少女は 見えない糸だけをたよりに
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4-7
出発当日、お父さんはポロシャツに麻のジャケットで、私は、そんな服装、初めて見た。私は、ワイドパンツにベストジャケットを着ていた。お姉ちゃんに選んでもらったものだ。
船から島に降りたのは、お昼過ぎだった。船に乗る前に、食堂で、刺身定食を済ませて、お花を用意していた。昔、過ごしたお店は板で覆われていて、そのまんまの姿だった。でも、もう、誰かのものなのか、入ることも出来なかった。そこから、少し、坂道を登って、藤原家のお墓のある場所に・・
「お父さん ごめんなさい あと、少しですから」、私は、お父さんのジャケットを持って、ハンカチでお父さんの額の汗を拭いていた。坂道とはいえ、途中途中が階段状になっている急な登り坂なのだ。
「うん 普段 歩いているんだけど これは、きついな」
「お父さん あそこ」
「そうか 着いたか」
私は、お花を添えて、ペットボトルのお水でお墓をきれいにした。お父さんは、お線香をあげながら、長いこと、お参りしていた。そして、私も・・涙が滲み出ていたのかも知れない。お父さんが、優しく、私の肩をポンポンと・・
「香波 海が見渡せて、きれいな所なんだな ワシは誓ったんだ お父さんとお母さん、おばぁさんにな 何があっても 香波を幸せにするから、任せてくれって」
「お父さん ありがとうございます 私も 報告しました 今 とっても 幸せです だから、安心してって」
「そうか 幸せか 良かった」
「お父さん 私 行きたいとこ あるんだけど 良い?」
「おお 良いぞー 気になるとこあるんか?」
そして、港の反対側 砂浜の広がるところに出て行った。そうしたら「ワァォーン ワン ワァン」という・・「バク だ」
私は、荷物も捨てて走り出した。バクは繋がれたままだったんだけど、飛び跳ねて・・わかってくれたんだ。私の姿を見る前から・・忘れていなかったんだ。私だってこと。
私は、バクを抱きしめて、顔中をべろべろされていた。その時
「香波ちゃんけー んまぁー でーれー べっぴんに・・そんで、さっきから、バクが騒いでおったんか」巌さんだ
「あっ お久しぶりです お墓参りに」
「そうなんか バクもな 香波ちゃんがおらんようになってから、毎日、あそこの岩場とか浜に行って海辺ばっかり、暗くなるまで見ちょったな 元気なかったんじや こんなに うれしそうにしてるのは、久し振りじゃけー」
「ごめんね バク 私 黙っていってしまって」て、泣き出していたんだけど、バクは、私を慰めるように、擦り寄ってきてくれていた。
「巌さん 私 バクと砂浜で遊んできて良い?」と、バクと砂浜でじゃれあっていた。私、水着でくれば良かった。バクは波打ち際に誘ってくるから・・。だから、ズボンもビシャビシャ。そして、あの場所にも行ってみた。変わらない。あの時、バクが来てくれなければ、今の私は居ないかも知れない。
「バク 又 来るから そん時ね」通じたのか、バクは ウワン ワンとはしゃいでいた。そして、戻ると、お父さんは、巌さんとビールを飲んでいて
「香波 今夜 部屋を用意してくれるから、ここにお世話になるぞー 予約していたホテルはキャンセルした」っと。本当は、船で戻って、シティホテルで予約していたのに・・。
そのあと、お父さんは巌さんと意気投合してしまたのか、飲み続けていた。私は、民宿のおばさんに、着替えを借りたんだけど、もんぺみたいのしか無くて、だけど、何人か泊まっているお客さんに、配膳のお手伝いをしていたのだ。
「香波ちゃん 去年の年末にな 若い男の人が 香波ちゃんを探しているってきょたぞー 前の夏にウチに泊っちょった人じゃぁな 正月が明けてもいたかなー 仕事さがしちょるって 毎日、バクと遊んじゃった じゃけん 漁師も暇じゃろー ウチも、お客さん 少くのうなってしもたからな 赤穂のほうに行くって言っておった」
巧さんだ。やっぱり、来てくれていたんだ。約束どおり。
そして、夜 バクと一緒に、真っ暗な海を・・波の音だけが聞こえる そして、心なしか、夜光虫の明かりが・・巧さん・・会いたい・・
「香波ちゃん お風呂空いているから 入りなさい」と、おばさんが言ってきてくれた。お風呂上りに、部屋に行くと、お父さんが、もう、お布団の中に・・。
私は、お布団が二つ並んでいたんだけど、くっつけて、そして、お父さんに寄り添っていった。お酒臭い。だけど、お父さんの匂いが・・する。
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