俺様勇者と武闘家日記
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第2部
スー
スー族の里を後にして
前書き
☆6/5アナックの台詞を一部変更
「世話になったな、ジョナス」
山彦の笛を入手し、ルーラの呪文で一瞬にしてスーの里まで戻ってきた私たちは、アープの塔まで同行してもらったジョナスと別れの挨拶を交わした。
「ユウリたち、役に立てた、私も安心」
実際ジョナスがいなければ、アープの塔にすらたどり着けず、山彦の笛は手に入らなかっただろう。彼には感謝の気持ちしかない。
「ありがとう、ジョナス。奥さんと娘さんにもよろしくね」
私はジョナスにお礼を言うと、ジョナスは私の手を取りぶんぶんと上下に激しく振った。
「ミオ、魔物倒す、とても強い。ルカも小さいけど、魔物倒す。皆、スー族の戦士と同じ。だから、皆歓迎する」
それって、ユウリと同じように私やルカもスー族の人たちに強さを認められたってことなのかな?
人に認められるのって、なんだか嬉しい。
「ルカも強いんだって。よかったね」
「あ、ああ、まあな」
照れているところを見ると、ルカもまんざらではないみたいだ。
「それじゃ、俺たちはここを出る。用事が済んだらまた壺を返しにここに戻ってくる。酋長にもよろしく伝えてくれ」
「わかった。ユウリ達、旅の無事、祈る」
そう言ってジョナスと別れ、スーの里を後にしようとしたときだった。里の方から、たった今話に出ていた当人らしき声が、こちらに向かって呼び掛けているではないか。
「おーい!! 待ってくれ、ユウリ殿!!」
やってきたのはやはりアナックさんだった。私たちの姿を見かけて慌ててやってきたのか、私たちの元に到着したとたん呼吸を整えると、何か言いたそうにユウリを見た。
「どうかしたのか?」
「実は、この前の渇きの壺のことで、言い忘れていたことがあってな。もともとスー族の里と渇きの壺はここではなく、山脈を越えた東の地にあったんだ」
アナックさんによると、何十年か前、もともとあったスー族の村はエジンベアに侵略された。それは以前エジンベアの国王様が話していた、渇きの壺を手に入れるための行動によるものである。
結果エジンベアは渇きの壺を奪い、スー族は彼らの宝である渇きの壺を奪われ、さらに村を滅ぼされた。
生き残ったスー族の人たちは、再び他国の人間に侵略されるのを恐れ、別の場所に自分達の里を作ることにしたのだそうだ。それがこの場所である。
「それと渇きの壺と、何の関係があるんだ?」
「かつて村があった東の地に、わしの兄のグレッグがそこに住んでいる。あいつは再びスー族の村を新しく作ろうとしているらしいのだ」
「随分壮大な野望を持っているな、あんたの兄は」
「そこで、渇きの壺をもともとあった東の地に戻すため、兄のところまで行って壺を渡してほしいのだ」
「は?」
アナックさんの突然の頼み事に、ユウリは苦い顔をした。面倒事は極力避けたいのが彼のポリシーだからだ。
「渇きの壺は東の海の精霊により生み出されたアイテム。本来は精霊の加護のある場所に保管するべきなのだ」
私たちにはよくわからない理屈だが、スー族の人たちにとっては当たり前の考えらしい。
「けどそこにはお前の兄しかいないんだろ? 逆にそんなところに置く方が危険なんじゃないのか?」
ユウリが危惧しているのは、再びエジンベアが渇きの壺を求めてグレッグさんのいる場所まで来るかもしれないのではということだ。
「大丈夫。わしもグレッグも当時のことはよく覚えているからな。次は絶対に奪われないように誰にも見つからない場所に隠すはずだ。それに、今はユウリ殿たちが持っているということになっているのだろう? だったらエジンベアが再び襲うということはまずないだろう」
確かに、アナックさんの言うとおりだ。そもそも、里に入るときにユウリはアナックさんと壺を返す約束をしているので、どちらにしろ返さなければならない。
「あんたかジョナスが兄のところまで行って直接壺を渡せばいいんじゃないのか?」
「東の地へは、人が行くには過酷すぎる。大山脈を越える以上に困難なのだ」
「随分と都合のいい話だな」
「里の者が騒いでいたが、お前達は船でここまできたのだろう? 船なら大陸を迂回すれば東の地にたどり着くことが出来る。頼む、兄のところまで行ってはくれないか?」
「……」
そこまで言われては、断る理由が見つからない。ユウリはしばし考えこんだ後、
「……わかった」
アナックさんの説得に根負けしたのか、渋々承諾した。
「ありがとう!!」
「場所はどこだ?」
アナックさんは、ユウリが鞄から取り出した世界地図を一瞥すると、すぐさま指で場所を示す。
「この里より東に広い平野があるだろう。その海岸沿いにかつてわしらの村があったんだ。兄のグレッグは今は一人でここに住んでいる」
アナックさんが指差したのは、ここから山脈を挟んで東側にある土地だった。まだ行ったことのない場所なので詳細はわからないが、確かにとても歩いて行けるような距離ではない。
「急に俺たちみたいな見知らぬ人間がやってきても、受け入れてくれないんじゃないか?」
「心配せずとも大丈夫だ。実はわしらスー族は鳥を使って情報伝達をしておってな。まあ見ててくれ」
アナックさんは指を口元に持っていくと、思いきり口笛を吹いた。すると、ピィィーーッ、と大きな音が鳴り、すぐに空から大きな鳥が飛んできてアナックさんの腕に止まった。
「この鳥の足に手紙をくくりつけて飛ばすのだ。例えば……」
懐から一枚の大きな葉を取り出したアナックさんは、何やら暗号のように葉のあちこちに穴を空け始めた。この里には紙もペンもないので、葉に穴を空けることで文字の代わりにしているのだろう。
そして一通り穴を空けると、くるくると巻いて藁で葉と鳥の足を結びつけた。
「さあ、兄のもとへ行くんだ!」
再び口笛を吹くと、鳥は大きく翼を広げ、颯爽と飛び立った。
「この通り、鳥は我々の貴重な情報手段なのだ」
アナックさんは誇らしげに言うと、大空へ羽ばたく鳥を見送った。
「それはよくわかったが……手紙にはなんて書いたんだ?」
「『もうすぐあなたのところに我が一族の宝を持った勇者が訪れる』としたためておいた」
「何しれっと事前報告してるんだ、あんたは」
アナックさんの見事(?)な作戦に、すぐにツッコミを入れるユウリ。当然鳥の方が早く着くだろうし、あんなことを書かれては、アナックさんのお兄さんのところに行くしかない。
「最後の鍵を手に入れたら真っ先にお前の兄のところに言って文句を言ってやる」
そうぶつぶつ文句を言うと、ユウリはアナックさんに背を向けて先に歩き出した。
「あっ、待ってよユウリ!!」
「ユウリさん! 置いてかないでください!」
不機嫌そうに船へ戻ろうとするユウリを、私とルカは慌てて追いかけようとする。
「兄によろしく伝えといてくれ。我々スー族は、あなたたちを心から歓迎する」
振り向くと、アナックさんが私たちに手を振っている。人の気も知らないで、と思いながらも、私たちはアナックさんに手を振り返すと、スー族の里を後にした。
「お帰りなさい、皆さん!!」
およそ二週間ぶりに船に戻った私たちを出迎えてくれたヒックスさんは、私たちがスー族の里にいる間、とても心配していたそうだ。
「何しろ他国の人間がほとんど足を踏み入れたことのない場所ですからね。随分心配しましたよ。でもさすが、ユウリさんたちですね! よく無事に帰ってきてくれました」
ほっとしながら話すヒックスさんに、私も暖かい気持ちになる。短い間に随分と気苦労をさせてしまったようだ。
「すいません、ご心配かけてしまって」
「何、気にしないでください。我々が勝手にそう思っているだけですから」
ヒックスさんがそう言うと、周りにいた他の船員たちも頷く。皆なんていい人たちなんだろう。
「すまないが、もう少し長旅になりそうなんだ。この場所に浅瀬の祠があるそうなんだが、今から行けるか?」
そう言ってユウリは、先ほどアナックさんに教えてもらった浅瀬の祠の場所を、世界地図を広げて見せた。
「ははあ、ここからなら二週間ってところですかね。食糧は前の町で補充しましたんで、大丈夫ですよ」
「ありがとう、助かる。では、早速向かってくれ」
「かしこまりました」
ユウリの頼みにヒックスさんが一礼すると、船員たちは一斉に持ち場へと急ぐ。取り残されたのは私とルカのみ。
「はあ、やっぱかっこいいよなあ、ユウリさん」
「まあ、確かにエジンベアじゃあ王女様に好かれてたくらいだし」
するとルカは、あからさまに落胆した顔を向けた。
「あー、ホントアネキってずれてるよな。そう言うんじゃなくてさ、ヒックスさんに命令してる姿がかっこいいって言ってんの!」
「なんでちょっと怒ってるの?」
なんだかユウリと一緒に旅をしてから、ルカってばどんどんユウリに対する尊敬っぷりが増していっている気がする。これだけ崇拝していると、姉の立場がないではないか。
「ひょっとしてルカ、ユウリみたいなお兄さんが欲しかったの?」
「もちろん!!」
何とはなしに聞いてみると、ルカは目を輝かせて即答した。
「だってきょうだいの中で、男じゃおれが一番上だろ? おまけに一番上のアネキはこんな頼りないし」
じろっと横目で私を睨むルカ。そんな顔されても非常に困る。
「なあアネキ。ユウリさんと結婚しないの?」
「なっ!? 何てこと言ってんの!?」
いきなり突拍子もないことを聞かれ、思わず大声を上げる。
「はは、冗談だよ。もし本当にユウリさんがおれのアニキなら嬉しいけど、アネキとじゃ絶対釣り合わないもんなあ」
くっ、否定できない……!!
確かに普段から避けられたり、鈍足女とか間抜け女とかバカにされてるし、そもそもあんまり好かれてないんだもん。釣り合う以前の問題だ。
「もう、笑えない冗談は止めてよね!!」
「何が笑えないんだ?」
いつの間に間にいたのか、ユウリがひょっこりと顔を出していた。
ちらりとルカの方を見ると、すでに遠くへ逃げている。
「あっ、いや、別に何でもないから!!」
私はわざとらしく手を振ると、ルカの後を追うように慌ててこの場から去ったのだった。
「……? 何なんだ、あいつら」
一人残されたユウリが、全く状況もわからないまま首をかしげていたのは言うまでもない。
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