高学歴ミスターレディ

　　　　　　　　　　　　　　　　高学歴ミスターレディ
　新宿の所謂おかまバーにだった、山本克也は行く趣味があった。ある企業の部長であり野暮ったい目に眼鏡をかけており分厚い唇とかなり白くなっている短めの髪の毛に野暮ったい顔と一七八の餡子型の身体の初老の男だ。
　その彼が新入社員の杉田一久面長の胡瓜に近い形の顔に眠そうな目と黒く短い髪の毛に痩せた一八〇の長身を持つ彼を店に案内しながら話した。
「ええか、浮気はあかん」
「女の人と遊ぶことはですね」
「火宅って言うやろ」
「檀一雄の小説ですね」
「ほんま家が燃えるで」
「文字通りですね」
「かみさんの怒りの炎でな」
　山本は隣を歩く杉田に話した。
「そうなるわ」
「だからですか」
「浮気はあかん、離婚に親権で揉めて」　
　そうなってというのだ。
「会社でもあかん様になった」
「そんな話よくありますね」
「わしも結構そういう話この目で見てきたからな」
　これまでの人生でというのだ。
「それでや」
「浮気はですか」
「せん様にしてる、そやからや」
「キャバクラとかにも行きませんか」
「行くとしたら居酒屋とかでや」
　それでというのだ。
「兄ちゃんがおるお店や」
「だから今からですね」
「おかまバーに行ってな」
　そうしてというのだ。
「楽しむんや、浮気はあかんが」
「お兄さんと遊ぶことはですか」
「浮気にならんからな」
「いいんですね」
「しかも女の子の雰囲気も楽しめるさかいな」
　店の者達がそうした格好をしているからである。
「尚ええ、ほなな」
「今からですね」
「行くで」
　杉田に笑って言ってだった。
　山本は彼を連れて仕事帰りに共にスーツ姿のまま新宿の馴染みのおかまバーに入った、そうして二人でだった。
　そうした外見になっている男性達に囲まれそのうえで飲んでお喋りをして楽しみだした、その中でだった。
　ふとだ、杉田は自分達の席にいるお兄さんの一人マリアンヌという源氏名のすらりとした長身でビバリーヒルズにいる様なアフリカ系のお兄さんを見て言った。
「この人本当にです」
「別嬪さんやろ」
「本当に男の人ですか？」
「そうよ」
　マリアンヌはハスキーな声で笑って言ってきた。
「私本名はジョナサン＝ハスキーっていうのよ」
「そうなんだ」
「アメリカのメーン州出身なの」
「アメリカ人なんだ」
「そうよ」
　杉田に笑顔で話した。
「カレッジを卒業して就職したけれど縁あってね」
「今ここにいるんだ」
「お給料もいいし最高よ」
「ちなみにマサチューセッツ工科大やで」
「えっ、本当ですか！？」
　杉田はウイスキーをロックで飲んでいる山本の言葉に驚いて応えた。
「それは」
「本当よ」
　マリアンヌも笑って言ってきた。
「工学博士なのよ、私」
「本当なんだ」
「そうよ、就職は大学の先生だったけれど」
「今はなんだ」
「女装が趣味でそれであっちでそうしたコンテストに出たら」　
　そうしたらというのだ。