イベリス
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第五十九話 疑惑を自分でその七
副部長は咲に本から目を離してこう言った。
「恋愛では傷付くのは付きものよ」
「そうなんですか?」
「そう、失恋はあるから」
「どうしてもですね」
「永遠の愛を誓ってもね」
例えそうしてもというのだ。
「別れるし先立たれたりね」
「そうしたことがあって」
「それでよ」
「失恋は付きものですね」
「喧嘩別れとかで未練がないならいいけれど」
「そうもいかないですね」
「そうした場合も多くてね」
それでというのだ。
「傷付くことはよ」
「あるんですね」
「そう、付きものよ」
「そうですか」
「恋愛は素敵なものでね」
副部長はさらに話した。
「奇麗なものだけれど」
「それだけじゃないんですね」
「そうよ、痛くて辛い」
「そうしたものでもあるんですね」
「中には手酷く振られて」
そうなってというのだ。
「人格変わった人もいるわよ」
「性格まで変わるんですか」
「それまで明るかった人がね」
「暗くなるんですね」
「陰が出来てね」
その性格にというのだ。
「そして憎しみに凝り固まる様な」
「そんな風にもですか」
「なるのよ」
「失恋したら」
「そうなるからね」
だからだというのだ。
「恋愛は痛くてね」
「辛いものでもあるんですね」
「怖いものでもあるのよ」
「怖いですか」
「痛くて辛いからね」
そうした面も持っているからだというのだ。
「それで性格まで変わるから」
「そうしたものだから」
「覚悟してね」
「恋愛はすることですか」
「当たって砕けろでいけたらいいわよ」
その考えで恋愛が出来ればというのだ。
「もうそれでね」
「いいんですか」
「覚悟決めてるからね」
「じゃあ覚悟を決めていないと」
「下手したり運が悪かったらね」
そうした場合はというのだ。
「もう二度と恋愛なんかしたくないと思う様な」
「痛くて辛い思いをすることになるんですね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「地獄を見るわよ」
「地獄って」
「目の前が真っ暗になって」
人間生きているとそうなる時もある、目の前に見えるもの全てがまさにそう見えるのだ。本物の絶望に陥った時に見える。
「どん底にまで落ちてね」
「地獄を見るんですね」
「誰も信じられなくなることもね」
「あるんですね」
「それで性格もね」
「変わるんですね」
「暗くね、それで中には」
副部長は咲にさらに話した。
「失恋をからかわれたり言われて」
「ああ、心の傷を抉られて」
「もうそれが化膿してね」
抉られた心の傷がだ。
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