある。
そこに酒井学長が話を続けた。

「空いている場所は副長補佐だね。ダ娘君みたいな真面目な子だったら熱田も少しは感化されてくれたら……いいんだけどねぇ」

「……熱田、ですか」

その名を聞くと何故か冷静になれた。
熱田という姓を知らないというわけではない。戦闘系の人間だったら誰でも知っている姓だ。
そう思っていたら父が問いかけた。

「おい、そういえば酒井。その副長は呼んでこなかったのかよ。熱田っていうから期待していたのによー!」

「おお、一応聞いてみたんだぞ。そしたら何て言ったと思う?」

知らん知らんと父と榊原様が手振り付きで答える。
拙者も雰囲気を呼んで首を横に振る。
その返答に満足したかのように笑い、そのまま告げる。

「『てめぇが本気で来るっていうなら相手にしてやらんでもないぜ爺』って言っといてくれって」

「……」

「……」

「……」

沈黙した。
一瞬、気まずいような、怒っているような、別にどうでもいいような雰囲気が漂って、そして
はという音が連続で繋がる笑いが起きた。
松平四天王の三人がいきなり笑い出したので。その事に二代は驚いて三人を見るが、三人はそれを気にしなかった。

「おいおいおい! その台詞! 我、思いっきり昔を思い出してしまったぞ!!」

「俺もだよダっちゃん。熱田の個性は生きているだろ?」

「懐かしいですね……確か、本多君がいきなり『暇だから熱田倒すか!』とか脳に蛆が湧いたんじゃないかという発言をして熱田神社に喧嘩を売りに行ったんですよね……いや、あの時は本当に若かったですねぇ……むこうも喧嘩を売りに来たこちらに『ああ!? 三下どもがこの俺様に勝てるとでも思ってんのか!? この金魚の糞共が!』とか叫んできたので同点でしたが」

「馬鹿野郎! あれは我の勝利だ。我の必殺と・き・め・き☆ホンダリアンパンチ! で判定勝ちだったではないか!」

「ああ……ダっちゃんのあの無駄というくらいの脳震盪を起こすための顎狙いの攻撃にはそんな気色悪いネーミングがついてたの?」

「まぁ、あっちはあっちで面白いくらい本多君の人中を狙ってきたから、確かに外道レベルという判定では同点だったと思いますが」

「あれは我でも喰らいすぎて思わずSHOW・天! とか叫んだなぁ……」

成程……過去というのは美化されるので御座るなと二代は初めて哲学というのを理解できた気がした。
というか最初の疑問を問うのを忘れていたので、忘れぬ内に問わねばと思い、慌てて問うた。

「皆様は……剣神・熱田に挑みにかかったので御座るか?」

剣神。
そう剣神である。これはよくある眉唾物ではないし、神肖動画(アニメ)でもない。
さっきも言ったように熱田という姓は戦闘系の人間には有名な存在である。戦闘系としては剣を取ればそれこそ最強クラスの存在である。
勿論、熱田以外にも鹿島などという軍神もいるのだが、ただ戦うというだけならばこれ程強い存在はいないだろう。
弱点といえば、剣神はその内燃排気を己の身体の強化に全てを注いでいるので、それ以外には使えないという事だろう。
剣には成れるが、剣以外には成れない存在といえばいいだろうか。
故に遠距離からの攻撃には弱いのだが、その分近接では正しく剣の神に相応しい存在と聞く。
とは言っても噂のみで見た事はないのだが。

「おお。我は果敢に挑みにかかったぞ、二代よ。だが、そこの二人はチキンでな。我は突っ込んだのに、この二人は外野で賭けなどしておったからな」

「ああ……確かに全員が全員ダっちゃんの敗北にかけていたから、皆でダっちゃんに「負・け・ろ! はい! 負・け・ろ!」コールを連続で言ってたよねぇ……それで負けないんだからダっちゃんは本当に空気が読めないよねぇ」

直ぐ傍でお皿が飛び交うがそこは無視させてもらうで御座る。
成程………つまり、この三人は剣神の強さを知っているという事になる。
だけど……

「確か、武蔵の副長……」

「ああ。別に聞いた通りの事を言ってもいいと思うよ? 本人もそれは否定していないし、否定できる事実もないからね、今のところ」

Jud.と気を遣わせてしまったで御座ろうかと思うが、気を遣わせたのであれば乗らなければ失礼だと思い、意を決して今まで聞いたアリアダスト教導院の副長の風聞を言わせてもらうことにした。

「その……副長とは、名ばかりのただの……人間だと」

最後の言葉はつい修正してしまったと思う。
本当ならば最後の方はかなり汚いことを言われていたのである。それを口に出すことは憚れるというのはただの同情か、そう信じたくないだけだと思う。
見たことも、話したこともない相手に同情をするのは失礼だとは思うし、本当に信じられる相手なのかも解らないのだが。
そして拙者の言に対して、酒井様はただ苦笑した。

「まぁ、そう思われても仕方ないだろうねぇ。副長というには戦闘力を示さないし、実技でも何もしないどころかさぼる。そんなのを見たら誰も認めようとはしないだろうねぇ……現に武蔵内でもあれでいいのかという意見が出てるくらいだし」

「ならば何故」

そんな人物を副長に……という意見は自分の立場から言えるものではないと思ったので口を閉ざした。
だが、ばればれだったようで周りから苦笑が響き、思わず体を縮めてしまう。

「選んだのは俺ではないからねぇ……ただ、一つだけ言えることはあるよ」

「それは……」

「Jud.選んだ三年、特に同じクラスの奴らはそんな馬鹿に何の不平も言ってないってことだよ」

「―――」

「面白いでしょ?」

そう問われても困る。
言われた内容をどう考えればいいという考えだけが、頭の中をぐるぐると回るだけで答えが出せない。
頭が固いと自分でも常日頃から思っていることがここでも出てきてしまった。
だからという代わりに父が質問を出した。

「おい、酒井」

「何だよ、ダっちゃん」

「我はもう一度だけ聞きたいことがあるだけだ―――熱田の個性は引き継がれているか?」

「―――Jud.」

二代はその言葉から生まれる反応を見た。
ここにいる松平四天王が同じ反応をしたのだ。
微笑だった。
期待するような、面白いというような微笑だった。その反応に二代は何も言えなくなった。
それ以降はお流れみたいな感じで流れた。
途中で自分の世話役で師匠役の鹿角様が来て、自分はその流れでそこから退出することになった。
考えていることは幾つかあるが、一番といえるのはやはり、武蔵に来ないかと言われたことと

……武蔵副長・熱田・シュウ殿で御座るか……。

考えても解りはしないというのは自分でも解っているがそれでも考え込んでしまうのは興味があるからだろうと思う。
武芸者としても、一個人としても。
副長という力という責任の位置を望み、されどそれを示さず非戦を選んでいる名高き剣神の末裔。
武芸者としての自分は純粋に戦ってみたいと思う。やはり、強いと称される、しかも父が戦って面白かったという相手の子ともなれば、血は熱を持つ。
そして一個人としては───問いたいことがある。
それは今も自分が常に自分に対して思っていることである。
それは自然と誰にも聞かせないような音量で口から出された。
戦わないのは

「自分が未熟だと……そう思っているからで御座ろうか……?」

解りはしない。
そう自分に言い聞かせて歩く速度を少しだけ上げた。








夜の学校。
それは何だかテンションがおかしくなる時だと浅間は思った。
現に周りのテンションはヒャッホーー! という感じでおかしくなっている。でも、何時も梅組のメンバーはおかしいから、つまり梅組には夜のテンション効果は通じなかったという事になる。
流石は狂人の集団。
月の魔力とかいうロマンティックなものに狂わせるような繊細な心は持っていませんねと納得した。

「……何だか浅間さんが私たちを物凄い味がある表情で納得したように首を縦に振ったんですけど……」

「……ふぅ。末期さね」

「な、何でそんな結論をマッハで出しますか!? も、もうチョイ考えましょうよ! ほら! 私はかなり良い巫女ですよ?」

「語尾が疑問形ですよ?」

「自分で結論出しているさね」

「だ、大丈、夫、だよ……? み、皆、気にし、てない、から……」

疑問、結論、優しさの三連コンボで思わず仰け反る。

一番鈴さんの言葉にダメージを受けてしまった気が……だ、大丈夫です! 鈴さんは良い人ですからね!? ですから、これはただの被害妄想……!

すると、左目の義眼"木葉"が何かを捉えた。

「あ。良いところに」

その何かに躊躇わずに矢を放った。
丁度運よく? アデーレの頭の上、ほぼ1㎝くらい上を矢が通り、そして背後の空間に消えていった。
その一連の動作にアデーレは笑顔で動きを止めて、こちらを見る。

「……自分、浅間さんに何か酷いことをしたでしょうか……? 今のは正直恐怖を通り越して、もう死んだ父を見る勢いだったんですが……これ以上自分の背を縮めることはしたくないですよー」

「ち、違いますよ! 別にアデーレを狙ったわけじゃありませんし、アデーレはそのー……言葉を選んで言えばもう完全体なのでこれ以上の進化はないですよ?」

「自分、人生で一番の屈辱を感じてますよ!?」

まぁまぁと落ち着けと手を振る。
この程度で人生で一番の屈辱と感じていたら梅組で生きていけないだろうにと浅間は内心でそう思うが言わない方がいいだろうと思い沈黙する。
とりあえず今、射った方向を見る事にした。
さっき射った場所には所謂、幽霊らしきものがいた。
幽霊とは言っても今のは残念が薄い存在。どちらかというと地縛霊の方が概念的にはそっちの例えの方が正しいかもしれない。
夜の学校というのはそれだけで霊的なものを招きやすい。それは過去に何かがあったとかそういう怪談話とかの所為かではなく、雰囲気がだ。
勿論、そういった怪談も実際にあったりするが、今の場合は学校の夜という嫌な雰囲気という力場に引き寄せられて、雑念が集まっているという感じだろう。
だからそういう意味ではトーリ君のこの肝試し? は丁度いい提案だったのです。巫女としてこういう怪異はほっとけませんからね。
怪異
そう怪異である。
最近は怪異が多発している。そして原因は恐らくというものだが、解っている。
武蔵……いや、世界中の人間すべてが知っている単語である。それが恐らく原因とされている。
末世
それがどういった物なのかは、よく解っていないというのが世界の現状。
ただ唯一の理解は世界が滅びるという事だけ。本当にそれだけである。
一説によれば時が止まるとか、色々言われていますが一説と言っているのならば、それは結局の所何もわかっていないに等しいという事でしょう。
それが解ったのは聖譜という前地球時代の歴史を百年先まで自動更新してくれるはずの物が一六四八、つまり、今年で止まっていることから発覚した。
そうそれはまるで

……ここから先の歴史は私達にはないって言われているみたいで……。

まるで歴史から諦めろと言われているみたいだと末世を知った時に思いました。
そして次に思ったことは確かいきなりそんな事を言われても……でしたっけ。
でも、これは当たり前の感想だと思う。
いきなり世界が滅ぶと言われて実感何て湧く筈がないですし、世界が滅びるという事を経験しているわけでもない。
だけど、それでも現実は受け入れなければいけないという事でしょう。このままでは自分達は卒業すること出来ず、自分の進路……夢を達成できないという事なのだから。
そこまで思って、つい、とある少年の事を思い

「お。アサマチがまた馬鹿熱田の事を考えているぞ」

「なぶっ! ど、どうしてそこまで的確に人の考えを読むことが出来るんですかマサ! ま、まさか……! 心眼とかですか!? 何時からそんなイタイ奥義を身に付けたんですか!?」

「面倒臭いから前半だけ答えるけど顔」

直ぐに近くの窓を見て自分の表情を見ると───納得してしまったので俯いた。

ま、不味い……! 明らかこの表情は不味いですよ……!

周りがにやにやしている事は明らかなので絶対に顔を上げない。
自分の表情を言葉にすると絶対発狂するので意地でも言葉にはしない。自分でもこの表情はどうかと思っている。
一体何のせいだろう? 
あ、わかりました。
そう、彼のせいです。
ええ、彼のせいです。
間違いなくあのリアルヤンキーのせいです。
そうに違いありません。
というかそうに決定しました。
全部全部。

シュウ君のせ───

「ひゃっはーー!! 爆発は料理……!」

謎の声と共に調理室が爆発する音が響いた。







……は?

アデーレは本気で何が起こったかさっぱり理解できなかった。
いやいや、少し違いますね。
何が起こったか理解できないのではなく、何故そんな事になったのかが理解できないが正しいですね。
爆発がした場所は調理室。外の窓から視覚で確認しましたし、聴覚でもそうだと判断しています。これでも耳は良い方なのだ。
そしてその良い耳が爆発する前に聞こえてきた少年の声を捉えている。
あの声は

……副長でしたね。

声の色からして思いっきり楽しんでいるのがひじょーーーーに解ってしまった。
という事は深刻な事ではないのでそんなに深く考えるべきではないのでしょうか。

ううむ……難しい判断ですねーー。

あれでも一応副長ですし。いや、だからこそ副長なのかも。いやいやいや、疑ってばかりではいけませんよ自分ーー。もっとこう何時もの副長を思い出して考えてみれば……あ、駄目ですね。

「浅間さん! 副長が何時も通り変態活動をしてますよー」

「……アデーレ。対応が速過ぎじゃありませんか?」

「あれれ? 自分、何か間違いましたか?」

理解力の速さで憐れまれるなんて初めてのシチュエーションです。
そういえば確か副長と一緒に確か第一特務と第二特務も一緒だったはずでしたが……あ、遅れて出てきまし、た?
変な抱き枕と一緒に。
おやおやぁ? これは私の目が夜の暗さに適応できずに変なものを幻視してしまったのでしょうか? これはいけませんねぇ……今日はゆっくり休みませんといけませんねー。

「だ、第六特務! 私は今、疲れているんですか!?」

「大丈夫さねアデーレ───後でちゃんと腕のいい脳の病院に連れて行ってやるさね」

「……自分の真面目な思考。さっきから捻じ曲げられてませんか……?」

酷い誤解ですよーと思うが聞いてくれないのは理解しているので溜息を吐くだけに留めた。
とりあえず現実逃避は終えてしまったので、現状を再確認する。
恐らくというか間違いなくあの抱き枕は絶対総長の差し金だという事は解っている。あの人以外に誰があんな馬鹿な事をすると……あれれれ? 自分以外のクラスメイト全員に当て嵌まりますよ?
自分、もしかして今まで気付かない内に変態の巣にいてしまっていたんですか? 何て恐ろしい事をしていたのでしょう……!
そんな馬鹿な思考をしていると近くの掃除ロッカーから何かが這い出てきた。
それは白い塊で、その塊からは何故か人間が持っている両足という概念がついており、毛深い所を見ると男性の足なのかもしれないと思考が勝手に結論を出す。
そして今気付いたことなのですが、片方はシーツですが、もう片方は抱き枕。それに表面には最近武蔵放送で流されている人気の美少女キャラ"魔法(ケルト)少女バンゾック"じゃありませんか。
確かあれ。第一話で出てきたマスコットキャラクターを誤って魔法の素材にして何故か触手系のアニマルが生まれてしまって大騒ぎになってしまったんですよねーと思い出す。
それでも人気があるのはバンゾックが物凄く可愛いから見逃されているんですけど。
とりあえず目の前にいる物体はそんな可愛い存在じゃないんですけど。
そしたら何故か目の前の物体から、そうシーツを被っている方の物体の人間に例えたら鼻あたりから何故か赤い色が広がっていた。

「だ、大丈夫、大丈夫?」

「ん、だ、大丈夫コニたんっ、ちょっと鉄分が出ただけ……!」

意味が解らない。
理解力はいい方だと思っていたのですがここまで理解できない存在が目の前にいるなんて……世界は本当に広いですねー。
そしてその後に目の前の物体はこっちに襲い掛かってきた。
決め台詞は

「新しい……価値観……! It's destiny!!」







その後、ヨシナオ王が出て来て、そのままの流れで今日はお開きかなとそこに集まっている全員が全員何となくそう思っていた。
明日で何かが変わる。そう思っていたからこそ───今日起こった変化はただの驚きでしかなかった。
最初に気付いたのは鈴であった。
彼女が持っているのは視覚がない代わりに鋭いという言葉では言い表せない聴覚だ。それを持って彼女は何かを確実に聞き捉えた。
そしてその事疑問に思う人間はその場にいなかった。
トーリの呼び声で直ぐに皆は何も言わずに鈴の聴覚を邪魔しないために黙り、そして伏せる。
それのお蔭で鈴は他の余計な雑音に囚われずに、ただその変化を聞き取ることに集中できた。
そして見つけたのは───炎であった。
各務原の山渓。三河の聖連が監視する番屋があった場所ではとネシンバラが検討を付けるがここからではそこまでだ。
現状ではそこまでが武蔵の限界であった。
ちなみにその後、何故か東の服を引っ張っている半透明の幽霊少女に梅組全員が馴染みのリアクションを取るのだがそれとこれとは別である。





酒井忠次は走っていた。
いきなり響いた轟音に体が反射的に榊原邸を駆けていた。
正直何が起きているのかさっぱり理解できていない。
現にさっき起きていたことも理解できていない。
榊原康政が消えたのである。
比喩でもなんでもない。本当に榊原康政はこの三河から。もしかしたら世界からかもしれない。消えてしまったのである。
あの榊原がだ。
同じ松平四天王で、死線を何度も一緒に潜り抜け、もうこいつら何があっても死なないだろうと根拠なく信じていた仲間が呆気なく消えた。
聞くと同じ松平四天王の最後の一人、井伊直正も消えているという。
その現象の名は公主隠しと言われている、一種の神隠しかもしれないと言われている怪異だ。ある意味これも末世の証かもねぇと思考するが今はそんな所ではない。
その公主隠しに井伊はちょっと前に消え、そして榊原も今消えた。
そして不穏な事にメッセージが残されていた。
"なにをしてるの"
創生計画
二境紋
追え
解らない。
かつての仲間たちが自分に何を伝えたかったのか解らない。ただ意志だけは伝わっていた。
最後に消える前に榊原は言っていた。

「私達は松平四天王。井伊君も含め、皆、共にいると信じていますよ」

その言葉を。
ただ思い出し、そして玄関の遣戸を無理矢理開けると目の前には

……石突き!?





右足を縮める事は間に合わず、仕方なしに無理に動こうとせず、逆に受け、そのまま左腰を上げる事で回転の力を強め、一回転をすることで転ぶことを回避した。
そのままの勢いで右越しに差している短刀を半抜きにして石突きを持っている人間を見る。

「ダっちゃん……」

「老けたなお前───今のを避けれないんだもな。大総長(グランヘッド)の名も既に老いたか……」

事実である。
だが、今ここで昔の自分ならなどという考えに老けている場合ではない。
この状況で、この場所に、この松平四天王の自分を除けば最後の一人である本多忠勝がいる事が問題である。

「……持っているのは蜻蛉切りか。事象すら割断できる神格武装……そんな物騒なもんを持ってどこに行こうっていうんだいダっちゃん?」

「解らんか?」

返事は短い言葉と───地面から響く音であった。
地面が揺れている。
その事に酒井は驚いた。
何故揺れているのかではなく、この響きが昔、経験した揺れに似ている……ではない。何もかもが同じだからである。

「おいおい……ダっちゃん。これは───」

「久しぶりだろ? この揺れも。我らにとっては懐かしさを現すだろ? 昔はこんな風に地脈炉が暴走している中で我らは平気でメシ食ったりヤニ吹かせていたからな。まぁ、もっとも……こんな風に三つも暴走させたことはなかったがな」

「───」

予想していたとはいえその答えに酒井は愕然する。
無茶苦茶だ。
地脈炉の暴走と目の前の男はあっさり言っているが、事の重大さはかなりやばいの一言に尽きる。
かつて、重奏統合争乱が起きる前に、重奏神州の露西亜にて地脈炉が暴走自壊したことがある。その他にも八年前に信長の襲名者が現れたP.A.ODAもまた、地脈炉の暴走を利用して領地内に残るムラサイ反勢力を強制的に滅ぼした。
その滅ぼし方の結果は

「半径数キロの土地が消滅したんだぞ? それを五つも行ったら、名古屋どころか三河が消えるぞ!!」

「だからお前は老けたんだよ」

本多忠勝はただ笑った。
その微笑に酒井は何も言えなくなった。
ただ既視感を感じた。
この笑顔を見た事がある。そしてこの笑顔を浮かべた人間が最後にどうなっていったのかという事を。

「見ろよ。三征西班牙の武神だ。予定にない地脈炉の稼動に遅まきながら気付いて、偵察を行って来たんだろうさ。対空装備で上がってるたあ、運がねえ奴等と言うべきか、運が良いな我らと言うべきか。ともあれ番屋の連中も鎮圧用の山岳装備で纏まって来ているから、三河に乗り込んでも我らの優勢は揺るがぬわな」

言われた通りに空を見上げるとそこには人型の機械。
武神が空を疾っていた。その能力は一体一体でもかなりの能力を有しており、武神相手に一人で勝てるのは英雄クラス。
こっちだとミトツダイラか……副長くらいだろう。
しかし、そんな事は今はどうでもいい。

「どういう事なんだよダっちゃん……お前達は……一体何をしようとしているんだよ?」

「榊原から聞いているだろ?」

「榊原は消えたよ。公主隠しでな」

その言葉に本多忠勝はほう、と興味深げに呟き、そうかと前置きを置いた。

「残念ながらな。我は殿の命令で動いているだけだからな。井伊や榊原は何か知っているようだが、我は何も聞かされていない。ただ、殿から聞いているのは……」

一息を吐き、そして何でもなさそうに告げる。

「これが、創世計画の始まりだってことだ」







創生計画。
ぶっちゃけた話。これについての詳細は知らないのが酒井の本音であった。
ただ知っているのはP.A.Odaの末世対策だという話だけである。具体的に何をするのかなど全く話がされていないので信憑性も定かではない話だ。
それなのにここでその名が出てくるという事は

「……創生計画は三河がP.A.Odaに持ちかけた計画だという事か!」

「ようやく、一つは理解出来たか。まぁ、ここまで言われて気付かない方がおかしいか」

そこまで語り、もう語る事はないと思ったのか彼は踵を返してこちらに背中を向ける。
その隣には終始無言であった鹿角が傍にいた。
その背中に酒井は腰の短刀を引き抜き、一歩近寄ろうとした。

「止めとけ───結ぶぞ」

目の前に蜻蛉切りの刃が出された。
その刃の刀身には上手い事自分が写されている事に気付き呻く。

「我はお前に構っている暇がねえんだよ。―――直ぐにでもK.P.A.Italiaと三征西班牙の部隊がやってくる。これから鹿角と迎撃しなきゃならん」

「……! 馬鹿かお前! そんな事をしている間に地脈炉が暴走したら……」

間違いなく死ぬという言葉は飲み込んだ。
そんな不吉な言葉を……さっきの笑顔を見せた男に言えるものか。
そしてそんな酒井を忠勝はただはっと笑い、振り返る。そこに張り付いているのはさっきと同じ微笑。
その事に酒井は背筋に寒気が走った。
そして忠勝はそんな事は知らないといった感じで謳った。

「忘れたか酒井?我の忠義は殿が望んだことを守り抜き、成し遂げ、ただ勝つ事が我の忠義だ───そこに何故はねぇ。忠義ってのはそんなもんだろ?」

昔から思っていた事だが駄目だと酒井は思ってしまった。
この馬鹿がこういう風にスイッチが入った瞬間にはもう止めれない。
昔からそうだ。この馬鹿の生き様はもう完成されている。こんな鉄のような忠義を叩き壊すことなど不可能だと酒井は確かに知っていた。

「酒井。お前の忠義はたた次へ繋げる事だろう? だったらここはもうお前の居場所じゃねぇ」

「……榊原は、俺たち四天王は常に共にあるって言ってたぜ?」

「ああ。その通りだとも───我らは常に過去の中で共にあるとも。故に我は先に過去になるだけ。ただそれだけだ」

だがらな

「酒井。お前もいずれ来い。そして教えてくれ、創世計画が何だったのかを」

そして

「我らが為したことが末世を、世界を救う一歩になったというのなら」

その時

「我を褒めてくれ」

「ダっちゃん!」

さっき昔の自分ならば後悔するのは無駄と思ったがそれでも思考が止まらない。
今の自分ではこの東国無双を止めることが出来ない事を理解できるが故に歯噛みしてしまう。
言葉では止められないと知っていても口が勝手に動いてしまう。

「娘、どーすんだよ!? うちの熱田も口ではああ言っていたが、お前と会いたいと思っているんだぞ! それに他にも色々あるだろうよ! それを───」

言葉は止められた。
自分の意志ではない。理由は先程まで揺れていた鼓動が震えに変わったからである。
直後、三河が割れた。
比喩ではなく本当に割れた。血管が破裂するかのように空間が弾け、目に映る光景に全てに破壊と言う意が生まれる。
崩壊の始まりであった。






その日の朝は何時もと同じであった。
代わり映えの無い朝。
何時もと同じ光景。
どこにでもある日常。
でも、何時までも続くと思われていた桃源郷(ひび)は儚く壊れ、終わりを迎えた。







 
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