磨いたらよくなった俳優
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第一章
磨いたらよくなった俳優
八条芸能所属の若い二十歳になったばかりの俳優涼真=グラシアルは売れているとは言えない、それは彼の地味な外見故だ。日本人とブラジル人のハーフで肌は浅黒くラテン系の顔立ちだがインパクトはない。
マネージャーである柳町公平もそのことが気になっていてだ。
事務所の上層部にこう話していた。
「ちょっと毎日真剣にトレーニングしてもらって」
「身体を絞ってか」
「そのうえでか」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「メイクも本格的にやっていきます」
「どうもだ」
重役の一人が柳町一七〇程の背で銀行員の様な外見の彼に言ってきた。
「君はこれまで彼の自由にさせていたね」
「はい、トレーニングもさせないで」
そしてとだ、柳町も答えた。
「メイクやファッションもです」
「彼に任せていたんだね」
「そうしていましたが」
「これといってぱっとしなくてだね」
「ここはです」
「彼に任せるのを止めて」
「そうしていようと考えているのですが」
「それなそれでいこう」
社長も言った。
「うちもタレントが売れるとそれに越したことはない」
「そうですね」
「彼は今はモブだが」
それでもというのだ。
「レギュラーを獲れる位になるとな」
「いいですね」
「そうだ、ではな」
「はい、事務所所属のメイク担当とファッションデザイナーにもお話をします」
「トレーナーにもだね」
「そうします」
八条芸能は業界でもトップクラスの大手でそうしたスタッフも充実している、それでそちらの人達にも頼むことにした。
そうしてグラシアル本人にも話すと。
高校を卒業してからは売れない俳優としてアルバイトばかりでこれからどうしようかと考えていたところだったのでだ。
二つ返事でだ、柳町に答えた。
「お願いします」
「君もいいんだね」
「ずっと売れないってのも嫌ですよ」
「現状も変えたいよね」
「勿論です、僕なりに頑張っていたんですが」
オーディションを必死に受けて演技の勉強もしてだ。
「まだ至らなかったのなら」
「うん、じゃあトレーニングとね」
「それで身体を作って」
「今以上に引き締まってスタイリッシュにして」
今は普通の兄ちゃんという外見だがというのだ、ラテン系は入っているがそれでもだ。父はブラジル人で母はフランス人で実家は夫婦で神戸でシェラスコ屋をしていて兄が店を継ぐことが決まっている。
「それでメイクやファッションもだよ」
「変えますか」
「そうしていくよ、いいね」
「お願いします」
「そういうことでね」
柳町も応えてだった。
グラシアルは毎日トレーナーの指示を受けて走ってサーキットトレーニングもしてだった。
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