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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第六話

 こんな調子で私達は刀を賜って、お礼を言おうかとも思ったんだけれども
政宗様に馬鹿正直にお礼を言うのも無粋だと話をして、サンタに礼を述べて欲しいと遠回しに政宗様に礼を述べることにした。
私達がサンタから刀を貰ったと思っていると思ったのか、政宗様は何処か嬉しそうで私も小十郎も何だか微笑ましく思ったもんだ。

 ……ただ、これに味を占めた政宗様がそれから四年もの間輝宗様にサンタをやらせて、
毎年人の寝所に刺客のように送り込んできたのは困ったもんだ。
その度に輝宗様を捕まえて説教してたんだけどもさ、年々サンタが恐ろしくなって
十二月二十五日の晩は小十郎の部屋に行って毎年必ず一緒に寝てたよ。
だって、本当に恐くってさ。小十郎でさえ恐ろしくて悲鳴上げたってくらいだったし。
本当、輝宗様のサンタ像はどうなってたのか、最期まで分からなかったわ。

 五年目の冬は……輝宗様が亡くなられて、私達のところにサンタが来ることは無かった。
妙に恐ろしい格好をして来てくれることを期待して、小十郎の部屋で一緒に寝てたけれどやっぱり静かに過ぎていくばかりで何も起こらなかった。
それだけじゃなくて、輝宗様が亡くなられた冬を境にクリスマスパーティをすることもなくなり、政宗様も何も言わなくなったっけなぁ。

 初めてクリスマスパーティをやってから九年後の冬、私は赤い着物を着て赤い頭巾を被り、顔には般若の面をつけて大きな袋を担いでいる。
頭の中で小十郎が本当にやるのですか、と戸惑ったように言ってるけど、やると決めた以上はやりますよ?

 私達のところにはサンタさんが来なくなったけれど、政宗様のところはどうだろうか。
政宗様のところにもサンタさんが来てたとするのならば、途絶えさせてしまうのは出来ないと思った。

 そっと政宗様の部屋の入口に立ち、そろそろと戸を開く。
灯りが付けっぱなしになっているところを見ると、やはりこの日は政宗様のところにもサンタが来ていたのかもしれない。
仮面の下で苦笑するのは私ばかりではなく、小十郎もまた同様に苦笑している。

 一歩足を踏み入れた瞬間、政宗様ががばっと起きて私を見た。
そしてその瞬間、変な悲鳴を上げて後ずさったのは情けないけど笑えたもんだ。

 「泣く子はいねがー」

 「何でX'masになまはげなんだよ! おかしいじゃねぇか!!」

 そうそう、私もおかしいと思ったよ。本当、どういう説明を輝宗様にしてたんだか。

 「違ぇぞー、おらは“さんた”だー」

 「んな、訛りに訛った強面のサンタがいて堪るか!!」

 そりゃ、私が九年前にしたツッコミじゃないっすか。
ってことは、政宗様の前ではこういうサンタじゃなかったってことなのね。
一体どういう姿で政宗様の前に現れてたのかしら。
もしかして、サンタってのが何なのか分かった上であの格好してたってこと?
だとしたら何だろう、すっごい腹が立つ。

 「お前の中のサンタ像は一体どんなもんなんだ、小夜!」

 あら、やっぱり正体バレてたのね。バレてるのならこれ以上サンタを装っている意味が無いか。

 「毎年、輝宗様はこんな格好して私達のところに来てたんですよ?
年々ホラーになってくるサンタが恐ろしかったこと恐ろしかったこと。本当、心臓に悪かったですよ」

 お面を外してそんなことを言うと、政宗様が顔を顰めて溜息を吐く。

 「ったく……親父も人を驚かせるのが好きだったからなぁ。で? お前一体何しに忍び込んできたんだ」

 「え? 政宗様を脅かしに」

 「テメェ、俺にトラウマ植え付ける気か!!」

 あ、それ面白そう。そんな風に思ったけどとりあえず黙っておきました。
だって、そんなこと言ったらお仕置きされちゃうじゃないのよ。
普通に拳骨貰うくらいなら良いけど、その場に押し倒されて性的なお仕置きとかされちゃったら嫌だし。
まぁ、そうなったら即小十郎に交代するけどね。

 「ま、半分は冗談ですけど」

 「半分本気だったのか!」

 「はい、良い子にクリスマスプレゼント。あ、般若のお面つけた方が良かったですか?」

 「付けるんじゃねぇ!!」

 引っ手繰るようにして私達が用意したクリスマスプレゼントを受け取った政宗様は、包みを乱暴に開いて出てきたものに目を細めていた。

 「これは?」

 クリスマスって言えば、クリスマスツリーとかリースですよ。
まぁ、この日しか使えないけど、こういうものは政宗様結構好きだからね。南蛮被れしてるし。

 「クリスマスリースですよ。流石にツリーは用意出来なかったからリースにしましたけど、部屋に飾って下さい」

 「Hum……? なかなかcoolじゃねぇか」

 にやりと笑って小十郎お手製のクリスマスリースを見ている。
柊の葉を触るのが嫌だったから小十郎にぶん投げたわけだけど、随分と綺麗に出来ているのが小十郎らしい。
政宗様が嬉しそうにしてるのを見て、小十郎も満更ではなさそうだし。

 「で? クリスマスプレゼントはこれで終わりか?」

 「まだ何か欲しいんですか」

 にやりと笑う政宗様の表情が何処か下品だ。これは絶対よからぬことを考えてる。

 「そうだな、折角お前から来たんだから」

 「あの、この身体は小十郎と同じものですよ?
私を抱くってことは、イコール小十郎と関係持つってことですからね?
姿形が違っても同じものですから。政宗様、小十郎を抱く覚悟はおありですか?
ちなみに小十郎に覚悟は出来ていません」

 先手を打ってそう言ってやれば、政宗様がかなり嫌そうな顔をして舌打ちをしていた。
小十郎のことは好きだけど、そういうことをする相手にはしたくないみたいで、お陰様でそれで政宗様の相手をすることを免れてる。
ちなみに幸村君はあんまり抵抗が無いのか実感が湧かないのか、
平然とキスしたりしてくるから小十郎に切り替わった後に必死で口を洗ってるのが、まぁ、笑えるもんだ。

 「じゃあ、今日はここで寝ろよ。別に襲ったりしねぇから」

 あ、そこが妥協点なのね。抱くのは嫌だけど、一緒に寝るのはアリだと。
まぁ……一緒に寝るくらいならいいか。何かあったら小十郎に即代わってやればいいし。

 布団に入る私に、政宗様がやはり灯りを消さずに布団に入ってくる。
どうして灯りを消さないのかと思っていると、苦笑して私の方を向いてきた。

 「……クリスマスの晩はな、いつもこうやって灯りを点して寝るんだ。親父が来ても、すぐに分かるように、ってな」

 「政宗様」

 「もう来やしねぇってのは分かってんだけどよ、それでもうっかり現れたりしねぇかって思ってんだよな。
……毎年欠かさず、俺のところに来てくれたから」

 政宗様、と小十郎が呟いている。小十郎も私も考えることは同じ、この人普段は口には出さないけど本当はお父さんに会いたいんだ。

 なんか可愛いところあるんだな、なんて思いながらさっさと寝ようとしていたところで不意に部屋の入口から気配を感じて身体を起こした。
政宗様も気付いているようで、構えていたけれども政宗様を御守りするのは私と小十郎の役目。

 「六爪借りますよ」

 軽く断りを入れて政宗様の六爪のうちの一本を抜き、部屋の前の気配が仕掛けて来るのを待つ。
小十郎は頭の中で勝手に拝借するなどと、と怒ってるけど、んなこと気にしてる場合じゃない。
大事なのは政宗様の身の危険を守ることだもんね。

 いつまでも入って来ない気配に痺れを切らしてこちらから仕掛けてやろうと思いきり戸を開ける。
その瞬間冷たい空気が部屋の中を駆け抜けて、それきり気配も何も感じなくなってしまった。

 「……立ち去った、のかな?」

 誰かがいる気配はもう感じられない。
こちらに気付かれたから立ち去った、そう考えて間違いなさそうな気がするけど……一体何だったんだろう。

 姉上、小十郎の声に私は視線を足元に向ける。そこには三つの包みが置かれており、私はそれを抱えて部屋に戻る。
戸をしっかりと閉めて政宗様の前に置くと、政宗様も訝しがって包みを開けてみるようにと言う。

 一体何だろ。まさか、開けた瞬間どっかーん、とか……いや、流石にそれはないか。
現代ならそういうこともあり得るだろうけど、そういう技術はないもんね。
とりあえず包みを全部開いてみて、中から出てきたものに私達は揃って目を丸くしてしまった。

 一つの包みには篠笛があり、もう一つの包みには髪留めが入ってる。そして最後の包みには。

 「……眼帯、か?」

 そう、眼帯が入ってた。刀の鍔を加工して作られたそれは見事なもので、でもその鍔に私達ははっきりと見覚えがあったんだ。

 「親父の刀の」

 輝宗様の刀にあった鍔で、これは輝宗様を埋葬する時に一緒に納めたはずだった。
だから今この場にコレがあるはずがないのよね。
それにこの篠笛も昔小十郎が輝宗様から賜った潮風という笛と同じものだし、私にと贈られた髪留めも昔輝宗様から貰った物と同じだ。

 ……これは、どう考えても。

 「……サンタさん、来ましたね」

 「…………。……ああ、来たな」

 呆然と贈り物を手に持ちながら、私達はそんなことを言い合う。
輝宗様が笑ってる顔が思い浮かんで、苦笑するしかなかった。
良い子に贈り物を、ってことかしら。全く、輝宗様らしい演出だよ。本当。

 誰も祝ってくれない私の誕生日と重なって嫌いだったクリスマスは、何も私には奇跡をくれないと思ってた。
けれど、こんな奇跡が起こるのなら……少し好きになってもいいかなって思ってる。
ありがとうございます、サンタさん。
心の中でお礼を言って笑う私に、小十郎もまた穏やかに笑ってるような気がする。
そんな私達を政宗様が腕に抱いて、穏やかに笑っていた。

 「……忘れちまうところだったぜ。小夜、小十郎。Happy Birthday」

 「覚えてたんですか……ありがとうございます、政宗様」

 誕生日を祝うその言葉が私達の生まれを祝福してくれているようで嬉しくなる。
何だか今年のクリスマスは良い日だったな、そんなことを考えていた。  
 

 
後書き
ここまで読んで下さってありがとうございます。
番外編も全部掲載しましたので、ここで完結とします。
今までお付き合い下さってありがとうございました。 
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