子供の時は駄目でも
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第二章
「山葵は特に酷いよ」
「お鼻に一気にきて」
その刺激がというのだ。
「辛くて涙が出て」
「あんな辛いものないよ」
「そうよね」
「それが美味いんだ」
笑顔でだ、父は山葵について言う子供達に話した。
「お父さんにとってはな」
「お母さんもよ、山葵があるとね」
母も言ってきた、二人共山葵が中にある寿司を美味そうに食べている。
「お刺身もだけれど」
「美味しくなるんだ」
「それが全然わからないから」
好美は眉を曇らせて答えた。
「あんな辛いの美味しくないのに」
「そうだよ、山葵の何処がいいの?」
雄馬も顔を顰めさせて言う。
「あんなに辛くてお鼻につーーーんとくるのに」
「私絶対に山葵好きにならないわ」
「なる筈がないよ」
「そうよね」
「絶対にね」
「二人共そのうち好きになるわ」
母は山葵抜きの寿司を心から美味そうに食べて言う子供達に話した。
「山葵をね」
「そうだ、お刺身もお寿司も山葵がないと足りないんだ」
父も言ってきた。
「どうもな」
「あの辛さがないとなのよ」
「本当に足りなくなるんだ」
「お母さんも最初は山葵駄目だったのよ」
「お父さんもな」
二人共というのだ。
「最初はな」
「子供の頃はそうだったのよ」
「そうだったけれどな」
「それが変わるのよ」
「大人になればな」
「そうなるから」
だからだというのだ。
「あんた達も大人になったらね」
「山葵が平気になるぞ」
「そして好きにもなるわ」
「絶対にな」
「そんなのないよ」
「そうよ、絶対にないわ」
兄妹で両親に反論した。
「こんなの絶対に好きにならないわ」
「なる筈ないよ」
「本当に辛いのに」
「お鼻につーーーんときて泣きそうになるのに」
「ははは、大人になればわかるさ」
「その時にね」
両親は絶対にないと言い切る自分の子供達に笑って話した、二人はそんな両親にそれぞれ山葵が好きになるとは有り得ないとまだ言った。
だが二十年後。
好美は親戚の法事に出ていた、雄馬も両親も一緒だ。二人共それぞれ大学を出て就職もしている。そのうえで。
法事の後の親戚での宴会になっていた、この時に。
すっかり大人になりスーツを着ている雄馬は膝までのタイトスカートだがやはりスーツの好美に言った。
「おい、醤油取ってくれ」
「ええ、いいわ」
好美は頷いて兄に醤油を差し出した、二人共他の親戚達と共に卓に着いている。
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