マスクをいつもしていているのは
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第一章
マスクをいつもしていているのは
昨今の騒動で街では誰もがマスクを付けている、最早マスクをしていないと何処にも行くことが出来ない程だ。
だが同僚の音月由依を見てだ、児玉円は言った。由依は黒髪を長く伸ばし切れ長のはっきりした目と面長の顔と先の尖った顎と奇麗な眉を持っている。
それだけを見ると美人である、だがそれでも言うのだった。尚円は背は一四四程で由依より二十センチは低く黒髪をおかっぱにして童顔である。
その彼女が居酒屋で共に飲み食いしながら話した。
「あんた今もだけれど」
「昔からね」
「いつもマスクしてるわね」
「入社の時から外出の時は」
「そうよね、前から思っていたけれど」
唐揚げでビールを楽しみつつ言った。
「何でなの?」
「いや、実はね」
見れば赤い唇は程よく大きく鼻の形もいい、マスクを外すと尚更美人に見える。由依はその顔でホッケで焼酎を楽しんでいる。
「私喉がね」
「弱いとか?」
「空気が悪いとすぐになのよ」
「喉駄目になるの」
「ここ空気悪いじゃない」
「いや、これでもかなりましになったのよ」
円は個室の中で向かい合って座っている由依に話した。
「昔はね」
「公害で有名な位よね」
「空気が汚くてね」
それでというのだ。
「結構以上に洒落になってなかったのよ」
「昭和四十年代ね」
「私達が生まれてない頃だけれどね」
「私達のお父さんお母さんがまだ子供位ね」
「そんな頃だけれどね、川崎はね」
自分達が今住んでいる街はというのだ。
「そうよ。というかあんた生まれは」
「群馬の田舎だから」
「それで空気奇麗なのね」
「流石にここよりはね」
「そこじゃマスクしてないの」
「そうなの、けれどここだとね」
「空気が汚くて」
その為にというのだ。
「喉を痛めるのね」
「一日マスクしてないと軽くだけれど」
それでもというのだ。
「すぐになるの」
「それは大変ね」
「だから今も騒ぎがなくてもね」
「マスクしてるのね」
「そうよ、山が多くて空気が奇麗なら」
山即ちそこに生えている木々がというのだ。
「いいけれどね」
「大変ね、それも」
「まあマスクにも慣れたから」
それでというのだ。
「別にね」
「いいの」
「特に今はね」
「誰もがマスクしてるから」
「いいわ、違和感ないから」
周りを見てもというのだ。
「だからね」
「いいのね」
「ええ、ただ将来は」
「実家戻りたい?」
「群馬県って色々言われるけれどね」
由依は笑ってこのことも話した。
「本当に」
「ああ、群馬ってね」
円も応えた。
「田舎扱いよね」
「田舎どころか秘境よ」
「アマゾンみたいな?」
「もうネタにされて」
それでというのだ。
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