銀河を漂うタンザナイト
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第7次イゼルローン要塞攻防戦①
前書き
今回からイゼルローン攻略戦に入ります。
宇宙歴796年4月27日、帝国歴487年5月。新設の自由惑星同盟軍第十三艦隊は自由惑星同盟首都ハイネセンを出港。イゼルローン要塞攻略の途についた。これは公式的には帝国方面国境と反対方向の辺境星域で大規模な演習を行うという事になっていたので24日かけて遠回りに航行したのちイゼルローン回廊の入り口に入り込んだ。一方再編なった第四艦隊は第十三艦隊の出港から遅れること2週間後にハイネセンを出港。約2週間の行程をかけてまっすぐ航行したのち、イゼルローン回廊の入り口に布陣する第十三艦隊と合流した。
新設部隊である第十三艦隊は旗艦であるアコンカグア級戦艦ヒューベリオンを筆頭に7000隻からなり、艦隊司令官はヤン・ウェンリー少将。艦隊副司令官にエドウィン・フィッシャー准将、参謀長ムライ准将、副参謀長フョードル・パトリチェフ大佐、分艦隊司令官グエン・バン・ヒュー大佐といった顔ぶれであった。
一方再編された第四艦隊は旗艦をアイアース級戦艦オケアノスとし、7300隻の艦艇から編成されていた。艦隊司令官はアラン・クロパチェク少将で、艦隊副司令官にラルフ・カールセン准将、参謀長にビューフォート大佐、副参謀長はアロイス・ペーター・フォン・アルベルト中佐、艦隊主計参謀にオーブリー・コクラン中佐、分艦隊司令官にマリネッティ大佐、ザーニアル大佐という布陣になっていた。またこの2個艦隊の他にも、帝国からの亡命者の子弟で構成される薔薇の騎士連隊200名が参戦していたのだった。この自由惑星同盟軍最強である陸戦部隊の参加はヤンにとっては正に要塞攻略になくてはならない物であり、その点でもヤンはこの作戦の成功を確信していたのだった。
イゼルローン要塞は銀河帝国の軍事基地として完成したのは今から約30年前で、質量60兆t、直径60kmの巨大な人工天体であった。同盟軍の侵攻を受けた際、帝国軍はこれを撃退し、以後50年間に渡って6度の戦いが繰り広げられたが、いずれの場合も同盟軍は勝利を得ていない。現に帝国軍務省をして
『イゼルローン回廊は叛乱軍兵士の死屍をもって舗装されたり』
と豪語させる程、同盟軍はボロ負けし、この要塞に攻撃を仕掛けては返り撃ちにされていた。
実際にイゼルローン要塞の防御力は充分で、要塞表面は液体金属の厚い装甲で覆われており、液体金属の内側にはセラミック合金の装甲板も装備している。また液体金属表面には無数の砲台やミサイル発射装置が設置され、トール・ハンマーと呼ばれる出力9億2400万メガワットの要塞主砲の威力に至っては1個艦隊の全火力を上回る。さらに要塞内部には約2万隻の艦艇を収容・修理可能な軍港に、1時間あたりに核融合ミサイルを7500本生産できる武器製造プラント、穀物貯蔵庫の容量700万トン以上と、食糧供給システム、武器供給システムの全てにおいて、まさに完璧と言っていいほどの施設を揃えていたのだった。
そしてそんなイゼルローン要塞には二人の帝国軍大将がいる。一人は要塞司令官のトーマ・フォン・シュトックハウゼン大将。もう一人が要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼークト大将である。お互い50代で長身というのも共通しているが、ゼークトの胴囲はシュトックハウゼンのそれより一回り大きい。両者の仲はお世辞にも親密とはいいがたかったが、これは個人的な関係が原因ではなくこの要塞では伝統的なものだった。なにせ同じ職場に同じ階級の人間が二人もいるのである。角突き合わせない方がおかしいので当然、仕事がスムーズに行くわけがない。
この対立は司令官だけではなく配下の将兵たちにも及んでいた。要塞側は艦隊を"ドラ息子"呼ばわりして軽蔑し、艦隊側は"モグラ"と言ってバカにする始末である。この両者の対立がなんとか一線を越えずに済んでいるのはひとえに絶対無敗の要塞を支えているという戦士としての双方の誇りと、"不貞なる叛徒ども"に対する敵愾心であった。
帝国標準歴5月14日 イゼルローン要塞 会見室
ゼークトとシュトックハウゼンの両者はお互いの指令室から均等の位置にある会見室にいた。ここ二日で要塞周辺の通信妨害が著しく敵が近づいているのは間違いないとの事でその対策を練るための会見だったが、その内容は必ずしも建設的とはいいがたかった。敵がいるのは明白であるから打って出るというゼークトの積極的な発言に対し、シュトックハウゼンは敵がどこにいるかわからないから位置が判明するまで待つべきだというとを嫌味を交えながら話していた。そんな中、扉が開かれて若い通信士官が入ってきた。彼は敬礼すると、報告した。
曰く帝都オーディンから1隻のブレーメン級巡航艦が重要な連絡情報を携えて出港したが、回廊内で叛徒どもの攻撃を受け現在逃げ惑っており、救援を要請してきたというのだ。
「何だと⁉」
「何たることだ!!」
二人は驚きのあまり同時に叫んだが、それも無理はなかった。帝国側から来たはずの巡航艦が敵艦隊の攻撃を受けている。つまるところそれは敵が自分達イゼルローンをやり過ごして回廊を通過したという事に他ならなかった。少なくとも二人はそう考えたのである。
「回廊内のどこかはわからんがこれでは出撃せざるをえぬ」
「大丈夫なのか、それは?」
シュトックハウゼンは眉間に深い縦じわを刻み込み、ゼークトに尋ねた。しかしゼークトは問題ないと言わんばかりに1時間後に総力を挙げて出撃すると告げたが
「お待ちください閣下」
彼の決意に水を差すような陰気な声が挟まれる。
「…オーベルシュタイン大佐か」
ゼークトのその声には一片の好意は見いだせなかった。
「何か意見でもあるのか?」
彼の質問に対しオーベルシュタインは表面的には気にしていないかのように、これは駐留艦隊を要塞から引き離すための罠であると述べるも、オーベルシュタインに対する反感や皮肉っぽく事態を見守るシュトックハウゼンの手前もあった。それにゼークト自身敵を見ると戦わずにはいられないという猛将タイプ的な血気盛んな性格をしていたから、結局は出撃する事になってしまったのだった。
それから1時間後、要塞司令官室から駐留艦隊15000隻が出港するのを見ていたシュトックハウゼンはこうつぶやいた。
「ふん、痛い目にあって帰ってくるがいい…」
間違っても死んでしまえや、負けてしまえ、などとは冗談でも言えない。それはイゼルローン要塞司令官としての誇りや、彼個人の節度、帝国軍人としての義務感が許さなかったからだ。
一方そのころ…
イゼルローン回廊内 ダゴン星系
自由惑星同盟軍第四艦隊は回廊内に進入し、事前の打ち合わせに基づいて第十三艦隊が要塞を、第四艦隊が駐留艦隊を相手にするため決戦場と定めたダゴン星系内でデコイ並びに機雷の敷設を行っていた。
旗艦であるアイアース級戦艦オケアノスの艦橋ではクロパチェクが戦況モニターを眺めていた。そこには現在作業中の各艦艇と作業の進行状況をしめすデータが映っていた。
「今のところは順調だな」
満足げにうなずくと彼は傍らに立つ副官であるイェゴール・ユスーポフ中尉に声をかけた。
「敵艦隊の動向はどうか?」
「はっ、偵察部隊からの通信によると要塞駐留艦隊は先ほど要塞を出港したとの事です」
「ふむ、やはり動いたな。よし、作業を急がせろ。それと敵の出方によっては作業を中断する可能性がある。準備だけは怠るなよ」
「了解しました!」
そう言うとユスーポフは通信コンソールの前に座った。それを見るとクロパチェクは再び戦況モニターを見た。そこに映し出されているのは帝国軍の予想航路だった。要塞を出た彼らはまっすぐこちらに向かってくるだろう。だが問題はその後である。帝国軍がどう動くかによって作戦の成否が決まると言ってもいいくらいなのだ。
「ユスーポフ中尉、最後の確認を行いたいので艦隊の幕僚を招集してほしい」
「わかりました」
そういうとユスーポフは艦内放送で艦隊の幕僚を呼び出したのである。
「これで全員そろいました」
イェゴール・ユスーポフ中尉の報告に、クロパチェクは満足そうにうなずくと、次の瞬間に顔を引き締めた。
「さて、あー、諸君らを呼んだのはほかでもない。我々の任務についての最終の確認を行う為である。我が艦隊の任務は第十三艦隊によるイゼルローン要塞制圧が完了するまで敵艦隊を引き付けることにある。その事は皆承知していると思うが……」
ここで一度言葉を切ったが、幕僚たちは特に異論を唱えようともせず静かに聞いている。
「そのための準備に関してはすでに整っていると思うが、諸君らの口からそれを確かめさせて貰いたい。もし何か想定外のことが起きた時になって、ああ、そんな事も忘れていましたでは済まされないからな」
そこでクロパチェクはもう一度言葉を切り、幕僚たちの顔を順番に見渡した。
「よし、 ではまず敵艦隊の侵攻ルートを確認しよう」
彼はそう言うと、メインスクリーンに敵艦隊の予想進路を表示させた。
「これが我々が立てた敵艦隊の侵攻予測コースである。この通り進んでくれればよいのだが…、そううまくいけば苦労はしないがな」
「閣下」
幕僚の一人が手を上げた。灰色の頭髪に鼻から下に同じ色の派手な髭に覆われた60代前後の巨漢の軍人が立ち上がる。艦隊副司令官ラルフ・カールセン准将である。
「何か?」
「は、現在の機雷散布状況についてですが、要塞駐留艦隊に気付かれはしないでしょうか?」
「それについては心配ない。奴らが機雷原に突入する前に、我々は連中に横合いから砲撃を仕掛け、機雷原に押し込む」
「なるほど、機雷原に敵を閉じ込めてしまうわけですか」
「そうだ。そして、機雷原に閉じこめられた敵は散布された機雷にやられるか、あるいは……」
「我が艦隊に攻撃されて、という事になりますな」
「そのとおりだ。機雷原に閉じこめるのはあくまでも時間稼ぎの為だからな。別に無理して全滅させる必要はない。とにかく、第十三艦隊がイゼルローンを占領すればいいのだから、それさえ果たされれば敵を逃がしても構わんわけだ」
「はっ、了解いたしました」
「他に質問のある者は?」
クロパチェクの問いに対し、今度は別の幕僚が挙手をした。
「何だ? 言ってみてくれ」
「はっ、ここダゴン星系は航行の難所として知られており、しかも恒星の位置の関係で常に以上重力帯や電磁波が発生する事から、索敵や航行に関して困難を極めると聞き及んでおります。このような所で敵を迎え撃つのはいかがなものでしょう?」
「ふむ、確かにここは厄介な場所らしいな。だが、だからこそ敵に付け入る隙を与えず、またこちらが有利になる条件がそろっていると言えるのだ」
「有利な条件ですと?」
「どういう意味でしょうか」
幕僚たちが口々に疑問の声を上げる中、クロパチュクは言った。
「ダゴン星系が危険な場所であることは確かだが、同時に帝国にとってもそれは同様なのだ。そしてイゼルローン要塞側からこの星系内に侵入するには、このルートを必ず通る必要がある」
そう言うと彼は手元のコンソールを操作する。すると帝国軍の予想進軍ルートが消えて、代わりにダゴン星系の立体図が表示された。
「この星系には大小無数の小惑星と重力帯等が無数に存在する。それらの間を縫うようにして航行するのは困難をきわめるだろう。つまり帝国軍は、我々と戦うにはこの危険極まりない宙域に入り込まねばならないわけだ。それがどれほどのリスクを負うことになるかは想像できるだろう」
幕僚たちは互いに顔を見合わせたり小声で話し合ったりした。
「もちろん艦隊運動の難解さや索敵の難しさは、我々にもついて回るわけだ。しかし、それにしても、このダゴン星系内に帝国軍が侵入してきた場合、我々の方が優位な立場に立つことができる。帝国軍は我々の正確な位置を知らないし、我々の方はすでに散布したセンサーで帝国軍の動きを正確に把握することができるからだ」
クロパチェクはここでいったん言葉を切って幕僚たちの様子をうかがった。誰もが真剣な表情で考え込んでいる。
「それに我が艦隊は数の上では敵に劣っている。それを考慮に入れれば必然的にこのような星系を決戦場に選ばざるを得ないわけだ」
「他に質問はないか?なければもう終わりにするが…」
幕僚たちが沈黙しているのを見て、クロパチェクは満足げにうなずくと、幕僚たちを解散させた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」
そうつぶやくとクロパチェクは戦況モニターに視線を移したのだった。
一方そのころイゼルローンを出撃してから回廊内をさまよっていた駐留艦隊だが、そんな中艦隊司令官ゼークト大将の元に一つの報告が届いた。
「閣下、前方ダゴン星系、第4惑星カプラチェンカの周回軌道上に敵艦隊らしき熱反応を検知しました」
「よし、直ちに向かえ!!叛徒どもを粉砕するのだ!!」
部下からの報告を受け、迷う事無くゼークト提督は決断する。そしてその命令が全艦隊に行き渡るまでに、それほど時間はかからなかった。
「敵艦隊は、わが軍の侵攻方向に対して11時方向斜め上に進路を取っています。このままでは我が軍と接触するのは3時間後となります」
「よし、それではこちらも敵との交戦に備えて布陣を開始する。各艦に伝達せよ」
「はっ、了解いたしました」
通信士官が命令を伝えるべくコンソールを操作し始める。それを横目に見ながら、ゼークトは戦術スクリーンに映し出されている敵艦隊の予想進路をじっと見つめる。
(小賢しい叛徒どもめ、ダゴン星系を奴らの墓場にしてくれるわ)
口に出さずにそうつぶやいた直後、彼の耳朶を陰気な声が叩いた。
「お待ちください閣下」
「何だ、まだ何かあるのか?」
不機嫌そうな顔で振り向いたゼークトに、声の主であるオーベルシュタイン大佐は淡々とした口調で告げた。
「閣下、これは罠です。ダゴン星系に入り込んではなりません」
「何だと!?」
上官の怒気にひるむことなく、陰気な参謀は淡々と言葉を続けた。
「閣下もご存じの通り、ダゴン星系は恒星の位置の関係で常に電磁波や重力異常が発生しています。そのためレーダーによる索敵や航行が困難なだけでなく、敵味方識別装置や通信機器まで狂ってしまうのです」
「……」
「そんな場所で敵と遭遇した場合、我々は身動きがとりずらい地形での戦闘を強要される危険を犯すことになります。それだけでなく、叛乱軍は我々をダゴン星系に引き入れておいて、そこでわが方の退路を断って包囲してくる恐れがあります」
「ふっ、笑止だな。そのような策を弄するなど、叛徒どもは余程の臆病者と見える。それにもしそうであれば、なぜ我々に位置をばらすような真似をする?」
「それは敵が我が艦隊を要塞から少しでも長く引き離すためです」
「そもそも卿はダゴン星系が難所だという理由だけで、突入せず敵につけいる隙を与えるべきではないと言う。だが、敵がそのように危険な宙域に待ち構えているというなら、こちらはそこに踏み込んで、虱潰しにすればいいだけのことではないか」
「しかし閣下お言葉ながr「もうよい!!全艦ダゴン星系に向けて突撃せよ!!」……」
なおも反論しようとしたオーベルシュタインを無視して、ゼークトは怒鳴りつけるように命じた。そして自らはオーベルシュタインに背を向けた。
「よろしいのですか、閣下」
「かまわん。このような猪口才な手を使うという事は敵の数が少なく、要塞を恐れている証拠だ。数に物を言わせて叩き潰すのだ」
「……承知いたしました」
それ以上何も言わず、駐留艦隊参謀長パウルス准将は一礼して自分の席に戻った。そして帝国軍の進撃が始まった。
後書き
ちょっと短いかい気ガス…。
いまいち戦術理論とかうまくかけぬぅ、だれか文才ください。
艦隊戦は次回からです。
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