フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです
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第3章 帰還編
第14話 謝罪
上級魔導士たちへの報告を終えたアレンは、エルザ、ミラと共に、来賓用の部屋へ案内を受けていることろであった。
報告を終えた頃には、日も暮れ、すっかり夜となっていたため、評議院にて一泊してからギルドに帰ることになった。
そして、アレンは今、来賓用の部屋へ入り、案内をしてくれた評議員から説明を受けたところで、衝撃の事実に身動きを取れないでいた。…ケガで動きづらいのとは、また別の理由で、である。
時は少し遡り、上級魔導士との会議が終わった直後、尿意を催したアレンは、近くの評議院にトイレの場所を教えてもらい、用を足していたのだ。エルザとミラは平気だったため、トイレの入り口で待っていたところ、他の評議院から一泊してから帰ってはどうかという提案を受けたのだ。アレンの怪我が完治していないことに加え、何より自分たちも緊張と驚きで疲労が溜まっていたこともあり、その提案を受けることにしたのだ。
さて、問題はここからで、どうやら評議院における来客用の宿泊部屋は改装中のため、問題なく使用できるのは、2部屋しかないという内容であった。しかも、どちらの部屋もダブルベッドが一つずつしかないらしい。評議院は申し訳なさそうに、エルザとミラは同じベッドで…という風に話していたのだが、2人から予想外の返答が返ってきてしまう。…それがどのような返答であったのかは、エルザとミラがアレンに対してどんな心情を抱いているのかを考えれば、容易に想像ができよう。
そうして時間を現在に戻し、来賓用宿泊部屋。案内してくれた評議員が退出すると、エルザとミラはホッとしたように、ミラは椅子に腰かけ、エルザはベッドに腰かけた。そして、
「…おい、まさか3人同じ部屋…なのか?」
アレンは入り口の前で狼狽しながら、2人に声を掛けている。
「ん?何か問題があるのか?」
エルザはそんなアレンに悪びれもなく答えた。
「いや、ベッド、一つしかないし…」
「大きなベットだから、3人で寝ても大丈夫よ」
ミラが満面の笑みで答える。
そんな2人を見て、アレンはため息をついて部屋の中へ入る。
「あのなぁ、お前らにとって、俺は兄貴みたいなもんかもしれないけど、俺も一応男で、お前らも立派な大人の女性に、それもとびきりの美人になったんだから、男と一緒に寝るとか、控えた方がいいぞ」
アレンは叱るように言葉を発しながら、ミラと同じテーブルの椅子に腰かける。
「び、美人だと?そうか…ふふ」
「あ、ありがとう…」
2人は、とびきりの美人という言葉に、顔を真っ赤にして照れる。
「だ、だが、私たちもその、一緒に寝るとかそういうのを許すのはアレンだけだ…」
「他の男には、絶対に許したりしないわ」
「…ああ、そうなの?とにかく、気をつけろよ」
アレンは呆れたように呟くが、伝えたい趣旨が若干違っていたことに気付く。
「って、そうじゃなくて俺ともダメだってことだよ」
「な、なぜだ…」
エルザが驚いた様子で答えた。
「…私たちのこと嫌いになっちゃったの?」
ミラが悲しそうに答える。
「い、いや、嫌いとかじゃなくて、お前らのことはもちろん好きだよ、だけど…」
「「そしたら、何の問題もないな(わね)」」
アレンの言葉に、被せるようにしてそう答える。
そんな二人の様子に、アレンは疲れてしまい、これ以上反論する気が失せてしまった。
「はぁ…もう好きにしろ」
「「んふふっ…」」
2人は嬉しそうに笑みを浮かべた。
その後しばらくイチャイチャと会話を繰り広げていた3人であったが、エルザが顔つきを変え、アレンに言葉を掛ける。
「な、なあ、アレン…」
「ん?」
「さっきの話なんだが…」
エルザが言いにくそうにアレンに話しかける。
「…寿命が削られたって話か?」
「…っ!…それも、そうなんだけど…屍鬼封尽?のほう…」
ミラが辛そうに言葉を発する。
「ああ、あれがどうした?」
「ど、どうしたじゃないわよ!…その、本気なの?」
ミラは少し声を荒げる。そんなミラの様子に、アレンは一瞬驚いて見せたが、
「最終手段だって言ったろ?なにより、俺はナツたちを信じてる」
「…だが、最悪の場合は使用するつもりなのだろう?」
エルザがキッとアレンを睨むように言った。
「…お前らが心配してくれているのは、わかっているつもりだ。俺もできれば使用したくはない。だが、俺の命一つと世界中の命…比べるまでもないだろ?」
アレンは両手の指を絡め、俯いて答えた。そんなアレンの言葉に、ミラが椅子から立ち上がり、アレンの傍で膝を落とす。そして、アレンの身体を左側から優しく、ぎゅっと抱きしめる。
「ミ、ミラ…!」
「アレン、確かにあなたの言うことは理解できるわ。でもね…私にとって、私たちにとってはアレンの命も、他の全ての命と同じか、それ以上に大切なの」
そんなミラの行動を見て、エルザもベッドから立ち上がり、アレンの傍で膝をつく。右側から同じように抱きしめる。
「一人で背負おうとしないでくれ。私たちはもう、前のように子どもじゃないんだ。アレンも言ってくれたように、大きくなったんだ。確かに力不足は否めない。でも、必ず強くなって見せる。だから…」
エルザは語尾をためるようにしてアレンの耳元で囁くようにしていった。
「「これ以上、心配させないで…」」
2人は、ポロポロと、大粒の涙を零していた。
アレンは2人に抱きしめられながら、驚いた様子を見せている。そして、そんな2人の腰を手繰り寄せ、ぎゅっと力を籠める。
「「あっ///」」
少し強めに抱きしめられたことで、2人は喘ぎ声に似た声を漏らす。
「…ごめん、悪かった。心配ばかりかけて、本当にすまない」
「「んっ…」」
2人はアレンの言葉を噛みしめながら、目を閉じ、アレンの感触を確かめるように吐息を漏らす。
「俺も、お前たちと離れたくない…」
「「っ!うんっ…」」
アレンの弱音にもとれる言葉に驚きながらも、2人の心は嬉しさで満たされる。
「これから更に強大な敵が現れることもあるだろう。命の危険に晒されることもあるかもしれない。だから、2人にはもっと強くなってもらいたい」
「そんなの、当たり前だ…また、修行をつけてくれ」
「私たちも、頑張るわ」
アレン達3人はそんな風に会話を続けながら、7年間の年月を埋めるようにして、暫く抱きしめあっていた。
アレンによって評議院にもたらされたアクノロギアの情報は、一部を除き、翌日には大陸に存在する国家、及び全魔導士ギルドマスター、加えて主要都市長へと伝達された。
主に、アクノロギアが生きていることに加えて、アレンの力では完全に滅することができないこと。そして、それを滅することができるのは滅竜魔導士のみであること。さらに、魔法が一切効かないことや、アクノロギアの攻撃には寿命を削られるというリスクがあるという内容であった。
それを聞いた国家や魔導士ギルドなどは、ひどく困惑し、一時混乱が巻き起こった。また、アクノロギアが復活する時期が不明であった点も、大陸を恐怖に陥れる原因となった。しかし、アレンがアクノロギアを撃退した、という事実は変わらないこともあり、混乱は比較的短期間で収束することとなる。
評議院への報告を終えたアレン達は、評議院に一泊したのち、朝には出立し、フェアリーテイルに帰還を果たした。
フェアリーテイルに帰ると、ナツやグレイたちが評議院に乗り込もうと息を巻いて準備をしていたため、アレン達はナツ達の暴走の前に帰還できたことに、ホッと胸を撫でおろしたのであった。
アレンが器物破損などの罪に問われなかったことを皆に伝えると、「あたりまえだ」という様子で皆がプンスカしていたが、実際にアレンが無事帰ってきたことに安心し、一先ずは怒りを収めることとなった。アレン連行の一件があったため、破門中のラクサス含め、現在すべてのメンバーがギルドに滞在していることを知ると、アレンはメンバーを酒場に集め、とある話をしようとしていた。「アレンから大切な話がある」と聞いたメンバーは、皆固唾をのんでアレンの言葉を待っていた。
「悪いな、時間を取らせちまって」
「気にすんな!んで、話ってのは何だ?評議院を潰すのか?」
アレンの言葉に、ナツがとんでもないことを口にするが、アレンはそれを無視する形で話を進めた。
「さて、まずは…だ…」
アレンはそう呟くと、床に両膝をついた。
そんなアレンの行動に驚いているメンバーであったが、その驚きを言葉にするより、続けてアレンの手が床につく方が早かった。
「…先のアクノロギアも含め、7年間、本当にすまなかった」
アレンが土下座をして、謝罪をしたのだ。
「お、おい、アレンっ!何やってんだよ!」
「やめてくれ!!頼むから!!」
ナツとリオンがアレンの行動を制止するように声を掛ける。
「…お前たちには多大な心配と、深い悲しみを与えてしまった」
皆が黙りこくる。そう、アレンが100年クエストへ出発して3年。そして、アクノロギアとの激闘の末、エーテリオン投下によって死亡したと思われていた4年。合わせて7年。フェアリーテイルの殆どのメンバーが、強い喪失感と悲壮感に苛まれていたということは、変わらない事実だった。当時、例え「きっと生きている」という希望をもって過ごしていてが、それでも「もしかして…」という気持ちが払拭できるわけはなかったのだ。
「許してくれとはいわない。ただ、俺に償いをさせて欲しいんだ」
アレンはそう呟き、徐に頭をあげる。
「償いなど…不要だゾ。アレンさんが無事だったならそれで…」
「アレンが戻ってくるのに時間がかかったのは、評議院がエーテリオンを打ち込んだことが大きい。そう気に病むな…」
「それに、今回の天狼島の一件は…私たちの実力不足の面も大きい」
ソラノ、ウル、カグラがそんなアレンに優しく声を掛ける。だが、それでもアレンの表情は暗く、硬いままだった。
「いや、それでは俺の気がすまん…だから…」
そういって、アレンは一本の片手剣を換装する。そして、あろうことか、その切先を徐に自らの腹へと向けた。
「ちょっ、おい!アレン!!」
「な、なにを…」
エルザとウェンディが、驚いた様子でアレンに向けて声を放つ。他のメンバーの反応も同様であった。だが、そんな心配をよそに、アレンはすっと片手剣を腹から遠ざけるとともに、ゆっくりと立ち上がる。
「ア…アレン?」
ウルティアが戸惑っているのがわかる。
それを聞いてか聞かずか、アレンはニカッと笑い、片手剣を上へ向けて、高らかに宣言する。
「お前たちを強くしてやる!!!!お前たちの気が済むまで、みっちり修行に付き合ってやる!!!!!!!俺がいなくても、数多の強敵と戦えるほどに!!もちろん、強制はしない!…それでどうだ?」
フェリーテイルの酒場は数秒間、時が止まったかのような静寂に包まれたが、その後耳を劈くような大歓声が起こった。
「そいつはいいや!!!!燃えてきたぞ!!!!!」
「アレンが回復したら、修行をつけてもらおうと思ってたところなんだ!!」
「願ってもない提案だ!」
ナツ、グレイ、ジェラールが嬉しそうに声を張り上げる。
「…私はてっきり切腹でもするのかと…」
「あ、安心しました」
「びっくりしたんだゾ…」
カグラ、ユキノ、ソラノがホッとした様子で胸を撫でおろす。
暫くそんな風に歓声が上がっていたが、リオンが素朴な疑問をぶつける。
「修行をつけてくれるのはありがたいんだが、その、身体が回復してからという前提条件を付けても、これだけの人数を相手に修行をつけるというのは、少し現実的じゃないんじゃないか?」
リオンのもっともらしい意見に、フェアリーテイルの皆がはっと気づいたような表情を見せる。恐らく、マカオやワカバのような中年組は参加しないだろう。また、攻撃魔法を主としないリーダスやウォーレン、さして力を求めていないナブやマックスは、たとえ参加したとしても、修業期間もさほど長くはならないだろう。それらを除いた、それ以外のメンバーだと考えたとしても、少なくとも30人弱はいる。加えて、先のアレンの言葉を借りれば、皆が満足するまで付き合うというではないか。冷静に考えて、さすがにアレン1人で修行をつけるのは無理があった。
「まあ、そう思うのも無理はないわな…」
「なんだ?何かいい方法があんのか?言っとくが、やっぱなしってのはやめてくれよ!」
アレンが笑いながら答えた言葉に、ナツが追い打ちをかけるように言葉を放つ。
「俺も、ただ4年間死んだと思われてたわけじゃない。色々と魔法について勉強したりしてたんだ…これなら、お前たち全員を満足のいくまで、加えて個別に近い形で、同時に修行をつけてやることができる」
「ど、同時って、そんなの一体どうやって…」
ウルティアが呆れたように口を開くが、その言葉が嘘偽りではないことに、この後気付かされることになる。
「…多重影分身」
アレンがそう小さく呟くと同時に、アレンの周りに魔力と真っ白な煙がブワッと舞い上がる。皆がその様子に驚きの声を上げるが、それは序章に過ぎなかったと思い知る。だんだんと煙が晴れてくると…。
「「「「「「「「「「これなら、全員に、しかも同時に修行をつけてやれる」」」」」」」」」」
アレンの声がまるで重なっているかのように聞こえる。皆は怪訝に思うが、完全に煙が晴れたとき、そこに数えるのも億劫なほどのアレンがいたのだ。
「「「「「「「「「…え、えええぇぇぇーーーーーーー」」」」」」」」」」
皆、驚愕の声を張り上げる。遠巻きにカウンターから様子を見ていたマカロフやギルダーツも、あまりの出来事に酒を吹き出す始末だった。
「影分身っていう魔法でな、ただの分身じゃねえ。実体のある分身だ」
皆の驚きに、アレンは嬉しそうに答える。
「ア…アレンがいっぱいだーーー!!」
「な、なんつー魔法だよ…」
「…っすごい…」
ハッピー、ガジル、ルーシィがそれぞれ感想?を述べる。そんな風に各々が驚きに伏している中、落ち着きを取り戻した酒吹き親父が声を発する。
「影分身、それも多重影分身か…俺も知識として知ってはいたが、まさか使える奴がいるとはな…」
ギルダーツは冷や汗を垂らしながらそう答えた。
「お、ギルダーツ、影分身、知ってるのか?」
「ああ、まあな…」
ギルダーツはアレンの言葉に軽く返事をするように答えると、アレンの方へゆっくりと歩きながら口を開く。
「影分身、分身魔法の中でも最上級に位置する魔法で、習得すら難しい高難度の魔法だ。自らの魔力を均等に分身に分け与え、数体の実体のある分身を作り出す。しかも、アレンが今やって見せたのは、それを超える多重影分身。並みの魔導士じゃまず、一生かかっても会得できねえ程のもんだ」
ギルダーツの言葉に、皆が固唾を呑む。
「おっさん、俺も分身魔法事態は知ってるが、普通はもっても精々1.2分が限界って聞くぜ。いくら多く分身できても、数分じゃ修行にならねえだろ。それに、実体ってのはどういう意味だ?」
ラクサスが、怪訝そうな雰囲気で言葉を発する。
「あー、そうじゃねーんだよ、ラクサス。確かに、おめーの言う通り、一般的に分身魔法は長くは保てねえ。一瞬相手を惑わせるか、本体が戦闘から離脱する目的で使われることが多い。だが、この影分身は自分の魔力を等倍に分け与えることで発動するんだ」
「それがなんだってんだ?」
ギルダーツの言葉に、いまいち納得がいっていないラクサスは更に質問を投げかける。ギルダーツはラクサスの声を受け止めながら、アレンの一体の影分身の肩にトンっと手をのせる。
「つまりだ、影分身てのは他の分身魔法と違い、アレン本体、若しくは分身自体が影分身の魔法を解かない限り、若しくは分身が許容範囲を超える攻撃を喰らったり、分け与えられた魔力を使い切らなければ、半永久的に存在し続けるってわけだ。実体があるってのは触れらるってだけじゃなく、そういう意味でもある」
ギルダーツの言葉に、皆がこれ以上にないといった様子で驚いている。
「そう、つまり、分身体とは言え、ほぼ本体と変わらない働きができるってわけだ。お前たち全員を同時に鍛え上げられると言った根拠がこれだ。それに…」
アレン本体は、自信満々にそう言って見せると、アレンの分身4体がミラの近くに向かっていく。そして、ミラを囲むように1人は顎に手をやり、一人は右側、一人は左側から抱き着き、最後の一人は後ろからミラを抱きしめる。
「こうやって、4人の俺でミラを愛でることもできるってわけだ」
「っ!?///」
4人のアレンに近寄られ、抱き着かれたミラは目を見開いて顔を真っ赤にする。そんな様子のミラと分身体アレン4人を見て、メンバー全員が顔を赤らめる。
「あ、ああ、あ…っ///…バタッ…」
「ちょ、おいミラ…っ!」
余りの恥ずかしさと幸福感に、ミラがプシューッと沸騰したかのように煙を出すと、分身体の一人に寄りかかる感じで気を失ってしまう。
「あー…ちょっかいだす相手間違えたか…」
アレンが頭を掻きながらははっと苦笑いをしている。一部の女性陣の鼻から、たらーっと鼻血が垂れる。
「(そ、そうか、これをアレンに頼めば、た、沢山のアレンと…)」
「(こ、これは後できちんとOHANASHIすることが増えたわ…)」
エルザやウルティアなどが俯いてぶつぶつと呟いている。
「…だがな、もちろんデメリットもある。一つは魔力を分身した数だけ分割しちまうから、単純に、2人に分身すると、本体含め、1人の力は俺本来の力の半分になってしまうってことだ」
その言葉を聞き、ナツの目がキランッと輝く。
「ってことは、50人くらいになってる今のアレンは、1人につき本来の2%の力しか持ってねーってことか!それなら俺でもボコボコにできるぞ!!」
ナツはそう言い残し、一人の分身体のアレンに向かって殴りかかる。
「おお、計算ができるようになったんだな、ナツ!俺はうれしいぞ!」
アレンはナツの成長を嬉しそうにしながら、向かってくるナツの腹に拳を決め込み、カウンター奥にまで吹き飛ばす。
「…2%のアレンにですら瞬殺かよ…」
ラクサスが呆れたように、吹き飛ばされたナツに向かって言葉を投げかける。ナツを吹き飛ばしたことなど、まるでなかったかのようにアレンは言葉を続ける。
「そしてもう一つは、分身が、俺や分身の意思とは別に、攻撃を受けるなどして消えてしまった場合、その分身に分け与えていた力も消えちまうってことだ。んで、最後が…」
含んだように言葉を詰まらせたため、皆は怪訝な表情でアレンを見つめる。
「魔力が不足した状態で使うと、発動しないだけでなく、最悪死ぬってことだな」
死ぬという言葉に、皆が驚きの表情を見せるも、その驚きを言葉にされる前に、アレンが続けて言葉を発した。
「まあ、俺もそこまでバカじゃないから、心配する必要はない。余計なことも話しちまったが、とりあえず、これで皆に修行がつけられるってのは理解してもらえたかな?」
その言葉と同時に、アレンはすべての分身を解除する。酒場に溢れかえっていたアレンの分身体は忽然とその姿を消した。先ほどアレンに吹き飛ばされたナツが、起き上がる。
「…っ!やっぱアレンはすげーや!!よし、今すぐ修行開始だ!!!!」
「「「「「「「「「「って、アレンがちゃんと回復してからにきまってんだろうが!!」」」」」」」」」」
ナツのやる気に満ち溢れた言葉は、フェアリーテイルメンバーの言葉によって、ことごとく遮られることとなった。
さて、アレンが影分身を披露した直後、アレンは「じゃあ、俺は医務室でゴロゴロしてるぜー」と言って酒場から去っていったので、皆も解散の流れとなった。だが、その流れをマカロフが止めるように声を掛ける。
「ああ、すまんが、わしからもお主たちに伝えておきたい大事なことがある」
マカロフの言葉に、皆の足が止まり、視線がマカロフへと集中する。
「なんだよ、じっちゃん、大事なことって」
「むぅ…まあ、だが、その前に…ラクサス!」
急に名前を呼ばれたラクサスは目を見開いてマカロフを見る。
「お主の破門を、仮だが解除とする!!」
「本当か!マスター!!」
「やったー!」
「良かったなラクサス!」
フリード、エバ、ビックスロー含め、ギルドの皆は驚きつつ、喜んでいた。
「い、いや…俺は…別に…」
「アレンに感謝すことじゃ…あやつの頼みだから解除したということを忘れるな」
「アレン!!あんたって人は!!!」
フリードは、泣きながら嬉しがっていた。
「で、本題なんじゃが…むぅ…」
マカロフは話を本題へと持っていこうとするが、悩むように声を漏らす。そして、エルザとミラを交互に見る。エルザとミラは、そんなマカロフの様子に、何を皆に伝えるのか、憶測することができた。
「アクノロギアと、アレンについてじゃ…」
マカロフがそう発すると、皆の表情が一気に真剣なものとなる。
「アクノロギアについて、アレンから直接聞いたものも間接的に聞いたものも、ある程度のことは聞き、認識はしておるじゃろ」
アレンが目を覚ました際に、アクノロギアが生きていること、そしてアクノロギアは滅竜魔導士にしか倒せないことはすでに聞き及んでいた。
「アレンが評議院に報告した内容は、それ以外にもあるようじゃ。その旨を、先ほど評議院から報告があった」
「なんだよ、まだ俺たちが知らない何かがあるってことか?」
グレイが戸惑った様子でマカロフに声を掛ける。
マカロフは、評議院より持ち込まれた話を、フェアリーテイルの魔導士全員に話して聞かせた。
アクノロギアには一切の魔法が通用しないこと。アクノロギアの肉体にダメージを与えられるのは、竜の力と魔法に寄らない物理的な攻撃。だが、どちらも生半可なものではダメージにはならないこと。そして…アクノロギアの攻撃には魂を、ひいては寿命を削り取る能力があること。そして、アレンは先の戦闘も併せ、すでに20年分の寿命が削られている、という内容であった。
エルザとミラはその話を聞き、屍鬼封尽については評議院預かりとなっていることを知った。だが、それを差し引いても、この内容は皆を驚かせるのに事足りていた。いや、足りすぎていた。特に、アレンの命が、寿命が削られているという話には、絶句という言葉がここまで的を射ている状況がないといった様子であった。
「じゅ、寿命をけずる…だと…」
「そ、そんなことが…」
「20年…それほどの寿命が…」
カグラ、ウル、ジェラールが酷く困惑している。
「っ!なんで、なんでそんな大事なこと、アレンは黙って…アレンの命が…」
カナが悔しそうに言葉を発する。その目には、涙が浮かんでいた。他のメンバーも、アレンの身に起きた災厄に、身を震わせて悔しがり、悲しんでいた。
「…アレンも中々言い出せなかったんじゃろう…。わしも、同じ気持ちじゃ。じゃが、過去を振り返っても始まらん」
マカロフが意を決したように、立ち上がる。
「アレンの、評議院の話で分かったことは、まず、アクノロギアを倒すことができるのは、ナツをはじめとする滅竜魔導士のみということ。そして、竜の力以外では、いかなる魔法であろうとも、アクノロギアにダメージを負わせられないということ。加えて、アレンなどのアクノロギアと戦う力を持っているモノでも、勝とうが負けようが、相応の寿命を削られてしまうということじゃ」
マカロフは一息ついてから、そのまま言葉をつなげた。
「つまり、多くの、ほぼ全ての魔導士は、アクノロギアに遭遇した場合、逃げるという手段しかとれぬということじゃ。エルザやカグラの剣、ミラジェーンやエルフマンのテイクオーバによる膂力のみに頼った打撃などは、理論上アクノロギアにダメージを与えることができるが、アレンほどにまでそれを高めなければ、それも意味をなさない」
マカロフの言葉に、ギルダーツが繋げるようにして呟く。
「そして、そこまで力を高めても、アクノロギアの攻撃を喰らえば、寿命を削られるってわけか…。さっきの話だと、俺も多少寿命をもってかれているってことだ。まあ、奴の攻撃を喰らって無事でいられるかどうかは置いといても、厳しいな」
ギルダーツが苦虫をかみ砕いたような表情を見せる。
「じゃが、希望はある。評議院は、アレンと存在するすべての滅竜魔導士による決戦を唯一の対抗手段と考えておる。つまり、先のアレンの修行の件と重なる部分もあるが、ナツたちには、今まで以上に力をつけてもらうことになるじゃろう」
「そんなもん、言われなくてもやってやる!」
「ギヒッ!」
「頑張らないと…」
「ふん…」
ナツ、ガジル、ウェンディ、ラクサスがそれぞれ声を上げる。
「じゃが、それは悪魔で最も戦力をアクノロギアに向けられた場合の話じゃ。お主たちも、三天黒龍の話は聞き及んでおるな?」
その言葉を聞き、メンバー全員が沈黙で肯定の意を表す。
「もし、残りの三天黒龍と同時に戦闘となった場合、評議院はアクノロギアに対しては滅竜魔導士を、2体のうちどちらかをアレンが、そして、残りの1体を他の全魔導士をもって殲滅する策しかないと考えておる」
「できれば、そうはなってほしくないわね…なるべく戦力の分散は避けたいところだ」
ウルが考え込むようにして、顎に手をやる。
「…さらに、そこに黒魔導士ゼレフが乗ってくれば、よりややこしい事態となる。じゃが、それをわしらが調節できるわけもない。加えて、今から話すことは、評議院が文献や古書を数年かけて解読し、解明したことじゃが…」
マカロフは一度息を整えるようにして、暫しの間を作る。
「三天黒龍の2体、アルバトリオンとミラボレアス、これらについてはまだ現段階では確認されておらぬらしいが、単純な強さという意味では、アクノロギアを凌駕するらしい」
その言葉に、メンバーは、ひどく困惑する。
「おいおい、冗談だろ…」
「アクノロギア以上…まじかよ」
ラクサスとナツが震えたように口を開く。
「…そしてそれは、アレンの実力をも上回る可能性が高いということじゃ」
「アレンでも、倒せないほどの力を有しているかもしれない…ということね」
「ありうるのか…そんなことが…」
マカロフの言葉に、ウルティアとリオンが小さく呟く。
「わしは、いや、皆も同じ気持ちであろうが、そんな奴の相手を、アレン1人に任せたくはない」
表情を硬くし、マカロフの言葉を噛みしめる。気持ちは皆、同じなのだ。
「じゃが、今のままでは、多くのものがアレンの足を引っ張るだけじゃ。それは、天狼島にいたものは嫌というほど認識したはずじゃ」
皆の手に、握り拳が携わる。そして、その目には強い、何かを秘めていることが伺えた。
「だからこそ、アレンとの修行も含め、我らはより力をつけねばならん!!家族のため、仲間のため、今こそフェアリーテイルは前に進まねばならん!!アレンの意思を、覚悟を無駄にしてはならんぞっ!わかったか、ガキども!!!」
マカロフの力強い言葉は、フェアリーテイルのメンバー全員を鼓舞させるものとなった。
後書き
・影分身:ナルトに登場する忍術。性能等に関しては、ナルトの原作とほぼ同じ。多重影分身も同様。
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