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農夫の力

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第一章

                農夫の力
 ロシアに伝わる古い話である、この頃ロシアではこの国を守る勇士の一人でありこの国きっての怪力の持ち主であるスウャトゴルがこう言っていた。
「若し大地に取っ手があったなら持ち上げられるぞ」
「この大地をですか」
「それが出来ますか」
「そうなのですか」
「そうだ、それが出来る」
 こう周りに言っていた、見れば誰よりも大柄でしかも逞しい身体をしている、彫の深い顔に濃い眉と岩の様な顔が実に強そうである。着ている服は兵士のそれである。
「わしならばな」
「流石はロシアきっての怪力の持ち主」
「それが出来ますか」
「そうなのですか」
「うむ、取っ手があれば」
 即ち持つところがというのだ。
「それが出来るぞ」
「そうですか、ではです」
「その取っ手が欲しいですな」
「是非共」
「全くだ」
 その大きな口を開けて言っていた、彼にはそれが出来る自信があった。
 そんな話をしている時にだった。
 彼がいた場所のある村で一人の農夫が重そうな袋を担いで歩いていた、それを見てだった。
 兵達が彼に同情して口々に声をかけた、見ればスウャドゴルと同じだけ大柄で筋肉がある。だが素朴で優しい顔立ちであり着ている服はまさに農夫のそれである。
「おい、重いか?」
「重いなら手伝うぞ」
「その袋持ってやる」
「ちょっと貸せ」
「えっ、ですが」
 それでもとだ、農夫は兵達に戸惑う声で答えた。
「この袋は重いので」
「重いから持ってやるのだ」
「そうしてやるから安心しろ」
「別に取ったりはせぬ」
「目的の場所まで運んでやる」
「そうしてやるから貸せ」
 兵達はこう言って農夫から強引に袋を受け取った、だが。
 その袋を持つとだった。
「うわっ!」
「何だこの袋は」
「こんな重いものはないぞ」
「何なんだ」
 彼等は持った瞬間その袋をあまりもの重さの為に持てなかった、それでだった。
 つい落としてしまった、そして落とした袋はというと。
 何人でもそれこそてこを使っても牛や馬を何頭それこそその辺りの牛馬を全て用いてもびくともしなかった、それでだった。
 兵達は戸惑いつつ話した。
「これはもうだ」
「そうだな、スウャドゴル様に持って頂こう」
「もうあの方しかいない」
「この袋を持てるのはな」
「ロシア一の怪力のあの方しかいない」
「あの方は牛や馬の百頭と綱引きしても勝てる」
「実際にそうされたしな」
 彼の具体的な力の程度も話した。
「それならな」
「あの方をお呼びしよう」
「そしてあの方に持って頂こう」
「そうしてもらおう」
 こう話してだった。
 兵達は実際にスウャトゴルを呼んだ、そうして彼に来てもらってだった。
 彼はその袋を持ってみた、だが。 
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