イベリス
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第四十九話 自分しかない人間その一
第四十九話 自分しかない人間
咲はこの日は愛と一緒に原宿にいた、そこで両親に言われた自分しかない輩の話をすると彼女も言った。
「そんな人は私もね」
「信用出来ない?」
「ええ」
隣にいて一緒に街の中を歩いている咲に即座に答えた。
「無理よ、告白する様に言ったならね」
「責任取らないと駄目?」
「そこであんたが決めたとか言って逃げるのなんてね」
「友達じゃないわね」
「本当のね、というか自分が都合悪くなったら手の平返しでしょ」
「即座にね」
「そんな人お金や権力持ってる相手にはへらへらしてね」
そうしてというのだ。
「近寄って来るわよ」
「ないと邪険にするのね」
「川上哲治っていたでしょ」
愛はここでこの人物の名前を出した。
「巨人に」
「監督だった人ね」
「そう、漫画でも出ていたわね」
「名選手だったのよね、現役時代は」
「あの人戦争中軍隊にいたけれど」
招集されてた、その頃は誰もがそうなっていたと言っていい。
「階級が上の人にはへらへらしていたの」
「あっ、じゃあ下の人には」
「わかるでしょ」
「きつかったのね」
「物凄くね、それで凄く評判悪かったのよ」
回覧で戦場では後ろから撃てとまで言われたという、どれだけ評判が悪かったかわかるというものだ。
「丹波哲郎さんも部下でね」
「俳優だった」
「あの人もそうでね」
「きつか当たられたの」
「物凄く殴られたらしいわ」
「そうだったのね」
「それで戦争が終わったら」
その時はというのだ。
「殴った人達に謝って回ったそうよ」
「そうした人が謝るって」
「戦争終わってしかも日本負けたでしょ」
「あっ、だから都合が悪いから」
「そう、その時に殴ったりきつくあたったとかじゃね」
「それでなのね」
「丹波哲郎さんにも他の部下だった人達にもね」
即ち階級が下できつくあたっていた人達にというのだ。
「あの時はそうするしかなかったって」
「謝って回って」
「悪評を消して回ったのよ」
「そういうことね」
「戦争が終わったらよ」
日本の敗戦でそうなってというのだ。
「手の平返しでね」
「いいお話じゃないわね」
「だから丹波さんは人間の本性を見たって言ってたそうよ」
「それはかなりね」
「この人巨人の監督でずっといる為にライバルどんどん追い出したそうだから」
当時のチームの同僚だった者達をだ、青田昇に千葉繫、別所哲也に与那嶺要それに広岡達郎といった面々がそうだったらしい。
「それでずっと監督にいたそうよ」
「本当に嫌な感じね」
「こうした人もわかるでしょ」
「ええ、利用価値があると近寄って」
「ないとね」
「きつくあたるのよ」
そうするというのだ。
「そうした人ってね」
「神戸のそうのその人達もなのね」
「そうよ、信じたらね」
その時はというのだ。
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