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東條希が大阪弁な理由

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東條希が大阪弁な理由

「希、そういえば前から思ってたんだけどなんで大阪弁なの? 出身って東京だったわよね?」
 
 
えりちと仲良くなって数ヶ月、不意にそんな事を聞かれた。やっぱり気になっちゃうか。
 
 
「あーそれは……少し長くなるけど聞きたい?」
 
 
うんうん! と頷くえりち。
そう期待されると断れんやんなぁ。
本当はあまり話したくないんやけど……せっかくできた友達の頼み、無下にするのもアレやし仕方ない。
 
 
「ウチ、親が転勤族でな。昔はよく引っ越してたんよ……。それであれは確か小学6年生くらいの、東京に引っ越してきた時だったかな───────」
 
 
──────────────
 
 
はぁ。また引っ越し。
そして孤独な学校生活が始まる。
そう、私には友達がいない。
いつからだろう。友達を作ろうとしなくなったのは。
そりゃあ最初の頃は友達作ろうと頑張ってたよ? でもどうせまたすぐ引っ越すことになる。どんなに仲が良くても遠く離れてしまえば会う事もなくなる。そして残るのは寂しさだけ。
 
それに気付いてしまってから私は友達を作るのをやめた。
 
 
学校が終わり放課後。いつも帰りは寄り道をしている。早く帰っても親は仕事でいないからだ。それでどこに寄り道してるかというと……適当かな。でもただの散歩をしてるってわけでもない。
 
じゃーん。
 
鞄からカメラを取り出す。
これはただのカメラじゃない。パパがくれたお気に入りのフィルムカメラ。これで風景写真を撮ってまわってるんだ。友達なんか居なくてもこのカメラさえあれば寂しくないもんね。引っ越す度に色々な風景と出会えるし私にとっては最高の相棒なんだ。
 
 
その日はフィルムを使い切ったので、写真屋に現像と新しいフィルムを買いに行った。
そして帰り道。写真屋が少し遠いところにしか無かったため、あたりは夕暮れ時になっていた。このくらいの時間帯は良い写真が撮れるかもしれない。現像した写真の入った紙袋を腕にかけ、カメラを構えつつ河原を歩いていく。その時。
 
 
「写真、とってるん?」
 
 
いきなり後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには同い年くらいの男の子がいた。学校では見たことない顔だからきっと他校の人だろう。
 
 
「なぁ! どんなん撮ってるんかみしてや!」
 
 
そう言うや否や彼は私が持っていたカメラを覗き込んできた。
 
 
「ちょ、ちょっと」
「あれ? これよー見たらフィルムカメラやん! 珍しいなぁ〜。て事は写真はこの紙袋ん中か! どれどれ……おぉーーなかなかやるやん!! 特にこの写真! この構図とか光の入れ具合とかめっちゃ考え」
「わかるの!? そうなのこの写真はすごいこだわったんだ! でも他の写真もしっかり考えて撮ったんだから! 例えばこの写真とかこの角度で飛行機と手前の……」
 
 
そんな感じである程度喋った後でハッとする。いきなり喋りすぎた。写真の話なんて同年代の人とした事なかったからついテンションが上がっちゃったみたい。いけないいけない。少し恥ずかしくなり黙ってしまう。
 
 
「……どしたん? いきなり静かになってもうて」
「いや……いきなり喋りすぎたかなって……」
「んなこと気にせん気にせん! 大丈夫や! むしろめっちゃ生き生きしててよかったで!!」
「そ……そうかな……」
 
 
いきなり褒められ照れる。最初はいきなり変な人に絡まれた! と思ったけど結構いい人なのかも。
 
 
「そういやまだ名乗ってなかったな! ワイは喜楽(きらく) 秀介(しゅうすけ) ! キミは?」
「と、東條希……です……」
「希ちゃんか! よろしくな!」
「よ、よろしく……」
「ってああ!! もうこんな時間やん! じゃあ続きはまた明日な! またここで会おうな〜〜!!!」
 
 
ぴゅ〜〜ん!
 
そうして彼は元来た方向に走って帰っていった。なんだったんだろう。嵐のように来て嵐のように去っていったなぁ。でもまぁ、楽しかったかな……写真の話なんてパパとしかした事なかったし……
 
 
「また明日、か……」
 
 
喜楽くんが帰って行った方向を眺めながら呟く。明日もここに来たら会えるって事なのかな?
 
そこまで考えてハッとする。友達なんて作ったらダメなんだった! どうせ後に待ってるのは別れと悲しみだけ。今までもそうしてきたでしょ? そう言い聞かせその日は家に帰った。
 
 
 
次の日。いつも通りカメラを持って良い風景を探し歩く。昨日の約束の事は覚えていたけど行くつもりはなかった。行ってしまえばそのまま仲良くなってしまいそうだったからだ。友達なんて作らないんだから。
良い風景を探して歩く。歩く。
 
『おぉーーなかなかやるやん!!』
『めっちゃ生き生きしててよかったで!!』
 
昨日の出来事が頭の中をちらつく。うるさい! 昨日のとこには行かないんだから!
 
 
 
「あ、希ちゃ〜〜ん! お〜〜〜い」
 
 
気がつくと私は昨日の河原にいた。無意識に来てしまったのか偶然たどり着いてしまったのかはわからない。けど、ここまで来ていきなり帰るのもアレだし今日は仕方ないという事にして喜楽くんのとこに行く。
 
 
「実はワイもカメラ持っててな……今日は写真持ってきたで! ほら見て見て!」
 
 
そう言うと喜楽くんは鞄から沢山の写真を取り出した。
 
 
「わぁぁぁ……!! 凄い!! この写真とかこの色合いが……」
「やろ? これな、結構撮るの大変やってん。ま、コツがあるんやけどな? あんな……」
「へー! これをこうして……本当だ!! あ、こっちの写真も……」
 
 
そんな感じで私たち2人はあっという間に意気投合し、写真トークを続けた。
それから私たちは毎日ここで集まって一緒に写真を撮りに行くようになった。気がつけば友達を作らないなんて信条は忘れていた。
 
 
 
そんなある日、私はある事を思いついた。
 
 
「秀介くん秀介くん!!」
「どした?」
「コホン、えー、ワイは東條希や!! ……どう?」
「???」
「だから……いや違う。えーと……あ! せやから、ワイは東條希や!!!」
「……あぁ! 大阪弁か! いいやん似合ってるで!」
「やった!」
「あーでも希ちゃんは女の子やからワイやなくてウチやな」
「あそっか! ということはつまり、ウチは東條希や!!」
「そうそう! なかなかやるなぁ!」
「えへへ……」
 
 
本物の大阪弁使いに褒めてもらえて少し嬉しくなる。でもやっぱいきなり使いこなすのは難しいのかも。
 
 
「でもどしたんいきなり」
「あのね、秀介くんって大阪弁でしょ? それでなんか毎日聞いてるとなんていうんだろ、なんか……暖かい感じ? がしてさ、好きだなぁって」
「えっ!?」
「あっ違うよ! 大阪弁の話!」
「だ、だよな! ゴメン続けて?」
「うん、だからなんか身につけてみたくなっちゃって。それに私も……ううん、ウチも大阪弁になったら秀介くんとお揃いになるやん? そういうのもアリかなって!」
「お……ぉぅ……」
 
 
珍しく照れてるみたい。そんな反応されるとウチまで恥ずかしくなってまうやん。ちょっとの間沈黙が続く。
 
 
「自分、実は今までそんな大阪弁好きやなかったんや。なんとなく分かってると思うけど、自分結構前に大阪から引っ越して来てん。でまぁ当たり前やけど、大阪弁使う奴なんかこの辺でワイだけやし、学校でも結構浮いててな……けど希ちゃんにそう言って貰えるとちょっと好きになれる気がするわ。……おおきにな!!」
 
 
そう言って彼は満面の笑みを見せてくれた。
その表情に胸がときめく。ウチはこの数日の間に秀介くんの事が好きになってしまったんや。
 
 
 
それから数日して、ウチは告白する事にした。恋人になれたら引っ越しても縁が続くと思ったからや。世間には遠距離恋愛ってのもあるらしいしな? そのためには早いうちにカップル成立させて連絡先とかゲットせんとな!
そう考えながらいつもの河原に向かうけどアカンこれめっちゃ緊張するわもし断られたらどうしよう今の関係が崩れたらどうしようそもそもウチ秀介くんにどう思われてんやろと考えれば考えるほどどうしようもなくなってくる。
そうこうしているうちに待ち合わせ場所に着く。が、まだ秀介くんの姿は見えんかった。
珍しいなぁいつもは先にいるのに。
 
 
それからかなりの時間が経ち日も暮れてくる。もう今日は来ないのかと帰ろうと思った頃だった。
 
 
「ごめん希ちゃん」
「秀介くんどしたん今日とても遅……うわ! 凄い怪我!! 何があったん!?」
 
 
そこに来た秀介くんは足を擦り剥き鼻血を垂らしていた。よく見ると顔も腫れているかもしれない。
 
 
「いやぁ何でもないんやちょっとミスってなぁははは」
「そんなk」
「それよりごめんな今日は。もう遅うなってもうたしまた明日な」
「ちょ、ちょっと!」
 
 
そういうと秀介くんは帰っていった。
いったいどうしたんやろ。心配やん。明日来たらまた聞こう。
……あ! 告白してなかった! まぁ今日は仕方なかったけど。
それも明日しよう。
 
 
 
次の日。今日もまだ秀介くんは来てないみたい。本当にどうしたんやろ。
そう思いながら待つこと数分。そこにきたのは秀介くんじゃなかった。
 
 
「お、ほんとにいるーー」
「よ! 希ちゃん……だっけ??」
「結構かわいい」
 
 
柄の悪い知らない男子の集団だった。しかもウチのことを知ってる様子や。
 
 
「誰ですか? 秀介くんの知り合いですか?」
「あぁ! むしろ友達友達、超仲いいぜ! なぁ!」
「まぁなーー」
「それよりこの子結構胸でかくね?」
「確かに。なぁー触ってみたいなーー」
「!?」
 
 
いきなり何を言いだすんこの人たち!? そもそも友達なんて絶対嘘やろそんなの!
少し後ずさる。
 
 
「クラスのやつと比べてもトップクラスかもな!」
「同意」
「なぁーちょっとくらいいいだろーー??」
「や、やめて……」
 
 
そういうなり男子達はじりじりと迫ってくる。このままだとやばい! そう思って逃げだそうとするも腕を掴まれ阻止される。
 
 
「ちょ待てよ!」
「は、はなして!」
「ハーンびびりすぎじゃね?」
「優しく触るからさぁーーなぁ??」
「それは気分」
「確かに」
「だ、誰か……!!」
 
 
助けて……秀介くん────────
 
 
その時だった。
 
 
 
「待てよ!」
 
 
 
制止の声が飛んできた。
みんなが一斉に振り向く。
 
そこに現れたのは秀介くんだった。
 
 
 
が。
 
 
 
秀介くんに全然怒ってるような様子はなく。
むしろ仲良さそうに。
 
 
「始めるのはワイも来てから言うたやろ〜?」
「ふふっ、ごめ〜ん!」
「秀介……くん……??」
 
 
どういうこと……? 知り合いやなんて出まかせやと思ってたのに……
すると秀介くんは衝撃の一言を放った。
 
 
「ごめんな〜希ちゃん。今までの、全部芝居やねん!!」
 
 
 
──────────────
 
 
 
「おっともうこんな時間か。じゃあね〜キモキモ大阪弁野郎〜」
 
 
自分、喜楽秀介はいじめられている。
キッカケは覚えていない。きっと些細な事だったと思う。うっかり肩をぶつけたとか話しかけられたのに気付かなかったとか。
ただ相手が悪かった。草野(くさの) 我楽(がらく)。クラスの柄が悪いグループのリーダー格で、よく人を小馬鹿にしたような振る舞いをするやつや。
元々自分の大阪弁が気に障ってたらしく、それ以来ずっと事あるごとに物を隠されたり壊されたりされている。機嫌が悪い時には殴られる事もあった。もちろん味方してくれる人なんておらんかった。
はぁ。もう学校行きたないなぁ。
親に心配かけられへんし行くけど。
 
そんなある日の帰り道。その日はなんとなく少し遠回りをして帰っていた。夕暮れ時の河原沿い。もうこんな時間か。そろそろ帰らなあかんな。そう思いつつ、ふと河原に目を向けた時だった。
同い年くらいのかわいい女の子を見つけた。
カメラと紙袋を持って歩いている二つ結びの女の子。
 
 
「写真、撮ってるん?」
 
 
つい話しかけてしまった。
相手も驚いている。いきなり知らない人に話しかけられたらそりゃあそうだろう。
自分もなんで話しかけてしまったのかわからない。かわいいだけの子なら街でたまに見かけるけど、今みたいに話しかけてしまうことはない。ただ、こんな時間にこんな場所に一人でいた目の前の彼女はなんだか寂しそうに見えた。そこに親近感を感じたからなのかもしれない。
 
自分も少し前まで写真を撮っていたためその話で仲良くなり、毎日いろんな場所を一緒に巡った。それらの日々は辛い事しかなかった自分の生活の中にできた唯一の楽しみだった。
 
 
そんなある日の学校。
帰りの会が終わり下校時間になった時だった。
 
 
「お〜い秀介くーーーんwww 最近学校終わった後楽しそうだよねww 何かあったの??」
 
 
草野にバレた。
仲間を引き連れこっちにやってくる。
 
 
「今日もこれからどこか行くんでしょ? 教えてよwww」
「なんでもない」
「そんなわけある? 一目でわかるんだけどw 隠せてると思ってるのw? なんかあったんだよね?? 言えよ」
「絶対言わへん!!!」
「はー面白くないなぁ……痛い目見ないとわかんねぇのかオラァ!!!!」
 
 
突然草野に顔面を殴られる。衝撃で倒れ足を擦り剥いた。ジンジンとした痛みが襲ってくる。最悪だ。
 
 
「なぁ、教えてよ秀介くん。教えてくれないと僕の腕が止まらなくなっちゃうよ〜……あはwあははははwwww」
「草野くんそれは草」
「やってんね〜」
 
 
草野はそう言いながら延々と顔を殴り続けてきた。痛い。痛い。痛い。早く終わってくれ。希ちゃんが待ってるんだ。
 
 
「あれ草野くん、コイツなんかいつもと様子違うくね?」
「あれ本当だ……オイなんだよその目は! さっさと答えろよ! いつもの変な関西弁でさぁ!!」
「関西弁は変じゃない!!!!」
「うおっ」
 
 
カッとなり草野を突き飛ばす。関西弁は希ちゃんが褒めてくれた自分のいいとこなんや!!
 
 
「「「草野くん!!」」」
「ってて……テメェ……!」
 
 
草野が尻餅をついてる今なら逃げれる! これ以上希ちゃんを一人で待たせられへん! そう考えた自分は急いで走り出した。
 
 
「おい待て!! お前ら追え!!!!」
 
 
草野の仲間達が追いかけてくる。このままだと追いつかれそうや。どないしょう。頭を駆け巡らせる。
 
そうや! この辺りには希ちゃんと歩き回った時に見つけた抜け道があるんやった!
 
曲がり角をいくつか曲がりながら抜け道を抜ける。そこから更にいくつもの角を曲がりそこにあった路地に身を潜める。
 
ある程度の時が経ったが追手は見当たらへん。どうやら撒いたみたいやな。
気がつくと逃げるのに時間をかけすぎてもう夕方になっていた。やばい。早く希ちゃんのとこにいかへんと。
 
 
待ち合わせ場所に着くと遅くなったにもかかわらず、希ちゃんは待ってくれていた。そして怪我をしてた自分を見るなり驚き凄く心配してくれた。
こんなんじゃダメや。いじめられているままじゃ希ちゃんに心配かけてまう。いい加減立ち向かおう。そして平和な生活を取り戻すんや。
 
 
 
だが話はそうはいかなかった。
 
 
 
次の日の朝。学校。
 
 
「秀介く〜んww まさか女子と会ってたなんてねww よりにもよってお、お前がwwww」
「な……なんで……」
 
 
なぜか草野にバレていた。
 
 
「後をつけてたんだよ。撒いたつもりだったんだろうけどな〜元々ここに住んでる僕らに地の利で勝てるわけないだろ! あはははは!!!」
 
 
クソ! 一体どこから見られてたんだ!? しっかり確認したはずなのに! 頭を抱える。そこに草野は追撃をかけてきた。
 
 
「俺は決めたぞ。お前があの子と関わり続ける限りあの子を狙う。俺に逆らってもあの子を狙う。グチャグチャのボコボコにしてやる。お前が楽しそうにしてるとムカつくんだよ!!」
 
 
嘘や。やっと楽しいと思える場所を見つけたのに。やっと久しぶりに仲のいい子ができたのに。何もかもコイツのせいでおしまいや。人質を取られてしまってはもはや立ち向かうことすらできない。あまりのショックに膝から崩れ落ちる。
 
 
「……アハ、そうだよその表情だよ見たかったのは!!! あ〜面白い。やめてほしいならあの子と縁を切るんだね!! そうだな〜じゃあ善は急げってことで今日にしようか! さて、じゃあそろそろ席に戻ろう授業が始まっちゃうからね(^^)」
 
 
そう言って奴は席に帰っていった。
その日の授業は少しも頭に入ってこなかった。
 
そして放課後。
 
 
「秀介く〜〜ん!!! 待ちに待った放課後だね!! さーてじゃあ早速行こうか! 彼女に別れをき……切り出しにwwwタハハハハ!!! ちなみに今日は先に仲間を向かわせてるから昨日みたいに逃げ出して彼女を逃そうとか考えてても無駄だよww」
 
 
そんな事を言う草野に連れられいつもの河原の近くまでたどり着く。その時。
 
 
「は、はなして!」
 
 
希ちゃんの声だ。思わず駆け出す。自分なら何をされても耐えれるけど、希ちゃんに手を出されるのだけは耐えられへん。
少しすると姿が見えて来た。怯えた表情の希ちゃんとそれに群がる草野の仲間たち。
 
 
「待てよ!」
 
 
制止してハッと気付く。逆らうと希ちゃんに危害を加えられてしまう。
草野の仲間達が『わかってんだろうな』と言うような表情でこちらを見ている。きっと今後ろにいるはずの草野も同じだろう。
この流れから希ちゃんに不審がられないように縁を切らないといけない。となると今から自分が取らないといけない行動は……
 
 
「はじめるのはワイも来てから言うたやろ〜?」
「ふふっ、ごめ〜ん!」
「秀介……くん……??」
 
 
こいつらの仲間を演じることや。
 
 
「ごめんな〜希ちゃん、今までの全部芝居やねん!!」
「え……」
「今までずっと騙されてたんめっちゃおもろかったわ! はっはっは!!」
 
 
希ちゃんの顔がショックに染まる。
ごめん、希ちゃん。でもこうするしかないんや。もし不自然と思われて立ち向かわれたら希ちゃんまでターゲットにされるかもしれへん。
 
 
「な……何言ってるん秀介くん……そうや! きっとこの人達に脅されてるんやろ? 昨日のケガはその時にできたもので」
「それは前の標的に抵抗されたせいや! 前から一人でうろついてるやつに取り入って油断させてから襲うってのをやっててな? 嘘やったって明かした時の反応がマジ笑けてな!! まぁ昨日は失敗したんやけどな」
「そんな嘘や!」
 
 
希ちゃんは絶対信じたくないらしく大声を張り上げた。
 
 
「あの時間は全部嘘だったん? いきなり声かけてウチの写真褒めてくれたことも?」
「嘘や」
 
 
違う。あの写真もキミのお喋りなところも全部好きやった。
 
 
「いろんな写真見せてくれて色んなところ一緒にまわったのも?」
「嘘や」
 
 
違う。あの日々は今までの辛い生活の中で唯一の楽しみやった。
 
 
「ウチが大阪弁真似するって言うた時のあの笑顔も?」
「そうや! 全部嘘や! あの川原でのこともカメラの事もみんな…こうして油断させて近付くための嘘だったんや!!」
 
 
違う。あの時は本当に嬉しかった。今まで嫌いだった大阪弁をキミは初めて認めてくれた。自分はキミに救われたんや。
 
 
これ以上長引かせても辛いだけだ。希ちゃんも、自分も。
なかなか諦めてくれへん希ちゃんにここで最後のダメ押しを。
 
 
「そもそも写真とかくだらへん。話し合わせるために少し調べたりしたけどな、こんなんやるやつ正直気持ち悪いわ!!」
「そん……な……」
 
 
ストレートなその言葉に彼女の顔が歪む。
 
 
「信じてたのに……!」
 
 
そう言い残し、希ちゃんは走り去っていった。
ごめん。希ちゃん。こうするしかなかったんや。
自分から離れていく背中を眺めつつ、頭の中でひたすら謝り続ける。
 
 
最後まで言えなかったけど
 
 
 
最初一目見た時から僕は
君の事が好きだったんだよ───
 
 
 
──────────────
 
 
 
なんでこんな事になっちゃったの……?
わからない。もう何もわからない。溢れる涙を拭いながら走る。走る。走る。
 
 
家に着くと親から引っ越しの話が伝えられた。急な話やけど明日引っ越す事が決まったらしい。
 
それ以降、ウチは彼と会うことはなかった。
 
 
 
──────────────
 
 
 
「もうこんなことは忘れよう思って、そのカメラは物置の奥深くに封印したんや」
 
「でもな……このなまりだけは治せへんでな……」
 
 
そこまで言って視界が歪む。
あれ……なんで涙が……
もう秀介くんの事なんか嫌いなのに……
 
 
「う……うぁ……ああぁぁぁぁぁ」ポロポロ
 
 
 
 
これは。
 
これはウチが唯一恋をした人との、出会いと別れの物語。
 
それ以上でもそれ以下でもない、ただの昔のお話や。 
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