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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第7章 日常編
  第28話 相違

英雄感謝祭もとい、竜種襲撃事件からマグノリアに帰還して数日後、フェアリーテイルは相も変わらず騒がしさを見せていた。
ナツとグレイがしょうもないことで喧嘩をしたり、カグラとウルティアがアレンと先に出かけるのはどっちかと喧嘩をしたりなど、先日のパーティ会場を思わせるような活気を見せていた。
そんな雰囲気の中、アレンはいつものカウンターの、いつもの席でコーヒーとケーキを楽しんでいた。その横に、緋色の長い髪の毛を下げた女性が座っている。
「どうだ、アレン?あの店のケーキ、美味しだろう?」
「ああ、こいつは最高だ」
エルザは、自分のお気に入りの店のショートケーキをアレンに買ってきて食べて貰っていた。アレンが嬉しそうにケーキを食べているのを横目に見て、エルザの顔に笑みがこぼれる。そして、少し迷ったようなそぶりを見せながら、足元のカゴから何かを取り出す。
「で、その…私も自分で作ってみたんだ」
エルザは恥ずかしそうに自作のショートケーキを取り出すと、盛り付けてアレンへと差し出すようにカウンターへおく。
「へぇー、すごいじゃない、エルザ。難しかったでしょう?」
ミラが感心したようにカウンターの向こうから身を乗り出してそのケーキを見つめる。
「おお、すごい出来じゃないか!俺が食べていいのか?」
「も、もちろんだ。その…アレンに食べてもらいたくて…作ったんだ」
エルザは、顔を赤らめながら呟く。
「おお、それじゃ遠慮なく…ガシャンッ!」
アレンがエルザの手作りケーキに手を伸ばそうとしたとき、謎の酒樽が飛来し、カウンターを粉々に粉砕する。…そう、ケーキと共に。
エルザ、ミラ、アレンは、ケーキがあったであろう場所を見つめながら、その身を固めていた。
「あ、あら…」
一番早くに正気を取り戻したミラが、小さく呟くと同時に、エルザから怨念のようなオーラが立ち込める。
「…何度も何度も失敗して…ようやくうまくできたケーキだったのに…」
エルザの怨念に気付いたフェアリーテイルのメンバーは「やべっ!」と一瞬固まる。エルザはゆっくりと立ち上がり、メンバーを睨みつけるように視線を向ける。
「貴様らか!ナツ!グレイ!!」
「お、俺らが投げたんじゃねーよ!!」
「酒樽を投げたのはエルフマンだ!!」
エルザの気迫にやられ、ナツとグレイが焦ったように口を開く。エルザの視線がエルフマンへと向く。
「ち、ちげーよ。俺は自分に振ってきた酒樽を殴り飛ばしただけだ!責めるなら、俺に酒樽を投げたガジルだろう!」
「なっ!お、俺に振るんじゃねーよ!!そもそも酒樽を皆に投げつけたのはカナだろう!!」
「ちょっと!私はふざけたこと抜かしてるカグラとウルティアに投げつけただけよ!」
「は、はぁ?私が吹き飛ばした酒樽はエルザ達の方には飛んでないわよ!」
エルフマン、ガジル、カナ、ウルティアが口々に言い訳を繰り出す。
「いい加減にしろ!!貴様ら…私がどれだけ苦労して…全員その場に…ッ!」
エルザがいつものように粛清…とは名ばかりの喧嘩に乱入をしようとするが、自身が発するオーラよりもエグいオーラを察知し、そちらに視線を送る。そして、身を固める。酒場にいるメンバーも全員が同じように振舞う。
アレンから、圧倒的な闇のオーラが沸々と、少しずつ大きくなっているのが見える。
「ア…アレ…ン?」
ミラが、そんなアレンに恐怖の色を滲ませながら小さく声を掛ける。アレンの発するオーラとも魔力ともとれるそれは、酒場全体にミシミシと悲鳴のような音を発生させる。アレンがゆっくりと立ち上がると、その圧倒的なオーラは酒場の床をバキッと破壊しながら、音を鳴らして凹みをつくる。そして、皆の方へ視線を向ける。先ほどまで怒り狂っていたエルザ含め、みな目が点になり、口をポカーンと開けながら、小刻みに震えている。
「…全員、床に、正座…」
「「「「「「「「「「…はい…」」」」」」」」」」
アレンの低く、それでいて唸ったような小さな呟きは、喧騒が包んでいた酒場を一気に静寂へといざなった。

私の名前はルーシィ。英雄感謝祭…っていうか、ドラゴンとの戦いが終わり、フェアリーテイルに帰ってきて数日が経った。すごく大変な戦いだったけど、フェアリーテイルをはじめ、様々なギルドが協力して、何とか勝利を収めたの。
それで、いつものフェアリーテイルの酒場で、今はゆっくりしてるところ。私が座るテーブルには、レヴィちゃんとウェンディ、シャルルが一緒で、楽しく会話をしていたんだけど…。
「あー、なんかいつものフェアリーテイルって感じね…」
「ほんっと、騒がしいところよね…」
私の言葉に、シャルルが呆れたように答える。
「でも、楽しいですよね!」
「もう慣れっこよ」
ウェンディとレヴィが笑って答えている。そんな風にしていると、さっきまでアレンさんと一緒にカウンターに座っていたエルザが、何やら怒ったようにこちらに視線を向けている。
「うわー、エルザを怒らせちゃったみたいね…」
「あらら…これは更に騒がしくなるかなー…」
私とレビィちゃんが酒場の様子を眺めながら呆れたように言葉を発する。ウェンディとシャルルも苦笑いしながらその様子を見ていた。
しかし、その瞬間、身の毛もよだつ様な謎の力…魔力?が私を襲った。
「ひっ!な、なに!」
「こ、これ…やっばー…」
「な、なによ!」
「あわわ…」
私はその謎の力に、ビクッと身体を震わせた。他の3人も、悲鳴に近い声を上げていた。一体何なの!何が起こっているの!!…と私が震えていると、レヴィちゃんが小さく口を開く。
「アレン…怒ってる…」
今すぐにでも泣き出しそうなレヴィの言葉に、私含め、3人の表情が驚きに変わる。それと同時に、アレンさんから低く唸ったような言葉が聞こえてきた。
「…全員、床に、正座…」
「「「「「「「「「「…はい…」」」」」」」」」」
あれだけ騒がしかった酒場が、一気に静寂に包まれる。…この酒場の静寂を止められるのは、唯一マスターの怒号だけだと思っていた私には、衝撃的だった。…だって、アレンさんは魔力を放出しているとはいえ、小さく呟いただけなのに、この世界一騒がしくそれでいてフィオーレ最強ともいわれているギルドを黙らせてしまったのだ。
私はそう感心していると、レヴィちゃんがいなくなっていることに気付く。キョロキョロと見回すと、レビィちゃんは、近くの床に正座していたのだからびっくり!
「え…レビィちゃん?」
「な、なにを…」
「どうしてあんたまで…」
そんなレビィちゃんの行動に、私たちは驚きを隠せなかった。
「い、急いでルーちゃん!早く床に…あっ…」
レビィちゃんは何やら焦ったように私たちに告げるが、一瞬で目の前に現れたアレンさんに、その言葉を遮られる。
「3人は聞こえなかったかな?」
笑って声を掛けてきたアレンさんだったが、その目は笑っていなかった。ウェンディが怖くて震えているのが分かる。そんな恐怖の中、シャルルが意を決して口を開いた。
「ちょ、ちょっと、私たちは何も…」「正座」「うっ…」
いつもは強気でツンツンしているシャルルであったが、アレンさんの気迫ある言葉には敵わなかったようだ。
私とウェンディはその言葉を聞いて、ささっとレヴィちゃんの隣に、同じように正座をした。
シャルルも、異議がたっぷりとありそうな顔をしていたが、仕方なくそれに従う。
冷静になってギルド全体を見つめると、なんとマスターとヒノエさん、ミノトさん以外はみんな酒場の床に正座をしていた。何これ!!一体何が始まるっていうの!!
「ううー、なんでこんなことに…」
「これは一体何なの?レビィ…」
ウェンディとシャルルがそれぞれに小さく声を上げる。そんな様子をいながら、私はアレンさんの行動を眺めていた。何やら、マスターからたくさんの棒が入った筒を渡されていた。
「前に…といっても7,8年前だけど、普段は優しいアレンが、初めてこんな風に怒ったことがあったんだけど、その時にギルドを半壊させたうえ、地図を書き換えないといけないくらい、マグノリアの近くの森の地形を変えちゃったことがあったの」
「な、何やらかしたのよ、それ…」
「何をしたらそうなるのよ…」
「ううー…」
レヴィが淡々と説明をしてくれたが、あまりの驚きと恐怖に、私たち3人は更に身を震わせた。
「あの時は確か、エルザとミラがいつも以上に過激な喧嘩をして、それがナツとグレイ…しだいに酒場全体に移って…最終的にアレンが大切にしてた魔導二輪を粉々に壊しちゃったの。それで騒いでいた全員がアレンからお仕置きされたんだけど、また同じようなことが起きたらマグノリアが消滅しかねないってことで、マスターの決定でお仕置きする人数を数人に絞るようになったのよ」
「ああ、なるほど…それであの筒なのね…って、それって私たちも入ってるの!?」
ルーシィは納得したように呟いたが、まさかのとばっちりに思わず抗議の声を上げる。
「そのとき酒場にいるメンバーは全員対象なのよ…この制度が成立して、今日でまだ2回目だけど、1回目は何にも関係なかったウルティアとジェラールが対象だったわ…」
「そ、そんなー…」
「なんて理不尽なの…」
ウェンディの目尻に、徐々に涙が溜まっていく。シャルルは、些少の怒りを滲ませている。
「でも、大丈夫!大体 3人くらいだから、確率は5%くらいよ!」
「ことがことだけに5%でも確率高すぎるわよ~」
レヴィの明るい声に、私は何とも言えない感情を漏らす。
そんな風に会話をしていると、アレンさんが4本の棒を筒から引き抜いてマスターに渡した。
「おー、これは…なんというか…可哀そうに…」
マスターがそう小さく呟くと、その4本の棒を掲げてそれぞれ名前を発表した。
「第三回、激烈お仕置き会に、奇しくも当選を果たしたのは…本当に気の毒じゃ…」
皆がゴクリと唾を飲み込み、マスターの発表を待っていた。
「レヴィ、ルーシィ、ウェンディ、ビスカの4名じゃ!…精々死なないように頑張ることじゃ…」
その発表を受け、私は石になったように固まった。
「うおーっ!あっぶねー!!」
「九死に一生を得たな…」
ナツとカグラが胸を撫でおろしている。
「はぁ…よかった…」
「くっ…ふぅ…」
前回のお仕置きの的となった2人、ウルティアとジェラールがこの上ない安心を口にしていた。
「ッ!ちょ、ビスカ!だ、大丈夫か!!」
少し離れた位置にいたビスカが、気を失ったかのように倒れこむ。そんなビスカをアルザックが横で支えていた。私は現実に意識を取り戻す。そして、それに合わせるかのように、他の指名された2人も声を上げた。
「「「そんなーーーー!!!!!!」」」
ルーシィ、レヴィ、ウェンディは涙を流しながら天を見上げた。
…さて、そんな騒動を巻き起こしていたフェアリーテイルの入り口で、静かに佇んでいる4人の集団がいた。
「…なあ、ラクサス…」
「…あ?」
フリードは、メンバー全員が酒場の床に正座しているのを見て、何が起こっているのか、すべてを察してしまった。他の3人も、理解している様子であった。ビックスローとエバは、言葉が出ないくらいの衝撃を受けているようだ。
「仕事に行っていて…よかったな…」
「…間違いねぇ…」
ラクサスは、フリードの言葉に、冷や汗をかきながら、小さく呟いた。

アレン激おこぷんぷん丸事件が起こった当日の昼過ぎ…。アレンは、一人真剣な面持ちでマグノリアの近くの森に足を運んでいた。
午前中は、ルーシィ達から「私たち何もしてません!」という抗議を受けたり、アルザックから「何とかご慈悲を…」と泣きつかれもしたが、「決まりだから仕方ない」と突っぱねた。
レヴィやウェンディは生気を失ったように真っ白に燃え尽きていた…。まあ、本当に気の毒だ。といっても、先の素敵なケーキを潰した張本人でないのはわかりきっているので、たいした事をするつもりはないのだが、ルーシィ達がナツやグレイに「一体何をされるのー!」と涙を浮かべながら必死に詰め寄っているのが楽しくて、その旨を伝えてはいなかった。アレンは頭の片隅で「お仕置き何にするかな…」と考えていたが、すぐにそれを消し去る。今、この瞬間は、それを考えている暇はなかったのだ。ある男がこの近くにいるのを察したからだ。
アレンは、その男の後ろ姿を捉えると、足取りを止めて辺りを眺める。黒を基調とした服装をしている男は、床に座り込んでいた。
アレンは男が座り込んでいる地面を見つめる。男が座る地面の周りの草が、不自然な円を描いて枯れ果てている。周りの草花や木々は生い茂っているのにも関わらず、である。
アレンはそれを眺め終えると、小さく口を開いた。
「久しぶりだな、ゼレフ。俺にとっては数か月前だが、お前にとっては100年ぶりだろう」
アレンの声を聴き、ゼレフと呼ばれた男はゆっくりと首を回してこちらを見つめる。
「そうだね、本当に久しぶりだ。アレン、会えて嬉しいよ」
「…バルファルクの一件がなければ、俺もそう言えたんだがな…」
ゼレフの言葉に、アレンは頭を掻きながら答えた。そうしていると、2人の会話に割って入ってくる人物がいた。その人物はアレンとゼレフ双方に一定の距離を持ちながら近寄ってくる。アレン、ゼレフ、そしてメイビスは、正三角形の頂点に立つように、互いに見つめあう。
「…銀翼の凶星を呼んだのは、あなただったんですね。ゼレフ」
「へえ、これは驚いた。まさか姿も声も聞こえるとは…アレンが隣にいるからかな?」
フェアリーテイルの紋章を刻んだものにしか見えないメイビスの思念体を捉えられたことに、ゼレフは落ち着きながら呟いた。
「もう、諦めちまったのか?ゼレフ」
「諦めた…そうだね。君と別れたあの日以降、僕はいままでの行いを振り返った。でも、気付いたんだ。やっぱり、これしか方法がないと…。君の言う『諦め』がどういう意味かは分からないけど、平和的な解決を差すのなら、諦めたと言えるね」
ゼレフは、悲しそうに告げる。
「そうか…。この100年で気づいたか…。俺にお前が期待するような力がないということを」
「うん、君に僕は殺せない。でも、同時に僕にも君は殺せない。前者は呪い、後者は実力でね」
「力の差は、きちんと理解しているみたいだな…」
アレンはふっと笑いながら答える。
「それはそうだよ、さすがに僕もバカじゃない…まあ、今は、だけどね」
「どういう意味でしょう?」
メイビスは、ドスの効いた声でゼレフに問いかける。
「…それは、君が一番よく分かっているんじゃないかい?メイビス」
「………」
メイビスは、ゼレフの問いに特に答えようとはしなかった。
「死に場所は決まったのか?ゼレフ」
「うん、決まったよ。僕はアレンやメイビスと会うずっと前から時代の終わりを見続けてきた。それこそ、様々な悪しき心を…人は何度でも同じ過ちを繰り返す」
「それでも人は生きていけるのです」
ゼレフの言葉に、メイビスが静かに否定をする。
「生きていないよ…本当の意味では…この世に、本当の愛などない」
アレンは、その言葉にすっと瞼を閉じる。
「そうか…もう、待つのはやめたのか?」
「もう十分まった。アレン、君の生きるこの時代…いやこの世界は君にとっては本当の世界ではないのかもしれないけど…それでも君の生きる時代までは待っていたんだ」
アレンとゼレフの会話に、割って入るようにメイビスが口を開く。
「アレンさんでは、無理だと仰りたいんですか?」
「ふふ、メイビス。君はアレンの何を知っているんだい?僕とアレンは友だ…。アレンの力と心は、僕の方が知っている。無理とは思ってないさ。ただ、人任せにするのをやめたって話さ…。世界が僕を拒み続けるならば、僕はこの世界を否定する。僕は僕の力と方法で、望みを叶える」
「俺の力の底など、お前に見せた覚えはないんだがな…。だが、フェアリーテイルはこの世界を肯定するだろうな」
アレンがそう言葉を呟くと、周りの木々が急速に枯れ始める。ゼレフが、力の解放を行っている。
「それなら僕はそれを重ねて否定するだけだよ…」
「…戦いになるのですか?」
メイビスが悲しそうに呟くと、ゼレフは怒りを込めた目線をアレンとメイビスに向ける。
「いや…一方的な殲滅になるよ…三天黒龍含め、誰も生かしてはおかない」
それに呼応するように、メイビスも表情を強張らせる。
「フェアリーテイルが阻止します。滅びるのはあなたの方です」
2人の間に、不穏な風が流れる。
「どうやら、決戦の時は迫っているようだね…。だが、アレン。君はどっちにつくのかな?互いに恩人で親友でもある僕と敵対するのか、同じく恩人であるメイビスや家族であるフェアリーテイルと敵対するのか…」
ゼレフの言葉に、メイビスは視線をアレンへと向ける。
「あなたの真意を、聞きたいですね…アレンさん」
メイビスは含みのある言い方でアレンへと言葉を放った。
アレンはそんな2人の視線と威圧に臆する様子は見せず、目線を上げて天を見上げる。そして、一言、小さく呟いた。
「…あほくさ…」
その言葉に、2人は思いっきり目を見開いた。
「どういう意味だい?」
「別に大した理由はない。ゼレフ、俺は別にお前が何を為そうが邪魔するつもりはない…。だが、それが罪のない人々を、フェアリーテイルを傷つける行為であるならば、俺はそれを止めるだけの話だ」
アレンは一呼吸置き、今度はメイビスに向かって言葉を発した。
「そして、初代。あなたが本当の意味で何者で、何の未練があってここにいるのかはわからないが…フェアリーテイルはあなたの駒じゃない。あなたが自身のためだけに今のフェアリーテイルを巻き込むのであれば、それを容認することはできない」
「アレンさん…」
メイビスはどこか悔しそうに拳を握りしめる。そして、アレンはそう言い残し、2人を残して歩き始める。
「俺は2人にそれぞれ大きな恩が、借りがある。だからこそ不用意な詮索をするつもりはない。だが、俺も馬鹿じゃないからな…。ゼレフの目的と初代の目的、そして2人の関係性…大方予想はつく」
そして、ある程度距離ができたところで、アレンは2人に振り返り、言葉を紡ぎへと誘う。
「ゼレフは自身の望みのため、初代は自身の愛のために動いている。そして俺は自身の使命のために動くだけだ」
2人の驚いた様子に、アレンは特に気にも留めずに歩みを再開する。そして、2人に聞こえないように小さく呟いた。
「さらに、最後は…2人の隔たりをなくすために…」
その後、アレンは一度も振り返ることなくフェアリーテイルへと足を進めた。

ゼレフやメイビスとの緊迫感溢れる会合を終え、アレンはフェアリーテイルに戻ってきた。アレンの姿を見たことで、ルーシィ達が酷く狼狽している様子が、見られたため、アレンは笑顔で「明日、よろしくな」と伝える。そんなアレンの言葉を聞いたルーシィ達が「いやー!」と悲鳴をあげたのは言うまでもないだろう。
さて、アレンが怒りを露にしたことで、いつもよりは落ち着いているフェアリーテイルだったが、この後アレンに声をかけるものの言葉で、一気に活気を取り戻すことになる。
「アレン、今日はこの後予定あるか?」
声を掛けてきたのは、ラクサスであった。
「あ?特にないけど、どうした?」
ラクサスは真剣な面持ちでアレンに言葉を発した。
「俺と勝負してくれねえか?手加減なしの全力でよ」
ラクサスの言葉を聞き、フェアリーテイルが驚きに包まれる。
「…へぇ、本気ねえ…正気か?」
「ああ、前回の分身体との戦闘であんたに勝利したが、俺はあれを勝利と呼びたくねえ」
ラクサスは表情を変えずにアレンに詰め寄る。
「…なんだ?勝てるつもりでいるのか?」
「…負けること前提で勝負するやつがどこにいるんだよ」
アレンとラクサスの一触即発な雰囲気に、フェアリーテイルの酒場が緊張に包まれる。
「…いいだろう、その勝負受けてやる」
アレンはそう言ってカウンターから立つと、ラクサスの肩に手を置く。
「全力…ってことでいいんだよな?」
「ああ」
「おもしれぇ…」
アレンとラクサスが互いに視線を交わし歩み始める。
「おおっ!面白くなってきたぞ!」
「一体どうなるんだ!」
「アレンの圧勝に決まっている」
「いや、ラクサスも十分強い、わからんぞ」
ナツ、グレイ、カグラ、エルザが口々に言葉を発した。それを皮切りに、ギルド全体が大盛り上がりとなり、どっちが勝つか掛けたりして、皆がギルド裏の広場へと集まった。

さて、アレンvsラクサスの戦いを見ようと、フェアリーテイルのメンバーは、総じて裏の広場に集まっていた。
「んじゃ、始めるか…お前の望み通り、全力で行くぜ」
「ああ」
アレンの言葉を皮切りに、ラクサスが先に魔力を解放する。
「す、すげえ…」
「ラクサスの奴、なんて魔力だ…」
「これほどまで…」
ナツ、リオン、ウルティアが驚いたように声を発する。
「ほう?修行だけじゃなく、竜種との戦いで更に力をつけたようだな」
「まあな…」
アレンはラクサスの力に感心しながら、おのが魔力を解放する。その魔力は、ラクサスの魔力を押しのけ、広場全体に、重く広がりのしかかった。
「ま、まじかよ…」
「今にして思えば…アレンの攻撃的な魔力放出なんて初めて見るかも…」
「すごいわ…」
グレイ、レヴィ、ミラが表情を引きつらせながら言葉を発した。両者とも、魔力を放出し、その場に佇んでいた。
「ラクサス…頑張れ…」
「ラクサスならいける!」
フリードとビックスローが小さく声援を送る。皆が両者の動きを逃さぬように真剣な眼差しで見つめる。
先に動いたのはラクサスだった。雷の力を利用し、アレンへと迫る。瞬きをしていないのに、まるでアレンに一瞬で迫ったその様相に、皆が驚きの表情を見せる。ラクサスは、アレンの顔面にパンチを叩きこもうとするが…。
『ゴガンッ』
という音と共に、ラクサスがうつ伏せで地面に叩きつけられる。アレンはラクサスの背中にチョップを決め込んだ。
皆が一瞬のうちに勝負がついてしまったことに、口を開けてあんぐりとしている。
「まあ、上には上がいるもんだ、ラクサス」
アレンは地面に伏しているラクサスにそう告げると、その場を去ろうとする。皆は驚きのあまり言葉が出なかったが、ラクサスの身体がピクッと動いたことで、アレンの顔にも驚愕の表情が生まれた。
「それは…よく知ってる…あんたから教わったことだからな…」
「ま、まじかよ…今の一撃…全力だったぞ…」
アレンは全力でラクサスを叩きつけたにも関わらず、ゆっくりとはいえラクサスが起き上がってくる様にひどく驚いていた。
「でもよ、たまには下も見てみるもんだぜ…もしかしたらそいつは…すぐ足下にいるかもしれねぇ!!!!!」
ラクサスは起き上がると同時に、アレンにアッパーを決め込む。アレンはアッパーを受けたことで大きく身体をそらせ、宙を舞い、一回転して地面に着地する。口の中に鉄の味が滲み渡る。口元を手で拭うと、その手には血が付着する。どうやら、口の中を軽く斬ったようであった。口から滴る血が、顎を伝って地面へと落ちる。そんな様子を見た皆が大歓声を上げる。
「す、すげーぞラクサス!!」
「あのアレンに一撃決め込んだ!!!」
「アレンが…ダメージを…」
「まさか…」
グレイ、フリード、ウルティア、エルザが驚きを表す。他のメンバーも興奮したように声を荒げていた。
「なるほど…こいつは驚いたな」
アレンは軽く笑いを作りながらラクサスを見つめる。
「はっ…!燃えてきたぞ…」
ラクサスはナツの口癖をまねるように雷を纏いながら口を開く。
その後、両者は何度かぶつかり合い、結果としてはアレンの勝利で幕を閉じたが、先の一撃含め、ラクサスがアレンに2回攻撃を加えたことに、フェアリーテイルは大盛り上がりを見せた。
 
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