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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第6章 英雄感謝祭編
  第20話 出立

1か月半の修行を終えた、フェアリーテイルのメンバーは、修行の疲れを癒していた。また、それと同時進行で、1週間後に首都クロッカスで行われる英雄感謝祭に向け、出立の準備を進めていた。
出立自体は4日後のため、皆ゆったりとしつつ、少しずつ準備を進めている様子であった。
さて、そんな風に活気のあるフェアリーテイルを、とある3人が仲睦まじく出ていく様子が見られた。ウルとウルティア、アレンであった。
ウルティアは先の修行において、著しい成長を見せたということで、アレンがなんでも一日か一回だけお願いを聞いてくれるという特典を手にしていた。
ウルティアは邪なお願いも含め、悩みに悩んだ結果、3人で食事という決断に至った。それを聞いたアレンは「そんなんでいいのか?」とウルティアに声を掛けたが、ウルティアの気持ちは変わらなかった。
今から7年前。アレンが100年クエストに行く前に、ウル含め、一緒に食事をしたことは、ウルティアの記憶にしっかりと残っていた。100年クエストの達成のために加えて、アクノロギアとの戦いで死んだとされていたため、それ以降一緒に食事をすることができなかったことに加えて、今度はアレンが料理を振舞ってくれるという約束をしたきり、以降果たされていなかったのだ。
そのため、アレンは、「それは元々していた約束だから、わざわざこの特典を使わなくても…」と食い下がったが、ウルティアが「私がいいって言ってるんだからいいの!」という言葉に、アレンはそれ以上何も言えなかった。
アレンはその願いを叶えるため、前日から入念な準備をしていた。食材や酒には手を抜かず、料理に関してもこだわり含め、一切手を抜かずに準備をしていた。
そうしてできうる限りの準備をして、ギルドを集合とし、アレン宅へと向かった。
「それにしても、アレンの家に行くの、なんだかんだ初めてだわ」
「私は昔、アレンの家具を買うために一回だけ行ったことあるわ」
「あー、そういえば、そんなこともあったな…あの時はこんなに小さくてさ!」
そう言って、アレンは自分の腰の位置で手を振って、当時のウルティアの大きさを表現している。
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいからやめてよ!」
「ふふっ!そうね、それくらいの大きさだったわね!」
ウルティアが恥ずかしがっている姿に、ウルも笑いながら答える。
「なんか、こうやって話しながら歩いてると、親と子どもみたいだよな」
アレンがなんとなく発したこの言葉に、2人は顔を赤らめる。
「そ、そうね…ウルティアが子どもで…私とアレンが…ふ、ふうふ…///」
「わ、私はもう立派な女よ!それこそ、私とアレンが…///」
「ははっ、そうだな。おう、ウルティアも立派な女性だもんな…わるいわるい」
2人がなぜ恥ずかしがっているのか、全く気付いていないアレンはケラケラと笑いながら、歩みを進める。自分たちの気持ちが全く伝わっていないと感じた2人は、頬を膨らませ、軽く拗ねていいるようであった。そうして話しながら歩いていると、アレンの家へと着き、アレンの誘導で2人は家の中に入った。
「さあ、上がってくれ」
「「おじゃまします」」
2人は靴を脱ぎ、リビングへと移動する。そして、テーブルへと座る。
「おお、いい匂いだな…」
「ほんと、いい匂いね…」
リビングには、豊かな香りがふんわりと漂っていた。
「迎えに行く前に殆ど作り終えてたからな、もう少ししたら順番に持っていくから、待っててくれ」
「なら、私も手伝うわ」
「私も」
2人は椅子から立ち上がり、キッチンへと向かった。
「いいよ、今日は昔の約束とウルティアへのご褒美なんだから…」
「いいのいいの」
「わたしたちが手伝いたいだけなんだから」
アレンはゆっくり座ってな、という意味で2人に声を掛けたが、まるで聞かずにキッチンへと入ってきた。
「うわ…これ、すっごいごちそうじゃない…」
「これ、全部アレンが一人で作ったの?…すごい」
「ははっ。だろ?腕によりをかけて作ったからな」
そんな風に会話を続け、3人は手分けして、料理をテーブルに運ぶ。すべての料理と2,3本のワインをもって、3人は椅子へと腰かける。
テーブルには、パンにビーフシチュー、ピザにハンバーグなど、涎が出るほどにおいしそうな料理が所狭しとおかれていた。アレンは、3つのグラスに、ワインを注ぎ、2人へとそれぞれ渡す。
「それじゃあ、7年越しの再会と修行の達成を祝して…」
「「「カンパーイ!!」」」
そうして、3人は雑談を交えながら、会話を楽しみつつ、食事やワインを口に運んだ。

「いやー食べて飲んだわ!」
「すごくおいしかった。ありがとう、アレン」
「お粗末様でした」
ウルは満足そうにお腹を擦り、ウルティアは上品にナプキンで口を拭いている。
アレンがお皿をキッチンへ片づけていると、ウルティアも「手伝う」と言って、一緒に運び、2人で洗い物を始めた。
「いいって、俺がやるから」
「いいの、一緒にやりましょ!」
ウルティアは肩が触れ合うほどにアレンへと近づき、一緒にお皿を洗っていた。
「いやー、食べ過ぎて動くのが億劫だわ」
ウルはこれでもかといった様子で寛いでいた。
「そんなに動くのが億劫なら、今日は泊ってくか?」
「「えっ!」」
アレンの言葉に、2人は驚いたように声を上げた。
「別に無理にとは…」
「「泊まる!」」
2人は食い気味にアレンに声を掛けた。
「お、おう。そうか」
アレンはそんな食い気味の2人に驚きながら、咄嗟に返事をする。2人は顔を赤くしながら俯いている。
「んじゃ、皿洗い終わったら、順番に風呂入って寝るか」
「そ、その前に…その洋服とか取りに行ってもいい?」
アレンの提案を受け、ウルティアは恥ずかしそうに言った。
「あっ!それなら私のも頼むよ」
「任せて」
ウルティアは皿洗いが終わると、ウルの分も含め、一目散に自宅へ洋服などを取りに行った。

アレンの提案により、アレンの家で一泊することなったウルとウルティアは、ウルティアが帰ってくるのを待ってから、順番に入浴し、寝支度を整えて、いざ寝室へと向かっていった。ここで、アレンにとって誤算が生じる。
「はぁ?一緒に寝たい?」
ウルとウルティアはアレンと一緒に寝たいと言ってきたのだ。
「だ、だめか?」
ウルが恥ずかしそうにアレンに詰め寄る。
「いや、ダメとかそういう話じゃ…」
アレンが言葉に詰まらせていると、ウルティアが思いついたように言葉を発する。
「そしたら、私のお願いを一緒に寝るに変更ってのはどう?アレンも言ってたけど、食事は昔からの約策だったわけだし」
ウルティアの言葉に、ウルが「おお、ナイスアイデア!」と親指を立てる。
「や、約束してたけどそれでいいって言ったのはおまえだろーが!」
余りにも理不尽なお願い変更にアレンは激高する。すると、ウルティアはウソ泣きをしながらアレンへと言葉を向ける。
「評議院に連れられた時の話、ミラから聞いたわ…。エルザと3人で一緒に寝たそうじゃない…。エルザとミラはよくて、私と母さんはダメなの?」
その言葉に、アレンは思わず後ずさりし、「ぐぅ…」と呻き声を漏らす。
「はぁ…わかったよ。一緒に寝よう」
「「やったーっ!」」
アレンは気疲れした様子で、2人と一緒に寝室へ向かった。その後、アレンを真ん中に添えて、ウルとウルティアが両側から挟む形で眠りについたことは言うまでもない。

アレンがウルとウルティアを一緒に夕飯を食べた次の日。フェアリーテイルの酒場で、ジュビアは決心したようにカウンターにいるアレンに声を掛けた。
「あ、あの、アレンさん…?」
ミラやカナと談笑しながらコーヒーを飲んでいたアレンは、ジュビアの方を向く。
「ん?おお、ジュビアかどうした?」
「えーと、その…」
ジュビアはもじもじしながらアレンに声を掛ける。だが、その言葉はしどろもどろであった。
「だ、大事な話があるんです。ギルドの裏手まで、その…」
アレンはその言葉で察したように、椅子から立ち上がった。
「ああ、いいよ。行こうか」
そんなアレンの去っていく姿を見て、カナが不思議そうに声を掛ける。
「一体どうしたんだ?ジュビアの奴…」
「ふふ、きっとお願い事じゃない?ジュビアのことだから、予想はつくけど」
もし、今の声掛けがエルザであったら、ミラとカナの表情と態度は一変し、後を着けたかもしれない。だが、相手がジュビアであるのであれば、話しは別であった。
「ああ、なるほどねー。アレンに手伝ってもらおうって腹か…」
カナはそんなミラの言葉に納得し、酒をあおった。
「あ?どうしたんだ?二人とも…」
そんな風にどこか含んだような会話をしていた2人に、グレイが声を掛ける。
「「べっつにー…」」
2人はくすくすと笑いながら、グレイを見つめた。
「?なんだってんだよ…」
グレイは頭を掻きながら、その場を離れていった。

アレンは、ジュビアに指定された通り、一緒にギルド裏へ移動してきた。
「で、話しってのはお願いのことだろ?」
話しの内容を見透かされていたことに少し戸惑いつつも、ジュビアはもじもじと話し始めた。
「は、はい。その…アレンさんは…昔からグ…グレイ様のことをご存じなんですよね?」
「ん?ああ、あいつが6,7歳くらいの頃から知ってるぜ…といっても7年間は合ってなかったけどな」
アレンは、ははっと苦笑いしながら答えた。
「そ、それで…昔からグレイ様のことを知っているアレンさんにお願いがありまして…」
「あー…わかるぞ、ジュビア…俺にグレイとくっつけるように協力してほしいんだろ?」
ジュビアは、またもやアレンに思考を見透かされていることに驚く。
「そ、そう…です。その…でも…」
迷うようなそぶりを見せるジュビアに、アレンは一つため息をついてから言葉を発した。
「大丈夫だよ!グレイ、絶対ジュビアのことが好きだから。あいつ、変に奥手なところあるからな」
「ほ、本当ですか!!」
ジュビアは嬉しそうにアレンに詰め寄る。
「ああ、見てれば分かるよ。ただ、意外にジュビアも奥手なところがあるからなー」
「う、うー…それは否めません」
ジュビアは少し落ち込むように俯いた。
「それに、グレイのことが好きな女の子は、少なくともフェアリーテイルの中にはジュビアしかいないよ」
「え?…でも、ルーシィとかリサーナもグレイ様と仲睦まじく話しておられて…」
ジュビアは、戸惑うように口を開いた。
「ないない、どっちかというと、2人はナツだろ」
「んー、そうでしょうか?」
ジュビアはそれでも納得できない様子でいた。
「間違いないって。俺、人の恋愛事情には敏感なんだよ!」
親指を立てて、グッジョブをして見せるアレンだが、ジュビアはポカーンと口を開いて固まった。そして、可笑しくてくすっと笑った。ジュビアは知っていたのだ。
「ふふっ、他人の恋愛事情には詳しいのに、自身のことはまったくなんですね」
少なくとも、アレンさんのことを想っている人は、沢山いる。最近ではウェンディもどうやら少し気になる様子を見せている。
「んん?どういうことだ?」
アレンは何の話?と言わんばかりにジュビアに質問する。
「なんでもありませんっ!それより、その…グレイ様とくっつけるように協力してくださる、という解釈でよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ!だが、その、もし本気でグレイが拒否したりしたら、その時はさすがに無理強いはできないぞ?」
アレンは忠告するようにジュビアに語り掛ける。
「それはもちろんです!その時は…諦められませんが…その時です…」
ジュビアはううーと涙を流しながら、アレンの質問に答えた。
「まあ、そうなることはないと思うけど、その時は慰めてあげるからさ!」
「ぐすっ…お願いします」
ここに、ジュビアのグレイに対する恋心を、アレンがバックアップするというなんとも奇妙なチームが誕生したのであった。アレンとジュビアはそうして会話を終わらせ、酒場に戻っていった。
酒場に戻ると、グレイに「ジュビアと何してたんだ?」と聞かれた際に、「なんだ?嫉妬してんのか?」とアレンがこらえると、グレイは恥ずかしそうに否定していた。その後も畳みかけるようにグレイを挑発し、それを見たジュビアが、「アレンさん…とてもお上手ですわ…」と感心したとかしないとか…。

連日の修行の疲れが、皆の身体から抜けてきたころ、遂に英雄感謝祭に向けて、ギルドメンバー全員で首都クロッカスに向けて出発した。現地には前日の昼頃につく予定で、皆で馬車数台で向かった。途中、ナツなどが乗り物酔いをしていたりしたが、いつものことだとスルーされており、アレンがひとりでに不憫な奴だなーと憐れみを持っていたりした。
「とても楽しみだね、感謝祭!」
「ねー、パーティも開かれるらしいわよ!」
「首都全体でお祭り騒ぎなんだろ?」
「その祭りにフェアリーテイルとして参加できるというのは本当に嬉しいな」
ルーシィ、ミラ、グレイ、ジェラールがウキウキした様子で馬車内で談笑していた。しかし、その英雄感謝祭の主役であるアレンは、どこかうんざりした様子であった。
「どうしたの?アレン」
ウルティアが落ち込んだ様子のアレンに声を掛ける。
「どうしたもこうしたもねーよ…。こんなめんどくさいこと…なんで俺が…」
そうやってぶつぶつと悪態をついているアレンに、皆が苦笑いをしながら顔を見合う。
「そういうなって、きっと楽しいぞ!」
「そうだぞ。もっと堂々としないか、英雄殿!」
ジェラールとエルザがそんなアレンを勇気づけるように声を掛ける。
「まあ、フィオーレ王国の直々の声掛けじゃ、断るわけにもいかねーしな…」
アレンは、逃れられぬ運命に、少しずつ受け入れる気持ちができていた。
「そ、それに見ろ。これを…」
そう言って、エルザは一枚の記事をアレンに見せる。
「あ?なんだよ、これ…」
それは、週刊ソーサラーが発行している雑誌で、そこにはデカデカとアレンの写真が載っていた。
「あー、そういえば、この前取材かなんかに来てたな…しっかし、お願いされたとはいえ、すっごいキザな写真だよなー…」
アレンは、取材の際にジェイソンなる記者から、「かっこいい写真が撮りたい」というので、わざわざ家からタキシードを持ってきたり様々な武器や防具を換装して、写真を撮ったのだ。無論、アレンのタキシード姿などは、似合っているなどという言葉では言い表せないほどの者であり、ギルドの女性陣だけでなく、男性陣ですら感心するほどの者であった。
そんな風に、取材の時のことを思い出しながら記事を見ていると、とあるデカデカとした文字が目に留まった。
「ん?『竜の天敵、妖精王オベイロン、アレン・イーグル』…なんだよ、妖精王って…」
反応から察するに、どうやらエルザとルーシィ以外もアレン同様知りえていなかった情報らしく、記事に視線を移す。
「なんでもアクノロギアを倒した、という意味と、フェアリーテイルの王様という意味らしいぞ…。そのつまり…」
エルザは、最初こそ力強く言って見せたが、次第に語尾に行くにつれて声が弱弱しくなる。
「妖精王オベロンねー…おお、そしたら、妖精女王ティターニアって呼ばれてるエルザとはなんかタッグみたいだな」
気付いたように、呟いた言葉だったが、それによって顔の表情がパーッ明るくなるものと、ズーンと暗くなるものがいた。
「そ、そうだろう!オベロンとティターニア!フェアリーテイルの双璧って感じで、すごくいいと思うんだ!」
エルザはアレンに詰め寄るようにして、目を見開く。
「あら、私は竜の天敵って方がとってもかっこいいと思うわ」
ミラはどこか不貞腐れたように、怒りを含んだ表情で答える。
「…なんだ、文句でもあるのか?ミラ」
「あら、別に文句なんてないわよ、ただ、竜の天敵ってほうがアレンにはお似合いかなーって、そう思っただけよ。エルザ」
2人の間に怪しいオーラが立ち込める。そんな2人の様子を察したルーシィとグレイ、ジェラールの顔が少し引きつる。そうして何度か不穏な様子のやり取りは続き、次第にエスカレートしていく。
「ふん!私とアレンの異名が似ているからって、変な焼きもちを持つとは、大人げない」
「あら、たかが異名ごときでそーんなに必死になって、あなたこそ恥ずかしくないの?エルザ」
「必死になっているのはお前だろう!ミラ!」
「あら、こわーい、急に怒鳴るなんて、男みたい」
ゴゴゴゴゴッと馬車内の雰囲気は一触即発となるが、「ゴンッ」という音と共に、それは急速におさまりを見せる。
「「いてっ」」
「何喧嘩してんだよ、お前たちは…」
その音は、エルザとミラの頭にアレンが軽く拳を下した音だった。
「「だって!」」
「だっても何もない、まったく…こんな小さい馬車の中で喧嘩すんな」
「「…はい」」
そんな様子を見ていたルーシィが苦笑いをしながら口を開いた。
「な、なんか…ナツとグレイの別バージョンって感じ?」
「昔はこんな感じのやり取りが毎日何回もあったけどなー。どっちもアレンのことが好…ガッ!」
グレイが懐かしい感じでそう答えていたが、踏み入ってはいけない領域まで口を走らせてしまい、エルザとミラの鉄拳が降り注ぐ。
「「なんかいった?」」
「いえ、なんでも…」
グレイは怯え切った声でそう答える。
「なあ、ジェラール、グレイの奴何言おうとしてたんだ?」
「…勘弁してくれ、アレン。俺の口からはいえん…」
聡明なジェラールは、いくら恩人のアレンの質問でも、口を開くことはなかった。
だが、それ以降は特に言い合いや喧嘩も起こることなく、順調に首都クロッカスに向けて馬車は進んでいった。…ジェラールは、ナツが気持ち悪そうにしている様子を眺める。もし、ナツが乗り物酔いでダウンしていなかったら、もっとひどいことになっていただろうな、と思い、胸を撫でおろしたのであった。

首都クロッカス
花咲く都ともいわれ、街の至る所に華が咲いている。中央にフィオーレ王の居城「華灯宮メルクリアス」に中央広場「リ・イン・クリスタル」、西の山に闘技会場「ドムス・フラウ」が存在する。また、街の一角にはフィオーレ有数のサマーレジャースポット「リュウゼツランド」が鎮座している。
そんな首都クロッカスでは、街を上げての英雄感謝祭が明日に控えており、すでに町全体がお祭りモードになっていた。
そんな活気ある首都クロッカス中央の華灯宮メルクリアス。その玉座の間にて、王族や衛兵とは違う雰囲気を醸し出している男がいた。
「では、謁見の際にこちらの魔水晶に魔力を込めてもらうと?」
「はい。我が国の伝統的な風習と言えば、特に疑義も持たれないかと」
その男の質問に、王女ヒスイは真剣な表情で答える。
「なるほど。では、繰り返しになりますが、彼には内密にお願いいたします」
「ええ、わかっております。此度の祭事は彼の偉大な行いと生還を祝うもの。無駄な心労は与えたくありません」
その言葉を聞き、男はニヤッと笑顔を漏らす。
「それに、彼の…ハンターとしての魔力と王族である私の魔力を合わせ、オスティウン・ムーンディを開くことで、フィニスを発動させ、世界の破滅を防げるのでしょう?」
「はい。おっしゃる通りでございます。世界の破滅…それはつまり、三天黒龍のうちの2匹。煌黒龍アルバトリオンと黒龍ミラボレアスの復活を阻止し、世界に平和をもたらすことができます」
男は、淡々と、それでいて力強く言葉を発する。
「であれば、彼に伝える必要はありません。もう彼は十分に戦いました。我らの力で三天黒龍の内、2匹の復活を阻止できれば、彼が命を賭けて戦う機会も減るというもの」
「ええ、姫様の言う通りでございます。さすがは美しくもお優しいお方」
男の称賛の声に、ヒスイは表情一つ変えず、言葉を締めくくった。
「では、滞りなく、お願い致します。…バルファルクさん」
 
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