実の母親でも
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第一章
実の母親でも
室生啄木には両親がいる、だがこの両親は実は叔父夫婦である。まだ彼が赤子の頃に子供のいない彼等に引き取られ育ったが。
「実の母親が見付かったんだよ」
「ああ、あなたお義父さんお義母さんとはね」
妻の朋絵、短めの黒髪をセットして奇麗にしているあどけない顔立ちで一五四程の背の均整の取れたスタイルの彼が切れ長の目で色白できりっとした唇にセットした黒髪で一七〇位の背で痩せた夫に言った。
「血がつながってないのよね」
「このことは子供の頃にはっきり言われてたよ」
啄木は朋絵に答えた。
「親父とお袋から」
「実は養子だって」
「けれどそんなこと関係ないってな」
その様にというのだ。
「僕は親父とお袋の子供だって」
「それでちゃんと育ててもらったのよね」
「そうだよ、食べさせてくれて学校に行かせてくれて」
そしてというのだ。
「病気になったら病院に連れて行ってもらって一緒に遊んでもらって」
「いいご両親よね」
「僕の親はあの人達だよ」
紛れもなくというのだ。
「実の母親がいたことは知ってたけれど」
「それでもよね」
「聞いてたよ、親からも親戚全員からも」
それこそというのだ。
「実の親がいたけれど」
「その人は」
「とんでもない人だってね」
「確か浮気性で浪費家で」
「しかも人を騙しても嘘を吐いても平気なのよね」
「僕も話したよね」
「ええ、私も聞いてるわ」
朋絵は妻に応えた、二人で家のテーブルを囲んでお茶を飲みつつ話した。
「あなたも言ってたから」
「覚えてないけれど赤ん坊だった僕を親父とお袋の家に置いていって」
そうしてというのだ。
「男と失踪したんだから」
「実のお父さんは」
「その時付き合ってた人でね」
啄木はそちらの人のことも話した。
「今は栃木で建設業してるよ」
「籍は入れてなくて」
「その時その人刑務所に入っていて」
「お義母さんなその時に他の人と浮気して」
「駆け落ちしてね」
「あなたを置いていったのよね」
「そうだよ、実の父は刑務所出てから僕をどうするかって親父とお袋に聞かれて」
そうしてというのだ。
「三人とお互いの親戚を交えて相談したけれど」
「それでもなのね」
「その時実の父は仕事なかったし前科もついてたから」
「あなたを育てられるか」
「じっくり話して無理となって」
「あなたはお義父さんとお義母さんのところに残ったのね」
「うん、実の父親とはね」
啄木は妻に話した。
「まだ会ったことはないけれど」
「聞いてるのね」
「どんな人かね」
そうだというのだ。
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