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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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戦略家

 
前書き
思ったよりも難航している減量…… 

 
莉愛side

『只今より準決勝第一試合・東英学園対|常成(ジョウセイ)学園の試合に先立ちましてーーー』

私たちの試合は第二試合。そのため、第一試合を前半は見てから試合の進行具合を見てアップを始めることになっておりスタンドで一ヶ所に集まっている私たち。

「監督は?」
「本部席で涼んでくるって」
「うわっ!!いいなぁ!!」

優愛ちゃん先輩が大声でそんなことを言いながら立ち上がる。それを葉月さんと明里さんが腕を引き座らせていた。

「ただ涼むだけなわけないでしょ」
「本部席の方が試合が見やすいんでしょ」
「そうだとしても~」

この日の気温は朝9時前にも関わらず既に20度を越えている。私たちが試合をする頃にはさらに気温は上がっているだろう。

「それ……暑くないの?」

そんな中一人だけウインドブレイカーを羽織っている陽香さん。この気温の中でそれを着ているのは周りを見ても彼女だけのため心配した栞里さんが声をかけたのだが……

「いいんだ。私は動けないからな」

死んだ魚のような目でそんなことを言う彼女に何も言葉を発することができない。しかし、何かを感じ取った優愛ちゃん先輩と葉月さんが彼女の背後を取る。

「葉月!!」
「おっけ!!」
「わっ!!何をするんだ!!」

優愛ちゃん先輩の指示で陽香さんを羽交い締めにする葉月さん。身動きが取れずに慌てふためいている陽香さん。そんな彼女のウインドブレイカーを優愛ちゃん先輩が捲り上げる。

「あぁ!!陽香ちゃんベルトしてない!!」
「ウインドブレイカーで隠すなんてダメですよ!!」

落ち込んでいるのではなくただのポンコツだったうちのエース。こんな大事な日に忘れ物をした彼女に莉子さんたち三年生たちが白い目を向けていた。

「今持ってきてもらってるから!!試合には間に合うから!!」

顔を真っ赤にして捲られたそれの裾を下ろす陽香さん。なおも追撃しようとする二人を明里さんと澪さんが引っ張って元の席に着かせていた。

「常成って強いの?」
「春はベスト4で第四シードだけど、一番弱いブロックから出てきたからなぁ」
「正直東英相手じゃワンランク以上の差があるよね」

春は日帝大付属にコールドで破れていた常成学園。それよりも格上になる東英相手ではと瑞姫と紗枝が言う。シートノックを見た感じでも実力差があるように感じる内容だった。

「東英の打線……少し変わってるね」
「鈴川が五番に入って三番に一年生が入ってるな」
「他にも一年生が入ってるけど……他の試合でも出てた?」
「全試合で出てるみたいですよ」

背番号が大きい選手が何人か試合に出ている。それはこの試合を勝てると判断してのことなのか、本当に実力があるからなのか……果たしてどちらなのか注目しながら試合を観戦することにした。














第三者side

「東英が先攻か」
「常成は前の試合サヨナラ勝ちでしたからね。その勢いを生かしたいんでしょう」

試合前の両校の様子を見ている真田が隣にいたBSOボードの担当をしている他校の部長に話しかける。彼は聞いたもののそこまで興味がなかったのか、ふーんと答えスコアブックに目を落としていた。

「桜華の対策ですか?」
「あぁ。どうしても引っ掛かるところがあるんだよなぁ」

本来は試合前の監督は本部席で補助などをする必要はない。それなのにこの本部席に来ていたのは自身の持っている違和感を少しでも解消するためだった。

「何が引っ掛かってんのぉ?」
「やっぱりソフィアの投球ーーー」

声をかけられた時は気付かなかったが、その声が背後から聞こえたことに気が付いた彼は慌てて振り返る。

「うわっ、ビックリした」

勢いよく振り返った真田に驚いた赤髪の青年は後退る。その青年を見た真田は目を細めた。

「カミューニ・フィゾー……!!」

それは次の対戦相手である桜華学院の監督、カミューニだった。明らかに敵意を見せている彼に対し青年は不敵な笑みを見せる。

「どうした?東日本学園の()監督さんよぉ」

一歩詰め寄り挑発するような態度を見せるカミューニ。それに引く気はないと真田も一歩踏み込み一触即発の雰囲気にその場にいた全員があたふたしていた。

「プッ……ハハハッ」

しばしの沈黙。それを打ち破ったのはカミューニだった。彼は突然笑い出すと彼から距離を取るように背を向け、近くにあった席に腰掛ける。

「大丈夫だよ。俺ぁ野球しに来てんだ。場外乱闘なんて真似はしねぇよ」

それを聞いてホッと胸を撫で下ろす面々。しかし真田は対戦相手がいるその場では情報が漏れかねないとスコアブックを閉じる。

「珍しいね、試合前にここに来るなんて」
「遅刻してる奴がいるからこっちに来たんだ。どうせ前半は試合観戦だしな」

それを聞いて皆が納得したような反応を見せる。誰が遅刻しているのかもおおよそ予測がついたため、それ以上は踏み込まないようにしていた。

「東英と常成……どっちが勝つと思う?」

おおよその回答がわかる問い。しかし彼が聞きたいのはその結果ではない。独特な野球勘を持っているという彼ならどのような試合展開で東英学園が勝利すると予測するのかを聞きたかった。しかし、彼の回答がその場にいた全員が予想していなかったものだった。

「初回に点を取れたら常成かなぁ。もし無得点ならコールドで東英だろうけど」
「え?」

東英学園の勝利一択だと思われた回答に想定外の答えが出てきたことで全員の視線が彼へと集まる。注目の的になっている彼はそれに気が付いていないのか、呑気にコーヒーを口に含んでいた。

「初回の攻防次第って……理沙はここまで無失点なんだぞ」

そう易々と点を与えないからこそ王者として君臨し続ける東英学園のエースの地位を確立させている。その事をよくわかっている真田がそう言うと、青年はクスクスと笑っていた。

「向こうのブロックは強い高校がほとんどなかったからねぇ。でも、常成はどうかな?」

ニヤリと笑みを浮かべる青年に真田は何かを感じていた。しかし、それが何なのかわからなかった彼はその場で試合を黙って見ていることしかできなかった。

















莉愛side

『一回の表・東英学園の攻撃はーーー』

整列が終わり守備に着くのは常成学園。そのマウンドには背番号10の右投手がいた。

「あれ?エースじゃない?」
「今年の常成は左右でエース争いしてた二人が背番号を分けあったらしいよ」
「だからどっちが先発しても見劣りしないらしいよ」

継投でも戦えるし一人でも投げ抜ける力をそれぞれが有しているらしい。この試合は前の試合でも先発した上原(ウエハラ)さんが調子が良かったこともあり先発なんだと予想してる。

「球種はストレートにスライダーとチェンジアップ。どうやって東英打線を相手にするのかな」

準決勝もあるけど、勝てば春に苦汁を舐めさせられた東英を相手にしなきゃいけない。球種は違うけど系統は瑞姫に似てるし、どんな配球をするのかしっかり見ておかないと。

先頭打者は左打者の大山さん。まずはどうやって入っていくのかと思っていると、その初球……

「!!」

タイミングを計ろうと踏み込んだ大山さんだったが、まさかのチェンジアップに棒立ち状態。やりたかったことをやれずにストライクを一つ取られた形に苦笑いを浮かべていた。

「いきなりチェンジアップ……」
「これは予想できないよね」

チェンジアップは緩急を付けタイミングを外すための球種。それを試合開始早々に投げてくるなんて予想できるはずがない。

「となると次はストレート?」
「かな?」

緩の後は急。これがセオリーではあるけどそれに大山さんはどう対応するのかと見ていると……

「なっ……」

二球続けてのチェンジアップ。しかし今度は大山さんも振っていきライト方向へ大きなファールを放つ。

「二球連続?」
「まさか三球目もある?」

そんなバカなと思いながらももしかしたらという気持ちが出てしまう。でも、その感情を引き出すことが目的なのだと次の投球で思い知らされた。

ガキッ

一転してストレート。前の二球で迷いが生じたのか、中途半端なスイングで大山さんはサードへのファールフライに倒れた。

「こんな配球もあるんですね」
「これは裏をかかれたけど……」
「こんな配球する奴だったか?あのキャッチャー」

マスクを被り西(ニシ)さんを見ながら陽香さんと莉子さんが不思議そうな顔をしている。まるで読めない配球を繰り出す彼女を見ていると、チラリとベンチを確認している姿が気になった。

(ベンチからも指示が出てるのかな?それも踏まえながらやれば確かに一本調子にはならないよね)

ベンチに腰掛けているシワシワのおじいちゃん。彼は簡単なサインを送ると、西さんもそれに頷きサインを上原さんへと送っていた。

















第三者side

「いいの?おじいちゃん」

二番の笠井が打席に入る中、ベンチの最前列に腰掛けている老人に向かってスーツ姿のショートヘアの女性が声をかける。

「何がじゃ?」
「何がって……本当にあいつのいいなりになるつもりなの?」

苛立ちを隠すことすらしない彼女に対し、老人はしばしの沈黙の後、セカンドゴロに倒れる二番打者を見て小さく頷いた。

「ワシはこの子たちを全国に行かせてやりたい」
「私もそう思ってます。だからって……」

彼女の目線の先には一冊のノートとスコアブックが重ねてあった。そのスコアブックは二人の隣で記録している少女のものよりも新しく、ほとんど使われた形跡がない。

「初めは半信半疑じゃった。じゃが、ここまで見ればわかる。あの若者の見る目は本物じゃ」
「それはそうなんですが……」

ノートとスコアブックを手に取り目を通す女性。そのノートには細かく書かれた配球、そしてスコアブックには東英と常成の対戦を予想した各打者の結果が既に記載されていた。

「この子たちは三年間を懸命に戦ってきた。この子たちが夢舞台に立てる可能性が少しでも上げられるというのであれば、ワシは敵だろうと悪魔だろうと喜んで魂を売るよ」

下克上のために下した苦汁の決断。それが吉と出るか凶と出るか、誰にも予想することはできなかった。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
準決勝第一試合開始です。第二試合はすこぶる長くなると思いますのでここはできれば手早く行きたいですね……たぶん無理だけど。 
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