イベリス
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第五十七話 梅雨だからその十四
「埼玉県民はその辺りの草でもですね」
「食べていろってね」
「無茶苦茶書いていたんですよね」
「実際はそんなことはないけれどね」
それでもというのだ。
「漫画のネタでね」
「埼玉県ディスっていたんですよね」
「これ以上ないまでにね」
「それでうちの父も埼玉への転勤凄く嫌がってたんです」
「いや、目と鼻の先じゃない」
咲の父が埼玉への転勤を嫌がったと聞いてだ、部長は言った。
「東京と埼玉って」
「私の家足立区なんですが」
「それじゃあもっとだよね」
「近くですよね」
「あっという間に行けるよ」
「ちなみに所沢です」
具体的な転勤先の話もした。
「あちらです」
「西武ライオンズの本拠地だね」
「池袋から西武池袋線乗れば行けますね」
「すぐにね」
それこそというのだ。
「行けるよ」
「そうなんですが父は東京意識が強くて」
「埼玉県嫌がっておられたんだ」
「神奈川ならいいって言ってましたけれど」
それでもというのだ。
「埼玉はです」
「嫌がっておられていて」
「その漫画のせいでしょうか」
「そうかもね、本当に変わらないけれど」
東京と埼玉ではというのだ。
「やたら言われるからね」
「埼玉県は」
「西武だって強かったけれどね」
八十年代から九十年代まで憎たらしいまでに強いと言われていた、その強さは史上最強とさえ言われていた。
「それでも人気なかったしね」
「今はパリーグソフトバンク強いですが」
「ソフトバンクよりずっと人気なかったんだ」
「強かった時もですか」
「一応漫画の主役チームにはなってたよ」
その頃はそうだったというのだ。
「清原がいてね」
「ああ、あの」
「小山さんは清原嫌いみたいだけれどね」
「嫌いです」
実は咲は今嫌そうな顔になった、そして問われてその通りだと答えた。
「柄悪いし下品ですし頭悪そうで」
「よく言われることだね」
「教養も知性もなさそうで」
「実際ないだろうね」
部長も否定しなかった。
「あの人は」
「素行も悪いですし」
「何しろ捕まってるからね」
「そういうの見ていたら。ファッションも酷いですし」
「嫌いなんだね」
「はい」
咲はまた答えた。
「本当に」
「確かにあの人は小山さんが言う通りの人だけれど昔はね」
「漫画の主役だったんですね」
「巨人にいた時もそうだったけれどね」
その頃はどうにもならないならず者として描かれていた、これがこの輩の本質を忠実に描いていたと言うべきか。
「西武の頃は球界を背負う若きスターだったんだ」
「スターですか」
「そうだったんだよ、溌剌として爽やかな」
「今と全然違ったんですね」
「僕もその頃の清原見て驚いたよ」
「今と全然違っていて」
「顔が全然違ってたんだ」
西武時代の清原と今のこの輩はというのだ。
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